六十七話 本質がどうであれ師弟は語らい問いを投げる
幻想の城と詩われると思い込むほどに、ラティウム侯爵が開いた舞踏会は、ラティウム侯爵領の財力と力を示すと同時に、新たな歴史を刻んだ日を祝う気持ちが伝わる。
それほどまでに英雄が生まれたことが嬉しいのか、それとも……無粋な考えに至るのは、俺が嫌な人間なのかもしれない。
善悪がどうであれ、主人が今宵の宴を楽しんで欲しいと願う。
この小さな願いが神々に届くことを祈ろう。
神暦767年神聖アウグスタ帝国 ラティウム侯爵領首都ウエプル・ルーナエ
鮮やかで優雅な曲が奏でられ、高貴な方々は、食事し、酒を飲み、踊る。いつもなら人の悪意と野心が見え隠れするほどに魑魅魍魎の空間に見えるけれど……今日は、やけに綺麗に見える。
この舞踏会の主題がジャンヌを祝い、新たな英雄誕生を尊ぶと考えると……嬉しくて……心がポカポカする何かがある。
「龍閻、私とお母様は、少し挨拶回りをするからこの席で待っててね」
「龍閻くんが好きそうな料理を持ってきますから、楽しみにしていてくださいね。」
ジャンヌとエイレーネー様は、そう言い、貴族達に挨拶回りへと向かった。
「……」
しかし俺は、何故か浮かれているなぁ……良くも悪くもジャンヌが聖遺物に選ばれたことが嬉しいのか?
でも……まぁ……警戒は、怠らない。あの時のような無様な行為は、繰り返さない……我が誓いの為にも、騎士としても……絶対に。
俺は、十束剣の柄先に左手を置き、視線が鋭くなる。ジャンヌとエイレーネー様に近づく貴族達の動きを観察する。
「殺気が漏れてるぞ、龍閻。そのままじゃ女の子も寄りつかないだろう」
「スキピオ……やっぱりアンタもいたのか」
俺の目の前には、金髪の癖毛に帝国の伝統礼服ドガを身に纏う男が立っていた。
「お前なぁ、最近俺にタメ口ひどくない?」
「アンタと皇帝がしでかしたこと、未だに恨んでるからだよ、阿呆」
「俺ってお前の師匠だよなぁ?」
「放置の極み野郎が何を言い出す」
「待って……そろそろ本当に……一旦落ち着いてくれ……心に来るから」
「はぁ……俺は、アンタのこと尊敬も信頼もしているけど、今回の目的が読めない以上は、当たりが強くなるに決まっている」
「ほぉ〜……なんか騎士らしくなってきたな」
「褒め言葉として受け取るよ。そんなことよりもアンタは、西に向かわなくてもよかったのか?……いや、東もあるか」
「!……お前は、速い速度で成長してくれるから色々と助かるよ。」
「スキピオと軍神ハンニバルとの武勇を見てみたいのが俺の本心でもある。逆に言えば、騎士王や征服王との戦も見てみたいけどなぁ」
「おまっ……はぁ、何処まで俺の事を知ってるんだよ……少し気持ち悪りぃ」
「知ってるも何も俺は、英雄譚が好きなんだよ。アウグスタ語を学習する時だって色んな本を読んだしね。弟子としてもアンタの英雄譚は、好きだから」
「……照れるじゃ」
「でも国的に言えば、早く結婚して子を為せと言いたくなるのが」
「ウルセェ、俺だってなぁ」
「黙れこの娼館狂い、公爵の癖に高級娼館で金を使い過ぎて金欠が聞いて呆れる。大体アンタは、」
「あぁわかったから一旦黙れ!」
「チッ……」
「舌打ちって……まぁいいや。龍閻、少しお前の考えを聞きたいことがあった。」
「何?」
「いくつかあるが、金時は、どうしている?」
「宿泊している部屋に残してきた。貴重品と聖遺物を置いてあるから」
「ならいい。次に今回の出来事をどう思っている」
「国にとっては、新たな矛を得ることができ、今後の動きは、国内外問わずに戦に参加するだろうよ」
ジャンヌは、国の兵器として人柱に選ばれたと言ってもいい……今後の戦争と政争は、ジャンヌがどんなに拒んでも彼女を引き摺り込んでくる……難儀な役目を負わされた。
「スキピオ……俺は、情けないよ。ジャンヌの実績になるために俺は、兵を欲し、戦いを望んだ。でも世界は、俺の甘い幻想を砕くように、殺しを知らぬ娘に強大な力を与えてしまった。」
「弱音を吐くのは珍しいな」
「弱音じゃない……これは、戒めと誓いの一つさ。どんなに弱音だろうと、それが今見えている俺の現実に過ぎないが、根本的な誓いは変わらない……俺は、守りたい人の為に戦う。」
「フッ……」
「なんだよ、頭を撫でるな!」
「別に良いだろ。俺らは師弟だからなぁ……弟子の成長を嬉しく思って」
「……」
「覚悟があるならある程度安心した。きっとお前は、さらに強くなる。」
「安心ねぇ……まるで近いうちに戦があるような物言いだな」
「この世界は、戦争の種なんぞそこらじゅうに転がっている。帝国と揉めてる国も多いのもわかっている癖に何を言い」
「戦争の事を言ってるんじゃねぇよ、阿呆が。俺が言ってるのは……」
「言わなくても良い。陛下の考えも理解したらしい……語らい過ぎた。」
「ワザとらしいなぁ。まだ仮定の段階だからこそ、そうやって疑心暗鬼させる。」
「理解できたなら、更に深掘りするな、バカ弟子」
「何で俺にヒントを与える?」
「陛下から頼まれたんだよ。お前には、伝えとけと」
「エイレーネー様には、言わなくて良いのか?」
「陛下からの命には、入っていなかった。」
「お前の目的は、理解できたよ。」
「陛下からお前に最後の質問だ。『国にとって民とは、何だ?』とさ」
「皇帝が何を考えてるのかわからないが……まぁいいや、面倒になってきた。」
「早く質問に答えろ」
「『国にとって民とは、何だ?』ねぇ……国にとって民は、宝であり最大の敵だよ」
「宝であり敵……何でそう思う?」
「民無くして国が生まれることも無い。それに俺たちの贅沢は、民が無ければ生まれない。国にとって民は、血液であり、国としての恵み。」
「そんなにいいこと言っているのに、敵ってどういうことだ?」
「長い人の歴史でも、何度か国民が王政や帝政を打ち砕き、国を殺す事もある。民の存在を忘れ、欲に溺れれば民達は怒る……兵や金があろうと、一度火がつけば大火として国を焼く。」
その結果がどうであれ、未来に生きる民が幸せなら良いが……そうならない。長年の歴史を見ても、王族貴族から民に政治が移れば、必ず混乱が起きる。
書物の中で記されていたのは、裁きの程度も税も何も分からぬ者がいきなり政治を扱えない、ということだ。
大半の革命は、恐怖政治に始まり滅んでしまうことになる。
「俺の考えは、暴君の発想に近いかもな」
「暴君ねぇ。俺には、名君の言葉に聞こえる」
「暴君だよ……国の長が一番に民を敵と認識している時点で、俺は、人の上に立っては、いけないと思うよ。」
どうだろう……言葉で否定しても、俺は、人道に外れようとも国を生かす選択をできる人を名君の資格があると思ってしまう。
暴君と罵られていても、俺から見たら名君の資格を持つように見えてしまう。東の国には、大昔に六カ国を滅ぼし統一した皇帝がいた。
その皇帝は、言語も金も全て統一し、新たな制度の元に国を作り上げていったと言う。しかし……新たな国を作るには、過去の制度を全て破壊する必要性があると同時に、権威を示すまでに力を見せつけなければならない。
その皇帝は、多くの者を殺したと言う。それが事実か否かは、さして関係ない。殺し、恐怖を見せつけたことに何かしらの意図があるのなら、政治としての駆け引きがあったと考える。
しかし人の寿命は短い……その皇帝の死と共に国も滅んでしまったと言う。その後に後世で暴君と罵倒されていても、彼が行ったことは歴史的偉業であり、ただの暴君がなしたにしては、あり得ない統治だったと思う。
「スキピオ、名君と暴君の違いって何だろう」
「それは、陛下に聞けよ。お前の答えは、そのまま伝えといてやるから」
「そうだなぁ」
帰ったら皇帝に聞いてみるか……あの人なら答えを知っている気がする。名君と言われる人だし。
「おや、妹に挨拶をしに来たのだが、面白そうな話をしていますねぇ、アエネアス公爵。私も混ぜてくれませんか?……そこにいる若き騎士との会話に」
「入っても構いませんよ、レオニーナ公爵……それにしても社交の際にあれ程揉めていた皇后様に挨拶しに来た理由を伺いたいものですから」
「そうですよ……俺も答えて欲しいですねぇ。そこのドワーフにも色々文句がありますので、教えていただけますか、レオニーナ公爵」
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今後の神代の贈り物を楽しんでください。




