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第32話

すいません、短いと思います。

後日。

文化祭の片付けが終っても姿を見せなかった零だが、ようやく登校してきた。そんな零に心配そうに水樹が尋ねる。


「零、大丈夫だったか?」

「うん。いつものことだし」


コクリ、と小さく零は頷く。


「いつものこと…。いつも、あんな無茶してんのか!?」

「え?いや、別に、そんな無茶でも…。もう、慣れたし」


なんで水樹が、驚いているのかがわからない零は戸惑いながらも返答をする。


「死ぬぞ!?なぁ、零。お前、過労死したいわけ?もしかしてマゾ?あ、マゾなのか」


あんな、血吐いて倒れるの繰り返してたらお前死ぬぞ!?と水樹は一層心配して零の肩をつかむ。


「はぁ?いきなりなんなの水樹君。ヒトを捕まえておいて、マゾって何、マゾって。そんな性癖持ち合わせてませんけど。失礼なんじゃないの?」


手を払いのけて、零は水樹を睨みつける。


「マゾは言いすぎたかもしれないけどさ。本当に、大丈夫なのかよ?大体、学校の行事だって」

「学校の行事?この間文化祭が終ったばっかりじゃないか」


文化祭が終ったあとには、体育祭が控えている。何このラッシュ、と首をかしげたくなるほどの理不尽な日程だ。


「けど、体育祭…」



「たい、いくさい?ア、アハハハ。なにそれおいしいの?」


僕はそんなもの知らないからね、と宣言したようなものな零の言葉に、水樹は苦笑する。それを見て、零は、水樹君に苦笑されるとか終わった!と内心落ちこんでいたりするのだが、顔には出さないので誰にも伝わらない。


「れー君、体力ないもんねー」


ニョキリと美子が会話に割って入ってきた。


「人が気にしていることを言わないでくれるかな美子」

「うわっ、ごめんねれー君。でも、体力ないところもれー君の魅力の一つだよ!」


と、ギャーギャー騒いでいたら鐘が鳴った。


「はい、そこ鐘鳴ったからな」

「知ってるよ」

「なら座れ。出欠とるぞ」



確認をした零王は、パタリと手帳を閉じる。


「そうそう、今日の7限は体育祭の出場種目を決めるからな。考えておけ」


じゃあ、起立しろー。と零王は実に手際よく朝礼を終わらせた。






で、7限目―。


「えー…体育祭委員は誰だ?」

「俺です」


川本勇次、というごくありふれたレベル3の《空間移動》の能力者が挙手する。どこにでもいる平凡顔、所謂モブと言われる人種の彼は、零王のふきげんに見えなくもない顔に若干怯える。


「じゃあ、あとは任せた。お前らは高校生だからいちいち担任いらないだろう?俺は寝る」

「え、ええー?べ、別に担任はいりませんけど、堂々と寝る発言ってどうなんだよ!?」


思わず川本はツッコム。そして流された。


「…っ、所詮俺はモブか―――!!」


膝をついて嘆いた川本を水樹が慰める。


「大丈夫だ、名前が出ている時点でお前はモブから脱却できてるぞ」

「だからそういうメタ発言する…」


溜息をついた零の肩に、奏がニマニマと笑いながら手を置く。


「それを言ってる時点で零もだからね」

「ほら、川本。先生は気にしなくていいからさっさとすすめてくれ」

「あ、悪い生徒会長」


スバルに言われて川本は立ち直り、すぐに指示を出していく。


「じゃあ、あれだ。えーと俺らが出る種目は、女子が玉入れ、男子が騎馬戦を選抜で、あとは合同で綱引き、借り物競争、リレー、棒倒し、パン食いリレーといったところかな。手ぇあげてってな」


あらかじめ何にするか何となく決めていた生徒たちは、ザワザワと楽しそうに雑談しながら挙手していく。

水樹たち5人は、というとそれぞれ自分に合った競技を選択する。



水樹は、騎馬戦とリレー、棒倒し。スバルも、全部水樹と同じ競技に出る。


零は、借り物競争と棒倒し。


奏が、騎馬戦、借り物競争。


美子は、玉入れ、綱引き、棒倒し。



「あ、あとフォークダンスには絶対出ろよ!?逃げるなよ!?」

「わかってるって」


川本が念を押しまくる。


「あとさ、このクラス男子の方が多いんで、誰か女子の方に回ってほしいんだ。誰かやってくれるやついねぇ?」

「零でいんじゃね、零」


すかさず水樹が零を超プッシュする。


「やだよ。僕はやらないからね」

「零、わがまま言うのはダメじゃないかなぁ」

「奏君、眼が笑ってる」

「そんなことないよー。ねぇ、山崎さん」

「えー?美子リンはね、れー君、女子がいいと思うんだ!」

「…味方が、いない。そうだ、スバル君はどうおも」

「月野が女子にまわってくれるそうだ。よかったな」


零に全部言わせず、スバルは確定事項として川本へ伝えてしまった。


「ちょ、何勝手に決めつけてっ」

「皆、賛成している。大丈夫、誰も笑わないから」


似合いすぎてて笑える範疇を超えてる、とはだれも言わない。


「だ、大体おかしいでしょ!?なんで、僕が女子側に回らなきゃいけないの!?」

「人数の関係だろ、零。諦めろ」


ポシポシと水樹になぐさめられた零は、ショックで机に沈み込む。


「って、れいおーせんせーはなんもしないの?」


後ろの席で腕組んで安眠体制とっていた零王を美子が揺すり起こす。


「あ?なんもしないが」


それがどうかしたか?と零王は不機嫌そうになんとなく聞こえる声音を出した。


「え―――!?」

「フォークダンスもやらないの先生!?」


等と言った悲鳴が女子から上がった。

それを完全に無視して零王は、虚空を見上げる。


「あー…れ、月野。お前気をつけろよ?いいか俺は忠告したからな」


零、と呼びかけてから零王は苗字呼びに直した。そして念を押す。


「それって教師としてだよね。じゃあ気を付けない」

「反抗心無駄に溢れさせやがって…。そろそろだからな?」

「そろそろ…?」


何だっけ、なんかあったっけ?と水樹は首を傾げさせた。その拍子にふと教室の壁に掛けられているカレンダーの日付を見て、もうすぐ10月なんだな、と思う。そして気づいた。



そういや、10月に魔王復活だとかなんだとかフラグ立ってたなぁ、と。



「だいじょーぶだよ零王先生。だって、この僕が零のそばに入るんだから!」

「その自信は一体どこから湧いてくるの奏君…」


えへんと胸を張った奏に零は呆れてから、どこか心配そうに見えなくもない零王を安心させるように笑う。





「だから…体育祭の話してんだから聞いてくれよっ!!皆もさぁ、あの人たちのやり取りに目を奪われるんじゃなくて!!俺の話を聞いてくれっ!!!」


話していたのに皆から総無視くらった川本が堪りかねて声を張り上げた。心なしか泣きそう。


「零、俺だってそばにいるんだからな!?」

「うるさい、水樹君」

「れー君、美子リンもいるからね!?」

「…そう」


舌打を仕掛けた零はなんとか堪える。


「ごめんな、川本」

「…いいよ、会長。もう、いいよ」


それでも無視され、色々とこみあげてくるものがあった川本は、こみあげてきたものを全部飲み込んで諦めた。


「体育祭の練習はさ、日付きめられてるからな?あと、リレーと騎馬戦しか練習認められてないみたいだ」

「まぁ、他のは練習しようもないだろうけど」

「いや、棒倒しは練習しようと思えばできるだろ?」

「棒倒しについてなんだけど!!」


一段と川本は声を張り上げた。


「ルールが追加されて、能力を用いない乱闘は禁止になったから!!殴り合いダメ、絶対!」

「わかってるよー」

「そのくらい誰だって、ねぇ?」

「守れてないからこういうことになってるんだよ!!ま、いいけどさ」


このクラスなら大丈夫かな、なんて川本は思う。月野君いるし、みたいな感じで。



ということで、各々出場する競技は決まった。


体育祭委員の名前変更。本田→川本

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