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神代の贈り物  作者: 火人
二章 獅子を喰らいて成長せよ至る戦場までに 剣闘士の獣編

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三十八話 二輪の薔薇と少年は未来を語る

夢を見た……日常の夢、相変わらず見栄えも風景も変わらない光景を。炎のような彼岸花に、怪しく提灯のように光る鬼灯が、歩くべき場所を知らせる。天を仰げば、十の勾玉が円状に並び、月のように照らす。今更ながら、意味不明で幻想的な場所だ。この世界は、俺の深層心理なのか……十束剣が俺に見せるのか、分からないが。奇妙で美しい場所だと思う。今回は、多少雰囲気が変わっていた。川が流れているのだ。その川は、赤く、とてもこの世のものじゃないことを表している。例を挙げるのなら、三途の川だろう。歩き続けて、最後に辿り着く場所は、夢の中心であり……この世界の楔なのだろう、十束剣に辿り着く。墨のように黒い柄、金色に鬼灯の模様が刻まれている鍔、上から下まで丁寧に描かれている鬼灯に、中央には円状に並べられた十の勾玉の紋様がある鞘……まるでこの世界を凝縮して固めたような打刀。奥の方を見れば、十人の人影が俺をただ見守る。彼らが何者で、俺をどう思っているのか分からないが、敵意がなくて、見守るという言葉がしっくりくる感じがする。


「聖遺物ってなんだろう。」


この世界を体験し、実際に所有している俺すら、普通の刀との違いが分からない。そして太古の人々は、聖遺物を作り出したのか……疑問を深ぼれば闇が広がる。しかし、十束剣がどうであれ、俺にとって見れば両親の形見であり贈り物だ。俺に託してくれた家族の繋がり……


「そろそろ夢を終わらそう。」


十束剣の柄を握る。世界が十束剣に吸い込まれるようになり、俺は目が覚める。


神暦767年 八月二十七日 神聖アウグスタ帝国・宮殿


長い夢から覚め、見知った天井を見る。宮殿の天井はある程度似た作りをしているからわかりやすい。まあ、ここがどこの何の部屋か知らないが……。起き上がり周りを確認すると、ジャンヌが俺を看病していたのか、座りながらも側で寝ていた。同様にエイレーネー様も椅子に座り眠っている。


「寝顔が瓜二つだなぁ、さすが親子。」


よく見ると、ベッドに立て掛けるように十束剣が置かれていた。全身に包帯が巻かれており、特に上半身の傷がひどかったのか、ほぼミイラ男になっている。


「ゔぅ……りゅうえん?」


「おはようジャンヌ。俺は、何日寝ていた?」

ジャンヌは、何も答えずに、ただ無心で押し決めた。嗚咽すらも漏らさずに、ただ涙を流して抱きしめ続ける。その温もりは、少し懐かしく感じると同時に、俺がかなりの期間意識がなかったことを物語っているらしかった。


「ジャンヌ、答えてくれよ。」


「……」


だめだ、沈黙したまま泣き続けている。抱きしめる力も少し強くなった気がする。しかし、状況を説明してほしいのに……。


「龍閻くん?」


椅子に座りながら寝ていたエイレーネー様も起きたらしく、目に涙を溜めているのが見えた。


「俺ってどのくらい寝ていましたか?」


「……えっと、五日間ね。」


「教えてくれて、ありがとうございます。」


「ジャンヌ、そろそろ龍閻くんから離れてあげなさい。」


「……うん……」


ジャンヌは、エイレーネー様の言うことを聞き、俺から離れる。その顔は、安堵の色が濃く出ている。


「龍閻、心配したのよ。一時期は、死ぬ可能性もあると言っていたから……」


ジャンヌは、少し嗚咽を漏らしながらも教えてくれた。俺は、かなり危険な状態だったらしい……まあ、戦闘中に肋骨を骨折していたのはわかっていたし、出血もしまくっていた。そして、その状態で馬鹿みたいに戦闘を継続すれば、こんな結果にはなるだろうな。


「心配かけたみたいで、ごめん。」


「うん……バカ。」


ジャンヌの返事が何を指すのかよく分からないが、一旦放置だ。先に知りたいことがいくつかある。


「エイレーネー様、名無しと賞品ってどうなりましたか?」


「その説明をしなきゃいけませんね。まずは、名無しという剣闘士からですね。正式にあなたの部下として雇用するために、今は育兵館に入れたわ。」


「育兵館?」


「そんなことは、あなたにとって些細なことでしょう。次に賞金については、金融機関に納めてありますので、好きなように扱いなさい。それと……とある馬鹿二人の慰謝料も含めて収めているので安心してください。」


「慰謝料?、金融機関?」


「慰謝料は、陛下とスキピオがコロッセオで賭けに勝ったお金は、全てあなたのものです。子供をあんな危険な場所に送り、金儲けをする時点で論外なので、当然の処置です。」


「エイレーネー様、説明ありがとうございます。所々わからない場所がありましたが、今は、やりたいことをしたいので。」


今は、早く皇帝に会わないといけない気がする。今考えているのは、ジャンヌを守る私兵隊を作る事。資金があるなら兵を……違うな、今は少なくていい。ただやるのは、許可とその私兵隊の指揮官にならないと。もし全てが上手くいったらジャンヌの評価が上がる。


「待って龍閻。」


俺が部屋から出ようとすると、ジャンヌが腕を掴む。


「ジャンヌ?」


「どこ行くつもりなの?それに服を着るのを忘れているし、何を焦っているの?」


「そうですよ龍閻くん。今は、体を休める時です。それに……試合後に観衆の前で言った言葉が原因ですか?」


「……」


「図星のようですね。とりあえず落ち着きましょう。」


「龍閻の考えを教えてよ。」


「はぁ、わかりました。」


最近は、空回りすることが増えた気がする。そして、空気が重い……相当心配をかけたみたいだし。


俺は、上着を着ながら椅子に座る。包帯の上に服を着るのは、蒸れるから嫌いだけど、文句を言える状況じゃないし。


「じゃ、俺が今考えていることを全て話しますよ……ドン引きしないでください。」


「わかったわ。」


「私は、龍閻の主人としてしっかり受け止めるから、ちゃんと話してね。」


「俺が闘技場で何を言っていたか覚えていないけど……俺は、ジャンヌを守るための部隊が欲しい。」


「そこは、知っているのよ。なんでそんなことを考えたか教えてよ龍閻。」


「……」


「そんなに恥ずかしいことを言っていないわよ龍閻くん。貴方がどうしてその考えをしたのかを知りたいの。」


「きっかけはスキピオ……で、あいつが俺に自分の兵を持てって言ってからその……男心が揺れて……欲しくなって、でも俺は、ジャンヌの騎士だから……だったらジャンヌの私兵隊を作って、その指揮官を俺がすればって思って……なんか恥ずかしくなった。殺して。」


「「なんでそうなるの」」


恥ずかしい……言葉にすると恥ずかしい。だって指揮官とか武将とかかっこいいんだもん。無理よ、男心に火がついたら、想像が現実味が出ると……欲しくなっちゃうのが男なの。


「恥ずかしい。」


「龍閻、私は特に気にしないわよ。」


「え!」


「龍閻くんが言うジャンヌの私兵が必要ってのも否定する気にならないわよ。」


「なんで?」


「龍閻くんは、深く考えて行動していなかったのね。」


あれ……呆れられる?


「皇族貴族でも武力を持つことは、推奨されるものでしょう。それだけ、危険で曖昧な世界ですから。」


「?」


「いいえ、理解しなくていいわよ。ジャンヌの意見はどうなのですか?」


「龍閻が欲しいって言うなら、別に作ってもいいと思うわよ。私はよく分からないから、龍閻が指揮を執るならなんの文句もなし。」


「本当に……よっしゃー。万歳〜!」


「喜びすぎよ。」


「龍閻くんは、ジャンヌの私兵隊、つまり騎士団を作るなら名前を決めているの?」


「うん、決めてる。」


「じゃ、教えてよ龍閻。」


「俺は、戦っている時に二つ、鬼(祟り神)と龍(厄除けの神)この二つの名を言っていた。出雲国は、多くの民謡や神話が太古から信仰してきたって聞いているし龍は、ドラゴンのことを指す。きっとこの国にとってもいい意味を持つと思う。『鬼龍衆きりゅうしゅう』」


「なんか意味が長いわね。」


「そうね、騎士団の名前ぽくもないわ。」


「親子でだめ出し……」


ひどい……割といいネーミングだと思っていたのに。やばい……泣きそう。


「でも、いいと思うわよ。」


「え?」


「名前に龍閻の龍があるんでしょ。なら私は、この名前でいいわ。」


この日に生まれた鬼龍衆は、後に神聖アウグスタ帝国の歴史の中で、他国に恐怖され、多くの英雄譚を残すことになることを、誰も知らない。


三十八話を読んでいただきありがとうございます。もし面白いと思ったらブックマーク、感想やコメント、レビューをお願いします。


今後の神代の贈り物を楽しんでください。

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