四十二話 政治の名は皇族貴族でありそのあり方は
政治とは、野心と我欲が入り乱れる魔境だ。貴族、皇族含め、誰もが何かしらの野心のもとに行動する。皇族は、貴族たちの野心と我欲をコントロールし、内政を安定させるのが優秀な為政者だと教わってきた。
神聖アウグスタ帝国には、異様で倫理的にずれた常識がある。性の概念、奴隷制度、コロッセオ……龍閻が来るまで当たり前だと思っていた文化は、歪に見えるようになった。これは、他国に興味を持ち、ホルテンシアから教えられて学んだ結果だろう。他国から見たら理不尽なものもあるだろうし、きっとおかしな常識なのだろう。
でも……それを反発せずに受け入れ、強くなる人を私は知っている。全てを経験し、力にする彼を知っている。私は、彼を支えるための主人になりたい。だから、裏も表も受け入れて成長しなくてはならない。私は、最高の騎士、龍閻の主人なのだから。
神暦767年 神聖アウグスタ帝国・宮殿
私の公務は、派閥作りや政治の手続き、それに財政の手伝いだ。財政の手伝いはたまにある仕事で、派閥作りなどが基本的な公務となる。神聖アウグスタ帝国の皇族は、全て平等に皇位継承権を持っており、上下なく並行に保持している。だからこそ、派閥を作る必要がある。それがなければ評価される点も得られず、家族同士の争いにも勝てない。味方がいなければ自分の身すら守れない。だからこそ、成人前から派閥作りをしっかりしなければならないのだ。
「ジャンヌ様のお茶会にお招きいただき、嬉しいですわ」
「私も嬉しく思いますわ」
「そう言ってくれると嬉しいわ、アデナさんにルーシーさん」
庭園でのお茶会も派閥作りにおいて大切なことだ。今回のお茶会に来てくれているのは、白髪の獣人族で狐のような耳を持つ、スキピオ公爵家の分家にあたるコネリウス公爵家当主の娘、アデナ・コネリウスと、エメラルドグリーンの髪をした、リキニウス子爵家の娘、ルーシー・リキニウスだ。
これが接待だろうと私益を目的としたものであろうと、お茶会自体は嫌いではない……が、気を楽にできないから疲れる。龍閻となら楽にできるから割と好きなのだが、龍閻はお茶会以前に、ゆっくりお茶をしたりお菓子を食べたりしてくれない。龍閻曰く「味がしないから」だという……なんで龍閻のことを考えているのだろう?
「ジャンヌ様、どうかされましたか?」
「いいえ、なんでもないわ」
「しかし、ジャンヌ様の奴隷はお強いとお聞きしました。彼でしょうか?」
二人の淑女が指すのは、龍閻ではない男……少し前までは、闘技場コロッセオで「名無し」と呼ばれた子だ。齢十二歳で多くの剣闘士を殺した実績とともに、龍閻から新たな名を与えられ、坂田金時と名乗っている少年を指している。アウグスタ帝国の兵服を着て、扉の前で私を警護している。
常識的に言うなら、彼よりも龍閻に護衛してほしいし、一緒にいてほしいけれど……私の感情がどうであれ、金時も私の兵になったのだから文句は言えない。
「違うわよ……」
「そうなんですね、いつかお目にかかる日を楽しみにしています」
「私もそう思います」
「……」
何も答えることができなかった……その理由はわからないけれど……言葉が出ないし、なんとなく嫌だった。
それからお茶会を1時間程度で終わらせ、次にお母様の部屋に行く。その際も金時がそばにいるが、ほぼ存在感がない。龍閻が言う「気まずい」とは、このことなのだろう。そう考えると、私は龍閻に色々と救われていたのかもしれない。
「……」
沈黙の時間を過ごして、お母様の部屋に着く。扉を開けると、お母様は書類作業を行っていた。
「ジャンヌ、来ましたか」
「はい、お母様」
「……」
お母様の目が少し冷たくなる。その目線の先は、金時だろう。金時は、ニコニコしていて、やはり不気味であり、少し嫌だった。沈黙でありながらもニコニコと笑う……そんなことは、どうでもいい。
「金時、扉の外で警護していなさい」
「はい!」
金時は、元気よくそう返事して部屋から出た。これで私とお母様の二人だけになった。お母様は立ち上がり、魔法書が置かれた棚から「スクロール(刻まれし魔法)」を取る。スクロールに刻まれている魔法陣に魔力を注ぎ、防音の結界を部屋に張る。
「これで、安心できます」
「お母様、結界まで張る必要があるのですか?」
「ええ、私から見たら名無し……いえ、金時を信頼しておりませんから」
「……」
「では、色々と話しましょうか」
「はい」
お母様は茶器を取り出し、紅茶を用意する。お母様が淹れる紅茶は、侍女が淹れるものよりも香りが深く、とても美味しい。
「ジャンヌ、あなたもアウグスタ帝国の淑女として、紅茶の淹れ方を学びなさい」
「はい」
お母様がテーブルに紅茶が入ったティーカップを置き、椅子に座る。紅茶の香りが部屋全体に広がりながらも、静かな時間が流れる。
「龍閻くんは、どうしたのですか?」
「彼は、お父様の命で書類作業を行っています」
「そうですか……陛下は、彼に政治を学ばせる気なのですね。ならばジャンヌは、主人として龍閻くんを支えなさい。人材を育てるのも大切なことです。優秀な人間には、いくら金をかけてもいい」
「はい」
「理解しているのならいいのです。あなたが今考えるべきなのは、為政者としての視点であり、思考です。あなたは、騎士団を保有するのです……彼らに忠義という種をしっかり植えつけなさい。裏切りによる死が恥ですから」
「わかりました……お母様に聞きたいことがあるのです」
「なんですか?」
「お母様は、兵を持たないのですか?」
「無駄だからよ」
「無駄……ですか?」
「ええ、無駄よ。私を殺すメリットよりも、デメリットを多くしていますから」
「デメリットとは?」
「単純なことですよ、ジャンヌ。私は財務を担当しているからですよ。私は貴族たちの弱みを握っておりますし……私が死ねば、彼らの弱みが公開されるようにしています。他にも色々ありますが、政治に必要なのは、相手を屈服させるための情報と弱みを握ることです。そうすれば、駆け引きの手間がなくなりますし、法案も通りやすいものですよ」
「それが財務のコツですか?」
「いいえ、違います。これは、貴族社会で有利に動く方法です。確かにあなたは、自分の騎士団を持つのでしたね。なら、金銭のことを少し教えましょう」
「お願いします」
「最初に行きましょう。税とは、血液です」
「どういうことですか?」
「わかりづらいですか……なら龍閻がよく使う言い表し方をしましょう。国は大地であり、国民は種です。水や肥料が税です……つまり、国民なくして大地に植物はできません。適切に土壌を整えることが大切なのです。それらは、税という肥料や水を与えて植物(国民)を育てるのです。国民の力が国力に繋がります。我々は、国を強くするために選ばれた為政者です」
「……」
「あなたには、まだ早かったかしら?。いずれ理解すればいいのよ。そんなことよりも、性教育を行いましょうか。あなたに、いつ伴侶が決まってもいいように」
「……はい……」
――――
神聖アウグスタ帝国・宮廷
この国の貴族は、どうも頭のネジがずれている気がする。俺が言えることじゃないけど……そんなことは、どうでもいい。
「仕事の終わりが見えない!」
おかしいだろう、この書類の束は。「内政」「外交」「軍事」「財務」が一気に集められているのがおかしいだろ!。
「悪夢よ……覚めてくれ」
なんで一つの分野じゃないんだよ……初めての仕事にやるものじゃない!
「ああ……頭がパンクする!」
しかし仕事が多いが……やらなきゃ終わらないので、黙々とやるしかない。過労死が見えそうなラインだけど、期限とか聞いてないし、ゆっくりでいいのだろう。
「はあ……」
書類は多彩な分野を扱うが……冷静に見れば、おかしなものが多いし、違和感を持つものも多い。
アウグスタ帝国は、独特の税収の取り方をしている。そもそも広大な領土があるせいで貴族が多く存在し、小・中・大といるが、皆同様に領土を持っている。アウグスタ帝国は、貴族に領土を預けている、といった感じになっているせいで、税収が独特の流れを踏んでいる。小規模の領主貴族が中規模の領主貴族に、中規模が大規模の領主貴族へと税収が流れ、最後に皇族の元に来る。これは、大規模の領地を持つ貴族が子爵以上の位を持つことから、部下の貴族たちが中小規模の貴族たちを指揮し、まとめているのか?。これだと大規模の領地を持つ貴族たちが儲かることになるが……実際にはどうなっているのだろうか?
「財務もなかなか難しい……」
ここから予算を決めて、どこに金を使うかを決めなければならない。財源などは、一般国民から来ているものだ。貴族たちからとる税もあるが、元を探れば国民の血税でもあるから面倒だ。
「税金に意味なんぞあるのか?」
税とは、国を動かすためのエネルギーであり、糧だ。それがなければ国は成り立たない。しかし……取りすぎても国を滅ぼす種となるため、極めて難しい仕事だ。
世の中はうまく機能しないもので、金の流れも複雑になっている。戦争、飢饉、病、貿易の四つは、特に国家に直撃するものであり、戦争、飢餓、病の三つは、対策にも発生後にも大量の金が消える。金を持っている者は、免れようと財を叩いてさらに面倒を起こす。貿易は、国家間の商いのせいで、先の三つよりもタチが悪い。災害と人災で、どちらの方がいいかと言われたら災害を選ぶ。人災は、尾を引く物が多く……貿易のミスで戦争と飢餓を呼び、稀に病を持ってくる。難しさがわかりやすいだろう。
それらを巧みに扱い、番人となる人は、優秀や天才で片付けてはいけない。英雄と同様であり、化け物と言える。
「神聖アウグスタ帝国の財務を指揮しているのは、皇后エイレーネー・アウグスタ」
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今後の神代の贈り物を楽しんでください。




