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第41話

気を取り直して。


「あ、じゃあ僕は返って現像してくるね。零王、引き続き撮影お願い」

「任された」


奏がその場から姿を消した。零王は、ビデオを構えて、傍観者となる気満々だ。


『なにがしたいんだ…』

「さぁ?んなことよりも!覚悟しろ魔王!!零の隣に立つのは俺だっ!」

『…へぇ』


ムンと胸を張った水樹は、魔王にジロジロと舐めるように観察されて小さくなっていく。


「っていうか、零催眠にかかってんのになんで声聞えたんだ?」


あっれー?とはてなを浮かべた水樹に零王が笑いながら返す。


「それはらじょー君の変態的な愛情によるものなんじゃねぇの?」

「うっわ適当だな!後この部屋無駄に広くね!?」

『お前に急襲かけられたからな。無理なように広くさせてもらった』


ベッドの前に仁王立ちをして魔王はにやりと笑った。







「《ふぁいやー!!》」


とりあえず燃やそう。むかついた。燃やそう。

そんな思考回路で、水樹は魔王めがけて炎を放った。


「《風よ、炎を巻き立てろ》」


零王がさりげなく援護する。


『たかが人間の炎など恐れるに足る!!』


魔王が手にしていた鎌をぶん回すと、炎は掻き消えてしまった。


「くっそ、真面目に魔王だな!」

『どういう意味だ!?』


流石にこんなんじゃ通らねぇか!と水樹は次の手を考える。







『貴様の相手は私がさせてもらおう』

「え、マジ?」


零を撮る気だった零王の前に、新手の悪魔が現れて、攻撃を仕掛けてきた。

慌てて大きく飛びさすり、突きを躱す。


「あっぶねーな、オイ!カメラが壊れちまうだろ!」

『知るか!』


思わず怒鳴った悪魔を責められるものはいないはずだ、きっと。


「賠償してもらうからな!!」


レンズにかすりかけた剣先を見て、零王はしぶしぶカメラを引っ込める。


『悪魔に吹っかけるな!!』

「それこそしらねぇよ!」


鋭く踏み込んできた悪魔から距離を置きつつ、零王は水樹と魔王の戦況を確かめる。













「《エレメントマスター:ウィンド・カッター》」

『…技名、何とかならないのか』


カッターってなんだカッターって。

魔王の呆れ声に水樹はウガーと吠える。


「別にいいだろ別にっ!いいから零の傍から離れろよ!!」

『断る。《凍れ》』

「学習しないなっ!俺に自然現象系の魔法は効かねぇんだよ!!」


魔王が放ってきた氷の礫を水樹は打ち消した。


『《滅べ》』

「うおっ!?な、なんだ今の!」


悪寒がはしって咄嗟に魔王の前から飛び退く。

水樹が避けたことで、魔王が放った魔法が丁度延長線上にいた悪魔に当たった。


『あ』

「あ」

「あ」





『まお、さま…なぜ、』


悪魔がその場から消滅した。

何とも言えない沈黙が落ちる。





「ま、まぁそんなときもあるさ!」

『…これだからいやなんだ』


すっかり拗ねてしまって部屋の隅に蹲る魔王に、水樹はどうしようと考える。


「いっか別に。食らえ!!あ、と…えーとえーと」


かっこつけて言ってはみたものの、肝心の能力コマンドが出てこなくて水樹はしばらく頭を捻る。

魔王はいじけて部屋の隅をつついてるし、相手している水樹は頭を抱えて呪文を思い出そうとしているし、零王に至っては幸せそうに零の写真を撮り始めて、なんだこの空間?ってな感じでカオスだった。ツッコミ役が一人もいないからこうなった。


「《我が名は水樹。羅城の血を継ぐ者。我が名に冠し水の名において命ずる。大気に漂いし水よ、我が呼びかけに応じその姿を変えよ。対象者の時を止めし絶対零度、銀の煌きと共に走れ―――コキュートス》」


両手を合わせて、流れるような動作で腰のあたりまで持ってきていったんタメを作る。両手の中に深い藍色の透き通った光の球体が出来上がった。それを、水樹は魔王めがけて打ち出す。

眩い藍色の光が走り、魔王もろとも部屋の壁をぶち抜いた。


「風通し、よくなったな…」


なにぶん天空にある城なので、吹き付ける風の寒さが半端ない。

薄着でいることを呪いながら、零王は零を担ぎ上げた。


「ヨッシャ――――――――!!零王、見た!?見た!?俺、勝った!!勝ったぞ!!」


塵一つ残さず消滅した魔王に、水樹は空いた穴の向こうを指して零王の方を振り返る。


「ほぼ魔王の自爆だがな。良かったなーらじょー君」

「畜生心がこもってねぇぜっ」

「さ、帰って零の催眠解くぞー」

「わかった!」


水樹と零王は意志のない零を担いで魔王城から去るのだった。






















月野本家へ零と共に帰った面々は、後始末に追われて一旦別れた。

零王と水樹は燻る悪魔の残党処理へ、その他は書類の処理へ、それぞれの特技を発揮しててきぱきと片付けていく。


結局、意志のない零をどうすればいいのか、という話をするために全員集まれたのはその3日後だった。


「とりあえず…今のうちに悪戯しようかと思うんだがどう?」

「いや、それは」

「なにいい子ぶっちゃってるの?君だってしたいでしょ」

「水樹、諦めて素直にだな」

「大谷ってばそう言う趣味あったの!?もちろん私は、悪戯させてもらうけど。せっかくだし普段なら着てもらえないような服着せたいもん」

「だよな。それなんだよな」


コソコソと零を前にして話す4人へ空がため息を吐きだして、止める。


「…そこの4人。俺の大事な愛娘で遊ぼうとするのは感心しない」

「うつせバカ兄貴」

「バカ兄貴?誰に向かって」


空は喧嘩を買おうとした。意外と血気盛んなのかもしれない。

月代は零王を殴ってから本題へ戻す。おそらく誰かが修正をしていかないと、このメンツは話がドンドンとそれて行ってしまうだろうことが眼に見えているから。


「先代零王、コイツラは放っておくのが正解です。ですから、当主をどうするかは」

「…当主、か。しかし、かなり深くまで自我を封じられているが、解けるのか?おそらく、誰かを送り込まないと解けないぞ?」


ベッドに寝かされた零の前髪を払いのけて、空はつぶやいた。


「送り込む?なんだそれ」

「らじょー君はバカだねぇ。言葉通りじゃないか。ね?」

「ああ、言葉通りだな」


奏と零王の笑いながらの言葉に、水樹はより一層クエスチョンマークを頭の上に浮かべるのだった。


「で、どうする?」

「本当なら俺か兄さんが行って、たたき起こしてくるのが一番早いんだろうけど…」


ヤレヤレと言わんばかりに肩をすくめたのは零王。

チラリと隣に立つ空を見る。その視線を受けて、彼は頷く。


「無理だな。俺も、お前も行くわけにはいかない」

「今ここで僕らが抜けると、月野家相当ヤバいよね」

「月野家だけの問題じゃない。学園都市の結界がガタガタで、抜けられないな」


どうやら月野家側に属する人間は、まだまだ事後処理に追われていて、零にかまけている時間がないようだ。


「さて、どうするか…」


困ったな、そんな声が聞こえてきそうな月代の様子に、水樹は勢いよく挙手した。


「はい!はいはいはい!」

「一回言えば聞こえる。…なんだ?」

「俺がいく!大丈夫、連れて帰ってくる!」


キラッキラと目を輝かせて、水樹は手を振り回す。


「よくわかっていない人間に任せるのは危険だから却下」

「らじょー君に任せるのは嫌だからダメ」

「個人的には見ていると楽しいのではないかと思うが、なんか嫌だ」

「…お前ら、私利が入りすぎだ。まぁ俺もよく知らない人に娘のことを任せるのは嫌だからな。出直せ」



「で、出直せ!?ひどいっ」


零王、奏、月代さらに空からも一斉に却下をくらい、水樹は抗議する。


「さて、そうとなると任せられるやつはいないな」

「ちょ、だから俺!!おれおれおれ!!魔王倒したのは俺だよ!?俺以外に誰がいるんだよ!適任!!」


華麗にスルーして話を進めようとする零王が、またしゃべる前に水樹はもう一度叫ぶ。


「うるせぇ一回黙れクソ餓鬼が。俺の大事な愛娘をぎゃんぎゃん騒ぐしか能のねぇのねぇやつに任せられるわけがねぇだろうが。そんくらい気づけよ、オイ?」

「兄さん、本性。イラついてんのはわかんだけどさぁ」


どうどう、と零王が空をなだめる。


「もうやだ。奏といい零の父さんといい、裏表ある人怖い」


空の凄みのある笑顔に気圧された水樹はスバルの後ろに避難して、ぶるぶる震える。


「はぁあああ。溜息でもつかないとやってられないな。まったく。雪がいたらまた少し違ったんだろうか…」


盛大に溜息を吐きだして、空は意識を切り替えた。


「兄さん、やめろ。悲しくなるだろ」

「それもそうだな。よし、じゃあ…予知でもしてみるか」

「だから、その軽いノリで使うのはやめたほうが」

「手っ取り早いだろう。こうしている間にも書類が積み重なっているのを思うと怖気がして仕方がない」

「後悔すると思うんだけど」

「それはうすうす気づいているからわざわざ言わないでくれ」


空はおもむろに鉛筆を机の上にたてた。何をする気なのか、と水樹はスバルの背中から顔をのぞかせる。


「空さん…。円になって並べ」


何をする気なのか分かった月代が、水樹たちへ机を取り囲むように立つよう指示した。


「《今度の鬼は、だーれだ?》」


鉛筆から手をそっと放す。鉛筆はぐらぐらと揺れた後、水樹のほうに削られているほうを向けて倒れた。

忌々しそうに空は舌打ちをして、鉛筆を回収する。


「…ちっ」

「だから後悔するって言ったんだ」

「もしかして零王分かってたの!?」

「展開的にそっちのほうがおいしい」


ふっ、といい笑顔で零王は言い放った。


「メタ!!メタ発言禁止!!」

「お前もだ、奏」


月代が、奏を押さえつけた。






「俺?俺!?」


まじで!?と水樹は喜びをかみしめる。


「お前以外に誰がいるんだ…」

「美子!!美子がいるよ!?」

「お前に任せるのはちょっと」

「ひどい!?大谷、ひどい!!」







広い部屋に零ごと水樹たちは移動した。零を部屋の真ん中に寝かせ、布団をかける。

空と零王は手分けをして、零を叩き起こす準備の一段階としての陣を彼女のまわりに書いていく。


「仕方ないから。運命がそう導いたから!!本当に仕方ないからだからな!?こんな事態じゃなかったら俺が直接行くというのに…」


何度も念を押してから、空は水樹を陣の中へ押し入れる。


「ちょ、せ、説明は…?」

「がんばれ。水樹君、超がんばれ」


と奏が肩をたたけば、


「大丈夫、失敗したら意識が戻ってこなくなるだけだから。心配すんな」


と実ににこやかな笑顔で零王が水樹に重圧をかける。


「し、心配しかねぇ!!」

「よし、覚悟できたようだな。それでは…《彼の者を今、送り給う》」


できてねー!というわけ微は黙殺されるのだった。


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