第3話
「なんなんだよ!」
「まぁまぁ。しかし月野家にはそう簡単に入れないだろうなぁ…」
「じゃあ、明日まで待つしかないよな!だよな!」
よほど行きたくなかったのか水樹はスバルへ何度も確認をする。
「…それでもいいけど」
「よっしゃぁ!!あんなわけわかんねぇ奴の説得とか、無理」
仕方なく頷いたスバルに水樹は狂喜した。
問題の先送りでしかないことに気付いてくれ、というスバルの視線は無視される。
「訳が分からない奴ですまないね」
大量の紙を抱えた零が水樹の後ろへ音もなく立ち、不機嫌そうな声を出す。
「わぁ!?な、なんでいんだよ!!」
「よく考えたら本家にいるよりも、学校にいる方がましなことに気付いたからね。僕が居たらいけないのかい?」
周囲の温度が下がったことで、スバルも口をはさむ。水樹に任せたままだと、零の機嫌は悪くなる一方だと思ったから。
「月野、そう怒るな」
「僕が怒ってるように見えるのかい?」
愉快そうに零はスバルへ笑いかける。
「どう考えても怒ってるだろ!?」
「失礼だね。僕にはそんな感情、残されていないよ。したがって僕は怒っていない」
「ちょうどいい。月野、呪いについて話してくれないか。どこからかその話が漏れたみたいだ。さっき役員から連絡が来た」
理事等に頼まれたことをぼかしつつスバルは零をかたくなにさせる原因を探りにかかる。
「…どうして」
一瞬零が悲しそうな顔をした気がした水樹はまじまじと彼を見つめる。
「水樹君。そんなに見つめられるのは不愉快だ」
「質問1。伝染する呪いではないんだよな」
「…だ。僕は、呪いになどかかっていない!やめてくれ!」
スバルの質問に零は悲鳴を上げる。
「転入そうそう…」
「レベル5だからっていい気に乗って」
「スバル様と一緒にいるだけでも許せないのに、口答えなんか」
「月野家当主だからっていってさ。偉そうに威張っちゃって。バカみたいだよな」
生徒たちのヒソヒソ声に零はびくりと体を震わせると、姿をかき消す。
「消えた!?」
「テレポートで逃げたか」
「なんだよ、結局。逃げてんじゃん」
「まぁ、逃げたくもなるだろ。俺も迂闊だった。人目のあるところで興味に負けたよ」
翌日。
放課後になった瞬間水樹とスバルは零の近くへ詰めより、逃げられないようにする。
2人に詰め寄られた零は眺めていた書類から顔をあげ、一瞬だけ緊張して固まる。
「な、なんなんだい、一体」
「なんなんだいって、質問したいことがあるって昨日言っただろう」
戸惑う零に考える暇をなくすようにスバルは畳み掛ける。
「言っていた、けど」
「じゃあ、個室にでも移らないか?聞かれると困るだろ?」
「それは、そう…だけど」
歯切れの悪い零に水樹は笑いかけて、そのまま引きずる。
「やめ、放せ!一人で歩ける!引きずるな!」
「昨日みたいに逃げられたらたまんねぇし」
「僕は逃げてない!放せバカ!」
水樹の手から逃れようとするもむなしく零は生徒会室まで水樹に引きずられた。
スバルは中に役員がいないことを確かめると人避けの能力を発動させ、誰も来ないようにしてから入る。
中へ入ると、零は高級そうなソファへ腰かけ、足を組み水樹たちへ聞く。水樹とスバルは零の机を挟んで真向かいへ座る。
「で、なにを質問したいんだい?僕を引きずっておいて…くだらないものだったら怒るからね」
「どんな呪いなんだ」
もうすでに怒っているようにしか見えない零にスバルは直球で切り込む。
「僕の曾爺様がサタンと契約したのを、今の人間たちが何をどう勘違いしてだか知らないけれど呪いだと、のたまわっているだけだ。…呪いじゃない。そのくらい知らないわけがないだろう、大谷家当主候補のスバル君」
鼻で笑って零はスバル睨み付ける。
それを軽く流し、スバルは威嚇してくる彼へ尋ねる。
「どんな契約だ?」
「月野家の女は美人が多い。サタンは花嫁を求めている。さて、この2つでわかるだろう」
指を2本立てて零はスバルへ説明する。
「…花嫁に女をよこせ、か」
「で、なんで零が呪いだか契約だかわかんねぇけど、困ってんだ?」
水樹は早くも理解できなくなりつつある2人の会話に焦れて口をはさむ。
「それは僕が…いや、どうしてだろうな。僕が綺麗だからじゃないのかい?サタンが女だと、間違えた…とか」
「もしくはお前が女だから、とかな」
「さぁ…どうだろうね?話はこれだけかな?」
話を打ち切ろうとし立ち上がった零を引き止め、スバルは続ける。
「これだけか、と聞かれると困るのだが。次に襲われるのがここだという話は知っているか?」
「…それで?」
零は立ち止まり、続きを促す。
「月野にも協力をしてもらいたい」
「嫌だ、と言ったら」
「おまっ!バカじゃねぇの!?学校が壊されるんだぜ!?」
思わず荒い口調で口をはさんだ水樹を零は睨み付け、不愉快そうに言う。
「水樹君にバカとは言われたくない!学校が壊されてしまうのならば、建て直せばいいだろう?僕には時間も、力もないから無理だ」
「それだけで済めばいいんだがな」
「僕にだって、事情があることは分かってもらえる?」
呟いたスバルの言葉に零はまなじりを少し吊り上げて踵を返す。
「まぁ、待てよ。4家なんだからもう少し腹の中を…」
「4家だから、腹の中を見せられない。違うかな?ましてや、僕は当主なのだから」
宥めようとするスバルを振り切り、零は力を込めてドアを閉める。
ピシャリと拒絶するように響いた音にスバルは肩をすくめる。
「無駄だな。アイツには何を言っても…通じない」
「通じないっつーか…聞く気ないだろ。しかも正論だからな。諦めた方がいいぜ、スバル」
「お前にしては珍しく…」
珍しくまともな事を言った水樹へスバルは感心して頷く。
いつもこの調子ならば、レベルも上がるのだが…。そうでないところが、こいつが期待を裏切らないところというか…。
バカなのはどうも遺伝らしいから諦めるのが早いんだが。かといって勉強をしなくなるのは困るな。
「スバル?人の顔見て、ため息つくとか失礼だぞ」
「ああ、すまん。ついつい…」