第12話
零がさらわれた屋敷の前。
「…」
呆れたような目で、白い刀を持った男は門を見上げる。
「隠す気もないのか?それとも、それに思い当たらないバカか?なんでこんなに、《臭う》んだ」
ヤル気が失せたのか、彼はぼりぼりとダルそうに髪をかく。
ワキャー!という気の抜けそうな声も後ろから聞こえてきて、さらにヤル気が半減する。
「ここだね!《れー君レーダー》が反応するもん!」
「…れー君レーダー、とはいったいなんなんだ?」
スバルが、美子へ聞くがあっさりと無視された。
「不審人物発見!!」
言うなり、美子に目配せされた水樹が、男へ殴り掛かる。
「失礼だな、オイ?たっだでさえやる気がないのに…なんだよ、ガキのお守りかァ?4家の野郎、随分と暇なんじゃねぇかよ」
水樹のこぶしを片手で受け止めた男はチッと舌打ちをして、水樹を地面に軽く放り投げる。
「グッ!?」
「お、なんだやるか?」
男は刀を鞘走らせ、戦闘態勢に入る。
「いや…あのな、水樹に美子?何いきなりやってるんだ?」
うめいた水樹を見下ろして、スバルは蹴り掛かろうとした美子を止める。
「お?なんだ…ちょっとはマシそうなのがいるのか。羅城のバカに、山崎の色狂い、大谷のストッパー…んで最後に月野の不安定、か。バランスいいな次代の4家は」
男の言葉に、3人は身構える。彼は明らかに内通者だ。味方か敵か、どちらにしてもめんどくさいとスバルは思う。
「そんなに身構えるなって。お前ら、アレだろ?零姫を助けに来たんだろう?なら、目的は一緒だ。喧嘩するのは良くない」
3人の硬化した態度を笑い、彼は抜きかけた刀を鞘に納める。
「レイキ?」
「あー…零のこと」
ポリポリと困ったように頭をかいて、彼は首をかしげた水樹へ言う。
「お前、誰?」
「俺?零王、っつーの。よろしくな。水樹にスバルに美子」
まだ、警戒を解かない美子を見て、零王は困ったように笑う。
「信用できない!《れー君レーダー》が、この人危ないって告げる!」
「…俺にはお前の方が危ない奴に見える」
スバルがボソリと失言をする。
「嫌そもそもなんで俺らの名前を知ってるんだよ!?」
「アッハッハッハ!《れー君レーダー》ね。変わんないねぇ、山崎は。っと、呑気に話してる場合じゃないな。俺は先を急ぐから…ついてくるならついて来い」
水樹の問いは流し、美子の言葉に危ない人呼ばわりされた彼は笑う。そして、結界が再びぐらついたのを見て、零王は門を蹴破って屋敷へ突入する。
「何者だ!?」
「俺様~。退けよ雑魚には用ねぇんだ」
立ち塞がる有象無象共を殴り飛ばして、あるいは蹴飛ばして零王は前へ進む。
その後ろを水樹たちがついて行く。正直必要ない。
「…俺らいらなくね?」
「あの人ほっとくと、れー君にも悪いことしそう!」
ジトーと美子は暴れまわる零王を睨みつける。
「お、山崎、あったりー。やっぱ悪戯ぐらいしなきゃな」
「ほらね!?」
ケラケラと笑った零王を指さし、美子は水樹にほら言ったことじゃないでしょ!?と叫ぶ。
「…あ!」
何やら悩んでいたスバルが突然声をあげた。
「何だよ、スバル?いきなり大声出すと驚くだろ」
「そっか、そっか。思い出した!零王って、月野家の制度の1つで、当主の次に強いとされる分家の人間につけられる名称だ!」
「おおぅ。よく知ってんな。…んー、用意は良いか?殴りこむぞ」
感心したように唸ると零王は、突き当りにあった階段の前で止まり、水樹たちに確認する。
「おお!」
「もちろんバッチシだよ!」
「…大丈夫です」
3人が頷いたのを確かめると、零王は階段を飛び降りる。
「規格外だな、あの人」
「水樹に言われたくないんじゃないかと思うが…。追いかけるぞ」
同じように飛び降りた水樹を見て、スバルはつぶやいた。
「誰だ!」
「誰だと思う?ちなみにわかりませんって言うのはなしな」
見張りに血相を変えて問われた零王は、クックッと愉快そうに笑う。
「上の喧騒に気付いてなかったの…この人?」
「月野は、結界に長けているから」
呆れた感じの美子にスバルが、フォローしてみた。
「っく―――!!暴れてぇ!」
零王がボカスカと喧嘩…いや、一方的に殴っているのを見て、水樹がこらえかね叫ぶ。
「暴れればいいだろ」
「あっ、投げたな!?」
クッと唇をかむと、水樹は何も考えないで突っ走っていった。
「…アイツ、大丈夫か?主にこっち」
それを見ていた零王は、頭を指してスバルに問いかけた。
「さぁ?アレはほっといて、月野助けに行きましょう」
肩をすくめて返したスバルは水樹が走って行った方へ歩き出す。
「…《れー君レーダー》はどこに反応している?」
「あっち」
即答した美子に何とも言えない表情になった零王は気を取り直して、一緒に零を助けに向かう。
バァンとドアを蹴飛ばして破壊し、部屋の中に入った4人は、待ちかえていたらしい数人の男に囲まれた。
部屋には、真ん中に浮かぶ巨大な青色の結晶がある。結晶の中には、意識を失ったままの零が閉じ込められている。
「ここで暴れれば、当主様にも影響が及ぶぞ」
代表格らしき男が先手を打って、迂闊に動けないようにしてきた。
「…名前を聞かなくなったと思ったら、こんなところで、こんなバカな計画に参加していたのか。岩野」
「なっ!?」
名前を当てられたことに、岩野は驚き零王をジロジロと見つめる。
「ヤメロって。俺にゃ、男に凝視される趣味はねぇンだ。魔王の召喚だか何だか知らねぇが…くっだらねぇな」
茶化してから、零王は真面目な空気を作って男達を睨みつける。
その傍らで。
「零…綺麗だな」
「何的外れなことを言っているんだ、水樹!」
ボケーと零を見ていた水樹から漏れた言葉にスバルがツッコミを入れる。
「れー君…あのまま欲しいなぁ」
「山崎も何をほざいてっ…!!」
美子も熱にうなされたかのようにポーッとして呟く。
硬直から解けた岩野が零王につかみかからん勢いで叫ぶ。
「くだらないだと!?」
「ああ、くだらない。魔王なんざ、召喚しなくても呼べば向こうからやってくる」
「それを召喚って言うんだよな!?」
零王がもっともらしく言った言葉に、スバルがついツッコミを入れた。
「細かいことはどうでもいいんだ。重要なのはだな。俺の零姫をさらったってこと。それだけ。後はマジでどうでもいい」
ハハッと鼻で笑いながら、零王は行動を起こす。
「どうでもいいのか!?魔王の召喚はどうでもいいことなのか!?」
最初の方に有った遠慮は遠くの方に消え、スバルは全力で零王につっこみを入れる。
「フハハハハッ!!」
どう見ても悪役にしか見えない笑い声と形相で、零王は男たちを蹴散らしていく。
「…片手に持つあの刀は何のためなんだろうな?」
「そんなの知るかっ!」
ちょっと気になったことを水樹がスバルに聞くが、一喝された。
「ホゥ…やるな、岩野!!俺にこれを抜かせるかっ!?」
岩野の必死の抵抗に、零王は高笑いを押さえられない。
零王が刀を抜き放つと、その刀身はどす黒い色をしていた。
「なぁ、俺には零王さんのほうが悪そうに見えるんだけど」
「知るかっ!!」
「れーおーさんねぇ。なんか本来の目的忘れてる?」
「あ」
「あ!」
「ああ…」
感心していた水樹、ツッコミを入れるのに忙しかったスバル、そっちのけで暴れていた零王は、美子の指摘にポンと手を打つ。
「零!」
いち早く放心状態から抜け出した水樹が、結晶めがけて駆け出す。
「抜け駆け禁止!!」
「美子の役目っ!!」
が、零王と美子に阻止されて、水樹は床に這いつくばることとなる。
「な、んで…」
岩野を放って零王と美子はどっちが零を助けるかでもめる。
「俺だろ!?」
「美子でしょ!」
収拾をつけるのは難しそうだ、と悟ったスバルが動く。
零王と美子に意識が寄っている隙にそぉっと音を立てずに移動し結晶の真下までたどり着き…
「させるかぁ!!」
…復活していた水樹に邪魔をされた。
「ぐはぁ!?」
「零、起きろ。零!」
スバルをぶん殴った水樹は、結晶へ手を突っ込む。
「フフフ…いくらおまえらでも結晶からの取り出し方は…バカだ!!」
ハッと気を取り直した岩野は、水樹の想定外の動きに叫ぶ。
「そうだよ、バカなんだ!!」
殴り飛ばされた腹いせにスバルが便乗して叫ぶ。
「俺の力は《水》だぜ?結晶だって、もとをただせば水だ。…操れないはずがねぇ」
なんか、やっとまともな主人公らしきことを水樹が言った。
その宣言通り、結晶は水樹の手によって2つに割られ、中から零が落下してくる。
「受け止めるのは――――――――俺だ!!」
思いがけない奴の活躍に、ほかの人唖然としているうちに、水樹は零をそっと受け止めた。
見せ場をとられたことに舌打をしながら、零王が動きを止めた男たちをぶん殴って気絶させていく。
「…ぅ?んん…何があったのかな?」
意識を取り戻した零は、地面に膝をついて落ちこんでいる奴らを見て、抱きかかえる水樹を見上げる。
「えっ、と…なんだろな?」
そんな突然聞かれても答えられません!な水樹は質問に質問で返した。
「じゃあ、降ろしてくれるかい?…………チッ、なんでこいつがここにいるの」
水樹に降ろしてもらった零は、ニマニマ笑う零王を見て舌打ちをして誰にともなく問いかける。
「ちょ、俺の扱い酷いだろ零姫!?なんだよ、せっかく助けに来てやったんだぜ!もうちょい感謝の言葉とかさー…ない?」
「ないね」
「ヒデェ!鬼だぁ!?」
即答した零に零王は、騒ぎ立てる。
「うるさい、ちょっと黙って。君は僕の問いかけにだけ答えてくれればいいの。僕は、どのくらい寝てた?ここはどこ。僕をさらったやつは誰。もう殺した?」
状況把握のために、零は矢継ぎ早に零王へ聞く。
「俺が知るかよそんなん。自分で考えろっての。やっぱさ、俺の方がいいんじゃねぇ?そんな体で、どれくらい持つんだ?」
「余計なことは言わなくていい!!大丈夫、僕は死なないよ。そう…復讐を終えるまでは、絶対に」
グッと拳を握り、零はヘラヘラ笑う零王を睨みつける。
「ハッ、まだそんなくっだらねぇもんにこだわってんのか?死んだ奴は死んじまったんだから、ほっとけよ。復習なんかじゃなくて、お前がしなきゃいけないことはいっぱいあるだろ?そんな無駄なもんに時間使ってんじゃねぇよ」
鼻で笑い飛ばした零王に零は殴り掛かった。
「無駄!?なんで無駄とかいうの!零王は、わからないんだ!!君は放り出したもんね!!」
あっさりと受け止められた零は悔しそうに声を張り上げる。
「だって無駄じゃん?復讐なんてして、お前の両親は帰ってくるわけ?違うだろ?もう殺されて死んじまってんだからよぉ、諦めたらどうだ。見苦しい」
諭すように言葉をつづる零王に、零は深呼吸をすると何かをこらえるように俯く。
「…、……零王のバカ」
ボソリと小さな震える声で零王を罵倒した零は、水樹の制止を振り切ってダッと廊下へ掛け出した。
「元気だな、アイツ」
固唾をのんで見守っていたスバルは、ホッと息を吐きだしながら零を評した。
「大谷ってやっぱ天然なの?今の状況で、それ…」
スバルの言葉に美子は呆れた視線を注ぐ。
「あ、ちょ…っと、零!?」
反射的に追いかけて廊下に出た水樹は、先の方で零がこけるのを見て驚愕する。
アイツ何もないところで転んだ!?そ、そんなに運動神経悪いのか!?といった具合で。
水樹を見送ってしまったスバルは。
「で、零王さん。月野って、女子ですよね」
前々から聴いてはいたけれどなんだかんだ言ってごまかされてきたスバルが、突っ立っている零王に確認する。
「何、そんなことにも気づいてなかったの大谷!?ダッサ」
「いや、気付いていないわけじゃなくてだな」
美子にこれ見よがしに嘲られたスバルはなんとなく言い訳をする。
「零!?ど、どうしたんだよ!具合でも悪いのか!?」
廊下から水樹の焦った声が響いてきたので話は打ち切られる。
「零姫?」
零が床にへたり込んで俯いているのを見た零王は胡乱げに名前を呼んだ。
「やっぱり、世界は僕に優しくない…」
ゴホゴホと苦しそうに急き込んだ零は、手の平にべったりと付いた血を見て、顔を顰める。
「無理するな!!…あのバカ親戚どもは、何をやっている」
零を軽々と抱え上げた零王は、怒った顔を作る。
「何も」
「そんな訳ないだろ」
「だから、何も…しないよ。何も、しないくせに…口だけは達者だよね、僕にたかる虫ケラどもめ…フフッ、いい加減にしてくれないと僕だって怒っちゃうんだからね。せいぜい今のうちに好き勝手にしておけばいいさ。僕は、先に魔王との問題を解決させないといけないんだから」
零王の着物に手を擦り付けて血を落とした零は、微笑してこれからの計画を少しだけ口に出す。
「…お前な。もうちょっと頼ってくれてもいいんじゃないか?」
「僕が、零王に頼る?…君は何を見返りとして要求してくるかわからないからいやだ」
意外な提案だったので目を見張った零は、しかし即座に断った。
「俺、そんなに信用ねぇ?」
「君は笑顔の裏で何を考えてるのかが、人一倍読み取れないからね」
「ああそうかよ。ハイハイ、お前にソレを求めた俺が馬鹿でした」
「そうそう。それで、いつまで抱えているつもり。放してくれる?行き過ぎたスキンシップはセクハラだよ」
降ろせよ、とイイ笑顔で零は示唆した。
「身内にセクハラもくそもねぇだろ!?」
と、突っ込みつつも零王は素直に零を降ろす。
言葉と笑顔で言われてやらなかったら次に来るのはこぶしだと経験上知っているからだ。
「みうちぃ?ハハハ、なかなか笑わせることを言ってくれるね…。なら一個聞いてあげようじゃないか」
「な、なんだよ?」
面白そうに笑い声をあげると零は身構えた零王に特大の爆弾を放つ。
「なんで僕と君が婚約者という関係になっているんだろうね」
「はぁ!?え、ちょ…ウソだろ!?」
「ええ!?れ、零、婚約者なんていたのか…」
零王は驚いて刀を下に落とし、水樹は落ちこんで床に手をつく。
「ああ、ある意味身内だね。ならいいのか…いや、ちがうな」
予想通りだった零王の反応に一人ほくそ笑んだ零は確信犯で、水樹の反応は予想していなかったため顎に手をあてて少し考える。
「あの、月野?」
「れー君アイツとなの!?」
スバルと美子も零を見て驚きを見せる。
「…冗談だ。とっくのとうに破棄してある。水樹君はなんで落ち込んでいるんだい?」
「れ、零が…零がっ!!」
「僕が何」
水樹の対応に零はイラついたのか、不機嫌そうに聞こえる調子で声をだす。
「月野って鈍感だよな」
「そうだね。あっ、珍しく大谷と意見があっちゃった!?まずい、明日は槍が降ってくるかも!?」
ゲゲッと顔をゆがめて美子は大げさにリアクションをとる。
「お前にとって俺と意見が合うのは、水樹がまともな意見を言った並みにおかしいことなのか!」
「待とうか、スバル!?俺の評価がおかしい!!明らかにおかしいっ!!」
スバルの言葉が聞き捨てならない!と水樹は口をはさむ。
「水樹君なんだから、いいじゃないか。本当のことだろう?」
「グッ…本当のことだからいやなんだ!」
「ああ…人間本当のことを言われると何も言えなくなるって言うしね」
面白そうに零は水樹を見下ろして笑う。
「で、結局零王さんが身内云々はどうなってるんですか」
未だ混乱から立ち直らない零王にスバルは声をかける。
「いや、おかしいよな。おかしい。なんでそんなおいしい話がこっちに回ってこないうちに揉み消されて…ああ、いやなんでもな」
「おい、零王。何か弁解したいことは?」
漏らしてしまった失言に気付いた零王が否定するのを遮って零はこぶしをちらつかせる。
「たくさんある!!落ち着け、零姫。可愛いよ零姫。…これは違うか。ええとじゃあ、そうだな。いつまでも友達でいよう!…これもなんか違うな」
「そう…よくわかったよ零王」
さらに失言を重ねる零王に一本ネジがぶっちんと飛んだ零は問答無用で襲い掛かった。
「ちょ、タンマタンマタンマっ!!」
焦りながら零王は零のこぶしを紙一重で避けていく。
「ぜぇ…ぜぇ、ぜぇ…。なんで当たらない!」
「痛いだろうが!!」
息切れするまで殴り続けて零王に一回も攻撃が当たるどころか、かすりもしなかった零は、逆ギレに近いものをする。
「当主命令!!僕に殴られろっ!!」
「理不尽だ!?そんな命令聞かないぞ!」
「い い か ら な ぐ ら れ ろ!!」
それでも逃げようとするしぶとい零王に零はギリギリと歯ぎしりをする。
「…零が子供っぽい」
「いつにも増して、な」
「いいじゃん。れー君かわいいよぉ」
ボソボソと3人は、怒っている零に聞こえないようにそれぞれが抱いた感想を言う。
「外部からの攻撃で結界が壊れそうだ。…零王のせいで」
「俺のせいか!?」
ソトから攻撃されてるんなら俺じゃねぇだろ!?と言いたげな零王。
「フン」
ツンとソッポを向いて零は、壊れかけの結界に精神力を注いで補強する。
「零姫、あんまり無茶は…」
「して、ない」
言葉とは裏腹に零の顔色は今にも倒れそうなほど悪い。
「零!!」
なんだか出番が零王にとられた気がしなくもない水樹が崩れ落ちかけた零に駆け寄って、支える。
「ヒューヒュー」
棒読みでスバルは水樹をカラカウ。
「茶化すなっ!!」
こんなときでも、遊び心もとい水樹で遊ぶ心を忘れないスバルを黙らせる。
「れー君、どうしたの!」
「しばらく休めば大丈夫だから…こんな環境の悪いところにいるのが問題なんだ」
頭が痛むのか額へ手を当てた零は、フゥと息を吐きだして水樹にもたれかかった。
満更でもない水樹はだらしなく鼻の下をゆるませて、零の好きにさせる。
「そうだな。零可愛い」
これだからバカは…と言いたげな冷たい視線を美子に注がれた水樹は慌てて顔を引き締めた。
もう無駄だが。
「…戻ろうか。《転移》」
一連の流れを見ていた零王は呆れたように傍観者のスバルへ言い、能力を使用した。




