四十話 激流と共に運命は難業を示す
坂田金時、出雲国で伝わる英雄の名……子供時代の名が金太郎と言えば、多少分かりやすい。大昔の出雲国には、鬼(祟り神)が暴れていた。その鬼の名は、「酒呑童子」。鬼を討伐すべく武将源頼光の四天王が酒呑童子を討伐したという英雄譚。
神暦 767年 神聖アウグスタ帝国・宮殿
最近は、どうも流されている。他者の言葉のままに行動している気がする。俺は、名無し、もとい坂田金時を見る。名を与えられたことに嬉しいのか、顔が満面の笑みである。
「ありがとうございます、主人様!」
「誰がご主人様だ!、気持ち悪いんだよ」
俺は、男色でも誰かの主人になる気もないので、金時を蹴り飛ばす。
「龍閻、茶番を終わらせてくれる?」
「俺に言うなよ。このバカに言え!」
「バカでありません。坂田金時です」
「五月蝿い!」
「そうね……龍閻、名無しを謁見の間から追い出して」
「ガッテン!」
俺は、金時の首根っこを掴み、謁見の間から追い出した……あれ、やっぱり謁見室じゃなくて謁見の間って言った……なんだろう、言葉に出していなかったのに恥ずかしい……まあ、そんな事は後にして、金時を追い出してやっと落ち着きが出た。
「ジャンヌ、言われた通りに追い出したよ」
「うん、ありがとう……お父様、続きを話しますか?」
「そうだなお前らを呼んだのは、騎士団の話だけではない」
「残りは、何でしょうか?」
「まずは、ジャンヌにそろそろ許婚と言うか……まあ、あれだ。婿候補を集めることにした」
婿、つまりジャンヌを嫁がせるのではなく皇族に招き入れるってことか……基本は、逆だ。奇しくも皇族貴族の女性たちは、政治の道具でもある。政略結婚ってやつだな、家同士の繋がりを強くするために血縁を作る。血が繋がれば信用できるとか、互いに人質という理由が強く現れている。皇族の娘なんて基本は他家に嫁に出すが……
「っ…そうですか……」
ジャンヌの顔が少し曇る……当たり前だ、子供に結婚なんぞ言われても困るというものだし、物語のように恋愛なんぞできる資格はない。もし未来が自由に恋愛ができようとも、現実……現時点のこの世では、家が相手を見つける。そこに愛だの恋だの要らない。ただ家同士の繋がりを保つという役目だけだ。
「皇帝、少し聞きたいことがある。ジャンヌは、姫様であり、基本を見るなら他家に嫁がせるのが普通なのに、何故婿を取る選択をしたの?」
「龍閻、いい質問だなぁ……まずは、今日でジャンヌの私兵隊を作る事が正式に決まった。それなのに他家にやるリスクを考えたら我が家の損失だろ。あとは、色々あるんだよ」
「……」
前半のは、建前だな。「色々」が本心な気がする……俺は、政治に関しては素人で何もわからないが、それでもジャンヌの騎士だ。主人が不利や不幸が訪れないようにするのも仕事だ。皇帝が何を思い何を考えているのか、わかるはずもないが。
「まあ、すぐに結婚だって話じゃない。しかしジャンヌ……お前も十二なんだ、その歳でも嫁ぎ子を産んだ者もいるのだ。覚悟は、いつでもしておきなさい」
「はい……」
「最後の話は、お前だよ龍閻」
「なんでしょうか」
「お前には、明日から内政、外国、財務、軍事の四つの仕事を任せる……つまりお前に貴族議会の参加権と、それに見合った仕事をさせる。財務と外交はエイレーネー直下の部下だ。書類仕事をしてもらう。内政は俺だ。軍事は、ジャンヌと共にスキピオから学べ。成果を期待している」
「ふぇ?……はぁー!?」
「待って……いきなりそんなに任せるなよ。ただの奴隷に政治をさせるバカが何処にいる?。政治は、皇族貴族の権利だろうが……そんな中に俺って、いやダメだろ」
「五月蝿い! 俺の決定は絶対だ。黙って従え」
「ジャンヌ、どうする?」
「龍閻……お父様の命令は絶対よ」
なんだこの感じ……全て流されていく。というか俺が判断できる領域を超えている……あー、なんでいきなり面倒なことになってるんだよ。これが小説とか英雄譚だったら、読者置いてきぼりだろうがー!
「はぁ……わかりましたよ。その命を謹んでお受けいたします」
頭が痛くなってきた。激流のように嫌な事が流れてくる……何処でそんなフラグが立っていた?。辞めてくれよ本当に……あぁ、面倒なことになってきた。皇帝は、何を考えているのやら。
「話は、以上だ」
「でしたら私と龍閻は、ここでお暇します」
俺は、頭を抱えながら謁見の間を後にする。今日は、色々と面倒が起きる。厄日ってやつは、今日かも知れない。門の外には、律儀に待っていた金時が五月蝿い。
「お待ちしていました!」
ジャンヌは、金時に態度が悪い。理由がわからないが気まずい。
「金時、俺を主人だ恩人だの言うな。お前の主人で忠義を貫く相手は、ジャンヌだ。俺を呼ぶなら……あれだ……」
団長とか違うし、頭って感じもしない。まだ子供だと思っているし……面倒だ。
「若でいい」
「はい、若!」
頭が混乱する……話についていけないし、勝手に仕事が増えたし、バカを押し付けられたし……あぁ、発狂しそう。
「龍閻、お疲れ……少し私の部屋で話さない?」
「ジャンヌ?」
ジャンヌも疲れているのだろう。顔には、疲労感が強く出ている。
「わかった……金時は、俺とジャンヌの護衛をしろ」
「はい!」
そうやって三人は歩き出した。謁見の間との落差がひどいせいか、ジャンヌの部屋にはすぐについた。金時は、扉の外で警備の位置についた。俺が指示をする前に動けているのは、見た目通りにある程度の教育を受けたのだろう。俺とジャンヌは、部屋に入る。ジャンヌは紅茶を淹れる準備をしながら、俺は椅子に座って待つ。
「紅茶よ。砂糖いる?」
「ストレートでいいよ」
ジャンヌが紅茶を入れたティーカップを置き、
「はぁ」とため息を吐きながら椅子に座る。
「龍閻、今日のお父様が言っていたことは、理解しているよね?」
「理解は、しているが……正直言うなら置いて行かれている感じは、すごくした」
「理解しているならいいわよ」
「ジャンヌは、変わったね……なんか急に変わる気がする」
「龍閻のせいよ。好き勝手に暴れて……死にかけて……だから私が強くなろうと思ったらこうなっただけよ」
「……なんかごめんな」
「謝らなくていいわ」
「でも……今日の話で今後色々と面倒ね」
「そうだな、特に仕事が増えた……畜生……」
「貴方がさらに忙しくなるのは、意外だったわ」
「でもしょうがないよ、皇帝陛下の命令に逆らえる奴はいないしね。そんな事よりもジャンヌの婚活の方がインパクト強いよ」
「……」
おっと、このワードは嫌なのか?。でも皇族の女性なら至って普通であり、ありふれた常識なのに……まあ不安があるのだろう。しかしジャンヌの婚約者が決まっていなかったことに驚いた。皇族となると生まれる前にある程度決めていたりする。しかし十二になってさえ見つかっていなかったとは、知らなかった。
俺だって出雲国にいた時には、許嫁がいると母上が教えてくれた。まあ……もう無い話だけど。火之神家は滅んだからね。話がズレたが、婚約者だの許嫁だのは、根本的に家同士が決めることであり、親の義務でもある。しかし……ジャンヌは、何故か嫌そうだ。ここの問題は、ゆっくりなんとかするか。
「ジャンヌに聞きたいけど、金時のこと嫌い?」
「嫌いよ」
「即答か……なんで?」
「貴方を殺しかけたから」
「なら鬼龍衆から追い出すか?」
「それは、しないわよ。な……金時は、戦闘に関して言うなら優秀だと思うわ。だから、人もいない私達の騎士団には、重要な戦力」
「わかってるならいいんだけど、今後の俺は仕事が増えたから、ジャンヌの護衛を離れることが増えると思うけど、その際の護衛は金時だ」
「はぁ……」
「そう嫌そうにするなよ。俺だって心配なんだ。それに主人がわかりやすく態度にとるな。その末が暗殺や内乱につながる」
「……」
はぁ……今後の流れがわからなくなった。皇帝が俺に政治を学ばせる理由が分からないし……あぁ、情報が入り乱れてパンクする。
「嫌な予感がする」
四十話を読んでいただきありがとうございます。もし面白いと思ったらブックマーク、感想やコメント、レビューをお願いします。
今後の神代の贈り物を楽しんでください




