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第16話

数日後。月野家地下3階、階段を下りて真っ直ぐの廊下を突き当たったところにある部屋。

バタンと重々しくドアが閉まり、鍵がかけられる音が響く。


「当主の身柄は我々のものだ。我々以外の誰にも、その身をゆだねることを禁ずる。これに懲りたのなら二度と我々に黙って出かけて行かないことだな」


カツカツと靴音が遠ざかって行ったのを確かめて、零は身を起こす。


「っ…ずいぶん、派手にやられたな」


体を動かすたびに走る鈍い痛みに顔をゆがめた。服で隠れていない部分を見ると、痣になっているところが目立っている。


「暇だな」


後ろからぞろぞろと続く侍女たちに大量の紙をもたせた月代がドアを開いて中に入ってきた。


「それは良かった。まだ終わっていないものが大量にあるのですよ。…ああ、置き終わったら下がりなさい」


侍女に指令を出すと、月代は人形を扱うかのように零の投げ出した手足に触れる。


「…」


無言で零は、紙が置かれていくのを見守る。


「あなたは何も考えず、何を思わない。我々の利用できる人形でいることだ。それが…」


生き延びることにつながるのだから。と月代は吐き捨てる。


「…あの時、一緒にいた奴はどうしましたか?」


床の一転に視線をとどまらせて、零は月代へ問う。


「あんな馬鹿どもは我々が直接手を下さずとも自滅してくれるだろう。だが…その様子を見るなり、当主の友人ですかね。では、利用させてもらいましょうか」


クスクスと笑う月代。危険を感じた零は、顔をあげて睨みつける。


「っ、何を、するつもり?」

「いいえ、何も。当主が『良い子』でいる間は、何もしませんよ。久しぶりにあなたを弄るのも楽しそうなのですが…今日はやめておきましょうか。彼らがあなたを友人と、本当に思っているのでしょうかね?」


クスクスと月代は笑う。


「彼らは、僕のことが嫌いだよ。だって、僕は彼が嫌いだから。偽りの関係だ。この僕が、友人を必要としているとでも君は言うのかい?僕は、月野家の当主だよ。友人なんて必要なわけがないだろう」


感情を押し殺して、零は月代へ言う。


「そうでしたか。では、どうなってもよろしいのですね」

「いいよ、構わない。殺せばいいんじゃないかな」


月代の問いかけに零は淡々と答えた。


「では、そうさせて頂きましょう。羅城家の男はバカですから」

「…勝手に、すれば」

「あなたを信じたまま、殺されるのでしょうね」

「…勝手に、すればいい!僕は知らない。知らないよ、何にも!!」


グッと奥歯をかみしめると、零は月代から目を逸らす。


「滑稽なピエロが見られそうです。それでは」


一度も声音が揺らぐことなく述べた月代は踵を帰して部屋をでていく。


「なんて。水樹君は、強いよ…多分。《月》よりも、ね。それにそもそもピエロとは滑稽なものさ。普段から見てるじゃないか。…言ったところで誰かが聞いているわけじゃないんだけどね」


床に置かれた紙を手に取って零はこの後どうしようかな、と思案を巡らせる。


「《月》は、太陽の光を反射して輝いているんだよ。じゃあ、月野家の太陽は、一体なんなのだろうね…?」


フフフ、と零は一人笑う。



その問いに答える者はいない。
























その頃、町をふらついていた水樹は。

何となくつけられている気配を察し、周りの人に迷惑がかからないよう人気のないところへ向かう。

路地の行き止まりまで歩いた水樹はゆっくりと10数えてから、後ろを振り返った。


「さぁて、なんで俺をつけてんだ?」


ニタリと笑った水樹に、立ち止まった月代はため息をついて偉そうに腕組みをする。


「…気づいていたのか」

「えーと月…なんとかだっけ。うん、月はついたな。そんな感じの名前の奴がなんだって俺を」

「これだから羅城のバカは」


チッと舌打ちをすると月代は問答無用とばかりにいきなり殴りかかる。


「っお!?いきなり襲ってくるとは、いい度胸じゃねぇか」


咄嗟に右へ飛んで避けた水樹は、戦闘態勢に入る。


「私の要件…いや、我々の要件はただ一つ。これ以上当主にかかわるのを止せ。後悔するぞ」

「ハッ。なんで俺が零と関わっちゃいけねぇんだよ。別に誰と話そうが俺の自由だ、ろっ!」


左足を踏み込むのと同時に右手を打ち込む。


「当主は我々の管理下にあるのであって、所有物に感情が生み出されることを望んでいない」


拳は月代の顔面直前で不自然にはじかれた。


「なっ、んだと!?」

「話をしようじゃないか。私は殴り合いをしに来たわけではないのだ」

「…そうか?」


ならなんでいきなり殴りかかってきたんだよ、と口にするのは堪え、一歩引いた水樹は胡乱げに月代を見る。


「反抗されることは嫌いなのです。全てが我々の意志によって行われるべきだ。《月》の名を冠する者の下に、人間はいるべきなのだ。我々に逆らうなど、ありえないことだ。違うか、羅城家次期当主」


同意を求める月代の無茶苦茶な理論に、水樹は呆れかえる。ここまで図々しいと、凄いと感嘆してしまえそうでさえある。


「違うだろ…」


ザザッとノイズが混じった通信が月代の腰に下がる機械から路地に響く。


『計画完了。月代そちらは』

「今しばらく待て。もう少しだ」

『了解』


通信が切れると、月代は水樹をジロジロとみる。


「計画…?なんのことだ」

「貴様が知る必要のないことだ…と言っても良いのだが、特別に教えて差し上げようじゃないか」

「いや、じゃあいいよ。知らないままで良いからどっか行け…」


悪い予感しかしない水樹はもったいぶる月代に断りを入れて脇を通り過ぎようとする。


「待て、といっているんだよ。わからないかな。君の存在は必要ない。むしろ邪魔にしかならない」

「なぁ、一つ質問していいか?」


ピタリと足を止めた水樹は、何か思い立ったのか低い声で月代へ投げかけた。


「ああ、いいとも」

「奏って、知ってるか」


一瞬呆気にとられた月代は、意地の悪い笑みを浮かべる。


「は?ああ…レベル4の猿だな。当主に特別な感情を持ったので排除させた」

「排除?」


肩を小刻みに震わせて月代は笑う。


「滑稽だったよ、実に。何しろ、死ぬ瞬間まで、何があったかわからないという表情だったからな。ククク…当主のほうも滑稽だったがな。だから、親しくなるのはやめておけと命令をしていたのだよ。自分で手を下すときもあるのだから、余計な感情は持たない方が良いのに」

「零に殺させたのか?」

「その問いに答える義理はないな。…時間稼ぎも終わったことだ。そこで彷徨い続けるといい、永遠に」


パチンと月代が指を鳴らすと、水樹の足もとの地面が無くなった。


「え?お、いオイオイオイ…マジかっ!」


いきなりできた穴を避けられるはずもなく、水樹は落下していった。






「邪魔者の排除は完了。羅城、大谷、山崎、…そして、一族に逆らうバカ、零王もまた然り」


何事もなかったかのように月代は大通りに出て歩き出す。



『次はどうする月代』

「当然、当主に追い打ちをかけるに決まっているだろう」

『…やることがえげつないな』

「最高の褒め言葉だよ、君。では、戻ろうか」


相手のひきつり気味の声にクククッとおかしそうに高笑いをすると、月代はその場から姿を消した。


はい、シリアス?

水樹落下!

何を隠そう水樹を落としたかっただけなんだ!

ということだから、このあとの展開とか全く考えていないんだ!後悔も反省もしてないよ!といいたいところだけど・・・ちょっと後悔してるんだ。


投稿日を決めることにしました!おそらく毎週火曜日です。思いつきで書いてるので、気分が乗ったらほかの日にも投稿するなんて迷惑なことをするかもしれません!

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