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『愛してる』はさりげない言葉

作者: 満原こもじ
掲載日:2026/04/13

『愛してる』

「はいはい、私も愛してますよ」


 律儀に『愛してる』と言ってくれるテッドにお返しです。

 もう、朝から可愛いのですから。


「御飯はちょっと待っていてくださいね」

『愛してる』


 でも最近テッドも身体が弱っているようなのですよ。

 一緒に暮らして四〇年くらいになりますものね。

 弱りもしますか。


 私のほうを見ながら、まだオレは元気だぞと言いたげに翼をバサバサします。

 テッドはオウムなんです。

 オウムは海外植民地産の鳥で。

 その賢さと美しさによって、本土でペットとして飼うのが大流行したのですよ。

 ある日、テッドが買ってきて。

 そう、私の夫の名前もテッドと言います。


「今日は菜っ葉とトウモロコシの他にイチゴがありますよ」

『愛してる』

「うふふ、嬉しそうですね」


 テッドは果物が大好きですからね。

 ゆっくり食べてくださいな。


 夫テッドがオウムを買ってきたのは、結婚して四年目くらい。

 隣国との戦争が始まると決まった時でした。

 オウムに自分と同じ名前をつけ、『愛してる』という言葉を覚えさせ。

 そして出征しました。


『愛してる』

「ごめんなさいね。イチゴはそれだけなのです」

『愛してる』

「もうすぐスモモの季節ですよ。テッドはスモモも好きでしょう?」


 そりゃあ夫がいなくなって寂しかったですとも。

 でもそのたびにオウムのテッドが『愛してる』と言ってくれました。

 慰められましたねえ。

 心の隙間を埋めてくれた気がするのです。


 夫のテッドが小さな箱に入って帰ってきた時も。

 息子とともに溢れる涙が止まらなかった時も。

 何もやる気が起きなくなってしまった時も。

 オウムのテッドが『愛してる』と囁いてくれたから耐えられたのです。


『愛してる』

「はしご遊びですか? テッドはまだまだ頑張りますね」


 さっき身体が弱っているなんて思ったからかしら?

 今日は一生懸命遊ぶと決めたようですね。

 よちよちと脚を動かしています。


 ……正直夫のテッドの声は忘れてしまいました。

 オウムのテッドの声に完全に上書きされてしまっていて。

 でもいいのです。

 テッドはテッド。


 ちりんと玄関ドアに取りつけた鈴が鳴ります。

 誰か来たようですね。


「母さん、こんにちは」

「あら、ウィル。いらっしゃい」

「やあテッド。イチゴ持ってきたんだぜ。食べてくれよ」


 息子のウィルがやって来ました。

 ウィルはとっくの昔に家庭を持って独立しているのですけれども。

 私もテッドも結構な年齢なので、心配して時々様子を見に来てくれるのですよ。


「ありがとうね。私もテッドにイチゴをあげたのだけれど、食べ足りなかったみたいで」

「そうか、ちょうどよかったな」


 一生懸命食べていますよ。

 食欲はまだまだありますね。


「……テッドは母さんにしか『愛してる』って言わないだろう?」

「そうね」

「絶対意味わかってるよな」


 かもしれません。

 夫の遺志を継いでいるのかしら?


「オレはテッドのこと、弟みたいなもんだと思ってたけどさ。時々父さんのようにも思えるんだ」

「ふうん、どんな時に?」

「雰囲気かな。母さんのことは任せとけって言ってる感じがする」


 私も夫の姿を重ねていることがあります。

 ウィルにもそう感じられるのですね。

 テッド、ありがとう。


「何てね。オレには父さんの記憶がほとんどないからかもしれない」

「出征の時、ウィルはまだ三歳だったですものね」

「ところで母さん。同居についてだけど、考えてくれたかな?」


 少し前から、一緒に暮らそうと言ってくれるのです。

 いつかはウィルの家にお世話になる時が来ると理解してはいます。

 でも今住んでいるこの家は、夫テッドが私と暮らすために買った家ですから。


「……どうしても離れがたいのですよ」

「母さんが思い出を大事にしていることはわかってる。でもこの家自体も古くなっていることは理解すべきだよ」


 家にもガタが来ているということですか。

 ですよね。

 ウィルの言うことは正論です。


「でも……」

「決心がつかない? 引っ越しは元気に動ける内にという考え方もあるけど」


 またしても正論です。

 テッドと暮らしたこの家を捨てたくない思いはあるのです。

 が、自分の健康と体力に自信があるわけでもありませんし。


 迷っていますと……。


『ベッツィー、愛してる』

「あれ? 今母さんの名前を……」

「もう、テッドったら!」


 テッドが私の名前を呼んでくれるなんて、何十年ぶりでしょう!

 覚えていてくれたのですね。

 そして『ベッツィー、愛してる』って、夫テッドがこの家を買った時、初めて言ってくれた言葉なの。

 驚きとともに訪れる魂の震え。

 まだまだ平気だ、この家で暮らそうと、テッドが言っているように思えます。


「……テッドが世帯主みたいだ」

「やっぱりもう少しこの家にいるわ。テッドと一緒にね」

「やれやれ、仕方ないね。また来るよ。テッド、母さんを頼んだぞ」


 任せろ、といったふうに翼をバサッとさせてウィルを見送るテッド。

 こっちを向いて、クリッとした目で優しく見てきますよ。

 頭を撫でろってことですか?

 はいはい、指でコリコリしてあげると満足そうですね。


「もう少し、二人で暮らしていきましょう」

『愛してる』

 最近あんど もあさんの『「愛してる」はさよならの言葉』https://ncode.syosetu.com/n8488ly/ という短編を読みまして。

 何の変哲もないのにハートフルなんですよ。

 直球は強いなーと、心が揺さぶられて睡眠不足になりました。

 どうしてくれる(笑)。


 自分もこんなお話を書いてみたいと思ったのです。

 オウムが死んでベッツィーが感謝するというラストにしようと思ったのに、書いてる内に変わっちゃいました。

 オマージュで書いてたつもりが、共通点が『愛してる』だけになりましたね。

 よくあるよくある(笑)。 

 

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 どう思われたか下の★~★★★★★で評価してもらえると、励みにも勉強にもなります。

 よろしくお願いいたします。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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― 新着の感想 ―
「はいはい、私も愛してますよ」が最高でした。 長年連れ添った?重みと厚みを感じますね。 いろいろ考察したくなる気もしますが、なんかもう、余計なことは考えずに、テッドとベッツィーの愛に浸りたいと思いま…
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