第13話
待ちに待った(?)夏休み。
…の前に、終業式。
「えー…(前略)…今日、儂の話が終れば夏休みじゃな!?若者たちがキャッキャッウフフな夏休みじゃな!?じゃあ儂は校長じゃから、ウフフアハンなことをする不届き者は許せないのじゃ!!…(後略)…健全な夏休みを諸君らが送ることを命令しよう!!それではまた9月に諸君らと無事会えることを祈って…前期を終了とする!」
ちょっとだけかっこつけてみたジジイ…ゴホンゴホン、理事長の1時間にもわたる長すぎる話が終り。
くっそ暑い体育館にわざわざ集められた生徒たちは不服を言いながらも自分たちの教室へ戻っていく。
「えー…夏休みに入るからと言って気を緩めたりせずに、勉学に励むこと!期末テストで赤点をとったものには、追試もしくは補習があるから学校へ登校すること。それでは…また9月」
「ハァイ先生」
「キショイ!!くっつくなバカ!?お前はどうせ補習だろう!」
熱さにただでさえ悪い頭がやられ、色々と崩壊した水樹がキラッと返事を返したのを見たスバルがひきつった声で叫ぶ。
スバルは、冷暖房設備がそろっている講堂ではなく、扇風機ぐらいしかない体育館に集められたのが理事長の嫌がらせであることを理解していたので、孫の水樹を腹いせにいじめようとする。
ところが水樹は胸を張ってえばると、爆弾発言を投下する。
「フフン、聞いて驚け!!なんとだな、前回の零の教え方がよっぽどうまかったのか…今回は赤点がないんだ!!」
「「「なっ、なんだと――――!?」」」
水樹の宣言に教室中が驚愕する。
それほどまでにありえない話だったのだ。
「ば、バカな…水樹の頭がよくなったらそれはもう水樹とは言えないんだ!!別の…そう、スーパー水樹になってしまうではないかっ!!」
驚愕すぎる事実におののきつつスバルが叫んだ。
体育館から帰るなり、机につっぷしてくたばっていた零がようやく少しだけ顔をあげる気力が出たのか2人の会話に参加する。
「スバル君、今日はどうかしたのかい?ちょっと…いやかなりおかしいよ」
スバルの普段の言動と比較した零は言葉を言い直した。
「いやぁ、俺暑いのは苦手で…かといって寒いのも苦手なんだが…」
ポリポリと気まずげに頭をかいてスバルは苦笑する。
「ああ、冷房どころか暖房が効いてあった体育館の熱気にやられたんだね。よくわかるよ。僕も途中で殺気を持ったものだから。あのくそじじい絶対一回殺してやる…」
零はそれに同意しつつ、異常なまでに暑かった理由をサラリと暴露した。
「だ、だんぼ…っ、はぁ!?」
「暖房!?」
「俺らを殺す気だったのか!?」
教室中から「ありえねぇ」という声が漏れる。
「ついでに、舞台上にはしっかりと冷房が効いていたよね。フフ…フフフフ」
「ど、どうやって?だって、体育館には冷暖房設備はないんだぜ」
水樹の疑問と同じものを抱く生徒は多く、結構な人数の生徒が首をかしげる。
「そんなもの、氷系能力者に冷やさせればいい話じゃないか。暖房は逆に炎系能力者に暖めさせていたんだよ。まぁ、体育会系の奴がいるだけでなんだか空気って熱くなるんだけどね」
その考えには誰もいたらなかったようで、零に指摘されてポンと手を打っていた。
零が履いた暴言はスルーすることにして。
「なる…」
「どっちにしろズリィな」
ハァとあきらめに近いため息を吐く生徒たち。
「氷系能力者…ドッカに落ちていないかな」
「落ちてるわけないだろバカ!」
段々話が脱線していき…
「ところで、月野君かっこいいよね。ああやって汗だくなところも絵になる…」
「今ぜんっぜん関係ねぇよな!?」
…などと、雑談に話が発展していく。
「零、お前の夏休みの予定聞いてもいい?」
零が机に突っ伏してウツラウツラしているのをほほえましく見ていた水樹は、補習もなかったことだし…と遊びの予定を立て始める。
「どうしてかな、水樹君?」
「え、だって遊びたいし」
「夏休み…ねぇ。ゴメン水樹君。僕は忙しいから無理だ」
「ええ!?なんだよ、それー。1日とか、空いてる日ない?午前だけとか、午後だけとかでもいいから」
諦めきれない水樹は、零にしつこく尋ねる。
「豪く必死だね…多分、今年の夏は僕の立場的に遊んでいるとまずいことになりそうだし、遊んでる暇はないかな。ただでさえ、この間…」
「この間ぁ?ああ、あれか!え、じゃあ俺が手伝えることとかある!?」
「れー君誘拐事件(美子命名)」のことに思い当たった水樹は、それでも食い下がる。
「ないに決まってるだろ!水樹君は人の事情に土足で踏み込みすぎ!」
「れー君、怒ると疲れるよぉ」
屍のように伸びていた美子がようやく起動して、叫んだ零をなだめる。
「美子はまだくたばってるね。相変わらず暑いのに弱いんだ」
「そぉだよ…美子、もう無理…死んじゃう」
パタパタと制服の裾を持って仰ぐと、美子は消え入りそうな声で零になだれかかる。
「今年の夏は暑いと聞いたけど。それから、この体勢はかえって熱くないかな」
「弟が氷系能力者だから…月人に頼むもん。れー君は居るだけで涼しくなるからいいの」
それを聞いた零は何とも言えない微妙な顔をして、視線を逸らす。
「…褒め言葉として受け取っておくね。それじゃあ、また新学期で」
話が一段落ついたので零は美子を退けると立ちあがって教室を出ていく。
「あっ、零!」
教室から出て行った零を水樹が追いかける。
「デジャブだな」
こそっとドアの影から水樹が何をしているのか見たスバルは眉間をもんで呟く。
いつぞやと同じく、水樹は必死に零へ頭を下げていた。
「やってることは違うけどね」
「山崎はそのときいなかったと思うが…」
ヒョコっと顔をのぞかせた美子が同意してきたので、スバルは何故知っているんだ?と聞く。
「《れー君レーダー》にわからないことはないんだよ!」
「…ストーカー」
スバルが思わず言ってしまったのは、仕方がないのだろう。
「え、スカート?ヤダなぁ、大谷。へぇんたい」
「誰もスカートなんて言ってな…ん?」
零と水樹がアドレスを交換しているのを見たスバルは、前進できたのか…と水樹を眺める。
「な、なんだよ?」
戻ってきた水樹はスバルの生暖かい視線に気づき戸惑いの声をあげた。
「いや、なんでも。さぁて、生徒会の仕事にでも行くか」
「露骨に話を逸らしやがったな!?」
「何のことだか」
フイと水樹から視線をドアに映し、スバルはカバンを掴んで教室から出ていくのだった。
「…逃げやがって」




