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第11話

「…ぅ、あ。………?…………フム……」


フッと自らが町に張り続ける結界が揺らいだことで、零は意識を取り戻した。

椅子にぐるぐる巻きで縛りつけられている自身の状況を、零は冷静に判断する。

窓ひとつない部屋に、切れかけの電球が一つぶら下がっている部屋だ。こんな場所は、月野本家にも分家にもないから…僕が知らない場所だな。窓がないから今が何時なのかもわからないか。それに、この紐…ソトで開発された超能力を防ぐ技術がねじ込まれてる?能力が使えないな。まぁ、幸い…といっていいのか、《結界》は強制的に解けなかったみたいだけど。


「これが、何かあった状況じゃないとすると、何になるのかな。アイツを呼べばいいのかな?」

「おお、お目覚めですか月野当主」


ツルッパゲでブヨブヨと無駄についた贅肉を垂らしながら部屋に入ってきた男に零は、皮肉を言ってみる。


「ええ、お目覚めですよ…ロリコン?」


はたしてロリコンは皮肉なのか。ただ単なるいやがらせなような気もするが。


「失礼ですね!月野当主には、私の欲をかなえてもらいます」

「それは…!?」


零は、肥った男が自慢げに取り出した液体が入った紫色の瓶に目を見張る。


「…やっぱりロリコン?」


が、驚いたのは液体に対してではなかったらしく、零はわざとらしく首をかしげてみる。


「違う!お前は幼女ではないだろうが!そもそもお前は男だろう!?」


あれ…?コイツ、僕のこと椅子に縛り付けたくせに気付かなかったのか。何だ、マヌケじゃん。

そこまで思考を回した零は、小さく笑いを漏らす。


「クフフ」

「何を笑っている!?」

「僕を、…そうだね。能力を使えなくした程度で勝ったと思っているのかな?」


不用心に近寄ってきた男の脛を零は蹴った。


「ぐぉあ!?」


悲鳴を上げて男はしゃがみこむ。

丁度いい位置に来た顔面へ、零の追撃が放たれる。

が、それはさすがに防がれた。


「おっと…これはさすがにあたらなかっ…カハッ」


仕返しと言わんばかりに目を怒らせた男に思い切り腹を殴られた零は、息を吐きだして呻く。


「大人を侮辱するな!食らえっ!」


男が取り出したビンの中に入っていた液体がバシャリと零にかけられた。


「何かなこれは?」


ピンク色のネバネバした液体を頭からかけられることとなった零は、不機嫌に男を問う。


「第2段階、成功。それでは良い夢を…月野当主」


フンと零を鼻で笑うと男は部屋をでて行った。


「第2段階?ということは、第1段階があったんだ。…それはおそらく僕の誘拐。じゃあ…これから起こるだろう第3段階は?そうだね、この液体が僕にもたらす効果、それに伴う結果が第3段階。そこで終了するのか…はたまた第4段階なるモノがあるのか。さあ、どっちだろうね。…誰かが助けに来てくれないかなぁ。僕は疲れたんだよねぇ。ああ…本当に、世界は僕に優しくないよ。全く…なんだって僕がこんな目に合わなければいけないんだろうね?いったい僕は何をしたのかな。もう、終わらせてしまってもいいのかな。それとも…まだ頑張らないといけないのかい?」


フゥと零はため息をつくと、めぐらせていた思考に苦笑する。


「なんだかんだ言って、結局誰かを待っていたいんだね、僕も。良い夢が、見られるといいけど…」


ピンク色の液体は、零にまとわりついて拘束したまま固まる。

不自然なまでに、急に零の意識は眠りに落ちた。カクリと首が落ちる。



「これにて、第3段階、成功。続いて第4段階へ入る」


くぐもった男の声とほぼ同時に、固体化したピンクの液体が成長し始め零を閉じ込めていく。






その様子を、別室で見ていた車いすに座る初老の男が哄笑する。


「さぁ、これが完全に成長しきったとき…我ら一族の願いは叶うのだ」


その間にも、液体は結晶化して零を覆っていき、終には椅子ごと彼女を閉じ込める巨大な水晶体へと成長しきった。


「…抽出せよ」

「ハッ!!」


水晶がこれ以上大きくならないことを確かめると、男はそばに控えていた護衛に命令する。

しばらくすると、白衣姿の者が水晶に器具をつけて巨大な赤色の機械につないだ。


「第4段階成功です、銅城様」

「よろしい。スイッチを」

「はい。最終段階へ突入します」























時間が少し過ぎ、学園都市のソト側の方に建っている屋敷の書斎。

どこか俗世離れしたものを感じさせる、黒髪の着物を着流している男が、窓を開け放ち吹き付けてくるさわやかな風に夏の到来を感じつつ、窓辺の椅子に座って足を組み、本を読んでいた。

彼は、学園都市を覆う結界が揺らいだのが視界に入った気がして切れ長の黒い目を本から離して上空へ向ける。


「…零姫?」


ボソリと呟かれた言葉は、誰かが拾い上げるわけでもなく宙に消える。

そのまま、勘違いだといいんだけどという願いを込めて空を見上げていた彼は、結界が外部からの衝撃か何かでたわんだのを見て、肩にたれた一つに結んだ黒髪を邪魔そうに後ろへ払って立ち上がった。


「ここからが面白そうだったのに…仕方ない、か。さて…久しぶりに出かけるとするか」


名残惜しそうに本へ目を落としてから、彼は窓を閉め無造作に置いてあった白い刀を手に取った。


























「水樹!!大変だよ!?私の《れー君レーダー》が、れー君に危機が迫ったことを知らせてくるよ!?」


授業中。ハッと周りを見渡した美子が教師に聞こえないが、限りなく大きな声で居眠りをしている水樹を叫び起こす。


「ハッ!?え、と…れー君レーダーって何?」


れー君、に反応して目を覚ました水樹は、美子に尋ねてみる。


「美子の《能力》だよ!!良いから、急いでサボ…うん、れー君を助けに行くんだよ!」

「のうりょ…。ま、いいや。助けに行くか」


美子の回答に水樹は呆気にとられる。が、頭を振って眠気を飛ばし、美子の提案に乗る。


「おい、お前ら?生徒会長様の前で堂々とサボります発言とは…イイじゃねぇか」


それに待ったをかけたのがスバル。


「いーじゃん。お前も行こうぜ、スバル」


水樹はスバルの肩に腕を回して絡み、


「れー君早く助けないと、結界が消えちゃうよ。現にほら…たわんでる」


端からスバルを説得する気などない美子は鼻で笑って立ち上がる。


「…成程な。よし、月野を助けに行くか。何、授業くらい俺のコピーで持つ」

「なっる。流石スバル!」


コソコソと話を終わらせる。


「問題は、どうやって教師+生徒の目を逸らすかという所なんだが」

「あ、美子に任せて!!《魅力》!」


美子がパチンとウインクをすると、教師+生徒の目が美子に釘づけになる。


「魅了、か…。また厄介な能力を」


教師+生徒を処理し終わった美子が宣言する。


「じゃ、行きましょ」


水樹と美子はほぼ同時に立ちあがって駆け出し、スバルはコピー体を作ってから教室から出て行った。


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