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第39話

やっちまった。また、やっちまったぜーー

「んー…とばされちゃったねぇ」


薄暗い部屋にとばされた奏は呑気に相手が現れるのを待つ。


「どうぜこれって相手が出てこないと出られない仕組みになってるんでしょ?魔王城って、そういうとこあるもんね」


ふぅうと息をはきだすと、奏は斜め上の天井あたりを睨む。


「だからさぁ、隠れてないでさっさと出てきてくれる?」

『なぜばれた』

「ごめんねー僕もそういう隠密とか得意だからよくわかるんだ。僕たち相性悪いね」


投げつけられた小刀を、小刀を空中でぶつける事で奏は防御する。

居場所がばれた悪魔は大人しく奏の前へと姿を現す。黒いフードつきのマントを着ているために顔も体型もよくわからなかった。


『そうでもない、ぞ。《悪夢の始まり》』


指を鳴らして悪魔が始めたことが何なのかわかった奏は嬉しそうに悪態をつく。


「って、性質悪いね!」

『さぁ、お前の悪夢はどのようなものだろうか』


部屋の景色が変わった。

満月が浮かぶ夜の、月明かりしか射さない暗いお化け屋敷のような屋敷の中へ、と。


「ここ、は…」


思い当たる物があった奏が、戸惑い気味に呟いて目の前の壁へと手をつく。


『幻術ではない。対象者のトラウマをもう一度体験させるというものだ。知っているだろう?』

「拷問によく使う奴だね。やっぱり性質悪い」

『よく言われる』

「仲間に?ああ、じゃあ僕たち似た者同士だ。うん」

『この後、何が起こるのかは知っているのだろう?我が倒さなくともお前は自ら死を望みたくなる体験をする』

「見続けるくらいならいっそ殺してくれってやつだねぇ?うん、構わないよ」

『では、ドロン』

「…口で言うんだそれ」


ドロン、と煙を残して悪魔は奏の前から姿を消した。


「僕のトラウマって言ったらやっぱり…零に殺された日、だろうねぇ。泣き出しそうな、零に」


それは、零にまかされた悪魔の討伐について行った帰りのことだった。

どうやら生き残っていた悪魔がいたらしく、僕らは帰り道で襲われた。

そして僕は零をかばって…



零に刺された。




「奏、君。死んで。君はもういらない。必要ない。だから僕は君を殺さないといけない」



すぐにでも泣き出してしまいそうな零に、僕は…


「っ、来るものがあるね。グサッとメンタルが削り取られた気分」


ふぅうと息をはきだして、奏は小さな姿の零を見おろす。


「…って言っとけば満足かなぁ?零のヤンデレキタコレ。ご褒美だよね今考えると!!しかも小っちゃい零が目の前に!なんて俺得!これを喜ばないで何を喜ぶって言うんだ!!うわぁい!!」


さっきまでのシリアスを吹き飛ばす勢いで奏は、小さな零に抱き着いてなでまわす。


「いやぁ、役得役得。と言いたいところなんだけど…僕ね、偽物に興味はないんだよね。大体さぁ、僕は空月家の人間なんだよ?そういう精神操作系に弱いとか思ってんの?ねぇ、なんなの?山崎んときはたまたま零がいるって聞いたから手伝っただけなんだからね?零がいるところに僕がいるんだよ!!」


ダイブ本筋から外れることを奏はとうとうと語る。

眼の前に立つ零の頭へ手をかけて、握りつぶしていく。


「偽物風情が、僕の零を語らないでほしいんだけどな。しっかしこれが僕のトラウマ?おかしいんじゃない?ちょっと何をどうしたらこうなるの?ああ、早く零の所に行って、零に似合う服を作ってあげないと。零が喜ぶご飯を出して、零に抱き着いて、それで今日もいい一日だったね、って思わないと。やってらんないよね、もう。零可愛いよ、零。僕だけのモノになってくれればいいのに」




零の姿や諸々が消え散って、部屋は薄暗い殺風景なものへと元に戻る。



『っ、破られた、だと!?』

「ハイハイ破りましたよ、と。だから、さっさと出せよオイ。我慢すんのも限界だからさぁ、ったくなんで僕がこんなことしなきゃんなねんだ?あー早く零に会いたい頬ずりしたいニャンニャンしたい」




『最後のはアウトだっ!!』

「るせぇ!!くたばれっ!!」


右足を踏み込んで、渾身の力を込めたストレートパンチを、奏は悪魔の鳩尾へ叩きつけた。綺麗に決まる。

うぐぅ!?と声をあげた悪魔は吹っ飛んで壁に激突し、ピクリとも動かなくなるのだった。


「さ、零のとこいっこーと」


早速見つけたドアから、奏はスキップしながら出て行った。
















一面真っ白な雪景色という風変わり過ぎる部屋に、転移させられた零王は「寒ぃ」と呟いて、歩き出す。

ザクリザクリと雪を踏みしめて進む零王は、ふと足を止めて白い息をはきだした。後ろには点々と足跡が残っていて、ここは本当に部屋なのだろうか?としばし悩む。

ぐるり、と周囲を見回した彼は、キラリと光が反射したのに気付き、そちらへ向かった。

そこだけ、雪が積もって無く大理石の床が顔を見せていた。


「…なんで、兄さんがここにいるんだろうな?」


その中央に、それはあった。

誇大な氷柱が、姿を見せた。そこには額から血を流している空が、氷漬けにされている。空には簡単には解けそうにない鎖がまきつけられていて、服のない部分からは血の跡が見える。おそらく、空は何者かと戦って敗れたのだろう、と冷静な判断を下した。

固く閉じられた空の眼が、開くことはもうないのだろうな、と零王は氷へ手を伸ばす。


「義姉さんと一緒で、遺体が見つからないとは言われていたけれど…まさか魔王城にあるとは。道理で見つからないわけだ」


知ってるか、俺は後8年であんたと同じ年になっちまうんだぜ?と零王は自嘲気味に呟く。



勿論、答えは返ってこない。


「あーあ。零姫を悲しませて、あんた何したかったんだ?俺には分からないよ、兄さん。何も言わずに、義姉さんと2人で死んじまうなんて、さ。残された俺らがどう思うかなんて考えもしなかったんだろうな、あんたのことだから」


空が氷漬けにされている氷柱に背中を預けて、零王は座る。

部屋の中のはずなのに、天井ではなく青空が広がる上を見て静かにこぼした。


『感傷か?』

「感傷さ」


眼の前に降り立った魔王に、零王はニヤリと笑って返す。


『…人間は、不思議な生き物だな』

「俺からすればあんたたち悪魔の方が不思議だけどな」

『そこの男は、フラリと突然魔王城に現れてたくさんの悪魔を葬った。なぜ、氷を壊さないのか、と側近に責められる』

「何で壊さないんだ?」

『その男の、瞳に宿った強い意志が羨ましかったのだろう。壊してしまうのがもったいなくてな』


零をさらった魔王が目の前にいる、というのに零王からは倒そうという覇気が生じない。世間話を続ける。


「零姫は、さ。言いたいことは全部飲み込んで、自分一人で抱えてしまうんだ。誰にも吐きだせないで、ため込んだもので満杯になってしまって、このままではいつか壊れてしまうんじゃないかと思ってた」

『それで、催眠にわざと掛けさせたのか?』


お前、何処まで謀っている?という魔王の言葉に、零王は静かに息をはきだす。



白い息が、虚空へ溶けて着えた。


「いや?別に。魔王が復活すれば、零姫が女であることは絶対にばれる。これで、一つの課題がクリアする。女の子として、生きていける。それから、俺ではなくてらじょー君が魔王を倒して、零姫を助け出せたら。もとより淡い恋心はあるようだし、素直になれると思わないか?俺もあんたも咬ませ犬でしかないんだよ、残念ながらな」


『…私は認めない。彼女は私の花嫁にふさわしい。バカであることを運命づけられた哀れな一族に、私は負けたりしない』

「ハハハ、せいぜい頑張れよ」


魔王の決意を零王は笑って応援する。


『どういうつもりなんだお前は』


変なものを見るような目を向けられた零王は、眼を細めて少しだけ殺気をはなつ。


「なぁに、俺はただ零姫に幸せになってほしいだけさ。そのためならどんなことでもしてのけれるね。犯罪だとしても、さ」

『魔王城の封印を緩めてみたり?』

「さぁ、どうだろうねぇ」


ニヤリと笑って零王はあいまいにごまかした。


『まぁいい。花嫁が前に叫んだように、確かにお前が本気を出したら私などひねりつぶされてしまいそうだ』

「ひねりつぶしてほしいのか?」

『勘弁してくれ。羅城、とやらを倒せば、私は花嫁を手に入れられる、どういうことだな?』

「そういうことだな。らじょー君は負けないと思うけど」

『ふん、どうだか』


バサリ、と背中に収束していた翼を広げて、魔王は零王の前から飛び去って行った。


「と、いうのが兄さんの日記に書かれていた」


胸もとから一冊の青い表紙の手帳を取り出した零王はパラパラとページを捲る。


「心配性な兄さんらしい、というかなんというか。未来の読み過ぎだ」


コツンと軽く零王は日記を持っていない方の手で氷を叩く。

大して力を込めていたわけでもなかったのに、見事に氷の部分だけが剥がれ落ちた。


「全部が全部、予想通りになったら楽しくないから視ないんじゃなかったのか?」


面白くなさそうに呟いて、零王は倒れこんできた空を受け止め、能力を使って鎖を叩き割った。


「…なんの、ことだか。ゴホッ、少し荒すぎなんじゃないか」

「心配かけさせやがって。なんだよこの日記!」


先ほど、目の前にフヨフヨとうかんできた日記を空にペチペチとぶつけて零王は憤る。


「それか?お前に知らせずぎるのも可哀そうだと思ったから、ここにたどり着いたときにのみ出現するように…」

「くっだらねぇことしてんじゃねぇ!!それならそうと先に言え!俺の心配はなんだったんだよ!やっぱバカだろ!?」


空の怪我を治療してやりながら、零王は文句を言う。死んだと思っていたのに生きてましたとかなんの冗談。嫌嬉しいんだけどやりきれないこの気持ちはどうすれば。


「そう怒るな、海。…ああ、今は零王か」

「くそっ、なんだよじゃあ結局死んだのは義姉さんだけか?」

「…そう、だな」


何とも言えない空気がその場に落ちた。




「ま、まああれだ!早く零姫に会いたいな!らじょー君に頑張ってもらわないとな!さぁ月野家に帰ろうぜ!」


ヤベ地雷踏んだ、と零王は焦って話題を変える。


「お前は残れ。俺は、リュウの手伝いをしに戻る」

「いやあんた、さっきまで凍ってただろ。無謀すぎると思うんだけど」

「大丈夫だ。何、心配ない。それよりも、どんな顔をして俺は翼に合えばいいのか」

「あーそれな。俺は知らねぇけど。零姫、泣かしてやれば?」


騙された仕返しとして零王は少しだけ意地の悪いことを言ってみる。いつまでもいいようにあしらわれるとは思うなよ、と。


「それがいいな。海、手を出しなさい。怪我をしているだろう?」

「…うるせぇ」


バッと空につかまれるのより早く、零王は手を後ろに回す。


「ほら、見せてみろ」

「なんともねぇよ。いいから戻れって」

「その動作がすでに怪しいのだが」

「う、うるせぇな!もう子供じゃねんだ。別にいいだろ?」

「そうだな。だが、お前の能力はお前の体を代償にするからな。見せろ」


そういうなり、空は零王に抵抗させる間もなく手をつかんで袖をまくった。


「っ」

「これのどこが問題ないのか聞きたいが…痛くないのか?」


腕の肉が抉れているような惨状に、空はひきつった顔をする。

表情筋が死んでいるような兄が、珍しく真顔以外をしたことに零王はまじまじと見てから、吹き出す。


「フッ、アハハハハ」

「何が面白いんだか」


いきなり笑いだされた空は、珍妙なものでも見る目で零王を見おろす。


「このくらいならしばらくしたら治るし、平気だ。もう慣れた」

「治る?」


治癒系の能力でも使えるようにしたのか?という空の問い賭けに零王は頷く。


「再生能力を覚えたんだ。だから、平気」

「…無茶をする」


そういっている間にも、零王の腕の傷はふさがっていき、傷跡を残さず綺麗になくなった。


「な?」


サッム、と袖を降ろした零王の手を放して、空は何か思案気に首筋へ手をあてる。


「あまり、自分を傷つけるようなことはするなよ?頼むから」

「それ、兄さんもなんだけど」

「俺はいい。大人だからな」

「…俺だってもう、成人した。兄さんが知ってる俺とは一味違うんだぜ」

「楽しみにしている」

「なんだよ信じてねぇの?」


飄々とした空の言葉に、零王はムッとした顔をする。


「俺が、お前を信じていないわけがないだろう?」


ポンポンと空は昔よりずっと高くなった零王の頭を軽くなでてやる。


「とにかく、死ぬなよ?」

「わかってる」


ふらついた空の体を咄嗟に受け止めて、零王はため息をつく。


「何が大丈夫、だ。やっぱ信用ないじゃんか。転移ゲート開くから」

「…すまない」


懐から赤い結晶を取り出して、雪の上に置くと、零王は周りに文字を書いて陣を作っていく。


「《開け》」


浮かびあがった陣に、空を押し入れる。そして、転移を発動させて月代の元へ送り付けるのだった。


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