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時の流れ

作者: 戸崎祐
掲載日:2013/03/31

駅から電車でのひとときを描いたショートストーリーです。これは電車の乗車・下車をネタに作られたショートストーリーを集めた小説に影響され、自分でも書いてみたいと思い、執筆したものです。稚拙な文ではありますが、よろしくお願いします。

私は実家に帰るため大垣駅から米原駅へ行くため1番ホーム(乗り場)で待っているところだった。

実家は兵庫県の姫路市にあり、この岐阜県大垣市には仕事の出張できていた。

仕事内容はSEシステムエンジニアで就職している企業のお得意様が大垣市で、そこの会社と共同で開発しているシステムの援助という形で私はここにきていた。

出張予定期間は4ヶ月だったが、思ったより仕事が捗ったため3ヶ月で本社のある姫路に帰れることとなった。

実家、本社のある姫路までは、大垣駅から米原駅に出て、そこから播州・赤穂行の列車に乗ることで時間は約3時間ほどかかるが、乗り換え1本で帰ることができる。

本来社会人ならば、時間を食わずすぐに目的地に着くことができる新幹線を、米原駅での乗り換えから乗車するところだが、それほど急ぎでもなかったため新幹線の乗車券は買わなかった。

私は電車の来着予定時間が載っている電子掲示板を見ては腕の時刻を見るという動作を繰り返す。

電車が来るまでは10分ほどあり、余裕があるのだが私はそわそわしていた。

これまでの経験で、頻繁ではないが電車が来るホームを間違えたことがあるからだ。

大垣駅は岐阜駅、名古屋駅に近いことから、いつも出かける際利用していて慣れているはずなのだが、どうも過去に囚われ落ち着けなくなってしまったみたいだ。

そんなそわそわうろうろしているときだった。

60から70歳代のおばあちゃんが私に尋ねてきた。

「米原行きの電車はこのホームでいいのかねぇ?」

私は持ち前の自信なさから「はぁ、……あの」を繰り返していたが、おばあちゃんを困らせるわけにもいかないと思い、このホームであってますよと答えた。

「ありがとう」

とおばあちゃんは礼を言いながら私の後ろの列に並びじっと待っていた。

私はそんなおばあちゃんを見ながらよりそわそわし始めた。

本当にこのホームであっているのかと、間違っていたらおばあちゃんになんて説明しようかと。

そんな考えが頭をぐるぐる回っているとき駅のアナウンスが流れる。

「まもなく○○時○○分発、普通列車米原行が1番乗り場に……」

私は心の中でガッツポーズを決めた。

今回もホームを間違えずに済んだ。そして、おばあちゃんにお詫びと誤りを言わなくて済む。

ただそれだけで、私は安堵感に包まれ、心が何かから解放されたかのように軽くなった。

よかったー。

本当にその一言に尽きる。

仕事のプレゼン以上にハラハラした一瞬だったと、ついさっきのことを振り返る。

やはり、他人に迷惑をかけることだけは避けたいのだ。プレゼンも同じく重要なことであり他人に迷惑をかけてはならないものであり、下手すれば会社にも影響を与えかねないものなのだが、その時の私にとってのプレゼンとおばあちゃんとの比重は、おばあちゃんに電車の来着する駅のホームを誤って教える、のほうが重かったのだ。

それほど私は精神的に病むほど怖かったのだ。

駅のアナウンスから数分後、米原行きの電車が到着した。

私はその電車に乗り、向かい合っている二人掛けの席の窓側の席に座った。

すると、向かい側の席に先ほど尋ねてきたおばあちゃんが座った。

これも何かの縁なのだろう。

私はそう思いつつ、外の風景を眺める。

やがて、電車はゆっくりと動き出し米原へ向かい走り出した。

目の前に見えるアクアウォークという建物が横に流されていくように景色が変わる。

だんだんと街から外れていき、住宅街を過ぎていく。

大抵の人は、音楽プレイヤーや携帯電話、携帯ゲーム機などで時間を潰しつつ、目的地まで電車に揺られていくのだろうが、私は窓際で外の景色を見るのが電車での常だ。

景色の移り変わりはそう面白いものではないが、場所による微かな建物の違い、見たこともない建物や途中の川の流れ、山や田畑などの自然や土地を見ることで心が安らぎ仕事での疲れを癒してくれる。

実際は、音楽プレイヤーを買うのが面倒なことや、携帯ゲーム機を持っていても遊ぶようなゲームソフトがない。携帯電話はメールが来るような相手はおらず、使用する際は仕事関係のことが多く、あまり携帯電話を開きたくないのだ。

しかし、それらが手元でできる環境だったとしても、やはり私は窓の外の景観を楽しむのだろう。

そんな外の景色に心を浮かべていた時だった。

「ここの電車は本数が少ないねぇ」

前に座るおばあちゃんが独り言を話すように口を開いた。

はじめは自分に向けた言葉なのか、ただの独り言か反応に困ったが、相槌だけを打つことにした。

「そうですね」

私自身はここの電車の本数がどれくらいなのかは知らない。

無責任な相槌かもしれないが、おそらく本数が少ないのだろうと予想し話を聞くことにした。

「私はね、今から米原にいる孫に会いにいくんだけどな、電車1本乗り遅れると大分待たないけなくて、年寄りには大変だなぁ」

「そうですよね」

ゆっくりと語りかけるように話すおばあちゃんの話を聞きながら頷き耳を傾ける。

確かに、電車のダイヤは通勤者の交通の便利を考え設定してあり、無理なく乗り換えられるようにはなっているが、たまに私でさえもそんな乗り換え時間はキツすぎるという時間も存在する。

そこまで運動能力があるわけでない私がそう感じるのだから、結構なお年であるおじいちゃんおばあちゃんはどれだけ大変なことだろうか。

若い人ならば電車に乗り遅れて30分待つのは余り苦ではないが、年寄りには相当な負担になりかねないだろう。

「今日は急いで駅まで来たんだけど、間に合ってよかったわぁ」

と間に合ったことを嬉しそうに、おばあちゃんは笑か溢れる。

「間に合って良かったですね」

私も釣られて笑顔に変わる。

「そうだ……」

そう言うと、おばあちゃんは手持ちの紙袋をがさごそ何かを探し始めた。

「あった」

という言葉とともに、紙袋から出てきた手には小さい袋に入ったおかきがたくさん握られていた。

「あんた、これ食べんか?」

手にいっぱい持ったおかきが私に差し出される。

へ?こ、こんなにいっぱい……、もらっていいのだろうか?

「あの、これ……」

「いいよいいよ、孫のところに着くまで、食べようと思ったんだけど買いすぎちゃって」

「あ、……はい。ありがとうございます」

おばあちゃんの笑顔からの親切さに断りきれず、手に握られているいっぱいのおかきを受け取った。どうやら海苔で巻かれた醤油おかきのようである。

「じゃあ、いただきます」

「食べて食べて」

おばあちゃんに言われるがまま、おかきが入っている小さい袋を開け食べる。

うむ、田舎を思い出すような懐かしい味。

「美味しでしょ?」

「美味しいです」

にこにこしながらおばあちゃんが見つめてくる。

これは、もっと食べないと美味しいか疑われるのではないか……。

咄嗟に憶測で私はおかきをいくつも開け食べ始める。

それを見て、おばあちゃんも笑いながらおかきを食べ始めた。

私も自分が可笑しくなり笑いながら一緒におかきをまた食べる。

何事もなくたった一人で淡々と帰る旅だったのだが、おばあちゃんとの出会いで楽しい電車の時間に変わった。

景色を眺めているだけでも楽しいのだが、やっぱり誰かと一緒に笑い合えるのは、それよりもすごく楽しいことだ。

「次は終点米原……」

そんな楽しい時間だったが、もうすぐ米原に着くようだ。

車掌さんの声に時間の終わりを告げられる。

「もう着くみたいね」

「そうみたいですね」

「あなたと一緒に入れて楽しかったわ」

そして、またおばあちゃんは紙袋の中をがさがさと探し始め2個の黒飴を私に差し出す。

「はいこれ。よかったら舐めて」

「ありがとうございます」

私は遠慮することなくノリで受け取ってしまった。

内心、あちゃーとは思ったが笑顔のおばあちゃんをみると、遠慮する方が相手に悪く思えてしまい断れなかった。

飴玉を手に取るとともに、電車は終点の米原に着く。

「ありがとう、気をつけてね」

そうおばあちゃんは言い、手を振り笑顔で電車を降りていった。

「おばあちゃんも気をつけてね」

と私もおばあちゃんに手を振り、おばあちゃんが電車を降りた後、他の乗客に続き電車を降りた。

楽しかった一時の余韻に浸りたいところだったが、降りた電車のすぐ隣に停車中の電車に乗り換え座席を探したものの見つからず、電車の乗車口横に立つことにした。

これから米原から姫路。

とてもではないが立っていられないので、どこか適当な駅で席を探して座らさせてもらおう。

そんなことを考えながら外に目を向ける。

年を経る度に様々なことが簡易化、便利化されていく社会。

でも、本当にそれが便利なのかは人によって違うことを、おばあちゃんとの会話から、分かってはいたが再び思い知らされた。

そして、自分も同じシステムの簡略化、顧客の使いやすさを考え、モノを開発していることをさっきの話と重ね合わすと、「はぁ……」と自然に溜息が出た。

だが、今日は少し頭を休めよう。

壁にもたれ外を見つめる。

やがて、電車は動き出し終点の姫路駅へと私を連れて行く。

新たな出会いも交えながら。




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