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神代の贈り物  作者: 火人
二章 獅子を喰らいて成長せよ至る戦場までに 神託の月編

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六十九話 可憐な花束達は淡い幻想を抱いて

人々が語り継ぐ物語は、全てが戦場で語られる英雄譚ではない。


人々が心を躍らせるのは、悲劇と喜劇が織り交ざった物語であり、必ずしも英雄がいるものでもない。


人々が必ず通る道を疑似的に楽しむような物語だって存在する……それは、「恋」の物語。


ある女神が狩人と恋仲になることもあれば、王子が町娘と恋に落ちるようなものもあれば、大英雄がお姫様との恋を彩る。


どんな戦いに彩られる英雄譚であろうと、「恋」の物語は、必ず存在し続ける。


その証拠に、ある言葉がある。「英雄は色を好む」と。英雄と色恋は、切っても切り離せない運命があるかのように、全ての英雄達は、何かしらの色恋に心を躍らせる。


その恋が報われるものであってほしいと願うけれど……その悲劇もまた人の心を揺さぶる。

本物の英雄達は、きっと「花」のように美しく……そして儚く散る人たちなのだろう。


神暦767年 神聖アウグスタ帝国 ラティウム侯爵領首都 ウエプル・ルーナエ


華やかな舞踏会……わたしを祝うための舞踏会。楽しいようで嬉しいようで……何か嫌で、心が複雑である意味気持ち悪く感じる。


私は、お母様と共に料理を選びながらも貴族の方々とお話し中……なんだけど……集中できない。


やっぱりこの複雑でモヤモヤする気持ちは、過去のトラウマがそうさせているのか、雰囲気のせいなのか分からないけれど……やはりこういった場は苦手に感じる。


そもそも龍閻が無茶ばかりして、嫌になった物が増えている気がする……舞踏会も社交会も苦手意識ができたし、闘技場も何だか不快感を覚えるようになったし……私って案外皇族に向いていないのかな?


……あれ?……もしかして私が苦手意識を持つものって、龍閻が原因なのが多い?


「ジャンヌ、どうかしたの?」


「えっ……あ、大丈夫ですお母様。少し考え事を」


「そう……あんまり放心状態にならないでね」


「はい、わかっています。」


お母様は、少し心配そうな顔を私に向けたが、他の貴族達と談笑に戻った。私は、意識を切り替えるためにグラスに入っていた葡萄酒を飲み干した……美味しくない……でも舞踏会などでは、酒を飲まないといけないので無心で飲むしかない。


私は、空のグラスにお代わりの葡萄酒を注いでいた。すると後ろからコツコツと私に近づいてくる足音が聞こえた。


「ご機嫌麗しゅうございますね、ジャンヌお姉様」


私は、声をかけられた方に顔を向ける……その少女は、金髪に淡い緑色の瞳を持つ可愛い女の子であり、私の親戚。


「叔父様がいるから来ていると思っていたけど……久しぶりねイザベル。五年ぶりかしら?」


「そうですジャンヌお姉様。本日は、神々から祝福をお祝い致しますわ」


「ありがとうイザベル。お母様には、挨拶したの?」


「皇后様には、まだですね。先にジャンヌお姉様とお話ししたくて」


「お話し?」


「えぇ、お姉様の騎士様について教えてください!」


騎士……様?……「えっと……龍閻のこと?」


「はい!、龍閻様って言うのですね。お姉様、龍閻様のことを教えてください!」


「……えっと……どうして龍閻のことが気になるの?」


「龍閻様は、まるで物語から出てきた英雄そのものですから!」


英雄……否定は、しないけど……何て答えればいいのか……分からないなぁ。


「あの……そのお話、私達も混ざってよろしいでしょうか?」


私達に声をかけてきたのは、複数の貴族令嬢を連れた一人の少女が立っていた。彼女は、白髪で狐のような耳をしている可愛らしい女の子……確か。


「貴方は、確かコネリウス家のアデナさん」


「名前を覚えていただきありがとうございますジャンヌ様。それと初めましてイザベル様。私は、コネリウス公爵家当主アルベルトの娘、アデナ・コネリウスと申します。以後お見知りおきを」


「こちらこそ、私は、レオニーナ公爵家当主マルクスの娘、イザベル・レオニーナと申します。以後お見知りおきを」


その後もアデナさんに引き連れられていた貴族令嬢達が自己紹介をする……しかし私は、素直に彼女達の名前など覚えていられるほどの精神状態じゃない気がする。


何故か分からないけど冷や汗を感じるし、何故か一人の龍閻(バカ)が脳裏でちらついて集中ができない。


「えっと……何で龍閻に興味を持つのかな?。騎士としているけど……身分は奴隷だよ?」


「えぇ存じ上げていますわお姉様。でも……一度でもコロッセオの逸話を聞けば誰だって心を躍らせますし、大聖堂での騎士としての姿を見れば気になるのが当然でしょう。」


「そうですよジャンヌ様。私から見たら龍閻様は、理想の騎士様に見えます。ジャンヌ様を身を挺して守り、闘技場で武勇を見せる姿は、まさしく英雄譚の英雄ですわ」


彼女達は、頬を赤くし、目を輝かせながら龍閻を語り始める……嬉しいようで誇らしいようで嫌だ。今日の舞踏会で感じるものとは、別物で心の底からザクザクと刺さるような……意味の分からない感情が渦巻いてしまう。


「龍閻ってそんなに良いのかなぁ? ほら、龍閻は、帝国の理想の男性像とは違うし、極東の人だから見た目も違うしね。」


「確かにそうなんですが……こうなんて言うんでしょうか……不思議と目を奪われると言いますか」


「分かりますわ、アデナ様」


アデナさんの言葉にイザベルを始め皆、うんうんと同意するように頷いている。


「でも龍閻が英雄みたいって早計じゃない? ほら龍閻ってまだ未熟な騎士ですし、見た目も騎士らしくないと言うか」


「早計では、ございませんわ、お姉様。」


「そうですよジャンヌ様」


何でそんなに食いついてくるのよー!「どうして?」


「まずは、四年前の舞踏会の事故を身を挺してジャンヌ様を守る忠義心の高さに、コロッセオでの戦いで優勝できるほどの武力を誇っているのです。そんな方が未熟なんてありえません」

「そこは、認めるけど……龍閻は、ほら顔がいいって感じでもないし、体だって逞しい戦士って感じも無いじゃない」


何で……私は、龍閻の評価を下げようとしているのかしら?……でも、今は、龍閻の評価を下げてでも何かを死守しないとダメって私の何かが叫んでいるからごめんね龍閻。


「そんなことは、無いと思いますわ!」


「どっ……どうして?」


「ジャンヌ様……実は、私……龍閻様が戦っている姿を見たことがあります。コロッセオで龍閻様の肉体を見たのですが……とても美しく感じました。」


「そうなのですか、アデナ様!」


「えぇ……この目で確かに英雄たる龍閻様の姿を。確かに龍閻様の体は、我々が望む筋肉隆々とした体ではありませんでしたが、あの背中で守られたいと思わせる……」


アデナさんは、手で頬を覆い隠すようにするが、顔が赤くなっている。


「アデナさんってお茶会している時には、龍閻を一度見たことあったのね……だからあの時会いたいと……」


「えぇ……申し訳ございませんジャンヌ様。間近で拝見したくて……でも龍閻様のお顔を間近で見たことがないので、どういった顔立ちなのか気になりまして」


「あぁ……龍閻の何処がいいの?」


「そうですねぇ……流れるような美しい黒髪に、騎士らしい忠義心に力で示すような武力の強さが、まさに英雄譚の英雄のようで」


私は、アデナさんの答えを聞き……次々と龍閻の悪口が飛んでしまう。


「でも性格は、面倒な方よ。知的好奇心が強いから本の虫で、自己的な哲学で判断することがあるし」


「博識なのですね」


「割と子供っぽい所あるし」


「支えてあげたくなりますね」


「戦っている時が、たまに狂人になるし」


「危険な所もいい」


私が龍閻の文句を言うと、イザベルとアデナを始め、集まっている貴族令嬢達が私の悪口をいい意味に変換して返される。


「龍閻が紳士的って感じでも……」


「あの……私は、龍閻様が紳士的に感じたのですが」


イザベルとアデナさんよりも先に返答したのは、社交会の時に会ったアリーナさんだ……いたのに気づかなかった。


「あの……私は、社交会の時に龍閻様とぶつかって転びそうな所を支えてもらいました。まさに紳士たる騎士の姿で」


「そうなのですねアリーナ様。その時の龍閻様についてもっと詳しく」


「そうですよアリーナさん。私達にもっと龍閻様の魅力を」


「はい、イザベル様、アデナ様……えっと……龍閻様とは、その時の一瞬でしたが、龍閻の顔が離れられなくて……あの黒い髪に濃い茶色の瞳が」


アリーナさんがあの時の光景を語ると、彼女達は、リアルに想像して興奮するのか「キャー」と声を出す……楽しそう。


「ジャンヌ、そろそろ龍閻くんのもとへ……あら、お友達ですか?」


「お母様」


「これは、皇后様!」


龍閻の話で盛り上がっていた貴族令嬢達は、皆頭を下げた。


「貴方もいたのねイザベル」


「はい、皇后様おばさま


「お母様、どうしましたか?」


「ある程度挨拶を終わらせたので、料理を持って龍閻くんの元に戻ろうかと」


「分かりました、私も」


「いえ……少し待ちなさい」


「え?」


お母様は、少し先の方を見ていた。私もその方に目を向けると、一人の鎧姿の騎士が見えた。その男は、レオニーナ家の騎士で狂犬と言われるドワーフ「ジン」だった。


「ジン……どうしてここに?貴方は、お父様の護衛でしょ?」


「マルクス様の指示ですので、お呼びに参りました。それにジャンヌ様や皇后様が近くにいるのは、好都合ですね。」


「どうして好都合なのジン? お父様とは、特に関係が無いと思うわよ」


「そうですねジン、何故私が貴方の言うことを聞かなければ」


「貴方方の騎士とマルクス様が話し込んでいるのですし、向かう場所が一緒なら好都合ってことですよ。」


「あっそう……ジャンヌ、行くわよ。貴方のお友達も連れてきていいので」


お母様は、不機嫌そうにそう答えて、一人で貴賓席の方へと戻って行った。


「えっと……ジャンヌお姉様も共に行きましょう。」


イザベルは、私の腕に抱きつき歩き出そうとしていると、どうしようか困っている貴族令嬢達がこちらを見ている。


「あの……ジャンヌ様、私達も一緒に来てもいいのですか?」


「えぇ、来てもいいですよアデナさんに他の皆様も。私の騎士と話したかったら付いてきなさい。」


彼女達は、花が咲いたように皆笑顔になり、龍閻がいる場所に向かった。


ジャンヌは、本物の龍閻を見て彼女達が幻滅してくれるのを陰ながら願ったが……龍閻は、騎士らしく紳士的に対応したことにより、ジャンヌの目論見は失敗し……舞踏会が終わった後に龍閻がジャンヌに謎の説教を受けることになったのは、また別の話である。

六十九話を読んでいただきありがとうございます。

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今後の神代の贈り物を楽しんでください。

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