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第17話

落ちた水樹は。

バタバタと落下する中手足を動かして暴れてみるが、何もつかむものなどはなく。


「待て待て待て!!シャレになんねぇぞ!?」


叫んだ声は虚空に吸い込まれて消えた。


「おー大丈夫だ、らじょー君」


水樹がやべぇよ!と珍しく真剣に焦っていると、呑気な零王の声が下から投げかけられた。


「お、マジで!?」




「俺も、落ちたからな。痛かった」


見えないのに、見えないはずなのに、キラッととっておきのスマイルを見せる零王が脳裏に浮かんだ水樹。


「大丈夫じゃねぇじゃんか!!ギャ――――!!」


ドスンと愉快な音を立てて水樹は下に着いた。慌てて飛び起きてどこなのか見極めようとする。

ピチャンと水が滴る音が聞こえ、発光する何かがあるのか、完全に太陽の光が届いていないが暗闇ではない。

天井も壁も見当らず、何処か広いフィールドを思わせる場所だ。

全く知らない場所だった。


「どこだここ…」

「ラスト一名、ご案内ってとこか。ま、4人で丁度いいってか」

「よぉ水樹。俺は、絶対お前に巻き込まれたんだと思うんだ」

「れー君れー君…禁断症状が出ちゃいそうだよぉ」

「あ、お前らも?零は落とされてないのか」


キョロキョロとあたりを見回した水樹は、若干1名とち狂っているのをスルーして首をかしげる。


「そりゃそうだろ。当主だぞ、月野は。俺としては零王さんがここにいるのが気になる」

「ん?あー…問答無用で寝てるところを落とされた」


人がぐっすりと寝てるところをいきなりズドンだぜ?と零王はケラケラ笑うが、笑い事じゃない。


「俺は、スバルが落っこちたのが謎だけど」


運動神経もいいし、頭も悪くないから俺みたいに時間稼がれてボンってことはなさそうだし?と水樹はスバルへ聞く。

スバルは、ジロッと美子を見て口をつぐむ。


「あ、それはね。美子が落ちたから一緒に引っ張ってあげたの」

「え、何お前ら一緒に行動してたのか!?」


予想外の答えに、水樹は目を見張る。


「…仕方なく、だ。仕方なく。町をふらついてたらコイツに捕まったんだ」

「あ、そ…」


段々スバルの目つきが荒んできているのに気付いた水樹は追及することを控えた。


「それぞれの家の当主候補…《月》の奴等何をするつもりだ?」

「4家のパワーバランスを壊して、政治にもっと介入とか?」

「それはない。奴等の力なら余裕で《洗脳》を行える」


零王は首を振ってスバルの考えを否定する。

なんだろうか…?と2人は考え込む。


「あー…なんか言ってたぜ、月…なんとかが」


相変わらず、月代の名前を覚えていない水樹が口を開いた。

バカなコイツにでも一類の望みをかけてみるか、と零王は先をせかす。


「お、なんだ?言ってみろ」

「《月》の名を冠する者の下に人間はいるべきだとかなんだとか。全ては我々の思い通りのままにだとか…あと、計画完了とか言ってたな」

「ああ、いつもの戯言な。いや…世界征服にでも乗り出す気か?何の計画だ」

「そこまでは知らねえよ」


水樹の言葉に、零王は思っていたよりもことが深刻になってるんじゃねぇか?と認識を改めた。


「世界征服、だなんて日本の4家ぐらいがそんな大それたこと」

「《魔王》の力がある」

「…はい?」


ありえない単語を聞いた気がして、スバルは聞き返した。


「零姫をおとりに使えば、《魔王》はこちらへ現れる。そこをとらえて力の供給源として、世界に頭角を現し、悪魔を持って襲わせる…こんなとこか。だが、下らないな。死者の復活…か?なんだ、何が目的だ」

「死者の復活?そんなの、今の技術じゃできないでしょー?」


またまたありえない単語を聞き、問い返す。


「ああ、そうだ。今の人間の技術ではな。あるいは単純に、零姫への仕置きか。…これが一番正しそうな気がして嫌だぜ」


ヤレヤレと肩をすくめて零王はドカッと胡坐をかいて座る。


「零ってさ、大丈夫なのか?」

「何がだ」

「全体的に?」


首をかしげて水樹は困ったような表情を浮かべる。


「れー君、死にそうだよね。最近、顔色悪いもん」

「最近?いつ会ったんだよ、美子」

「会ってないよ?」

「なんでわかるんだよ」

「美子、れー君のこと大好きだもん。アイの力は無限大なんだよ!!」

「あーそーかい」


力説されるが、何とも言いずらい水樹は適当に流す。


「ところで、ここはどこなんだ?」

「あ、それは俺も気になる」

「美子はどこでも関係ないからいいんだけど」


強引にスバルが話を変えたのに、水樹が乗っかる。


「ここか?いや、知らない方がいいと思うぜ?知りたいんなら止めないが」

「っても、知らなかったら脱出のしようがねぇよな?」

「珍しく水樹がまともな事言った!!」

「そんなに驚くことじゃないだろ!?」

「わかったわかった、漫才は止せ。言うから」


コントを始めそうな水樹とスバルのにらみ合いに、零王は苦笑して真面目な顔を作り出す。


「それで、何処なの?」

「ここは、月野本家地下最深部。別名、死人のろうご…」


最後まで言わず、零王は顔を俯かせて肩を震わせだした。


「えと…どうした?」

「大丈夫ですか?」

「なんか辛いことでもあったの?」


3人が思い思いの言葉をかける。


「そんな、ことはっ…ぶはっ、いや…いつも思うがなんでこんな廚二…フハハハ、どんな笑い取るつもりだったんだよ!んなの真顔で言い切れるかってのバァカ」


ケラケラと笑い声を立てて零王は笑い出す。


「いや、聞いてるこっちも廚二だなぁとは思いましたけど、最後まで言ってもらわないと」

「悪い悪い。名称は省くが、月野にとって都合の悪い奴がぶち込まれる出口のない場所だとかなんだとかなんだが…」


微妙な間をとって、零王は言葉を切る。


「焦らさないでさっさと言ってくれよ」


ちょっと間をおいてから、零王は神妙に告げる。


「残飯がぶち込まれてくる」

「え」


ドサドサと実にタイミングよく、水樹の上にゴミが降ってきた。


「…死人の牢獄?」

「別名、な。ゴミに埋もれるぜ、その内」

「出口がないんでしょ?どうやって脱出する気なの」

「ハッハッハ!!どんな場所にも抜け道の一つや二つくらいあるもんだぜ?」


ゴミに埋もれた水樹を引っ張り出すと、零王は迷いない足取りで歩きだす。


「それに、いざとなりゃ俺の能力があるし」


しばらくしてから、思い出したかのように零王は付け足した。


「そっちでさっさと脱出しましょうよ」

「スリルがねぇだろ、スリル」

「必要ないでしょうが!!」

「そういうこと言ってると、つまんない大人になっちまうぜ」

「別に今関係ないし、俺はこんなじめじめとした不衛生なところに長居したくない!」


尤もなスバルの意見は黙殺された。





歩き続けると、立札が降ってきた。またもや水樹の頭上に。

ガツン!といい音を立てて命中し、地面に立札は転がった。


「いて!?なんだ、これ」


水樹がどれどれ、と拾って読み上げる。


「ここを通るべからず?」

「気にするな」


立札を水樹の手から引っこ抜いて放り投げた零王にスバルが進言する。


「少しは気にしましょうよ」

「俺を誰だと思ってる」

「零王さんだと思ってますが」

「まぁそうだな」


鷹揚にうなずいて黙った零王に、スバルがキレる。


「何がしたいんですか、あなたは!!」

「特に何も」

「っ―――!!」


スバルがいいように弄られているのを見た水樹と美子はヒソヒソと話し出す。


「オイ、あの生徒会長様が弄られてるぜ」

「手の平で転がされてるねー。ザマァミロ」


アッハッハーと清々しい笑顔の美子に、水樹はつくづく思っていたことを聞いてみる。


「…なぁ、美子ってなんかスバルに恨みでもあるのか?」

「そ、そんなことないよー。れー君に近づかれるのが嫌なだけだよー」


ワザとらしくゴホゴホと咳をして美子はごまかす。


「そうなのか?」


水樹は見事にごまかされた。


「なぁ、零姫。こっちはこんな風に和んでるから心配すんな。バレたらヤバいだろ」


スバル弄りをやめた零王は頭の後ろで手を組む。


『あれ…気づいてた?』


手のひらサイズの零のホログラムが零王の目前に現れて悪戯っぽく笑った。


「零!?」

『やぁ、水樹君。相変わらずバカそうで何よりだよ。ゴミをかぶった姿が…そう、実にお似合いだよ。スバル君は珍しく弄られてたね。美子は…うん、何も言わないよ』


ハイライトが消えた美子の方を見て、零はコメントを控える。


「そんなことより、お前」

『何?僕、時間がないんだよ』


目ざとく零の怪我を見つけた水樹は、怒気を放ちだした。

それに気づいているだろう零は、はぐらかしにかかる。


「なんだよ、その痣」


零の頬に着いた青痣を水樹は指摘する。


『ああ…これ?水樹君には関係ないさ。それでね、零王。計画って何のことだか、わかるかい?』


関係ない、の一言でぶったぎった零は話題を早々に変換させる。


「お前のいじめ方、じゃないのか?世界征服やら、死者の復活とか」

『…死者の復活なら、君の力は必要じゃないか。だから、それが目的なら君をそこに落としたりはしないさ。後は何かある?』

「お手上げ。何考えてんだか、わからねぇよ。バカの考えは」

『………が、…………それを……で………だから……』


零の姿が揺らいだ。話す言葉もノイズが混じり、聞き取れない。


「ぶれてるぞ」

『え。…ごめん、動揺しちゃったみたいだ』


アレ?と首をかしげて、零は戸惑いの表情を作る。


「どうかしたか、月野」

『頭が、痛い。いや、それはいつものことなんだけど…ダメだ、集中できない』


頭を振ると、零は困ったように笑う。


「無茶するな、零姫。ただでさえ限界点を突破しているんだから」

『そうするよ。今日はこれで止めにする』

「ああ。おやすみ」


フッと零の姿が消えた。


「で、零は何したかったんだ?」


パシパシと体をはたいて水樹はゴミを落とす。落としただけじゃどうにもならない生モノもあったのだが、それは後々洗うことに決める。


「水樹に言われたらおしまいだな」

「おまえ失礼だよな、最近特に!!」


ガァ!!と水樹は吠える。


「さて、脱出するぞー」

「おー!」

「今までの前振りはなんだったんだ!?」


色々と無視をしてパンパンと零王が二度手を叩くと、ガチャコンという機械音が聞こえてきた。

機械にぶら下げられて白色のドアが上から降りてくる。


「…あの?」


ドアに、『忠告!ドアに触れるべからず!』と赤色で書かれているのを見て3人は零王に視線を注ぐ。


「聞くな。作った奴の趣味だから、聞くな。俺じゃない」

「はい」


有無を言わせない零王の言葉に、スバルは頷く。


「で、ドアは?」

「触っても大丈夫だぞ」


零王の保証を受けて、よぉし!と意気込んで水樹がドアノブをつかむ。




―――――ビリビリビリィ!!




「うおおおおお!?」


ドアから電気が流れた。電気は当然のことながらドアノブに触っていた水樹に流れ、まとわりついていた生モノを燃やして灰にした。

ピクピクと足を動かしてひっくり返った水樹に、零王が問いかける。


「死んだか?」


素早く水樹の脈をとって生死を確認したスバルは舌打ちをする。


「いえ、生きてます。しぶとい奴め」


スバルを突きとばしてドアに無理やり触れさせ、自身と同じ目にあわせる。


「ぐっ!?」

「なっ、なんで俺こんなこと言われなきゃいけないんだ?」

「ミー君ファイト!」


そこまでしてから、水樹はうなだれ、笑いながら美子になぐさめられた。


「っていうか!!嘘じゃねぇか!大丈夫じゃねぇよな!?」


ハッとそもそもの元凶となった零王に水樹がつかみかかる。


「あーそーだなー」


同意しつつも、零王は普通にドアへ触って開ける。


「は?」

「え」

「ええ!?なんで大丈夫なの!?」


ポカンとした3人に、零王はしてやったり、とほくそ笑む。


「フハハハハ!なめてんじゃねぇぞ!俺を誰だと思ってる!零王様だぞ!!最凶なんだぜ!」

「そんなことで堂々とえばられても」


零王の偉ぶった態度をスバルがツッコム。


「じゃ、抜け出すとするか」


ドアの向こう側に広がる薄暗く狭い通路に零王は足を踏みいれる。


「ちょ、待てよ!おいてくな!」


慌てて追いかける水樹たち。


「させるかっ!バカめ!」


突如沸いた男達。


「どけ雑魚が!!」


雑魚呼ばわりされて吹っ飛ぶ男達。

水樹たちは、何時しか通路に現れた黒服たちに挟まれてしまった。


「なにこれシュール」

「その一言でこの状況を済ませたお前が凄いと思うよ」

「大谷に褒められてもねぇ」


フイと美子はスバルから視線を逸らす。

後ろで繰り広げられるコントもどきを左から右に流しつつ、零王はいつでも反撃できるよう構えをとる。

水樹たちも、当たりに漂う緊張感に気づき口をつぐむ。

沈黙が落ちる中、零王の正面に陣取った黒服たちが膝をついて通路の端による。今のうちに逃げりゃいいんじゃね?とか水樹は思うが、逃げられそうな雰囲気じゃなかったため断念。

モーゼ状態の通路から月代がゆっくりと歩いてきた。


「零王、こちらへ下りなさい。今ならば、悪いことはしません」


月代の言葉にスッと零王の目が細まる。


「悪いこと?」

「あなたの地位を剥奪してもよろしいのですよ、こちらは。地位を失って困るのはあなたではないですか?」


零王の射程距離から少し遠いところで、月代は腕を組んで立ち止まる。


「ああ…《零王》の位を取り上げるってか。別に構わないぜ?だけどよ…この名前は、初代の血を引く者にしか受け継がれない。そうだろ?」

「初代の血ってなんだ?」


真面目な空気が流れる中、首をかしげて水樹が漏らした。

一瞬、空気が固まった。


「…水樹、頼むから黙っててくれ」

「せっかくのシリアスシーンなんだからさー。無知っぷりでぶち壊さないでよね」


これ以上水樹が馬鹿なことをほざかないよう、スバルと美子が押さえつける。

月代も零王もその問いはなかったことにする方向で話を進めようとする。

何事もなかったように話を進めたかったが、想定外のバカさ加減に頭痛がしてきた月代は眉間をもむ。


「…ええ、そうですね。ですが、それには裏技がありましてね。初代の血を引く者が何らかの原因により、最強ではなくなった場合、零姫の夫となる者がその名を引き継げるのですよ」


それを聞いた零王はどこか皮肉気に嗤う。


「俺が、最強じゃないっていうのか?思い上がんのも大概にしとけよ」


月代は、眉間にしわを寄せる。


「あなたの方こそ。いつまでも図に乗ってはいられないということを思い出させて差し上げましょう!」


パチンと月代が指を鳴らすと、水樹たちは零王共々不思議空間に身を投げ出された。

宮殿らしき建物の前に落下した水樹は、驚きの声をあげる。


「ど、何処だここ!」

「ここは、私が支配する空間の中の1つです。ここでは私こそが最強なのですよ、羅城」


建物の前に、月代は余裕そうな表情で浮かんで現れる。


「相変わらずたちが悪い…と褒めてやってもいいんだが」

「それはそれは」


トントンと足踏みをして足もとの感触を確かめた零王は地面を蹴って凄まじい速度で月代に殴り掛かる。


「俺にはかなわない」

「これは、私ではありません。私を移した映像の1つ。よって、あなたの攻撃は当たりませ…何!?」


ドガンと驚いた表情の月代が後ろへ吹っ飛んだ。


「俺は最強でなくてはいけない。ゆえに俺は最強だ」


月代が吹っ飛びつつも放ってきた白い光の弾を零王は指で軽くはじく。


「なんつーか滅茶苦茶な理論を…」

「だけど、正しい」

「そぉかぁ?」


スバルの言葉に、水樹は何言ってんだコイツ?と危ぶむ目つきで見る。


「何かしらの使命を負った者ならではの回答だ。そう思うだろ、山崎」

「美子?大谷と意見が合うなんて死んでも嫌だよ!でもね…れーおーの気持ちはわかるんだよね。れー君、ほっとけないし」


ヤレヤレと肩をすくめた美子にスバルは同意するように一度頷く。

首をかしげてそれを見ていた水樹は、ポンと思い出したように聞けなかった(正確には聞いても答えてもらえなかった)質問をぶり返した。


「って言うかさ、初代の血ってなんだよ?」

「今それを持ち出す…。まぁ良い説明してやろうじゃないか」

「おまえも、零に染まったよな」


スバルの言い回しが若干零に似てきていることを水樹は指摘したが、睨み返されるだけだった。


「月野、と名乗った初めの人だ。以上」

「簡単すぎるだろ!もっとないワケ!?」

「お前がわかると思えないからな」

「失礼だな!!」


スバルの言葉に水樹は憤慨する。


「零姫や零王は、初代の血を直接継いでいる者じゃないと名乗れないらしい」

「ふぅん。…ん?ってことは、零王も、零も直系なんだよな?」

「…!それは盲点だった。水樹のくせに」

「れーおーがれー君の…お兄ちゃん?」

「えっ、近親相姦!?」


美子の推測に水樹は驚いて叫んだ。


「よくそんな単語知ってたな。だが、ちがうと思うぞ」

「歳いくつなんだろーね?若作り?」

「ロリコン…」


注がれる冷たい視線に気付いた零王は月代の攻撃を避けつつ、怒鳴る。


「おい、待て!!ガキども、サラッと失礼な事話題にしてねぇか!?」

「ロリコン」

「違う!!俺は、まだ21だ!!そもそもなんでその話に辿り着いてんだよ!」

「辿り着く…ということは、自覚はあるわけですか」


フムとスバルが零王の図星を刺した。


「うっるせー!!聞こえない!なにも聞こえないぞ!」

「うるさいのはあなたです」


静かな月代の声と共に、特大級の弾が零王へ打ち込まれた。

砂なんかないのに、砂埃が舞って零王の姿を隠す。


「あ…余計なことに意識逸らしてて死んだ?」

「っぽいね」


ウンウンと水樹とスバルと美子が納得していると、地面に倒れていた零王がガバリと身を起こす。


「死んでねぇよ!勝手に殺すな!!大体、俺はだな!零姫の叔父だ!なんの問題もねぇんだよ!」

「えー」

「えーじゃねぇ!別にどうだっていいだろ!!お前らには関係ないだろ!?」


零王は必死に抗議する。


「思えば先代当主もバカでした」


唐突に月代が過去を振り返り始めた。


「なんだと?」

「我々に正面切って逆らったのですから。死んで当然です」


ブチリと何かが切れる音がした。

零王からではない。では誰からだ?とスバルが隣を見てみると、水樹がとてもイイ笑顔を浮かべていた。ああ、コイツだな。と覚る。


「なぁ、ゴチャゴチャさっきから言い合ってるけどさ。黙れよ」

「羅城如きが我々に口出しですか?生意気な」

「…ああ、なるほどな」


水樹の怒りの出所に納得した零王は一歩下がる。軽く水樹の肩を叩き、月代との相手を譲る。


「死んで当然、だって?そんな人間いねぇんだよ!!誰だって、精一杯その日を生きてるんだ!訂正しろ!!」


水樹は一歩前へ出ると、こぶしを構える。叫び終わった後、有無を言わせず、驚いて棒立ちの月代を殴りとばした。


「…水樹がまともな事言ってるっていうか説教もどきしてるぞ」

「見てて面白いじゃないか」


クククと零王は笑う。美子は眼を丸くして、なんか意外とかっこよく見えた水樹が幻覚だと思おうとする。


「ハハハ、そんなことありえません。精一杯生きる価値など、この日常にないのですよ。生きたところでより強いモノに屈せられるだけなのです。丁度貴方方のように。だから、我々《月》により良い利益を生み出すよう動けばいいのです。人間だって、悪魔だって。さらには…神だって」


溜めを置いてから言われた月代の言葉に、水樹は首筋へ手をあてる。


「えっと…神とか信じてるのか?」

「水樹、そこじゃない。問題は其処じゃないぞ」


的外れな言葉をスバルは大丈夫かコイツとあきれながら指摘した。


「わ、わかってる!!」

「それに、神は存在する…らしい。魔界があるように神界も存在する、と聞いた。…授業で」

「マジか!俺聞いてなかったな、それ。ま、いーや。こっから出たいんならお前を殴りゃいいんだろ?」

「いいえ、ちがいます。私は君らに付き合っていられるほど暇人ではないのでね。コレに相手をしておいてもらいましょうか」


月代はおもむろにパチンと指を鳴らして黒いドアを空中に召喚した。


「させねぇぞ、それは。お前は、俺と一緒にお前が作ったこの世界で立ち往生だ」


離脱しようとした月代の足を零王が引っ張る。


「放しなさい!」

「ヤダね。零王の地位をはく奪されるのはちぃと困るんだ。そんな準備させねぇよ」


月代を零王は腕力に物言わせて地面へ引きずり倒した。


「クっ」


悔しそうに歯噛みした月代を零王は嘲笑う。

そうこうしているうちに、ドアがさび付いた音を立てて開いた。

中から、悪魔の軍隊がゾロゾロとあふれ出てくる。

その数、千は超えると言ったところ。

様々な種類の悪魔が現れたが、すべて下級程度。中級以上の悪魔の姿は見当たらない。


「悪魔?なんでこんな大量に」

「退治要請出たのをそのまま引っ張り込んでいたのか」


月代を押さえながらその様子を見ていた零王がつぶやいた。


「ええ、利用できるものは悪魔でも利用しませんと」


スッと月代の姿が悪魔にわずかだが気を取られた零王の下から消えた。


「では、ごきげんよう」

「逃げられたか!」


月代が消えるのが合図だったかのように、悪魔の軍隊は水樹たちに襲い掛かる。


「《水斬り》」


即座に水樹は水蒸気を集めて水にし、近寄ってきた悪魔を薙ぎ払う。


「…《擬態》」


しばらく考えたスバルは、悪魔の姿をコピーして、軍隊の中に紛れ込んだ。


「スバル逃げたな!?」


水樹が裏切り者―!と叫ぶ傍らで、美子は近くの悪魔を片っ端から操っていく。


「《魅力》《魅力》《魅力》!美子は最高にかわいいんだよ」


クフフと熱に浮かされたように笑い、美子はその場でクルリと回転する。スカートがフワリと広がる様はとてもかわいらしく、水樹は一瞬見惚れてしまう。


「《絶対王者の資格》…気に入らねぇな。1分だ」


同じく能力を展開させた零王は、不服そうに言う。


「は?」

「1分?」





「1分で全滅。いいな?」


意図が呑み込めていない水樹たちへ零王は言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いだ。


「俺らにそれ言ってんの!?」

「あたりまえだ。他に誰がいる」


実に不思議そうな響きを持たせて零王は言った。

ヒィと息を飲んだのは誰だっただろうか。

おそらく水樹だ。


「しょ、しょうがねぇな!!零のためだからな!?俺がこれ見せるのは零のためだぞ!!決してお前が怖いわけなんかじゃ」

「わかったから急げよ水樹」


グダグダと抜かす水樹の頭を後ろから近寄っていたスバルが頭を叩き落とした。

その間にも零王のカウントダウンはされていく。


「ほらほら、あと40秒だぞ。39、38…」


瞳を閉じて、深呼吸。水樹は意識を切り替える。


「《エレメンタル・マスター:ファイヤ》!!」


ゴォと悪魔が燃え上がった。燃えた悪魔がのた打ち回り転げまわるので次々と引火していく。

大して待たずに炎は軍隊全体に広がった。轟々と燃え上がる音が響く。


「お前、水を操る能力だったんじゃないのか?」


どこか責めるようにスバルは水樹を問い詰める。


「だから嫌だったんだよ!説明めんどくさいだろ!」

「いいから説明しろよ。幸いお前のおかげで悪魔は燃え尽きたしな」


まだ火がパチパチと燻っているが気にせずスバルは好奇心探求を続ける。


「詳しく知らねぇし」

「馬鹿だからな」


クククと零王が笑って口を挟む。


「ムッ」

「羅城家の能力は、水・火・風・土の4元素使いだ。基本的に一人一つの元素を司るが、例外が極希に生まれるそうだ。類を見ないほどのバカが生まれたら、元素使いだと思えと伝わっている…らしい。実際その通りだな」


バカな水樹を見て納得したように零王が頷く。


「間違ってないけど…でも!!俺の扱いやっぱひどいだろ!」

「それがミー君だからしょうがないよ」


水樹の叫びにヤレヤレと美子が首を横に振る。


「さて、俺は急ぎの用が出来たので本家になぐ…話し合いに行くがお前らは?」


ついてくるか?と問う声に水樹は一も二もなく頷く。零王が、言いかけたことには誰もつっこまない。いや、あえて触れなかっただけだろうか。


「あー…俺は用事が」


それとなく断ろうとしたスバルは美子に引き止められる。


「そうはさせないよ大谷!!一人だけ逃げようったって」


うっ、と息を詰まらせてからスバルは無駄に頭を働かせて、どうにか月野本家にはいかないで済むような会話をしようとする。


「山崎。出刃亀は良くないと思うんだ」

「だから?」

「俺は辞退させてもら」


再びスバルが口にした断りの文句は美子に遮られる。


「そうはさせるかっ!!」

「そうさせてもらう!!」



「…お前らほんと見てて飽きないよな。わかった、五月蠅いし姦しいからお前ら帰れ」


ポン、ポンと零王がスバルと美子の肩を叩くと二人の姿が消える。


「どっちもおんなじ意味」

「おお、よく気づいたな」


ボソリと言った水樹に零王は大げさに驚くふりをする。


「あんたも失礼だよな!?で、なんで俺は帰さなかったんだよ?」


零王の態度を責めてから、水樹は真顔になって訊く。


「お前は零姫を変えた張本人だからな。いてもらわないと困る。…後、俺が楽しい」


ついでのように付け足された言葉に水樹は過剰反応する。


「そっちだろ!?零を変えた云々は良くわかんねぇけど!本音それだろ!?」

「そんなことはどうでもいいから」


ペイと放り投げる動作をしてから零王は話を戻そうとする。


「どうでも良くねぇよ!」

「どうでもいいから、崩れかけてるし…俺らも戻るか」


崩れ出した月代が作った世界を見て、水樹は焦る。

なにせ、彼は自力でここから脱出できないから。


「お、おうとも!さっさと戻ろうな!」

「…むかついたから羅城君は置いて行こうか」


宮殿が崩れていくのを見て、ああ無情とか思いながら零王は水樹を弄る。


「やめてくれ!頼むからそれはやめてくれ!俺、死んじまう!」

「そうっぽいな。俺は寛大だからなー。土下座で許してやろうじゃないか」


ハハハと笑った零王に水樹は咬み付く。


「それ許されてない!なんだよ、ロリコンってのひきずって」

「…それ以上言ったら殺す」


低くなった声に水樹は遅まきながら、これ地雷か…と気づいた。


「これくらいにしておいて…戻るか」


バンと乾いた音を立てて零王と水樹の姿は崩壊している世界から消えるのだった。


霊王がチートだよー。

何がしたいんだかわからないよー。そんなのはこの話くらいだから、頑張って!(なにをだろう)

ま、まぁそれはさておいて。月代の悪役っぷりがパない。パないっす、月代さん。

ようやく水樹が主人公っぽくなったと思いませんか?

特殊能力とか発動させちゃってさ・・・けっってんだ。


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