表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/47

第27話

7日目。

場所は学園都市にある遊園地。

零は、盛大な溜息を吐きだした。


「え、なんかした俺!?」

「特に何もしていないよ」


だからこそ、なんだけど。変わらない君の態度にどこか安堵しているんだよ、僕が。それが嫌なんだ。

なんて、言えもしないことを考える。


「な、ジェットコースターとか乗ろうぜ」

「そうだね」

「…乗れるんだ」

「乗れるけど、なにか」


乗れたらいけないのかな?と零は水樹を見る。


「じゃ、じゃあ乗ろうぜっ!」


零の手をひっぱり、水樹は近くにあったジェットコースターへ突進する。








7時間後。つまるところ17時。


「もう、すっかり日が落ちているけれど?」

「観覧車で最後!」

「…そう」


疲れたな、と零は夕焼けを仰ぎ見る。


「なんだようかない顔して!」

「別に」


そんな顔していないけど、と続けようとした零より早く水樹が言葉をつなぐ。


「…?あっ、もしかしてもう俺と遊べなくなるのが悲しい?」

「何言ってるの水樹君」


冷ややかな視線を浴びた水樹はめげない。


「だってよぉ」

「そんなことないから。観覧車乗るんでしょ?」


さっさと乗って帰ろうよ。

少しだけウンザリしながら零は水樹をせかした。


「…ん」


ラッキースケベとか起こんないかなぁなんて不埒なことを考えながら、水樹は零を連れて観覧車へ乗り込む。





ペトリとガラスに手をくっつけて外の景色を見るのにも飽きた零は水樹を会話でもするかと正面を向く。


「ちょっと水樹君。立ちあがらないで」

「なんでだよ」

「揺れるだろう」

「そうだな」

「揺らしてるの?」


そうだったら敵認識するけど、と零は正面に座る水樹を睨みつける。


「…高いとこ嫌いか?」

「は?違うけど。あ、そうだ水樹君。宿題は終わりそう?」

「えっ、…手伝ってくれねぇの?」


豆鉄砲食らった鳩みたいな顔になった水樹に零は少し吹き出す。


「だって条件付けたよね?僕を楽しませてくれる?って」

「楽しく、ねぇのか?」


俺はすっっげぇ楽しいんだけどな、と水樹はシュンとする。


「そもそも君、自信ありすぎだよね。どこから湧いてくるのその自信。躊躇い一つなく頷いたけどさ、楽しくないなって僕が思ったら、自力で、しかも残り五日間で宿題全部やらなきゃいけないことになるんだよ?」

「うっ」


そこまで考えてなかった水樹は言葉に詰まって横を向く。



しばらく沈黙。


「れ、零姫は楽しくなかったのか?」

「そんなことはないけど」

「じゃあいいじゃんか!」

「まぁね。だけど、夏休みだけだからね」


釘を指すように零は続けた。


「何がだよ」

「君となれ合ってあげるのに決まってるだろ」

「なれあっ」


水樹は零から放たれた言葉に絶句する。上から目線だったことも、なれ合うという言葉に対しても。


「いいかい水樹君。僕は月野家当主で、君はただの羅城家の人間。君と一緒にいると僕がなめられるんだよ」


ふぅとため息をついてから零は水樹へ言い放った。

それに対して水樹は珍しく鋭い切り返しをする。


「…じゃあ。じゃあなんで今まで一緒にいたんだよ!」

「それは…」


説明する言葉を失い、零は俯く。


「説明してみろよ」


なにが、あったんだよ?と水樹は静かに零へ聞く。


「…」


零は、言葉を探して何度か話そうとはするのだが、決定的なことを話すのは躊躇われ、結局口を閉ざしてしまう。

水樹は零が自分から話してくれるのをただ待つ。

じれったい。観覧車が一周してしまえば、零は逃げるように帰るだろう。だから、どうか…。どうか、地上へ着かないで欲しい。

水樹のそんな気持ちが通じたのかなんなのか、2人が乗った観覧車はてっぺんで停止した。


「な、零姫。結局宿題手伝ってくれるのか」


しばらく零は返答をせず、迷ったように視線をさまよわせる。


ここで肯定したら水樹との付き合いは続いてしまう。それは困る。だけど、…やっぱり否定するのは、いやだ。


「零姫?」

「…いいよ宿題位なら」

「っしゃ!」


喜ぶ水樹の方を見ないように、頬杖をついて零は外を見下ろす。


「零姫は、結局俺といて楽しかったのかよ?」


ピクリと零の肩が動く。


「楽しかったよ。あんなにはしゃいだのは久しぶり」



「な、キスしてもいい?」


あまりにも脈絡のない言葉に、零は固まる。次いで、次第に顔が赤くなっていくのが見えた。と言っても水樹の方を見ていないので、耳が赤くなったのが見えただけだが。


「…は?」


やっとのことで絞り出した言葉は、随分と冷たく聞こえて。


「零姫、かわいいんだもん。ダメか?」

「ダメに決まってるでしょう」


何言ってるんだよコイツという視線を水樹に向ける零。

ニシシと水樹は笑う。


「やぁっとこっち向いたな。あんまりさ、1人で抱え込まない方がいいと思うぜ?」

「君には関係ないよね」

「そういわずにさ。だってお前は1人じゃないんだから」

「よく意味が分からないんだけど…」


話の飛躍に零は首をかしげる。


「ま、まぁそれは置いといて!なんでこんなに止まってるんだろうな?」


自分でもわからなくなった水樹は咳払いをしてごまかし、さっさと話題を変えることにした。


「もうそろそろ動くよ。ふぅ…」


堪えようのないため息をはきだし、零は視線を水樹から外の景色へと移動させる。


「零姫」


動き出した観覧車の中で、水樹は揺らさないようそっと立ちあがる。


「何?」


いきなり名前を呼ばれ、キョトンと正面を向きなおした零を捕まえて水樹はキスを落とす。

フリーズする零に、水樹はニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「バカな俺でもさ、わかるんだぜ?零姫が、すごくつらいことくらいわかるんだ。案外、隠しきれてねぇよ」

「っ、い、いきなり!」


硬直が解けた零は、赤くなった顔を隠すように片手で覆い、水樹を睨みつける。


「なぁ零姫。俺が、零姫のこと好きなんだって言ったらどうす」


零が動揺しているうちに丸め込んぢまおうぜ、と水樹は言葉をつづるが、零に遮られた。


「排除するよ」

「どうしてだよ!?」

「僕の役目はね、水樹君。僕に与えられた役目は、ね」


零は少し躊躇いを見せるが、息を一度吐きだしてからその先を言う。


「…魔王の花嫁となること、なんだよ」

「だからなんだってんだよ!?」


どうしてその話題になるのかわからない水樹は、声を荒げる。


「だからね?僕は、恋とか、愛情とか、そういったことを感じたらいけないんだ」

「なんでそんな話になるんだよ!?わけわかんねぇよ!」


さらに、声を荒げた水樹に零はフッと力のない笑顔を向ける。


「それはさ、水樹君が考えようとしないからだ。そうだね、…万が一、僕が魔王に愛を想ってしまったら、魔王を殺すことが出来なくなってしまうだろう?僕は、月野家当主だ。ゆえに、最強でなくてはならないし、誰かを想うことは許されない。3代前の当主と魔王との契約でそういう取り決めを交わしたんだ。だから、呪いだと言われていたんだよ。僕は、僕自身と引き換えに魔王を討って、月野家に富を、学園都市に平和をもたらさなくてはいけない。僕に与えられたのはそういう役目。父も母もそのための布石にされて死んだ。だから、さ。僕に、これ以上人を殺させないでくれるかい?僕に、これ以上…思い出させないでほしいよ。だって、君は…」


零が続けようとしたとき、観覧車は地上へ着いてしまった。


ドアが外から開けられるなり、零は観覧車から降りてしまう。まぁ、ずっといるわけにもいかないのであっているのだが。

慌てて水樹は零を追いかける。

零は、止まらずにまっすぐ、人ごみをすり抜けて奥へ進んでいく。

そうするうちに突然人気のない場所へ出た。遊園地にいるのに。

ありえない事態に水樹は目を見開いて、立ち止まる。水樹から一歩半離れてから零は振り返った。


「なっ」

「『人払い』をかけたんだ。これで、騒いでも誰も来ないし何してもばれないようになったよ。ねぇ、水樹君。…ほんと君ってしつこいよ」

「うるせっ」


フンと水樹は腕組みをして零の真正面に仁王立ちする。


「…そういうところは似てないけど」

「で、なんでそんな『人払い』なんかしたんだよ」

「忠告だよ水樹君。この先、夏休みが終われば何考えてるんだかわからない零王が敵に回る…と思う。だから、君なんて一ひねりで消滅しちゃうからね?あんまり僕に近寄らない方がいいんだよ?夏休みの間は、零王が守ってくれているから大丈夫だったけど…」


開けたら本当にどうなるかわからないんだからね?と念を押してから、零は『人払い』を解く。

途端、周りに音が戻ってくる。


「あ、あのさ零姫」

「…何かな?」

「お前の能力って、何個あんだよ?今の『人払い』ってのと、『結界』だけ?」

「あのさ、僕が答えるわけないじゃないか」


やっぱり君ってバカだね、とあきれたようにつぶやいて零は歩きだした。


「あ、待てって!」


慌てて水樹も追いかける。


「…ありがとう、水樹君」


こっそりと、水樹に聞こえないよう本当に小さく、零はつぶやいた。






後日。


「お、終わらねッ」

「水樹君、ちゃっちゃとやってくれる?この僕が手伝ってるんだからさ」


山積みになった宿題と水樹は格闘する。その横で、椅子に座った零は水樹の宿題を手伝いつつ、水樹の本を興味深そうに読み進めていく。


「だ、だいたい5日間で終わらせるのに無理がっ」

「口を動かしてる暇があるんなら手とか頭とか動かしたらどう?っていうか水樹君もそれでいいって同意したじゃないか。いまさら何言ってるの。過ぎた時間は戻ってこないんだよ」


ハハハと笑って零は水樹の泣き言を一蹴する。




「なんで点P動くんだよ!?」


水樹の家に悲鳴が響いたとかなんだとか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ