第40話
部屋から出られたのは良いんだけど、零ってどこに閉じ込められているんだろう?ま、途中で誰かに聞けばいいか。
超楽天的思考で魔王城の中を水樹はぶらぶらと歩く。
「お?おお?おおお?こ、これはもしや…」
さっきも見たような景色に、水樹は首をかしげる。
「も、もしや…ま、迷子?」
はたと足を止めた水樹は、カツーンカツーンと響く足音を聞いて顔を青ざめさせる。
「ヒィ!?誰?」
「らじょー君ふっせて―――!!」
扉1つ見当らないただの壁から奏が水樹めがけて飛び出してきて、その勢いで押し倒した。
「ぐっふお!?」
ドドドドドドドド、と明らかに銃だろうモノを連射する音と、壁にのめりこむ音が響いて、水樹は冷や汗をかく。
「あっぶないあっぶない。僕がいなかったら君、ハチの巣だったね」
向こう側の壁にできた銃痕に、浮かんでもいない汗をぬぐうフリをしてから奏は水樹をひっぱりたたせる。
「お、おうサンキュ?」
「いやぁ、全く参っちゃったよ。この僕が追いかけられる側に回るなんて」
覆面をした悪魔と、奏は真っ向から対峙する。
『貴様らは主の邪魔をする。今ここで殺す』
チャキリと2丁の銃を構え、男は再び連射しようとする。
「あっ!?魔王だっ!!」
バッと奏はあらぬ方向を指す。
「マジで!?」
『何!?』
水樹も、男もつられてそちらを向く。
「…バカばっかかよ」
引っかかるとは思っていなかったのに、2人も引っかかっちゃったよ、とあきれつつ奏は悪魔が構える銃へ細工を施す。
『っ、きっさま謀ったな!?』
「いや、引っかかるとは…。玩具になっちゃったし、もう無理だよね?」
『まだだ!!』
目を逸らしていた隙に玩具に変えられた銃をその場に投げすてると、悪魔は空中からまた別の銃を2丁取り出して構える。
「えーまだ持ってるの?…っていうからじょー君はいつまで見てるの」
「零だ!あっちに零がいる!声が聞こえた!!」
「僕は聞こえなかったんだけど…いいんじゃない?この場は僕一人で十分だよ。行きな、らじょー君!!零をよろしくね。絶対に連れ戻してきてよ?」
「おう!!」
とか無駄に王道ファンタジーっぽくやってみた奏だった。
水樹の背中を押して、奏は悪魔と水樹の間に立ちふさがる。
『邪魔だ!!あちらには主が!』
「じゃあなおさら君を行かせられないよね」
『くっ』
何だこの悪魔。マジチョロイ。と奏は内心で嘲る。
「おやすみ、名前も知らない悪魔さん」
パチンと指を鳴らして、能力を使った奏は、悪魔に何も起こらないことに目を見張る。
『ナニカしたか今?』
「ダメだコイツっ…単純すぎて効かない!もう、バカキャラは1人でいいんだよ!」
壁を叩いて奏は嘆く。
『ん?』
コメディ路線に突っ走っている奏と悪魔は置いておいて。
走り出した水樹は。
「こっち、か?」
微かに聞こえる零の声を拾って、あとは館に任せて廊下を突っ走っていた。
「あ、零王!」
「らじょー君?何、お前まだこんなところにいるのか?零姫は、あの塔の上だぞ?」
零王は、窓から見える塔を示す。
「へ?」
でも、こっちから声が…
水樹は首をかしげる。
「チッ、騙されとけよ。俺が助けてヒーローに」
「ヒーローは俺だ!」
零王を押しのけて、水樹は自分の本能に従って走り出した。
「…あーあー行っちゃったか。で、つけてたあんたはどうするんだ?」
水樹が察せ行くのを眺めて、あと追いかけようとした透明人間ならぬ悪魔を零王はつかんで壁へ叩きつける。
『!?』
「俺に気づかないで通れるとでも」
適当に手を出してみただけなんだけど、とは億尾にも出さず、零王は嗤う。
『人間の分際でなぜ気づいた!?』
悪魔の抵抗をものともせずに、壁に押し付けたままにする。
「勘ばっかり鋭くなっちまったから、じゃね?まぁ、どうでもいいんだそんなことは。さっさとお前をのして俺は零姫のところへ行くから」
少し目を細めると、零王は懐から一枚の紙を右手の人差し指と中指でつまんで取り出す。
ピッと紙を立てると、一度軽く上へ投げる。
『何をする気だ!?っ、燃えろ』
零王の左手で壁に押さえつけられたままの透明悪魔は、何を始める気なのかと焦り、とりあえず紙を燃やそうとした。
「燃えるかよ、バカが」
落下する紙から炎は不自然にそれて、天井へとぶち当たる。
『お前っ』
「人間がいつまでも悪魔にやられてばかりいると思うなよ」
落ちてきた紙をパンと両手で挟むと零王は息を吹きかけてから悪魔の額と思われる場所へ張り付ける。
『グッ!?あ、ああ』
「じゃーな」
声にならない悲鳴を上げて崩れ落ちた悪魔を軽く蹴りつけて進路から退けると、零王は水樹の後を追って走り出した。
「おっと合流できたか。まだまだ道のりは長いねぇ」
零王が水樹に追いつく。
並走しつつ、まだまだ見えない魔王の部屋にため息をついた。
「うおっ!?な、なんでついてきてんだよ!」
「そりゃ俺だって零姫助けに行くに決まってんだろ」
「あ、そっか」
納得した水樹は、スピードを上げて零王を振り切ろうとする。
『いかせるかぁ!!』
そんな2人の前に10もの悪魔が立ちふさがった。
「ここは俺に任せて先に!」
奏にやられてから、やりたくてやりたくて仕方なかった水樹は、ここぞとばかりに言ってみる。
「《斬》」
零王が自分の首を掻っ切るフリをすると、それに合わせて悪魔たちの首が掻ききれた。
崩れ落ちた悪魔たちの横を2人は通り過ぎて、魔王の部屋めがけて走る。
「ぐすん」
ヒーローみたいなのやってみたかったのに。と水樹はしょんぼりとした。零王はそれを鼻で笑う。
「バカが。お前を置いて行ってどうするんだ。零姫を救えるのはお前しかいないんだぞ」
「マジで!?」
それなんて俺主人公!?と水樹は喜ぶ。
「バァカ、嘘に決まってんだろ。いつだって零姫を助けるのはこの俺だ!」
「あげて落とされたっ!しかも自信満々に言いきられた!俺に勝ち目がない!?」
器用にも水樹は走りながら地団太を踏んで悔しがる。
「お、見えた!」
「行かせるかバカ!!」
無駄に体力を使いながら、2人は魔王の部屋めがけて加速する。
「よっし、らじょー君いけー」
零王は直前で止まると、水樹の体へけりを入れて、部屋の扉へ打ち出す。
「ヒィイイイイ!?ちょ、俺っ味方!?ギャアアアア!!」
盛大に悲鳴をあげながら、水樹は扉へぶち当たり、壊して中へ飛んで行った。
「うん、綺麗に決まったなー」
眼の上に手をあててそれを見送った零王は、ニヤリと笑った。
「外道じゃん、それ」
「奏か。そっちはどうだ?」
「準備万端だよ!カメラよーしボイスレコーダーよーしビデオよーし!抜かりはないねっ!!さぁ、零が催眠にかかっている姿を記録しようじゃないか!!」
グッと2人はこぶしをかわしあう。
「っててて…」
『…味方にやられていたが、大丈夫か?』
中に転がり込んだ水樹は、額から血を流して床に突っ伏した。魔王と戦う前に、味方にやられて死ぬ!そんな感じだ。
そんな水樹に、心配そうな声と共に手が差し伸べられた。思わずつかんで引っ張りたたせてもらう。
「大丈夫だ…魔王!?」
返事をしてから、水樹は手の主が魔王であることに気づき素っ頓狂な声をだした。
『うむ。何か?』
指を指してワナワナと震える水樹に魔王は、首をかしげる。
「零を返せっ!」
『我が花嫁か。だが断わる』
「後ろにいんのは分かってんだぞ!!かーえーせー!」
魔王の丁度後ろにあるベッドに零がいることを水樹は指図する。
『残念だが、ここにはいないぞ』
「マジで!?」
そっかー…。
落胆して帰ろうとした水樹に、
『いやちょっと待て!』
思わず声をかけてしまう魔王だった。
「なんだよ。零いないんだろ?」
『…何故そう簡単に敵の言うことを信じられるんだ?』
額に手をあてて、魔王は低く唸る。理解できないものが現れて困惑しているようだ。
「あ、零だ」
『何!?』
水樹が窓の外を刺したのにつられて、魔王もついついそちらを見てしまう。
「どっせえーい!!」
隙を見せた魔王に水樹はすかさずとび蹴りをいてれ床に張っ倒した。
『ぐぉお!?し、しま、た…』
「零だ!なんだよ、いんじゃんか嘘かよ。ちぇ」
魔王の頭を容赦なく踏みつけて水樹はベッドで人形のように座る零へ触れようとする。
「待て、らじょー君!!」
「待って!」
そんな水樹を制止する声が2つ。零王と奏のものだ。
「な、なんだよ!?っていうか奏いたのか!」
「写真を撮らせて!ビデオを撮らせて!!お願い!!」
「呑気だなっ!?」
『お前らなんなんだ!?我が花嫁に何をする気だ!』
しかも無駄に高性能のカメラだし!と水樹は待ったをかけた2人につっこみをはなつ。
水樹に踏みつけられたままの魔王も下から疑問を投げかける。
「とりあえずお前はそのクソ魔王を押さえつけてろ」
『クソ魔王!?おい、誰に向かっ』
「え?あ、はい」
有無を言わせない零王の言葉に、水樹はコクコクと頷く。なぜだか逆らっちゃいけないオーラが漂っている気がした。
「よし、奏!」
「オッケー」
水樹が目でとらえられない速さで奏は様々な角度から零をカメラに収めていく。
「撮ったど――――!!」
「早く帰って印刷しないとな!」
『…もう、お前らどっか行ってくれよ』
無視された挙句、踏みつぶされた魔王は、生き生きとしている2人に泣きそうな声音でつぶやいた。
もう少し、もう少しで完結するんだ!!そしたら俺、フィリアさん書き直すんだ…。(完全なる死亡フラグ)




