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神代の贈り物  作者: 火人
二章 獅子を喰らいて成長せよ至る戦場までに 秋冬巻く、政劇編

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七十二話 秋風が狩人を呼ぶ

[秋風が並木を揺らし 獣と恵みが溢れ 死の風が近づく揺らぎを知りながらも 我らは、矢を射ろう 風を乗り越える為にも 獣を狩り 恵みを収穫し 酒を作ろう 宴に狩人を呼ぶ為に]


アウグスタ帝国では、秋を代表とするもので「今」と「やる事」を表す詩がある。


そこで強調されるのは、「狩人」だろう……彼らは弓の達人であり、獲物を仕留めるのに特化した人達だ。


 冬にかけて保存食用にハムやベーコンを作るにも、狩人達の力を借りなきゃいけない。


 そう考えると秋を象徴するのが「狩人」であると同時に、「狩り」が神聖な儀式として見えてくるのが人の営みなのだろう。


 貴族達が「狩り」を娯楽でやるのと同時に、人々が彼等に向ける恩恵を得る為にも行われるのだろう。


「狩人」が身近な人々の英雄なのだから……。


 神暦七六七年九月十七日 神聖アウグスタ帝国・宮殿


 朝から昼へと変わろうとする頃、男二人で座禅を組み、ただ時間を潰していた。


「若、遅いですね」


「しょうがないだろ……肝心のアホがまだ来ないし、ジャンヌは部屋に戻って行ったし」


 何故こうなったのか……今考えれば、スキピオが時間通りに来ると勘違いしていた朝の俺をぶん殴りたいと思ってしまう。


 スキピオが指定した待ち合わせの中庭には、予定時刻を大幅にズレ込んだため一緒に待っていたジャンヌが部屋に戻る事になったし、誰もいないわけで、俺と金時が座禅を組んで待つ流れ……何やってるんだ俺は。


「……俺達って何で座禅を組んでるんでしたっけ?」


「暇つぶし」


「……座禅って暇つぶしにするものでしたっけ?」


「何言ってるんだ、修行僧に謝ってこい金時」


「……」


 こうして無駄な時間を無駄な会話で潰しているが、今日の予定が実際何か知らないが、スキピオとジャンヌの予定と言っていいのかな?


 実際は、ジャンヌに師匠を紹介云々という話なのだが……何でこんなに待たされるのだろうか。


「あのくせ毛野郎は、何をしているのやら……それとも何かを優先してるのか?」


「若、何か言いましたか?」


「何でもない……ただの愚痴」


 あぁ本当にただの愚痴だが、何かを勘繰ってしまう。


 ジャンヌに師匠だのは何となくわかるが、何故ここまで急ぐ必要性があるのか?


 今は秋……そんな余裕があると思えないのに、来年からでも遅くはないと思うが……それとも争いが近い?


 いや、黄金の弓(アルテミス)になにかしらの権能(メリット)を感じているからか?


 ラティウム侯爵領のスキピオの動きが変だったし、皇帝の命で動いていた……だとしたら皇族、いや違うな、皇帝主体で動いているのか?


いや元老院って可能性もあるか?


「……結局は、今も歴史か」


「若?」


 少し肌寒く、まだ仄かに夏の香りが漂う風を感じながらも、自身が「傍観者」でいる事を察してしまう。


「どうしたの龍閻、悲しそうな顔をして」


 少し離れた所から、聞き慣れた落ち着く声が聞こえた。


 今日の主役であろう人物は、髪をまとめ白のローブを身に纏い、黒い革手袋やブーツ、身体に密着したズボン、全体的にぶかぶかだが……少し男性の礼服のような雰囲気を漂わせながらも美しく……彼女の銀髪に映えていて、ちょっとした憂鬱も吹っ飛ばされる威力を持っていた。


「ッ……ただの考え事さぁ。スキピオならまだ来てないから部屋で休んでたら?」


 やばいなぁ……朝見た時には動揺しなかったのに、今の衝撃は何だ?


「休み過ぎたぐらいよ。そんな事よりもまだスキピオ来てないんだ」


「アイツならアレだろ、スキピオは高級娼婦に繰り出したんだろ多分……金時はどうと思う?」


「俺ですか?……えっと……、何か立て込んでるんじゃないんですか?」


「それは無いな」


「龍閻、あんまり適当な事言ってたら痛い目に遭うわよ……ありえそうだけど」


「だってよく考えてみろ……ここまで来ないともはや女絡みでしか無いだろ」


「「……」」


 三人は、この変な空気を漂わせる空間で冷めた目をしながら、元凶であろう男を思い出し遠くを眺めていた。その中で後ろから「誰か否定してくれ」と声が聞こえてきた。


 彼は、軽装な鎧を身に纏い少しだるそうにしながら近づいてきた。


「あのなぁ……そもそも俺が仕事をほっといて娼婦に繰り出すわけねぇだろう。あとなぁ、弟子の分際で師を馬鹿にする発言するのかこの龍閻(バカデシ)ガァアア!」


「グッフォ」


 スキピオは一直線に龍閻の元に行き、龍閻の腹に拳を叩きこんだ。龍閻は果てしなくみっともない声を出して後方に吹っ飛んでいった。


「何するんだこの脳筋癖毛野郎がぁ、テメェの日頃の行いのせいだろうが」


 後方に飛んでいった龍閻は、上手く受け身を取ってスキピオに突撃していった。


「そもそもテメェが娼婦にどハマりしているせいで、国内でアエネアス公爵家の後継者問題が発生してるんだ! 責任持ってさっさと結婚して子を成せやこの脳筋癖毛野郎が」


「バァカ、誰がそうそう結婚してやるかヨォ。そもそもなぁ、テメェみたいなガキに心配される程こちらも落ちぶれてねぇよ将軍舐めるな! あと元老院の一員だが後継者問題の話は出てねぇよバァーカ」


「問題引き起こしているご本人目の前で会議できるわけねぇだろうがよ、それになぁ、いい歳して後継者問題とか起こしてるんじゃねぇよこの脳筋」


「まだいい歳じゃありません! ぴちぴちの十九歳でーす。娼婦のお姉ちゃん達からも若いって評判なんでーす」


「阿呆が、十九歳はちゃんと大人でもう中年に等しいんだよ。若くねぇんだよ諦めろや!」


「バカ言うんじゃねぇよ。たった十九年で人生の半ばにいるわけねぇだろうが! 認めねぇからなぁ俺は、まだまだぴちぴちじゃい!」


「人族の平均寿命を考えてから物事言えや、五十年なんだよ。アウグスタでの男性平均寿命はさらに短いんだよ、それを踏まえてさっさと大人になれ。そして俺に飛ぶ斬撃を教えろ」


「認めねぇからなぁ、俺はまだ若いんじゃ!」


 二人の師弟(バカ)がどうでもいい事で喧嘩を始めてしまった。


肉体強化(ブースト)で己を纏い、拳での殴打が続く、これまた珍妙な光景が広がっている。


 互いに魔力がぶつかり合い、轟音が響くが、喧嘩をしている張本人達を見ているとただ戯れあっているようにも見えて呆れが勝ってしまう。


「……姫様どうします?」


「ほっといていいんじゃない?」


 二人の目線は空虚に彼らの無駄な喧嘩を見つめ続けており、本来の目的がさらに遠のく感覚に襲われていた。


「ゴラァ脳筋、さっさと謝罪してまともになれ、そして飛ぶ斬撃を教えろ」


「ウッせ、このクソガキ! テメェに指図されてたまるか! あと教えろ教えろウルセェー」


[ドーン]


 二人の拳が魔力を纏い、拳がぶつかり土煙が立ち、打撃音がこだまし震動が軽く響き渡る。


「「チッ」」


 土煙が晴れた後、二人は多少後方に下がり互いに殺気のこもった眼差しを送り合う。


 二人は、魔力を全身から逆立たせ威嚇し合うように、間合いをジリジリと詰めながら魔力を拳に纏わせていく。


 その様子は、もはや喧嘩と殺し合いの見分けがつかない程に熱を帯び始めている。


「「あぁ……シャラクセェ」」


 二人は本気になったかのように同じ言葉を吐き捨て、構えを取る。


 スキピオはまるで槍を構えるかのように右拳を構え、左腕を盾で守るように構え威圧感を上げていく。


 一方の龍閻は、まるで刀を持っているかのように構えており、静かで威圧感も無い雰囲気だが……異様な怖さを孕んでいる。


「はぁ……いつまでやるのかしら」


「姫様、もう止まらないと思いますよ」


 金時とジャンヌは、他の人が見たら勘違いしそうな光景を見ながらも、一方通行で何も変わらない未来を見据えていた。


 心配も多少あるけれども、あの二人の暴言が重なってきているので、呆れて文句も心配も無くなる程に「何を見せられているのか」と思っていた。


「「フッ」」


 スキピオと龍閻が素早く息を吐き、一気に間合いを詰め、拳が繰り出されようとしている。


「喰らえ龍閻、“巨弾の拳プグヌス・マグニ・テリー“」


「技名がダサいんだよスキピオ! “破弾“」


 二人の拳が互いに向かい、風を切り裂き矢の如く相手の鳩尾へと迫ろうとしている中……【【ゾワ】】と死の風が身を包むように、何かが二人の全身に巡る感触が襲ってきた……空気が変わる程の速度ではないが、異質に体が何かに反応した。


「「!」」


 体が無理矢理に停止しようと足に力が入る。完成されていた拳を無理矢理にもズラそうとする……意識が判断に至った頃には、スキピオと龍閻の真ん前に矢が入り込んでいた。


[キィン――!]


 矢が通り過ぎていき、二人の拳は空を切り、二人が起こした風圧が広範囲に広がる。


 この場にいる全員は、矢が飛んできた方向に目を向けた……そこに居たのは、弓を放ったのだろうその人物。


 その女性は、明るい栗色の長髪をし、獣の革装を身に纏い、異質な雰囲気と誰もが想像しそうな「狩人」を連想させる佇まいをしていた。


「スキピオ、あんた子供相手に何をしているんだ、このクズ」


「やっと来たかランテ」


「『やっと』って、私はあんまり宮殿に入った事ないんだから置いていくんじゃないの、迷ったじゃない」


「初めてじゃないんだから平気だろうに」


「ウッサイ、死ねカス」


「ひでぇな」


 スキピオは、龍閻との喧嘩を忘れたかのように彼女の元に歩み寄る。


 その顔はヘラヘラと何かを煽るような顔をしており、明るい栗色の髪をした女性はそんなスキピオに呆れと怒りが混ざったような表情で話している。


「はぁ……お前は。そんで聞きたいけどスキピオ、私を警戒して女の子を守る構えをしている二人の少年で、誰がお前の弟子なの?」


 明るい栗色をした髪の女がスキピオから目線を外し、三人の子供に目を向ける。


 彼女の目線からは、少年二人は自身の武器を構えており、その目は殺気だって少女を守る構えをしていた。


「一名は完全に少女を守る構えを取って、もう一名は二人を守るようにハルバードを構えている……騎士として良い選択だね」


「スキピオ……誰だその女は?」


「龍閻……ちっと落ち着いて」


「答えろ、スキピオ」


「狩人さ」

七十二話を読んでいただきありがとうございます。

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今後の神代の贈り物を楽しんでください。

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