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神代の贈り物  作者: 火人
二章 獅子を喰らいて成長せよ至る戦場までに 秋冬巻く、政劇編

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七十七話 道化の影法師

国とは衆の集合体であり、生物的に言えば群れと言える。


群れを治め、皇帝の元に衆が集まり国家が形成され、大きな個へと変貌していく。


しかし大きな個であっても小さな群れの集まりであり、小さな一人が現れる事こそ面倒な政争の始まりと言える。


一人の主人を持とうとも群れの権力闘争は延々と終わる事がないし、主人の椅子を奪おうとする欲は誰もが持ち合わせている。


だから制度をもって基準を作り、恩恵と代価の両方を支払うことにより、人を安定的かつ永続的に操作(コントロール)する必要性が生じる。


これは単純な圧政ではなく……終わりのない殺し合いを抑えるための楔にする為だ。


歴史を見ても、英雄譚であろうとも人間は過ちと知りながら正義の名の下に暴走するのだから、国家の安寧にはある程度の夢と現実を知らなければならない。だから為政者は辛い。


その重みを背負って溝を埋めていき、多方面に舐められないためにも見栄を張らなければならない。


それは力でも同じ……皇帝達が俺をどう捉えているのか知らないが、彼等の期待を裏切るような真似はしない。


今の俺を殺して、明日の強い俺に……一歩深くなった自分になるために、今の想像を具現化させる為にも。


神暦767年九月二十二日・帝都アエテルナ 

ー中央区ー


朝から昼へと太陽の日差しが移ろうとしている頃、俺は仕事着の礼服を着て帝都を歩いていた。

帝都は人で賑わっており、多くの人たちが生活を送り、貴族から一般の民に至るまでが汗を流して仕事をし、買い物をし、日常を歩んでいる。


そんな華やかな都で、文句を言うなら。


「曇りそうだなぁ」


天気としては、晴天から曇りへと移り変わるように暗雲が少しづつ天を覆い始めており、雨の気配はないがいい天気とは言えない。


しかし天が崩れようとも、この帝都の美しさは変えようの無いほどに発展しており、その光景をこの目に焼き付けている。


「この国は、やっぱり強いな」


この国の強さについては、実際に未だ影すら掴めていない気がするが、都を見れば大体の強さが見て取れると言う。この目が描く(せかい)は美しく、最先端と言える。


道は全て丁寧に舗装され、水道が引かれて都全体に水が行き渡っている。


それも汚れているような代物ではなく、綺麗な水と言うのがまた恐ろしい……環境が人を、国を豊かにする。


「だからこの国は、怖い」


帝都は守備や攻め難い設計をしていないが、経済として、国の象徴としての都だからこそ……戦略的な恐ろしさではない、豊かさや余裕といった目に見えない怖さを孕んでいる。


俺がアウグスタの人間としては何も思わないのだろうが、出雲武士としてこれを見ていたら……この国を戦略で潰す事は不可能だと片付けてしまう。


土台が違うから、勝てない。


だから誇らしく、そして虚しい程に英雄(かれら)の栄光が染み付いていて、俺からしたらとても良い。

と言うか、興奮さえもする……神聖アウグスタ帝国で語られる英雄達は、この都を必ず訪れていて、必ずこの地を俺と同じように踏み締めている。


軍将(ドゥクス)のガイウスも暴牛を殺す者(テセウス)も、必ずこの地を踏んでいたと思うと……泣けてくる。

暇な時間に英雄譚や歴史書を読み過ぎたせいでもあるが、たった小さな事でも何故か幸せに感じる……が、その感動を壊すぐらいに場違い感の強い空気を放つ館がある……あれは、館か?


よく分からないが、目的地が意外に近くにあり、ある程度助かっていると思う部分があるが……神聖アウグスタ帝国貴族で唯一(ゆいいつ)の金融を仕切る一家。


「ここが、アルゲンタ伯爵家一門の金の館(ドムス・アウレア)


俺の目の前に立つ館は、貴族の宮殿に近い派手な建物として鎮座しており、一瞬は商会だと勘違いするほどに人が多いが……その人達の大半は、高貴な身分が高そうな格好をしている。


俺も見た目は貴族っぽいが……浮いてないよな?


「大丈夫だよな俺?」


疑問以前に、この場違い感はなんか凄い。


何度も社交界や舞踏会の護衛はして来たが、ここの雰囲気は何か違う……表すなら金持ち以外用無しって言うか、金持ちしか来ない感が凄くある。


俺、宮殿暮らしなのに……負けた感があるのは何故だ?


派手な屋敷と思いながら見ると、屋敷全体に様式美ガン無視の金の像やら財宝を見せびらかす感じが妙に嫌だ。


それに周りの貴族らしき人達から妙に見られている気がする……まるで、哀れな眼差しと好奇心が混ざった様な歪さもある。


「はぁ……帰りたい。」


そんな思いが口から溢れてしまうが、預金を引き出さなきゃならんし、屋敷の扉へと向かっていった。


扉はシンプルな木材だったが……扉の前には獅子を模った金の像が置かれている。


「うっわ」


侍女や執事らしき人達が貴族(きゃく)を接客している光景と同時に飛び込んでくるのが、外と似た雰囲気であり、金の装飾品達が目をチカチカさせてくる。


「いらっしゃいませお客様、本日の目的は会員登録でしょうか?」


一人の侍女さんが、俺に接客をして来た……なんか雰囲気のせいで緊張する。


「いいえ、預金の引き出しを」


「畏まりました。では、彼方の窓口に案内いたします」


侍女さんに促されるままに派手な空間へと移動させられた。そのテーブルには小さな区切りがあり、他の人から見えないようにしている。


あれ?……麻痺ってきた。何が派手だっけ?


「では、会員確認をしますので会員証の提示をお願いします」


俺は懐から十字架に二頭の獅子の印が付いた会員証と銀の印鑑を侍女さんに手渡す。


「確認致しました。いくら引き出しますか?」


「金貨二枚と銀貨七十枚程で」


「畏まりました」


侍女さんがそう言うと席を離れていったが、数分もしないで帰って来た。


「お待たせしました。金貨二枚に銀貨七十枚です」


俺は何も言わずにお金を受け取り、さっさと離れる事ばかりを考えていた。


と言うかもう出た過ぎて、一分も残りたくなかった……ここの皇族以上の贅沢(みえ)の仕方が本当に肌に合わん。


最後に侍女さんが「またのお越しをお待ちしています」とか言っていたけど……二度と来たくねぇ。


俺は礼儀をギリギリ崩さない程度の小走りで離れていき、南東区に向かって無心に近い勢いで進んだ。

逃げ出す為に。


―――――――――南東区――――――――



中央区は帝都の中でも宮殿の周りを囲むように貴族や大商人と言った金持ちが基本住むような上級国民層なら、南東区は職人達が住まう魔境だろうか。


この南東区は、一般市民と言うよりも国家公認の鍛冶師やら工芸師など、作るもの全般の生産がここで行われており、帝都に集められているって事は、達人しか居ない。


しかも国自体が達人(プロ)を起用しまくるし、弟子の斡旋や支援まで行うから、騎士達の武器や防具から達人による一級品に至るまでここで制作されている。


しかもお抱えになったり、同業者同士が競争を激化させているから、生き残りたくば共食いせよの精神で魔境に等しいぐらいに熱がこもってる。


何処からでも金床から奏でられるリズミカルな鍛造音が響き渡っており、(かま)の熱気や炭の香りに至るまで、この辺りは活気に包まれた良い空間が出来上がっている。


俺が知らないだけで、彼等から作られた武具達が英雄の一振りと化しているのかも知れない……そう考えると興奮(ロマン)を感じさせる。


初めて踏み入れるのに、ここを毎日通りたいと思わせるぐらいには、親近感が湧いてくる。


「まぁ……目的地は、もう着いたに等しいけど」


俺は探検したかったと言うか、感情がきっと顔に表れているのだろうが……俺の目線の先には、目的地である宮殿お抱え鍛冶師ジルバ・コルトの工房があるのだから。


「行くかぁ……」


何だろう……目的地なのに妙なガッカリ感は。しかも何で南東区に入った途端にあるんだよ、もっと隠れ家的な感じでアレよ。

工房デカいし。


「雰囲気がァァ……チクショウ」


もう少し……ロマンに酔いしれたかった。


ちょっとしたロマンの余韻を味わいながら、工房へと足を踏み入れる。


工房は大きな屋敷らしいものが三つ並んでおり、一つは完全な工房、もう一つは武具店、最後の一つが人が住む用の生活感ある屋敷。この三つが広い土地に置かれていた。


工房から漏れ出す熱気と鉄の匂い、甲高く響き渡る金属音が新たな作品を生み出す産声のごとく反響し、職人達の熱意と空気感が伝わる。


三十人程度だろうか。工房で鉄を加工し金槌を振るう姿や、何かしらの作業しているのが見える。


これもまた……ロマンとは違うが、目を離せない力を持っており、ここから漏れ出す雰囲気が英雄譚の様で好きだ。


「……あのーどちら様でしょうか?」


一人の職人さんが声をかけて来た。


その職人さんは人族らしい青年で、成人済みに見えるから十五、六歳に見える。


若いが一生懸命に仕事をしているのだろう、体は煤まみれで汚れているがカッコよく見えるのだから不思議だ。


職人の工房って雰囲気がそうさせているのか?


「ジルバ・コルトに用があってね、呼んで欲しい」


「師匠ですね、呼んできます」


今更ながら礼儀正しい人だなぁ、職人気質の人ならもっと礼儀や言葉遣いが雑なイメージがあるけど、良いとこの出なのかなぁ?

青年が会釈をしてから工房の奥の方へと小走りしながら向かっていった。


数分後に現れたのは、工房に合った職人の雰囲気を醸し出しているドワーフの男。


「何だぁ、誰かと思えば小僧じゃねぇか。何用ダァ?」


「ジルバさん、少し依頼があってねぇ……少し話せる?」


「商談かぁ? 良いが何を作って欲しいんだぁ?」


ジルバさんは依頼の話と聞いて職人らしい顔つきになり、会話を記録したいのか高価そうな紙をサラッと弟子達に持ってこさせて、羽ペンを握った。


ここの工房はスゲェ儲かっているんだろうなぁ。


「二振りの短剣(ブリオ)と大量の投げナイフを」


「ほぉ……ブリオは分かるが、大量の投げナイフって何だぁ?」


「投げナイフって良いなぁと思っていたので。理由としては、投げナイフ使いと戦った時に苦戦したので」


「なる程のぉ、苦戦した相手を真似するとは……なら、ブリオを持つ必要性は無いじゃねぇのか?」


「ブリオに関しては、二刀流したいなぁって」


願望(ロマン)の方か」


「で、二振りの短剣(ブリオ)に関しては、剣幅を細くして折れない様に厚みをつけて欲しくて、あと刀身を少し長めにして欲しい」


「わかった。投げナイフの方はどうする?」


「投げナイフは使い捨てが基本になると思うから、鉄屑から作った適当なもので良いんだけど……なるべく同じ品質でお願いします」


「投げナイフは新人用にしてもえぇか?」


「良いですよ、その代わり安くして欲しいですねぇ」


「なら、その方向で進めるとするかのぉ」


「なら先払いにしたいから、投げナイフと二振りの短剣(ブリオ)を合わせて金貨二枚で良いかぁ?」


「なら、完成は宮殿に運べば良いかのぉ?」


「その形で」


「なら契約は成立じゃが……小僧に聞きたい事があるのじゃが」


「何ですかぁ?」


ジルバさんは職人の顔から優しげなオッチャンて感じな顔になり、少し心配そうに俺の顔を見ていた。


「お前さんは皇女の護衛役下されたんじゃろ? 品物が出来る前に処刑されんよなぁ?」


心配が物騒だなぁ……。


「下されてねぇよ、大怪我を短期間でし過ぎたのを理由に数日間の非番を言い渡されたんだよ」


「何じゃそんな事だったのかぁ、いや……貴族の連中が噂しておってノォ、ここ数日の皇女にはお前さんが居ないから下されたんじゃろって」


「ただの噂だろうにぃ、そんな事よりも依頼頼んだよジルバさん」


「任せとけ」


噂ねぇ……たった非番だけでそう簡単に誘導できるかと思っていたけど、()()()|ってそう言う事ねぇ。


工房から離れながらも、人の噂の強さを小さく刻み込まれる。


気にする必要もないたかが噂でも、小さな変化も大きく見えてしまう。


工房から離れる足は軽いが、鈍い重さを孕んでいる気がする……皇族(くに)が何を求めて何を欲しているのか知らないが、辛いなぁ。


曇りでありながらも昼から夕暮れへと移動する太陽の存在を感じながら、街を歩く。


小さな矛盾が嘘か真か知らないが……何かを皆求めて動くのだろう。


夕暮れが近づくほどに(カゲ)が薄まるまで、月光を放つ月の後ろにいる俺を惑わすために夜が深くなる様に……あぁ影の遊びは、終わりなんだろう。


道化の様に群れの視線を引く月を案じるべきなのだろうか?


それとも俺が道化なのかもしれない……女神と本質を逸らすための影法師かも知れない……でも今日はまだ終わらないが、()()()一日だった事をジャンヌに話したいなぁ……そして。


「あぁ……影法師にでも道化にもなりたいなぁ」


気づかない内になっていても、その人目を寄せる力は魅力的だから。


傍観者から語り手へ、同種だろうと変わらない……月に捧げる喜劇を歌いたい。


弱い力でも集まれば強い一撃になるのだから、群れの楔として唄いたいのかも知れない。


小さな日常も、傍観者の目を逸らす何かになり得たのだから……俺はまだ扱える剣なのだから……弱い力でも欲する。

七十七話を読んでいただきありがとうございます。

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今後の神代の贈り物を楽しんでください。

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