第25話
だいぶ遅くなったくせに、文量少なくてすいません。
来週の火曜日は一回休みにさせてもらいます。テスト前で落ち着いて書いてられないのと、時間がないんです(T_T)
5日目。
零は、朝っぱらからいきなり水樹に、つれ攫われた。
「ちょ、水樹君!?」
「いいからいいから」
水樹が走るのについて行けなくなった零はこけかける。ぶつかると目を瞑った零は、痛みが襲ってこないのに恐る恐る目を開く。
「悪い、零姫。ついついテンションあがって…」
零がこける寸前に、水樹が間に合って支えられた。ポリポリとすまなさそうに頭をかく水樹に怒りがわいてこなかった零は、
「良いよ、別に」
と、水樹を怒るわけでもなく許す。
「おっ、サンキュ」
「ゆっくり歩いてくれれば」
「ん、そうする。体力ないもんな、零姫」
かなり上気した呼吸を整えながら歩く零に水樹は、スピードを合わせて歩き出す。
「それで…いきなり何?」
「ああ、スバルと美子誘ってな!BBQやろうぜって。んで、そのまま流れでお泊り会」
今日は何するつもりなの?と零に問われた水樹は誇らしげに答えた。
「あ、誤解といておかないと…」
スバルにそういえば、勘違いされてたなと水樹は今更ながらに思い出す。水樹にとっては勘違いでもなく、これからそうなりたいという願望だったから別に解かなくてもいいのだが。それで通信したときにアイツにやにやしてたのか…。
水樹の家。
「月野様!」
パタパタと風香がやってきて、零に一礼した。
「…、風………香、だっけ?」
珍しく名前が出てこなかった零は、疑問形で風香の名前を呼ぶ。
「あってます!」
「別に敬語なんか使わなくて構わないからね。嫌味っぽくて似合ってないよ」
「おまえもな」
つうか零の方が嫌味っぽいからな、と水樹は続けた。
「嫌味を言っているんだよ?嫌味っぽく聞こえなくて如何するんだい?」
「ああ、そう…」
そうだよな、そうだったな。と今更ながらのことに水樹は、バカなこと聞いちまったぜと言いたげな表情で風香の肩を軽くたたく。
「何でしょうかお兄様?」
「スバルと美子は?」
キョトンと首をかしげた風香をかわいいなんてシスコン思考で見つめてから、水樹は2人が来たかどうかを聞いた。
「もういらしてます。居間でお待ちです」
「そっか。ありがとな、風香」
「いいえ!お兄様のためなら。では、私は部屋で勉強してますので何か御用がありましたら」
キラッキラ目を輝かせて風香は一礼すると、階段を軽やかに掛けあがっていった。
それを見送ってから、零は水樹へところでさ、と疑問を投げかける。
「あのさ、どうして彼女メイド服なの?」
「趣味なんじゃね?」
「…そ、う」
趣味!?趣味って何、趣味って!趣味で着ちゃうようなもんなわけ、メイド服って!?と零はだいぶ混乱したことを考えるが、表情には微塵たりとも出さなかった。
スバルたちが待つ居間へ水樹は零を案内する。
居間へ入る。
スバルも美子も一心不乱にお茶をすすっていて、不思議な空気が流れている。不思議、というよりは気まずい空気というべきか。
「よぉ」
「れー君!」
水樹と零に気づいた2人がお茶をすするのをやめ、思い思いの挨拶を返す。
「やぁ、スバル君に美子。元気そうで何よりだよ」
「月野のほうこそ、水樹のバカと仲良さそ…ラブラブでいいんじゃないか?」
ワザとらしくスバルは言い直す。ピキリ、と顔が引きつるのを押さえ、冷静に零はスバルへ言い返す。
「誤解だよ、スバル君。僕が水樹君とどうこうとかありえないから」
「れー君、バカ城とでぇきてぇるぅなの!?」
「巻き舌のつもり?言えてないよ、美子。それから違うって言ってるだろ」
否定したのにも拘らず反応してきた美子へ零は呆れたようなため息を漏らす。
「今だって一緒に来たくせに否定するの!?」
「なんで美子にそれをとやかく言われないといけないのか説明してもらってもいいかな?違うって言っているのが聞こえないかい?」
ニコニコと笑顔で零は美子へ近づく。美子は零の笑顔を見て、しまったなんか地雷ふんだっぽいぞ!?と焦る。
「はい、そこまで!!BBQやろうぜ、早速!!」
ギャー!なんて内心美子が悲鳴を上げていると、いいタイミングで水樹が注目を集めた。
ハッと鼻で笑ってから零は水樹の意見に適当な同意を帰す。
「…いいんじゃない?」
「なんだよ、その投槍な態度っ!」
「だって…うん、まぁいいんじゃない?」
理由を述べようとした零は、特に意味はなかったかな?と笑ってごまかした。
庭。
バーベキューの準備をしていく。なんといってもまだ、13時。始めるにはもう少し日が落ちてからがいい。
そのうち、美子が零に飛びかかって。それを零が避けて。めげずに美子が零に縋り付いて。零はひきつったような表情で、追いすがってくる美子から逃げる。
「で、なんで俺らも呼んだんだお前は」
女子2人がキャーキャー言いながら(片方はガチの悲鳴に聞こえる)追いかけっこをしているのを尻目に、こっそりとスバルは水樹へ聞いた。
「え?お泊り会しよーと思ったらさ。ぜってぇ、零姫だけじゃ断られるじゃん?」
「それは…そうだろうな」
否定しようかと思ったスバルだが、否定する要素が見つからず水樹の言葉にうなずいた。
「だから、かな。美子いりゃ平気だろうし」
色んな意味で、とまだ追いかけっこを続けている2人へ水樹は視線を注ぐ。
「だろうな」
あ、月野の方は息切れしてるから捕まるのも時間の問題だろうな、とスバルは他人事だから呑気に考える。
スバルが予想した通り、疲れ果てた零のスピードが落ち、すかさず美子がそこに飛びかかって押し倒しつかまえた。
「っうわ!?」
「れー君、れー君っ!」
「やめっ」
抵抗空しく零は、美子のなすがままになる。
けっこうな時間が過ぎ太陽がてっぺんを通り過ぎたころ。
「おーい、女子2人!肉焼きだすぞー」
トングを片手に水樹が、からみ合う2人へ声をかけた。
「だって、れー君」
「…放してくれるかい?」
額に怒りマークを張り付けて零は美子を押しのける。
手をついて立ちあがると、わざとらしくため息をついて埃を払う。
「まーそんなに怒んなよ」
「じゃあ、水樹君に聞くけどね。スバル君に3,4時間?くらい押し倒されてみてごらん?きっと僕の気持ちがよくわかると思うんだよ」
水樹の人事のようなセリフに、実際人事なのだが、怒りを感じた零はニッコリと笑って傍観していたスバルも巻き込む。
「え…そういう趣味だったの」
「ちげーよっ!!」
「違うに決まってんだろっ!?何を考えてこんなバカと、俺が!おかしいんじゃないか!?」
ホモ疑惑掛けられた2人は必死こいて、引くわーなんて呟いている美子をとめにかかる。
「ふふ」
ざまぁみろ、と内心ほくそ笑みながら零はイイ匂いが漂ってきた鉄板のもとへフラフラと向かう。
ジュージューと音を立てて肉が焼けている。
「オー零、食うか?」
後を追いかけてついてきた水樹が、眼がきらりと輝いた零へ問う。
「そうだね」
昼間っから焼肉なんて食べたら胃もたれしそうだけど、と少し心配しながら零は水樹が脇に置いてあった皿に肉をのせるのを眺める。
「れー君、久しぶり!」
「言うの遅いね美子。…そう、久しぶりだね」
今更ながらの挨拶に呆れながらも零は返答する。
「れー君がいなくて寂しかったんだよ!!れー君の反応結界かなんかで遮られちゃったし!!」
「おや?」
ありがとう、ありがとう零王!美子の能力阻害する結界張ってくれてありがとう!と零は零王に感謝でいっぱい。意地でも表情には出さなかったが。
「だから今日と明日は一緒にいられてハッピー!!」
なんか増長したぞ!?と焦る。
すかさず水樹が口をはさんだ。
「違っ、俺が一緒にいたかったの!」
「水樹君はちょっと黙って…いや」
水樹を黙らせようとした零は、策略を巡らせる。このまま水樹が美子と口論して美子を黙らせてくれているのってすごく都合がいいんじゃ兄かな、と。
よって、零は水樹をけしかける。
「もっと言っちゃって、水樹君」
「おう!零はな、かわいいんだぞ!!浴衣とか、泣いてるとことか」
「…ごめん、やっぱり黙ろうか」
余計なことを口走った水樹を、零は睨んで黙らせる。やっぱコイツダメだ。こいつに期待したのが間違ってた、と後悔しながらも。
「月野、お前何やってたんだよ?」
「スバル君に言うようなことは何一つしていないよ」
ふいとスバルから目を逸らして零は答える。それが不信感を抱かせているとも知らないで。
夕方。すっかり日が暮れて、あたりが薄暗くなってきたころ。
まだ水樹たちは、バーベキューを続行させていた。といっても、もう焼くものは焼き切ってしまったので何も焼いていないのだが。
「ふーかー!」
「何でしょうお兄様?」
水樹が思い切り叫べば、2階の窓から風香が顔を出した。
「ちょっと食いもんかって来てくんね?夕飯と、あと菓子!」
要件を簡潔に伝えた水樹に、風香はニッコリと笑顔を見せる。
「了解しました、お兄様!風香、心を込めて買ってまいります!」
「おう、頼んだ!」
ビシリと敬礼した風香の姿は、窓から見えなくなる。早速食材を買いに行ったようだ。
「妹をパシリに…」
「お兄ちゃんさいてー」
スバルと美子の非難する視線が水樹に注がれる。
「なんで?風香が買い物がかりで、俺が料理してんだから別に構わないだろ?当番制だし」
心底不思議そうに水樹は2人へ聞いた。
「…うん、ごめんな水樹」
珍しく冷静に切り返され、スバルは謝る。面白いから、からかおうと思ったのが間違ってたか、こと妹関係で、と後悔を少ししながら。
「れー君?調子でも悪いの?顔色悪いよ?」
黙って突っ立っている零を心配した美子が顔を下から覗き込む。ビクッと肩を震わせると零は、美子から距離をとって否定する。
「そんなことないから心配しなくていい。そもそも僕が体調悪くするとでも思っているの?馬鹿だね、美子は」
「それならいいんだけど」
しばらくして、風香が意気揚々と大量の荷物を風で運びつつ帰ってきた。早速、水樹がそれをさばきにかかる。
「よし、肉焼くぞ!」
「おう!」
スバルが箸を片手にスタンバる。
「まだ、食べれるんだ…」
おいしそうな肉だけどさ、と零はスバルを呆れた目で見る。
「おいしいもんは腹壊してでも食っとかないともったいない」
「大谷のくせにいいこと言うね!れー君も食べよ!もっと肉をつけるべきだよ!」
「…美子、うるさい」
ムッとした零だが、それでもなんだか思う所はあったようで箸へ手を伸ばした。




