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神代の贈り物  作者: 火人
二章 獅子を喰らいて成長せよ至る戦場までに

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三十三話 狂気を胸に少年は歓喜する

神暦767年 神聖アウグスタ帝国・闘技場コロッセオ


非力な少年が大の大人を殴り飛ばす、あり得ない光景が広がる。歓声以前の問題だ。観客が望んでいたのは、少年が惨たらしく死ぬ光景であり、リンチして笑いのタネになるための生き餌であった。実力者の目から見たら、あの少年が輝く原石であり、知らぬ者から見たら不思議で期待外れなのかさえ分からない光景が広がる。殴られた殺人鬼は、腹を押さえ汚らしく嘔吐をする。そして少年は、無言を貫いたままその男を見下ろす光景だ。しかしそんな光景を嬉しそうに誇らしく見守る女性が三人、そして分かっていたと保護者面をしながら脳裏では大金の使い道を考えるゲスい大人が二人いる。


「さすがは、私の龍閻よ。あんな奴を早く倒して!」


「最初は、どうなるか心配していましたが、無駄のようでしたね。」


「はい、皇后様にジャンヌ様……彼の実力ならきっと優勝してくれると私は思っております。」


「「ウフフ」」


女性陣は、とても和やかで龍閻を誇らしく思う優しい空間が広がるが……ゲスい大人たちは


「あいつ、遊んでいたな。」


「ええ、そうですね陛下。まずは、殴り方云々とグダグダと考えていたのでしょう。」


「あいつが負けると思っていないから大金をかけているしね。」


「まあ……あいつには、勝ってもらわないといけないですし。」


「で、一流のお前から見て先ほどのアレは、なんだ?」


「未完成の技と表すのが正解でしょう。あいつの本能が開花の準備に入ったと表すべきか、いまだに成長しているのか。」


「本質の方は?」


「あいつが使ったのは、飛ぶ打撃ですが……特殊な形になりましたね。」


「特殊?」


「相手を見る限り、内部に打撃がもろに入った。つまり外から加わる打撃でなく、中を破壊する打撃ですね。」


「どうしてそれが分かる?」


「説明させる気ですか?……別にいいですが、龍閻の拳に乗せられた魔力が殺人鬼の体内に潜り込むような流れになりました。アレは、痛い……殺意が混ざって魔力が変な形になったのでしょうね。」


「面白くなってきたな……それが本当なら龍閻の価値がさらに上がる。槍にしても毒にしても使えるとは、天賦の才って怖いね」


――


さっきまで優勢を気取った相手が腹を抱え汚物をばら撒く。手に馴染んだ感覚は、未だに違和感を残していた。


「失敗か?」


拳に纏わせた魔力が変になった。殺意が強すぎて調整をミスったと思ったが、負荷に耐えられなかった傷は、ない……。


「ハアハア……おっぇ、」


相手は、打ち所が悪かったのか未だに吐く。正直見ていたくないし臭いのでやめて欲しい。まあそんな事どうでも良い……実験を進めさせてもらうとするか。


俺が近づこうとすると、ある程度回復したのかゴミが立ち上がり怒りをむき出しにする。


「テメェ、俺を怒らせて生きて帰れると思うなよ。」


ゴミは、力任せに剣を振る。隙だらけで、なんとも見苦しい太刀筋。ここに父上がいたのなら鼻で笑う上にダメな部分を徹底的に言い始めるし、スキピオだったら問答無用でとりあえずボコボコにしたはず。それほど雑で荒く、単調なのだ。


「当たれ!」


そう喚いても当たるものも当たらないと思うが、そんな事よりも観察を……え!。


「アザが無い?」


ゴミの腹を思いっきり殴ったのに腹には、赤くなった跡や内出血も無い。殴られた跡がない事に気づいた。しかしあの時は、かなり痛がっていた……意味わかんねぇ、打撃を飛ばす以前の問題じゃねぇか。ダメージがないのか?……でもあんなに痛がっていたら流石に、意味がわからん。次は、ゆっくりやってみるか。


「当たれ!」


ゴミが大振りの縦切りを狙って派手に回避をする。気づかれないように砂を回収して、次の攻撃にカウンターとして準備をするが……やっぱりキツい、盾が邪魔なんだよなあ。


「さて、どうするか。」


最初の攻略は、盾……盾のメリットは、防御でありある程度広く体を守れる所でデメリットは、視界が不自由になって死角ができてしまう事だ。隠れる部分が増えるって事は、相手の動きが読めないって事。さあ条件は、揃った。


「始めるとするか」


最初は、回避しながら地面に落ちている石を拾います。”肉体強化ブースト”しているので、そのまま投げます。そしてここで肝心なのは、人間の本能って奴を信じて遠距離から石を投げ続ける事が大事。速度がある石なんぞ普通に死ねる。そして回避する前に人間の肉体は、防衛本能で強張り無意識に腕で防御に入る。要するに盾で防ごうとする、その動きの予兆があれば動き出す。盾の死角から走り出し相手の反応を鈍らせる。盾に石が「カン、カン」と当たれば上出来……俺は、タックルして相手を倒れさせる。剣で無闇に攻撃されないように腕を片手で抑える。そして相手がピンピンしていても困るので思いっきり目の方に砂をかけます。相手は、砂をどかそうとするが片方は、俺が押さえてて動かせない。そして盾側の腕を使おうとする。盾は、腕に通すエンプラスと握るグリップの二つがあって目を押さえたくても盾が邪魔で上手くできないので俺は、ほぼ無理矢理だけど盾を強奪ができてゴミは、目を覆えるのです。そして手に入れた盾は、遠くに投げ捨てます。


「さて、これで台本が整った。」


後は、目に砂が入って痛がる奴の動きを観察して……魔力を込めた拳をもう一度殴りつける。さっきと同じで剣術のように構えて……意識を無に、殺意と魔力を拳に纏わせろ。ただ狙った一点に。


「フゥ、」


次も同じく腹に命中した……ゴミは、先程と同じように吹っ飛ぶ、そして先程と同じ感覚に震える。さっきは無意識で今回は意識して、変わった。自分の物になった感覚がないが嬉しい誤算だ。そしてゴミは、もう一度嘔吐をするが今回は、血が混ざっている。この好機を無駄にしたらもったいないので。


「フゥ、」


ゴミの頭を捕まえて顔面に膝をぶつけた。オーバーキル感が激しいがこの大会のルールが相手が死ぬまでだから仕方ないよね。ゴミは、背中から倒れるが俺の攻撃は、一旦止まり先程殴った腹を見る。やはりアザや内出血の跡がなく皮膚から見たら無傷……でも嘔吐をしているって事は、内臓にダメージがある。つまり俺の打撃は、内部で破裂したって事かな?。飛ぶ打撃じゃないが、そうとわかればトドメを刺す。


「おっさん、ありがとう。これで俺は、階段を一段上がった気がする。」


お礼は大切だ。どんな相手だろうと自分を強くしてくれた人なのだから、お礼をしなくちゃ人間として終わる気がする。最後の一撃は、先程以上の殺意と魔力を混ぜ……さらに明確化した物を意識する。内臓を貫く打撃を……そしてこの技は、皮膚、脂肪、筋肉の防御すら破綻する。


名付けるなら 「”破弾”」


俺は、拳をゴミの胸部に繰り出しトドメを刺した。俺の打撃は、ゴミ……違うなら、バルムの心臓を的確に破壊した。つまり急性心筋梗塞って事になる。胸を抑え、苦しんで死んだ。罪悪感などないがあの死に方は、俺の技術が甘かった事を指す。今後もっと技を鍛え、トドメを刺す時は、即死できるように最善を尽くそうと思う。


「試合終了……なんていう事でしょうか、大番狂わせが起きました。殺されると思われていた子供が生き、大量殺人鬼が死ぬ事になりましたー。」


そんなふうに司会が言うが興味は、もうない。歓声を上げようとも彼らが望むのは、惨たらしい死か白熱した戦いだけだろう。俺なんぞの戦いが満足できるものかは、知らないが……良い経験をさせてもらった。前よりも魔力の扱いが上手くなった気がする。あの感覚は、偶然だったとしても答えを導けた……この結果は、きっと次の戦いでも役に立てる。


最初は、狂ってるとか思っていたが……俺が一番の狂人なのかも知れない。人を殺しても何も思わないが、増えた手札について興奮が止まらない。己の技を一つ見つけた快感は、忘れられない。俺は、最初の一瞬が獣だった。


俺は、奥底の獣を喰らう事が出来たらどうなるのだろうか?。ここにいる狂人を糧にしたらどうなるのだろうか?。


「狂人こそ英雄の資格あり、人殺しこそ英雄の花道」


まあ少し落ち着こう。これで明日まで生きていられる。今日は、俺の試合が終わった事ですし……医療室に行くとするか。


医療室でジャンヌに再会して、この面倒な一日目が終わった。


三十三話を読んでいただきありがとうございます。もし面白いと思ったらブックマーク、感想やコメント、レビューをお願いします。


今後も神代の贈り物を楽しんでください

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