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神代の贈り物  作者: 火人
二章 獅子を喰らいて成長せよ至る戦場までに 秋冬巻く、政劇編

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八十一話 支配者と死神

騎士は夢を見ない……戦士は血を賭け、英雄は歴史を刻む。


永久に変わらない心臓で、信念で、概念だからこそ美しく、魅了させ、死んでいく傀儡となる。


騎士が夢を見ないのは、命を捧げてもいい国と主人を持つことによる栄華の夢を見続けているからこそ、夜に夢を見ない。


戦士は武人であり、武芸者の名であり、使命の依代。


武に全てを燃やし、次へと託す為に人殺しを伝承し、戦場を駆けて血を学ぶ。


彼らの行く先は全て英雄となり、我らの歴史を刻んでゆく。


彼ら戦場に立つものだけでなく、世界を作り名を刻めるものは英霊に等しく、皆同じく英雄。


終着点が同じであれば、走るのは誰だってできる……その頂を踏み締める者の強さはどのくらいあるのか。未だに頂きに届かぬ者からしたら、英雄はどんな化け物だろうか。


俺は今、どこにいるのだろうか?

霧雨は、全てを隠す。

          


神暦767年九月二十三日 神聖アウグスタ帝国宮殿



霧雨は静かでありながら激しく視界を曇らせ、雨音と共に宮殿に気品と風格を帯びさせ、廊下であろうと新たな魅力を伝えてくる……が。


「最近、やけに石工職人が多いなぁ」


金槌にノミといった工具を携え、貴族らしい風格がない代わりに戦士に似た匂いを放つ達人……いや、職人達がいる。


大人数なのかは分からないが一心不乱、雨の中だろうと室内だろうと彼らの意識は作業に向いている。


職人らしき人と弟子らしい人も互いに夢中になって周りの世界が見えないように、職人(プロ)は動き、弟子は盗み見る。


「……」


外ならともかく、廊下の方でも作業している光景を見ると、カッコよくて無礼で、美しくて汚らわしい矛盾を感じる。


「ここにお貴族や皇族がウロチョロしてなくてよかったなぁ」


思わず口からこぼれるが、誰でもその言葉しか出てこないだろう。


彼らは見栄に拘るからこそ無視を毛嫌いする……彼らが無事に仕事を終える事を祈るしかない。


まぁ、今から俺も多少なりの見栄を身につけた方がいいのだろうが……なんで皇帝は俺を気に入るのやら。


「あぁ面倒」


仕事だろうと暇つぶしの相手だろうと、面倒なのはシンドイ。


この季節特有の新たな動きも含めて色々と勘ぐってしまうし、想像が現実を塗り替えるように気が滅入る。


体が重く、使命と共に誓い(くさび)の音が全身に絡みつく……腰に差す十束剣でさえ重さを感じる気がする。


「はぁ……」


形式だろうと、ほぼ普段着であろうと特殊に作られた防具(れいふく)は、礼儀と義務が腹立つほどに重く、俺の聖遺物(かたな)は過去の因果と現状を結びつけているが……これが特別で、俺は違う事を認識しねぇとなぁ。


「あぁ面倒くせぇなぁ」


自ら帯びた重荷も、楔も誓いも動かすだけの熱であり続けてくれねぇかなぁ……ジャンヌから離れて()()を率いる覚悟がまだ出来ねぇ。


だらし無く、グダグダと歩いていたら宮殿の心臓……玉座の間の側まで来ていた。


現世とあの世を区切るように、現実と神話の境界線の様に、宮殿の中でも空間を変える門が目の前に現れている。


「……」


門を守るのも騎士の役目、宮殿の玉座の門番から、警戒と熱意を持った視線を向けられる。


「奴隷か?」


「あぁ、ジャンヌ皇女殿下の奴隷ですよ」


「奴隷……陛下から話は聞いている」


「……」


門番の合図により、門が鈍い音と共にゆっくりと開かれていく。


開かれた玉座の間は神話の一端の様に美しく、威厳と不変さで、物語の光景とも言えるほどの気品と力を見せつける。


二度目だろうとこの光景を見ると、多少なりとも魅了されて見入ってしまうが……意識を変えねぇと。


「やっと来たかぁ」


「呼び出されて参りましたヨォ、皇帝」


この部屋で一番高く、部屋全体を見渡すことが出来る場所に風格と威厳を纏い、国家という群れの長たる皇帝トラヤヌスが俺を見下ろす。


「龍閻ちゃん、陛下の前ですのでもう少し」


「わかってるよホルテンシアさん」


玉座の隣には、エルフの侍女のホルテンシアさんが派手な杖を持って側に控えている。


「皇帝、何用で俺に用事でしょうか?」


「あぁ……少し久しぶりに語らいたかったんでなぁ」


「……」


「そう面倒そうな顔をするなってぇ、お父さん泣いちゃうぞ」


「誰がお父さんだよ」


「俺?」


「……」


「そんな冷たい目線はやめてねぇ〜」


「帰っていい?」


「ちっと待とう、判断早いって!」


「はぁ……何?」


「まぁそう焦るなって、ただの娯楽に付き合えよ」


「娯楽って言うがなぁ、ネズミが煩いんだろ?」


「あぁそうだなぁ、内も外も煩くなってきたな……まぁそれも楽しいことでいいがなぁ」


「そのネズミを構い過ぎたら、外来のドラゴンやら内の獅子に心臓でも食われてろ」


「ひでぇなぁ、蠅らしくブンブンと文句を並べやがって可愛くねぇ」


「……あのさぁ、騎士の隠語を蠅って呼ぶのやめて欲しいねぇ。それじゃ病を運ぶ蝗害の様で嫌だ」


「蠅を否定しちゃいけねぇよ龍閻。お前ら騎士も戦争となりゃ人を殺して死骸の山を積み上げ、疫病を擬似的に発生させるわ、侵略や防衛の時は蠅の様に敵兵が群がるんだ。似たようなもんだと思うけどねぇ」


「それが理由なら、蠅は暴言だろ」


「お前は物知りのくせに知らないのかぁ? 砂漠の国では、兵士に贈る名誉な印とも言う」


あぁこのオッサンは、これだから苦手だ。


何を言ってもふざけているのに正論で、何もかも読めている様に見透かして語り、遊び出す。


「蝿もネズミも獅子すらも、娯楽で遊んでいたら()()は食われるぞ」


「林檎ねぇ……誰がその隠語を教えたのかしらねぇが、お前は本質を理解してるのかぁ龍閻?」


「とある変人から聖杯(りんご)の有無について語られた事があるんでねぇ、いつかアンタから見せて貰うと良いって言われたよ」


「チッ……マルクスの奴かぁ」


「……」


「図星かぁ?」


「あッいや、アンタが動揺してるのを初めて見た気がして……」


「まぁな、林檎の話は体力を待っていかれた……龍閻、その話はどこで聞いた?」


「ジャンヌが黄金の弓(アルテミス)の所有者になった夜の社交会……それと昨日、スキピオから隠語として林檎を聞いた」


「……ホルテンシア、確かラティウム侯爵領でアイツと揉めたと言ってたなぁ?」


「その通りです陛下」


「アイツ、狙い……はぁ」


皇帝は玉座に深く座り込み、手で目を覆い隠し、小声でブツブツと何かを漏らす様に、小さな声で何かを反復する様に考えている様子だ。


いつもと違う皇帝の姿に、冷静なホルテンシアさんの様子を見ると妙な恐怖が出てくる。


「林檎の事はオイオイ教えるつもりだったが……まぁいいか」


「なんか、勝手に納得しないでほしいなぁ」


「あぁすまん。俺から言えるのは、林檎が原因となる事は基本ねぇよ」


「……はぁ? 聖杯無くして戦争あり得るのかよ?」


「当たり前だろ、聖杯も含めた聖遺物は特殊過ぎて、手に入れても手に余る。欲しいなら奪い取るよりも、せっせと世界中を探して見つけ出す方が楽なんだよ」


「……」


「理解できてねぇな、まぁ……狙いが聖杯(ソレ)だとしても、獅子やネズミならともかく(ドラゴン)の心臓野郎が狙う理由はねぇって事だ」


「でも狙いには入るだろうにぃ。そこまで楽観でいられるかねぇ?」


「俺がなんでも楽観で動く野郎だと思い過ぎだろ」


「はぁ?……身に覚えがないと?」


「……スゥ――今のは無かった事にしてくれ」


「はぁ、本題が終わったなら帰っていいかぁ?」


「アッ、すまんまだ本題にすら入ってなかった」


「なら本題を言ってくれ」


「ジャンヌの私兵騎士団『鬼龍衆』だったな?」


「あぁそうだけど」


「お前を指揮者とし、ジャンヌを旗頭として動かす形にしたいんだよねぇ」


「……何が言いたい?」


「いや、少し俺も焦りってのが明確に出てきてねぇ。お前との会話で更に万全にしたいと思えるのが皇族(くに)として正しい判断なんだろうよ」


なんだ?……空気が重くなってきた。


威圧感の様な、身体を蝕む様な恐怖や嫌悪とも違うし、吐き気や眩暈と言った身体的影響もない。


なのに異様……さっきからコロコロと場面が変わり過ぎだろ。


「だから俺も色々と楽しませてもらってるよ。お前に与える試練の数を考えれば、コロッセオもラティウム侯爵領の暗殺者も、今もねぇ」


……コイツ今、何を言いやがった?


【そこから離れないと死んじゃうよ?】


「え?」


意識は無かった……ただ無意識に何かの声が言うがままに……いや違う。


体が操作された様に、体と意識が分離され今ある光景を認識させてくれない。


意識がある、思考がまとまらないが自分自身を観測できていると思う。


だが、行動が制御出来ていない様な違和感。


魔力が自然に肉体を包み、纏い肉体強化(ブースト)を行っている状態へと変化しており、空中に飛んでいた。


理解が出来ないままに地面に着地し、元いた場所に目をやると……体が動いた理由が自然にわかってしまった。


「いい回避だなぁ龍閻」


「おっかしいなぁ、いつから居たんだよスキピオ」


「どの辺りかは教えてやらねぇが、割と近くで話は聞いていたんだ。俺の隠密も馬鹿にならねぇだろ?」


隠密だぁ? そもそも近くにいる事すら気づいてねぇ。あの声がなかったら……あの声ってなんだ?


「一度回避したぐらいで、惚けてる場合かぁ? “英雄投斬(アキレオ・ヘロトメ)“」


「ッ」


視界が黒く染まり、身体が石化したかの様に硬直し身動きが出来ない。


魔力の気配を感じる程に膨大化し、捕食される様に見えぬ顎に肉体が喰われる前後の感覚が襲ってくる。


スキピオの聞いたことがない技名と共に、死を乗せた斬撃が真横を轟音と共に通り過ぎて行く。


「なんだよソレ?」


「かっこいいだろう? いつもテメェに見せていた軽装でも無ければグラディウスや盾とも違う……本気の装備だ」


「あっ……ははぁ、嘘だろ?」


スキピオの姿をマジマジと見ていると、日頃から鍛錬に付き合う時と違い、雰囲気や武器が全て変わっている。


いつもの防具は軽装の歩兵の様な物だったが、今は龍鱗(ドラゴンスケール)と合銀の防具に変わっており。


グラディウスだった剣は……剣は……アレなんだ?


大太刀?……いや、大刀でいいのかぁ?


湾曲した刃を持つ大刀は、槍や薙刀の様に長いが刀身と共に柄の両方が長い。


盾も変化しておりアウグスタ帝国特有の大楯になっており、模様が白黒の縞模様で構成されている。


異様で異質……まるで。


「死神じゃねぇかよボケ……どう言うことだ皇帝、スキピオ、それにホルテンシアさん」


俺は、玉座でふんぞり返り楽しそうで愉快に笑う変人が、小さく返した言葉を聞いた。


「試練さぁ」


「テメェが言ったんだろバカ弟子がぁ、俺の洗礼を受けてぇとなぁ」


「……ッあ」


「ほら遊んでやるから、テメェの実験ってやらを見せてくれよ」


「昨日の今日でできる訳ねぇだろ、それに玉座の間で皇帝がいる側でやれるわけ」


「良いぞガキ共、好き勝手に暴れろ」


「皇帝?」


「その為にホルテンシアが俺の側にいるのだからなぁ」


「陛下の命は私が守ります」


「……」


「これで逃げ場もなくなったなぁ龍閻」


「あぁチクショウ……テメェが死神に見えるわぁスキピオ」


「そうか、なら本気で相手しねぇと死ぬぞクソガキ」


「死なねぇ程度に乗り切って見せるよ……我が誓いにかけて」


言葉の通りに十束剣を抜刀する――――〜///\――視界が変容する。


十束剣が見せる幻が現実に侵食し、今の現状を黄泉の世界へと変貌させ、石の床が炎の様に咲き誇る彼岸花で埋め尽くされる。


「本当に死神じゃねぇかよクソ師匠が……これじゃアジャラカモクレン、テケレッツのパーてね」

八十一話を読んでいただきありがとうございます。

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今後の神代の贈り物を楽しんでください。

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