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神代の贈り物  作者: 火人
0章地獄に至るまで
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四話 揺らぐ思いと覚悟

神暦762年十月十六日、出雲国大和。

俺は、宮殿に行くことにした。理由はシンプルに、十束剣が適合者を見つけ出したからだ。分かったタイミングが悪すぎて、もしかして龍閻かも、という不安がまだ残っているが、まず今日も確認で本殿に行って、十束剣を見てこよう。

「咲夜、今から本殿に行ってくる。龍閻のことを頼んだ。戻ってきたらすぐに束帯を着て宮殿に行くから……」

咲夜は少し心配そうな顔で「はい」と答えてくれた。まだ顔がこわばっている気がする……。怖いと思う感情と、高貴な連中と話すのが嫌だと思ってしまうガキの部分が混在している。大人になったはずなのに、ガキのようなことを考えるなんて、少し恥ずかしい。でも、それも俺だから仕方ない。

外に出ると、庭では龍閻が鍛錬を行っている。今日は鎖鎌か……。色々と上手くなるもんだなぁ。才能だけだったらいいんだが……。まあ、あり得ないと信じたい。龍閻がもし適合者だったら……いや、そんなことはない。早く本殿に行って、十束剣を確認しよう。俺は本殿に向かった。

本殿前、拝殿の中

拝殿の中に、本殿の門があるって……。前から思うが、奇妙な作りをしている。守るための構造なのか、設計者の趣味なのか……。なんか変なところを気にするようになった。自分で最悪の可能性から目をそらそうと、無意識に誘導してるのかな?

まあいい、中を見るか。門を開けて本殿に入る。本殿の中は広く、中央に柄から鞘まで墨で黒く塗ったような刀があった。

……昨日も見たが、黒いなぁ。ただの打刀に見えるが、この神聖な感じは……。

「十束剣……はぁ、よし、覚悟が決まった。俺の役目をまっとうするか」

なんか落ち着いてきた。結果がどうであれ、やることは変わらない。

俺は家に戻る。咲夜は、束帯の準備をしてくれていた。できた嫁を持ったことを嬉しく思うし、いい嫁さんをもらえたことを幸福に思う。

……なんか今日の俺、変だ。おかしいだろ、俺こと空天。なぜこうなっている?蘇れ、過去の俺。そしてグッバイ、今日の俺……じゃない。なんでこんなに変なんだ?自分で調子狂う。

俺は束帯を着て、咲夜に声をかける。

「咲夜、ありがとう。転移頼めるか?」

「分かりました。魔法陣を描きますので、ちょっと待ってくださいね」

咲夜が庭に出て、地面に魔法陣を描き始めた。龍閻は不思議なのか、縁側で観察するように見ている。

「できました。空天さん、陣の中に乗ってください。帰りは、転移の巻物で帰ってきてください」

俺は咲夜から巻物を受け取り、地面に描かれた魔法陣に乗る。

「じゃあ、詠唱をしますね」

咲夜は集中するように息を吐き、全身から魔力を魔法陣に流す。

「空間の聖者、我が問いに答えよ。道を知り、時代を知り、場所を知る。我が知恵を元に、移動の恵みをくれたもう。神聖魔法、移動の奇跡ネースハヒシュタヌート

咲夜が詠唱を終えると、魔法陣から眩い光が放たれ……俺は転移した。

「父上が消えた!母上、すごい!」

「空天さん……頑張ってください」

出雲国、京の都・宮殿前

咲夜の神聖魔法で転移した俺は、宮殿の門に着いた。いきなり現れた俺に、門番たちは警戒する。当然の反応だ。いきなり転移で現れたのだから、警戒しないわけがない。さて、何て言おうか……。しかし、門番がめちゃくちゃ強そうだ。獣人族とドワーフ族の二人組。二人とも男性だろう。門を守る時点で俺と似た仕事だ。実質、守り手……俺より守り手に適してそう。まあいい、とりあえず事情を説明して中に入ろう。

「えっと……俺の名は、火之神空天と申す。急ぎのようで、帝に会いたい」

獣人の門番が質問してくる。

「殿下にか?……服装は礼装である束帯。しかし急ぎとは、何事でしょうか?まず、そのことについてお答えください」

まあ、聞くよなぁ。急ぎだから入れてくれ、なんてポンポン入れてたら仕事にならないし。しかし、この獣人は、狼耳?ただの犬耳か?分からん。咲夜の耳がケモ耳なら、俺は確実に嗅いでキマル……いや、尻尾も捨て難いな……。待て、咲夜がケモ耳なら龍閻もその可能性があったのか……。って、何変な妄想してるんだ。俺は早く用事を済ませたいのに。

「重要なことだ。まあ、聖遺物絡みのことだ。俺の家の家紋と、証拠書類だ。確認してくれ」

俺は、獣人の門番に家紋入りの書類を見せる。

「承知しました。しばらくお待ちください。この書類を上司に見せ、確認と対応ができるようにいたします」

獣人の門番は、そう言って宮殿に入り、上司に報告しに行ったらしい。まあ、家紋入りの書類は写しだから、紛失しても予備はある。しかし、その間暇だな……。よし、ドワーフの門番と話しておくか。暇だし。

「門番のドワーフさん、あんた年いくつだ?俺はまだ二十五だけど」

ドワーフの門番は、話しかけられると思わなかったのか、一瞬遅れたが、ちゃんと返答してくれた。

「儂か?そうじゃの……確か、百五十ぐらいじゃ」

「百五十!すげぇな。ドワーフが長命と聞いたが、本当だったのか」

ドワーフの門番は、少し意外な顔をする。なんか変なこと言ったか?

「あんた、京の都の人じゃないのか?ドワーフなんぞ普通に住んどるぞ」

「俺は、大和の所だからな。都の土地とちょうど隣だが、俺は少し田舎の方に住んでるから、あんまりドワーフやらエルフやら見たことねぇ」

「そうかい……大和からか。まあ、大変じゃのう」

「そうですねー。大変っちゃ大変ですが、仕事なんで。で……」

「仕事なら仕方ない。だが、あまり羽目を外しすぎるなよ、人族の若造。儂にはよく分からんが、人族は性欲が強いと聞くし、女と遊んじゃ、嫁さんにぶっ飛ばされるぞ」

なんという警告。俺が愛しい咲夜以外の女性に手を出すわけない。あんな究極の女神がいるからな。

「ありがとうよ、ドワーフの門番さん。しかし安心してくれ。俺は嫁一筋……。なぜなら、うちの嫁は女神なのだから最高である」

平然と言える俺は、恐ろしい。しかし、後悔も恥じらいもない。真実のみを言う、それが俺だぁ――……。おっと、ドワーフの門番がなぜか冷たい目線で見ている。ドン引きされたか?でも、後悔ありません!

「こういう奴が浮気しそうじゃのー」

おっと、心外だな〜。俺が嫁を裏切る?意味が分からないぜ。なぜなら俺は咲夜に依存している。不安な時は、子供のように頭を撫でてもらいながら寝ているからだ(昨晩もしてもらった)。

まあ、許してやろう、ドワーフ。俺は寛大だ。嫁と子供にちょっかいをかける奴がどうなるか知らないが、その程度で私は怒らない。

「しませんよ。浮気なんて絶対有り得ません」

もし浮気などしてみろ。百分率で俺がミンチ肉にされた上に、龍閻から冷たい目線だ。ミンチにされなくても、多分自爆を選ぶくらいに派手に死ぬ。

「そこまで否定されるとフラグになるぞ。気をつけろ、若造。その様子だと、嫁さんに尻に敷かれとるのう」

「まあそうですね。嫁っていう生物って、基本、最強の生物じゃないですか。子供ができたら、なおさら」

「ああ、それ分かるぞ。儂も嫁がおるが、仕事の付き合いで飲んで帰ったら、片手に包丁を持ってブチギレられた。あれは怖かったのう……実質最強は嫁じゃな」

ドワーフの門番は顔を青くして答えてくれた。俺もそれされたら泣くなぁ。多分、あのドワーフさんも泣いたのだろう。

「俺も気をつけます……お酒のやらかしは、多いので」

「気をつけろよ、本当に詰むぞ。あの鬼となった嫁は、怖いぞー」

俺とドワーフの門番は、なぜか分からないが一緒に頷き合いながら、お互いの嫁さんの話で盛り上がっていた。

すると、門が開き、上司に確認すると言っていた獣人の門番と、上司らしきエルフが一緒に来た。エルフの男性?女性?……分からん。エルフは中性的な顔立ちで、人族から見たら皆美形に見えるから判別が困るが、多分男だ。なぜわかるかって、俺と同じ束帯を着ているからな。楽そう。

一人で脳内で会話していると、獣人の門番が話し始めた。

「確認が取れました。宮殿内に入る許可も降りましたので、お入りください。その前に、武器がないかを調べますので、そちらでお待ちください」

獣人の門番が、隅々まで念入りに調べる。武器がないと分かったが、転移の巻物だけは預けることになった。しかし、その間ずっとエルフの人が黙っている。怖いじゃん。何?本当に何?

俺が少し警戒心を見せてエルフに目を向けると、エルフの男性がそれに気づいた。

「これは、申し訳ございません。私のこと、気になりますよね。私は関白を勤めております、芭蕉と申します。見ての通り、種族はエルフでございます」

いきなり丁寧に自己紹介された……。待て、今、関白って言ったか?は?いきなりマジかよー。

「えっと……その……すみません。いきなり関白が来るとは思いませんでした。」

「いえ、そんなことありませんよ。こちらこそ申し訳ございません。貴方の祖先の方と会ったことがありますので、つい知り合いの感覚で名乗らずに……。貴方のお祖父様、火之神竜堂殿と親しかったので。それにしても、竜堂殿によく似ていらっしゃる」

竜堂……。久しぶりに聞いた名前だ。確かに祖父の名前だ。だとしたら百は行ってないか?分からんが、エルフって老けないって、ガチか。俺とタメか、年下に見える。

「いえ、こちらこそすみません」

「いえいえ、当然の反応でしょう」

会話に夢中になりすぎて、ボディチェックは終わっていた。

「では、火之神空天さん。帝がお呼びです。私の後ろについてきてください」

「はい」

これから帝に会うのか……。緊張してきた。そして、なんか分からんがテンションが上がる。龍閻、咲夜……俺、頑張るから応援してくれ。


四話を読んで頂きありがとうございます。

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