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第1話

鐘が鳴り担任が入ってくると、女子たちが彼女等の素晴らしき情報網で手に入れたことを質問する。


「先生!転校生が来るって本当?」

「ええ。どこから仕入れてきたんですか?私もそれを知ったのはさっきでしたが」

「女の子なんですよね!」


ウキウキとする女子群を前に担任はオドオドと挙動不審になる。

「そ、その…」

「何を手間取っているんですか?」


ガラリとドアを開け、こちらは間違いなく美が付く少年が入ってきて、担任へ不服そうに言う。

ショートカットの少しはねた黒髪、憂鬱そうな翳りのさした黒眼。すっと通った鼻筋に、完璧なシンメトリーな彼は鬱陶しそうにため息をつく。それすらも様になるのだから美形というものは…。


水樹はそんな彼にどこかで見たような顔だ…と首をひねる。

どこかで見たことは、ある。しかし…どこだったかな?


「水樹。彼が誰だかわからない、だとか思っているわけではないだろう?」


スバルの確認に、水樹はやっぱり有名人なのか?と首をさらに傾ける。

女子は流石というべきが、誰なのかパッとわかり黄色い悲鳴を上げる。


「うっ…」

「わからないお前の方が間違っている」


耳を塞いだ水樹にスバルが最終宣告を突き付ける。



「じ、自己紹介を…お願いします」

「月野零。レベル5」


零は、オドオドとした担任に渡されたチョークで黒板へ流麗に名前を書き、だるそうに髪をかきあげる。

キャアキャアと騒う女子たちを鬱陶しそうに見ると、零は担任へ視線を移す。

転入生の自己紹介とは思えない簡潔さに生徒たちはがっかりする。しかしよく考えると彼の知名度だと自己紹介をするまでもなく、色々なことが世間へ知れ渡っている。血液型や誕生日から始まり、様々なメディアで彼のことは紹介されてきていたからだ。


「ええと、彼はその、月野家当主なので、な、仲よくしてください!」

「先生…何に怯えているんですか?後、仲よくしてもらう義理はありませんので」


担任の言葉でどっと沸いたクラスは、そのあとに放たれた零の言葉ですぐに静まり返る。


「つ、月野君は一時編入なので、いずれ実家へ戻ってしまいますが、同じ生徒なので対等に…」


担任は零に睨まれたことで、言葉尻を濁し小さくなる。


と、この時点でも水樹は彼が誰なのか、キチンと把握しきれていない。

それに気が付いたスバルはハァとため息をつく。

よくこんなんで今まで生きていけてるよな、と。


「つ、月野君の席は羅城君の隣の空いてる席です!!」

「…水樹君、ね。理事長からよく名前を聞くよ」


担任は名字しか言わなかったが、4家に関わる者の名は覚えているのだろう。零は即座に水樹の名前を口にする。

顔を見ても名前が浮かばないことが多い水樹とは違って。そこらへんもレベルの高低に関わってくるのだろう。

彼は興味深げに前の籍で突っ伏す水樹を観察する。


「ジロジロと見るんじゃねぇよ」

「おや…それはごめんよ。君が、羅城家の…やっぱりバカなのかい?」


わくわくといった風に零は水樹へ問いかける。

その辺までも把握しているところが、4家の長たる彼らしい。

2人の美少年の絡みに、女子たちは妄想を膨らませるので、教室には腐った空気が流れだす。


「なっ!?」

「…うん、わかった。君と僕じゃ釣り合わないね…力だけだと序列4位って聞いたのにがっかりだ」


はぁとため息をつくと零は寝る体勢をとる。

月野家当主なのに授業を初端からサボる気満々の彼を、スバルはどうしようか、と悩む。下手に注意をしてこちらがつぶされるのはたまらないし、大谷家だって羅城家だって4家なのだから、先生たちに彼の目付を頼まれそうな気がしなくもなくて、さらに嫌だ。


「あ゛ぁ?」

「水樹、落ち着け」


スバルに宥められた水樹は不満げに鼻を鳴らして零とは真逆の方向を向く。必然的にスバルと目線が合うのだが。

これはこれで女子たちの腐った思考を上乗せしている。水樹が気づいていないのが救い、と言ったところだろうか。


「で、では僕はこれで!い、一限目は能力開発なので、いつものところへ移動してください!!あああと大谷君は月野君をお願いします!!」

「…はい、先生。月野」

やはり任されることになったか。と思いつつもしっかりとスバルは頷く。

きょどりながら担任は出ていき、後を託される形となったスバルは零へ声をかける。


「…大谷スバル…コピーの」


やはり名字だけで名前と能力を一致させた零に、スバルはやりにくさを感じながらも、どこか楽しく思うのだった。


「そうさ。じゃあ、拗ねた水樹は置いといて、聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「構わないよ。校舎案内は済ませているからね…授業の移動時間でいいかい?」

「ああ。さて、皆移動しろ~!」


スバルがクラスでだべる生徒を追い出しにかかる。























水樹たちは、能力開発を行う教室に移動した。


「…広いのだな」

「今日は理事長の能力でできたゴーレム退治だな」

「つまらん」


感心したような零だったがスバルの言葉を聞くと興味の冷めた声色になり壁際へ移動する。


「月野君はやらないのぉ?」


そんな零にブリッてる女子生徒が声をかけ、付きまとう。

月野家当主と関わりがあると将来に有利であることには間違いがないし、何よりもその財力は魅力的だ。そこらへんを抜きにしたとしても、彼はかっこいいし、もしも仮に彼氏となってくれたらば…と思うと、無謀と感じても声をかけずにはいられないのだろう。


「…くだらない」

「えぇ~、どぉしてよぉ」

「…君に答える義務はないと思うが。僕は君たちみたいに暇じゃないんだ」


手でその女子生徒を追い払うジェスチャーをすると零は生徒たちの動きを観察する。

大半の生徒がペーパー能力者であったりもするので、力のみで行けば、平均2レベル程度と言ったところだろうか。

頭がいい、というのと実践は別なのだが…やはり後先を考えないやつらが多くて困る。学校でその辺をきちんと教えてもらわないと、いざというときに使えない奴等ばかりなのは嫌だ。ただでさえペーパー能力者だらけで使えない奴等が増えているのに。


水樹は、炎系統の能力者が後先考えずに放ち、燃え広がった炎の消火活動を空気中の水を集めることで行う。


「へぇ…消火活動、ね」

「お前は何、悠長に突っ立ってんだよ!」


唯でさえ使えないやつ、の一人に水樹は零を数える。壁際から動くことをしないでパソコンに文字を打ち込んでいる奴なんて。零の評価は、彼の中ではその程度だ。


「いいだろう、別に。何をしようが僕の自由だ。水樹君は戦わないのかい?」

「目立つのやだし。俺が派手に動くとなぁんかいっつも悪いこと起きんだよなぁ…不思議」


上から目線の零に怒りを抑えて水樹が喋る、という2人の会話を、使えない能力者側の生徒たちはハラハラと遠巻きに見守る。

月野家当主の怒りを買ったら、いくら同じ4家の羅城家でも性質うちはできないぞ、と。ましてや彼は最低ランクなのだから。

とばっちりがこちらへ飛んでくるのもごめんだぞ、とも。


「ふむ…理事長からは大雑把と聞くんだけどどうなんだい、その辺は」

「お前に答える義務はねぇ!!つか授業!」


水樹は新たな出火場所に走り消火活動を再開する。


「…バカバカしい」


すっかり傍観を決め込む零にゴーレムが一体襲い掛かる。


「本当にバカバカしい」


彼はそれをスッと避け傍観を続ける。


「零も倒せよ、馬鹿!!」

「水樹君に馬鹿と言われたくないね。それに、勝手に呼び捨てにしないでくれないかい?僕は君に名前で呼ぶ許可は出していないよ」


それはその通りだ…。と何人が口に出すのをとどめただろうか。

スッと零の周りの空気が冷えたような錯覚を感じ、生徒たちは身をすくめる。

羅城…頼むから彼を怒らせないでくれ、と。本気で願いながら。


「何様だ、てめぇ!」

「俺様だ」


怒鳴った水樹に即答した零の言葉で、生徒たちはメディアで見た上辺だけの彼とは違うのだと早くも実感する。

ピタリと水樹の動きが止まり、近くにいたゴーレムに吹っ飛ばされ零の近くへ落ちる。


「ったくよぉ、下がってろクズ!!」


影を操りゴーレムを倒していた男子生徒に水樹は侮辱される。

どちらがクズなんだか…、仮にも4家にそのような口が利けるとは。問題児なのかアイツは、と思いつつ零は男子生徒の動きへパソコンから視線を移す。


「ちっ…。元はと言えば、零が変なこと言うから!」

「僕は当たり前のことを言ったまで。それにこんな茶番すぐに終わる」


ぎろりと水樹が零を睨み付けるが軽く流される。

そして、彼の言葉通りなのか。

水樹を侮辱した男子は動きが急に早くなったゴーレムに殴り飛ばされる。


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