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第9話

時は過ぎて7月上旬。


「プール開きだぜヒャッホォ―イ!!」


朝からテンションがマックスの水樹はうるさく騒ぐ。


「うるさい」


ただでさえ寝不足なんだから、と零は続けて水樹を黙らせる。

チェとつまらなそうにむくれた水樹は、スバルが教室に入ってきたのを見て、若干目を輝かせる。


「れー君!!おっはよー朝だよっ!」


これまたテンションが上がっている美子が教室に飛び込んできて零に抱き着く。


「黙ってくれない?眠いんだけど」

「機嫌悪いれー君も素敵っ!!美子キュンキュンしちゃうよ!ああんもうっ!」


ぐいぐいと美子は豊満な胸を零に押し付けていく。


「…何、嫌がらせのつもり?」


不機嫌な零は、冷たく言い捨てて美子を押しのける。


「れー君ツンデレ!」

「はぁ?何言ってるの、美子。頭がおかしくなっちゃったのかな?」

「そういうところがす・て・き!」


朝っぱらからトチ狂ってる美子に恐れをなして、誰も2人の周りに近づこうとしない。

いや、元から近寄ろうと思っていたものは皆無なのだが。


「な、なぁスバル…」

「なんだ水樹?」

「俺、お前に頼みごとが」

「奇遇だな、俺もだ」



「「アイツらちょっと殴ってきてくれ」」


見事に2人の声がシンクロした。


「…おい、スバル生徒会長?」

「なんだ、バカ水樹」

「お前が行けよ」


水樹はスバルにどうしても押し付けたくて、重ねて言う。


「生徒会長だろ?」

「いやだ。バカ水樹君が行けばいいじゃないか」

「俺は!バカじゃ!ないっ!!」

「どこが?」

「ぇ…」


そう聞かれると答えられない水樹は困って視線をうろつかせる。





「よっし、泳ぐぞ!!」


結局出た結論はプールにダッシュするという選択肢で。


「まだ早い」


走り出した水樹はスバルに襟首を掴まれて引き止められた。


「…さっきからワイワイと何を騒いでいるんだい?」

「プールに入るんだよ、俺は!」

「ぷー、る…」


サァと零の顔色が蒼くなる。


「れー君、入るの?」


反対に美子の顔は明るくなり、満面の笑みを浮かべる。


「入らない!」

「入れない、の間違い?」

「水樹君うるさい!」


水樹のニヤニヤとした問いかけを零は黙らせる。


























という訳で、移動して着替えて。プールサイドに集まる生徒たち。

制服姿の零に水着へ着替えたスバルが近寄る。

水樹は、授業開始が待ちきれずに先に泳ぎ始めている。


「月野は泳げないのか」

「そういうスバル君は…ああ…うん」


スバルが浮き輪を片手に握りしめているのを見た零は言葉を有耶無耶にした。

何とも言えない表情をした零に、水着姿の美子が走ってきてダイブする。


「れー君!!私のれー君!!ダメだよっ、男なんて皆ケダモノなんだから!私のれー君に近寄らないでくれる、大谷!!」


ビシリとスバルを指さして、美子は彼から零を遠ざけようとする。


「月野も男だったと思うが?」


そんな美子に困ったようにスバルは首をかしげた。


「れー君が男に見える!?どう見ても女の子デショ!!」


スバルの言ったことが信じられないような表情をして美子は悲鳴に近い怒鳴り声をあげる。


「ああ、もううるさいよ、君たち。ちょっとは静かにできないワケ。小学生じゃないんだから…」


呆れたように零が仲介をして、美子をなだめる。


「れー君は女の子だよね!」

「そうだね。…これでいい?満足した?僕は疲れているんだ。さらに疲れさせないで、美子」

「うぐぅ…」


適当に美子の言葉を流した零は、プールサイドに設置してある椅子に座り、右手を一振りする。


「通信画面出してどうするんだ?」

「君には関係ないでしょ、スバル君」


素っ気なく返すと零は目の前に浮かび上がった青い画面をスクロールしていく。




と、まぁ授業が始まり。

スバルは浮き輪を持っていたことからわかるように泳げず、美子に笑われていた。


「れーい」


泳ぎ回って、少し満足した水樹がプールから上がり、難しい顔をして画面を見ている零に話しかけた。





「アイツ、わざわざ地雷踏みに」

「れー君がそんなことで怒るわけないでしょー?あんなフェイクにひっかかっちゃってるんだー」


プククと美子はスバルを嘲笑う。





「…フゥ。っと、なにかな水樹君?」


一息ついた零は、画面から顔をあげ目の前に立っていた水樹を見上げる。


「イヤ、かわいーなぁって」


ニヤニヤ笑いながら水樹は零に告げた。


「は?」


何言っちゃってんの、コイツ?と言いたげな表情で零は問い直す。


「お前ほんっといつも忙しそうだよな」

「それが何か?」


だから何?と零は水樹を見る。


「たまには休んだらどうだよ」


続いた水樹の言葉に、零は少し目を見張ってからため息をつく。


「それができたら、とっくにやってるよ」

「なんでできないんだ?だって、お前当主なんだろ?命令したら、手伝ってもらえるとか、ないわけ?」


今度ははっきりと零の目が見張られたことに水樹は気づいた。

どうやら知らずのうちに、どの言葉だからは分からないが、零の図星をついてしまったらしい。


「ッハハハ…。水樹君って本当に面白い人だね。これは、僕の仕事なんだよ。誰かに手伝ってもらう訳にはいかないだろう?ね?」


ちょっとだけ嬉しそうな作り笑いを零は浮かべて、水樹へ静かに諭す。




「最初のころより、態度が和らいだ…?」


2人の様子をどうなるのだろうかとワクワク見守っていたスバルは、零の態度を見てつぶやいた。


「そぉんなこともわからなかったのー?大谷って、ダサいんだね」


なぜか敵意を丸出しにして突っかかってくる美子に、スバルはどう対処するべきか困る。






「…なんか、お前にそうやって言われるとバカにされてる気にしかなんねぇんだけど…なんでだろ?」

「なんでだろうね?」


クスクスと零は水樹をバカにした笑いを浮かべ、画面へ目を落とす。


「何が映ってんだよ」


零の横から水樹は画面を覗き込もうとする。


「バカ、見せるわけないだろ」


覗き込んできた水樹から画面を離した零は、さっさと閉じてしまった。


「あっ!?」

「泳いで来たら?水樹君」


完全にバカにした調子で言った零に水樹は、怒りを感じ叫んでみる。


「お、俺だってな!お、俺だって…な?」


叫んでみたはいいものの…。

続く言葉が思い浮かばず、水樹は首をかしげる。


「俺だって、何?」


案の定、零に揚げ足を取られ、ウググと唸ることになった。


「なんか…仲良いんだな?」


傍観していたスバルが、話題が切れたことをいいことに、美子の鋭い視線から逃げがてら水樹に話しかける。


「えっ、あ、そ、そう見えたか!」


ちょっと嬉しそうに水樹はスバルにつかみかかりど突く。


「見えたけど…?暑苦しいからやめろよ」

「男の子って、元気なんだね」


水樹とスバルがそのままど突き合いを始めるのを見ていた零はぼそりと声に出す。


「月野だって男子だろう。誰かとやらなかったのか?」


それを拾い上げたスバルが水樹をプールに突き落としてから、零へ問う。


「あ…。う、うん。そ、そりゃ僕は怪我しちゃいけないんだからっ?できるわけないだろう!」


スバルの存在を失念させていた零は、動揺してドモリながらなんとか辻褄の合うような話で返した。


「そういうもんか?大谷も、羅城もあんまりそういうことにはこだわらないからなぁ」


零がドモった理由には考えを回さず、スバルはニッと笑った。


「…スバル君って、ときどき天然入るよね」


疲れたように零は息を吐きだすと、椅子に深く座りなおす。


「そうか?」

「れー君、アイツ絶対つくり天然だっ!!美子とおんなじ感じがするもん!」


首をかしげたスバルを美子は親の仇でも見つけたかのように指を突き指して零へヒシッとしがみつく。


「いや、あのね美子?君、サラリと自分がつくり天然だよって暴露してるからね?」


零は、粘着質の高いテープのようにしがみついて離れない美子にうんざりしながらも、口を滑らせていることを指摘する。


「八ッ!?」


しまったぁ!?と口を手で覆った美子を見た零は若干和む。


「うん、君のそういう所がかわいいと思うよ」

「美子はれー君のそういうとこ好きだよ」

「お、俺も!!俺も俺も!」


水樹がここぞと言わんばかりに手を大きく振って主張してみる。


「何かな、水樹君」


なんだろうこのバカは、と零は冷たい視線を水樹へ注いでみたが、全く気が付かない。


「俺も、零のそういうところかわいいと思う!」

「…」

「オイ水樹。お前、そういう趣味があったのか…?」


恐る恐るスバルが、その場の人の気持ちを代弁する形で水樹へ尋ねる。


「ハァ?あー…あ!?あ、ああ。いや、うん、うん?やっ、ちがっ、ちが…違うんだ!!」


水樹は、意味を飲み込むのに時間を少し使い、飲み込んでからは慌てて否定する。


「そういう趣味の人は皆、そうやって否定するよね」


フフと零は水樹のことをさりげなく陥れようとしてみる。


「ちょ、だから!!べ、別に…ああ、そうだ!!可愛いもんをかわいいと言って何が悪い!」


否定しきれなかった水樹は開き直ってみる。


「……すまん、水樹」

「弁護する言葉が見つからないよ」


スバルは額を抱えて謝り、クスクスと実に愉快そうに零は笑う。


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