第33話
そしてやってきた零にとっては拷問のような体育祭。
美子が行った玉入れと綱引きを応援した後、零は日陰を探してフラフラと校庭を歩き出した。
「零、貧血か?」
「…あ、もう無理」
本格的に血が足りなくなった零は、その場にしゃがみ込む。
「ほんっと体力ねぇな」
それを呆れ顔の零王が抱きかかえて、日陰へ連れて行き横にならせる。
という一連の動作を流れるようにやってのけた零王は、水樹が零のそばにぴったりとくっつくのを見ると、どこかへ去って行った。
「ってか、競技出れるのか?」
「出るよ…」
「また無茶するつもりかよ」
「しないよ?流石に5年もこの状態が続けば、どのタイミングで倒れるのかくらい見極めはつくしね」
横になって、血の気が戻ってきた零は、ゆっくりと上体を起こしていく。
「…偉そうなこと言ってるけどさ、お前この間から倒れすぎなんじゃね?見極め、とかどの口が言ってんだよ!この口かっ!?」
イーと水樹は零の両頬をつかんで横に引っ張る。
「いひゃい」
「痛くしてんだバカめっ」
零のマヌケな顔を見て気が済んだ水樹は手を放す。
「だって、この間から僕がいないと勝てない状況ばっかりじゃないか。限界だってわかっていても能力を使わざるを得ない状況ばっかりだと思わないかい?」
赤くなった頬をさすりながら、零は水樹に詰め寄る。
「聞いてくれよ、零。俺の出番はこの間からほとんどないんだが。俺、文化祭のときとか、能力使ったの雪溶かした時くらいだぜ?」
「…あ」
そういえばそうだったような気がしなくもないね、と零は記憶を手繰り寄せて納得する。
「ほらな」
「じゃあもっと頑張って戦闘に参加してくればいいんじゃないの!?君、いつもいっつもボーっと突っ立っていないかい!?」
ちょっと胸を張った水樹に、零はふつふつとわきあがってきたモノをこらえずに突きつける。
「…あ」
そういやそうだ。俺、展開についてけなくて突っ立ってるわー…、と水樹は空笑いを繰り出す。
「そこー!次は棒倒しだからね!ホラ集まってよ」
「あ、ごめん!」
掛けられた声に水樹は謝って、零の手を引いて集合場所へ向かう。
2年生の生徒選抜で行われる、棒倒し。なかなかに激しい戦いになることもあり、体育祭の中でも結構盛り上がる競技の1つだ。
『4種目目!皆が注目する棒倒し!第一試合は、2-A 対2-Bです!』
「みんなが注目って…?」
「あ、そか。去年零いないもんな」
「美子もしらないよ!」
「…まぁ、盛り上がる」
嫌な顔をしてスバルはぼそっと呟いた。
「ふぅん。あ、始まるみたいだね」
「そうだな!じゃあ、行くぞっ!」
水樹は競技開始の合図とともになぜか零の手を引いて相手陣地へ走り出した。
「え?いや、ちょ、こける!」
「こけんな!」
「無理言わないで、よっ」
転倒しかけたのを零は気力で持ち直す。それもこれも全部水樹のせい。
「よし、《ウォーター薙ぎ払いっ》」
ある程度相手陣地まで近づいた水樹は零の手を放すなり、両手から水を放って敵側である生徒を薙ぎ払う。
「…ねぇ、なんでもウォーターつければいいってもんじゃないんじゃないの水樹君」
「い、いいだろ!んな細かいこと気にしてんじゃねぇよ!」
そういうお前はまた突っ立ったままかよっ!と怒鳴ろうとした水樹は横からなんか吹っ飛ばされた。
「ぐふぉあ!?」
「邪魔だ、バカ水樹」
「おいスバルテメェ!!」
犯人はスバルで、しれっとした顔で敵陣地の方へ走って行ったスバルの背中に水樹は怒鳴り声を浴びせる。
「邪魔だよみー君!!」
起きあがったところを美子に蹴飛ばされ、水樹はバウンドして再び零の隣に戻ってくる。
踏んだり蹴ったり。半泣きで水樹は零にしがみつく。まぁ、そんなことをされた零が黙ってなすがままにされておくはずもなく。
「…《破壊せよ、壊滅せよ、破滅せよ。その存在を蹂躪しつくせ》」
零が嫌そうに顔を顰めながら呟くと、稲光が走り敵陣の棒がすべて吹き飛んだ。ついでに水樹も吹っ飛ばす。
「うわぁ」
こえぇ、と呟いたのは誰だったか。
「あーあ…やっぱり、使い勝手が悪いというかなんというか、だね」
パンパンと手を払い零は自分が引き起こした現象をひきつった顔で見る。
「やっぱりってなんだよやっぱりって!!」
3かいくらいバウンドしてから地面をズサーと滑った水樹は跳ね起きて零につっかかる。俺の扱いやっぱヒデェ!と。
「いやね、僕もあんまりやらないことだからさ。次から気を付けないとね」
「そうしてくれよ」
ピーピーピピー!
高らかに試合終了の笛の音が鳴った。
『試合しゅうりょ―――!!只今残っている棒の数を先生方が集計しています!…と言っても、まぁ歴然としていますけど!!』
零が過半数をいきなりぶった押し、ちまちまとスバルと美子が棒を倒していったので、敵陣には棒の影が無い。つまり、抵抗空しくすべて倒されていた。
『結果!圧倒的な差で、2-Aの勝です!』
歓声が沸く。そりゃま、一種の娯楽のようなものだから、なかなかに楽しいものがあったので。
『続いては、2-B対2-Cです!』
ぞろぞろと待機場所へ移動しながら水樹は零たちと合流した。
「あ、一回休みなんだね」
「おう。Cって誰いたっけ」
「確か…影使い、とか」
ふむ、と顎に手をあてたスバルが水樹の問いに答えた。
「おお流石生徒会長。よく知ってるぅ」
「山崎、茶化すのはやめろ。楽しくない」
スバルに低い声で言われた美子は一瞬ビクッとしてからいつもの笑い顔を顔に張り付ける。
「えー美子は茶化してないよぉ」
「…じゃあ、それでいい。というか最近、迷惑だぞ山崎。俺をあんまり巻き込まないでくれよ」
疲れているのかスバルはげんなりとした表情で美子を見おろす。
「むむむっ、何よそれ!大谷ってケチなんだから!美子の買い物に付き合うくらいいいじゃないのー!!」
プンプンがおーだぞ!と美子は両手を握って頭に持っていき頬を膨らました。
「それが嫌だからこうして言ってるんだ」
「イヤ!?嫌って何よ嫌って!美子が、わざわざ誘ってあげてるんだよー!?そんな言い方ないんじゃないの!」
スバルとの言い合いに、美子が一方的にヒートアップしていく。
脇でその喧嘩を聞かざるを得なかった水樹と零は堪ったのもではなく、各々仲裁をしようとする。
「ちょ、美子落ち着いてよ」
「れー君はちょっと黙ってて!これは美子と大谷の問題なんだから!」
「…はいはい」
やれやれと零は肩をすくめて傍観する体制を決め込む。もう好きにしたらいいんじゃないかな、と放り出した。
「だから、そろそろ止めろと言っているんだ。俺は全く嬉しくない」
「おいっ、スバルもそのくらいにして」
「ここで言っておかないと、いつまでも付きまとわれるだろ。そんな迷惑被りたくないんでな」
水樹も、スバルの頑固とした態度を見てあーこりゃダメだ、と仲裁をあきらめた。
「っ!!もう、いいしらない!!」
「知らない?知らないも何もそっちが先にいちゃもんをつけてきたんだろ」
「はぁ!?いいもん美子にはれー君がいるからっ!!大谷なんて知らないんだから!!」
「意味が分からない。お前、何がしたいんだよ」
「大谷には一生わかりませんよぉーだっ」
フンっと美子はスバルから勢いよく顔を逸らして零の腕にしがみついた。
『続いて最終決戦!!イエスっ!2-A対2-Cです!さぁ、どちらが勝つのでしょうか!それでは行ってみましょう!』
いいタイミングだったのか悪いのかわからないが、丁度試合開始の放送がかかり、棒倒し最終戦が始まった。
「…美子とスバル君は使い物にならないと考えて……。仕方ないね、少し無茶かもしれないけれど」
勝負事には負けたくない零が、全力で勝利をつかみ取る手段を計算しだす。
零が考えごとをしているうちに殴り掛かってきた敵や、棒を倒しに来た敵を水樹が一手に引き受けて倒していく。
「久しぶりだからね、うまくいくといいんだけど…《全てのモノを薙ぎ払うが良い!!我が操るは大いなる天空!!空からの恵みは果てることなく私に降り注ぐ!》」
嫌な予感しかしない水樹は、敵を倒すことをやめてその場に伏せる。
突然の水樹の行動に驚いた敵生徒が、我に変えって無防備に伏せる水樹へ攻撃をしようとしたところ…。
吹っ飛んだ。
眼に見えないナニカに横殴りされたかのようにフィールド内に立っていたモノは敵味方関係なくことごとく吹き飛ばされている。当然、棒も。しかし、棒に関して言うならば、味方陣地の棒はすべて無傷で立っている。
それと、スバルと美子は水樹の行動を見て察したものがあり、伏せていたため無事ではあるが。顔が引きつっている。
「ちょ、零!!お前味方も巻き込んでるじゃねーかっ」
一拍、間を開けてからもう平気だとわかった水樹がそろそろと体を起こして零へ突っかかる。
「みたいだね。…うん、久しぶり過ぎてどんなのだったか忘れていたよ。ごめんね。でも勝ったからいいよね」
「いいわけあるか――――!!」
水樹の全力のツッコミに笑い出したのは誰だろうか。次第にそれは大きくなっていき、クラス全員でなんでかわからないけど笑っていた。
『さて!なんだかほのぼのとした空気に包まれていますが、競技終了―――!!勝者、2-A!圧倒的な力を…そう、ですね月野君が見せつけました!流石当主様!これからも学園都市の守護者でいてください!!』
キャー!と黄色い歓声を放送者があげる。
「っ…、まぁ、そうだね」
零は、いつもの作り笑顔を張り付けてそれに答えた。
『さてさてさて!続きますは第7種目目!!借り物競争!選手たちは位置についてくださいね!』
「ほら零。行かないと。…いつまでも寝てないで」
奏は、自身の膝の上に頭を乗せて眠っている零を起こす。
「ん…?…ふぁ…ああ、借り物競争が始まるの。わかったよ奏君」
くぁ、とあくびをした零は身を起こして集合場所へ向かう。
『それではー…』
「よーい、ドン!!」
パァンとピストルの音が高らかに響き渡る。
一列に並んだ各クラス2名ずつの代表者は、一斉にくじを引きに行く。
「えーと…」
零がひいたのは、【尋常じゃないくらいのバカ】。
「あ…水樹君だ」
なんだ、簡単なお題だったな。とか失礼なことを考えながら、最前列に陣取っていた水樹の腕を掴み零はゴールを目指す。
「え、零?な、何引いたんだ?」
も、もしかして好きな人とかだったらいいな、なんて幻想を水樹は抱くが、チラリと零が見せてきたくじによってそれを砕かれる。
そしてゴールした後にうなだれる。
「じ、尋常じゃないくらいのバカ…。しかも審査員に一発で認められた…。おかしい。俺はバカだけどバカじゃないはずなのに…」
「ちょっと水樹君うっとおしいからそうやってグジグジするのやめてくれる?」
邪魔、と零に蹴り飛ばされるのだった。
ちなみに奏は。
「…えっと…、どうしよ、うかなぁ」
【身近にいる最強だと思う能力者】、を引いていた。
「これは、零王か、それとも零か…いや、でも零は競技中だから零王だね」
トテテテと軽い足音を立てて、奏は零王を捕まえる。
「おい?」
「いいからついてきてよ。クラスに貢献」
「…くじか」
「内容は言わないけど」
「…?」
言えないような内容なのか?と零王は首をひねるが面倒だったので深くは言及しなかった。おわってから、そこらへんはしっかりとオハナシしようと、心に決めて。
『8種目目のリレー!!急げ急げ~。これが終ったらお昼休憩だよっ』
「水樹君、リレーだったよね。僕に君が珍しく活躍しているところを見せてくれる?」
「おうとも!…って、珍しくは余計だ!!」
「フフフ」
スバルとど付き合いながら水樹は出場口に走っていく。
それを零は微笑ましそうに見守る。
「…それで、だね」
さてあの2人がいなくなったことだし。クルリと零は後ろでそっぽを向いたままの美子のほうへ振り返る。
「なによ!!」
「いつまでいじけたままなの君は」
心なしか、零の視線が美子には冷たく感じられた。気のせいだと思いたくて美子は俯く。そうすれば、零の眼を見ることにはならないから。
「いじけてなんかっ」
「じゃあ、うっとおしいからやめてくれるそれ。大体、僕としては君がいつも《魅了》を垂れ流しているのも気に入らないんだよね」
「れー君もそういうこと言うの!?」
「スバル君が、好きなのはわかるからね?でも、彼の気持ちもきちんと考えて行動しないと嫌われてしまうよ」
「すっ、すすすすす好きなんかじゃ!あ、あんな気障野郎のどこを!!」
バッと顔をあげて美子は零を睨みつける。
「の割には動揺しまくっているし顔も赤くなっているけどね」
「う、うるさい!!!」
「まぁ、ほらそのね。美子はとても魅力的なんだから、わざわざ魅了なんて使う必要はないと思うよ。そもそもスバル君も僕と一緒で《魅了》を浴びていると頭痛がしてくる性質みたいじゃないか」
「そ、なの?」
「そうだよ。だから、きちんと謝っておいで」
「…無理!絶対無理!無理だよれー君…美子、知らないもん謝り方」
「あ…」
僕も知らないなぁと遠い目をして零と美子は途方にくれる。
誠意を見せる謝り方ってどんなのだったっけ?と2人は首をひねって考える。
「あ、スバル君ってアンカーだったんだ。足早いのかい?」
リレーの方へふと視線をやった零は、スバルがゼッケンを着ていたので美子へ尋ねる。
「し、知らないよ!しーらーなーいーもーん」
大谷のことなんて知らないもん。そういって美子はそっぽを向いてしまう。
「…そう。あ、水樹君が走ってる」
グングンと走る速度を上げていき水樹は他クラスとの差をつけまくる。
「え?うわ、速っ!?ちょ、待ってれー君。あれ、人が出せるスピードじゃないんじゃ?」
「水樹君だし」
「その言い方、明らかにバカにしてるよ零」
「奏君!?い、いつから居たの!」
「ついさっき、かな」
零王にこってり絞られてたよー、と力のない笑みを奏は浮かべて零に抱き着く。
「暑いよ奏君」
「それはごめんよ。お、僕らのクラスが一位みたいだね」
「うん、スバル君もなかなかに速いじゃないか」
「だからっ、知らないもんっ」
プンプンと擬音を出して美子はやっぱりそっぽを向く。が、スバルのことが気になるようでチラチラそちらへ視線は向けていたりする。
『おお!凄いぞ2-A!リレーも一位だ!!さて、結果が分かったところで、おっひるっだよん。午後の部は13時から始まるから5分前には居場所にいてね』
放送がかかり、各自自由に解散していく。
これにて午前の部、終了。
さぁ…午後の部はかけるのか!?
頑張ろう。
あと無駄に立てちゃった魔王復活のフラグも回収しないと…。
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