三十一話 因果は巡りて少年に試練の門が開かれる
人間とは、残虐な生物なのかもしれない。相変わらず集団生活を本能としていながらも、争いを、闘争を求めている。なにかしら争いたいのだ、それが誰かが死のうと死ぬまいと、争いを求め勝ち負けに拘る。それなのに平和を望む矛盾者が本能に刻まれているのだから、世界の曖昧で歪んだ様は気持ちが悪い。そして運命とは、人々に必ず試練を与える。無駄な結果に終わるものや、成果を得るものだってある。そして死ぬことさえある。これらの試練は、争いのものが大半だ、出世争いとか。何故急にこんな話をしているかというと、その胸糞の悪い試練が舞い込んできたからだ。血の匂いが染み付いた土の上で、俺は今立っている。そして今回の出来事は、新たな試練であり俺を鍛える物なんだろうか?それとも見せ物なんだろうか?……そしてここに居ると、やはり人間とは、善人が居たとしても醜く闘争を欲する獣だとわかる。
「会場の皆様、本日から行われる娯楽をお楽しみください。男達の血と闘志が入り乱れ、熱い戦闘が見れることになるでしょう。さぁ、ここから始まる死の光景は、絶好のものでしょう。」
大歓声の中で司会者が堂々と「死の光景」って言えるぐらいには狂っていると表すべきか、命が軽く娯楽と見るべきか……俺たちが「人」に見えない、の3択なんだろう。さぁて、話が戻って今日の朝の話に戻りましょう。
――
神暦767年 八月二十日 神聖アウグスタ帝国・宮殿
いつもの日常を過ごす予定でした。鍛錬して、政治とマナー講座、ジャンヌが行う公務の手伝いなど、変わらない日常……。そうだと思っていました俺は。しかし、不幸と試練は、ドミノ倒しのように連続で襲ってくる。しかし、大概は俺の発言や行動が原因で舞い込んでくるものだから腹が立つ。あれだよ、「フラグが立った」ってやつだ……自分で言ってて恥ずかしいな。しかし実際にフラグってあると思う。話がズレたな、修正して……まだ朝日が出ない時間、俺は爆睡していたよ。いつもなら鍛錬をしていたが、昨晩は読書に耽っていたので色々ズレていたんだ……それが悪かった。俺の日常が崩れる時は、近年テンプレのように変な起こされ方をする。「ドン!」って扉が破壊されて俺が飛び起きると同時に、やっぱり恐怖があるので乙女のように「キャー」と叫んだ。理由は、俺がとある男と初対面の光景と全く一緒で、ベットから離れ逃げようとするが失敗して頭から地面に激突して視界が真っ暗になって電源が切れる。意識が消える前に、扉の向こうに壊した男とは別の男……この国で一番偉い皇帝の影を見たのを覚えている。
目覚めると上半身裸にされて、服装は最低限で野蛮そうな男達が溢れる場所に押し込まれていた。しかも嫌なのは、俺の愛刀がないことだ。状況がわかっていないが、俺の腕に巻かれた布には、紫の色に聖杯とドラゴンの紋様が刻まれていた……これは、国旗とは違う物でとある家を象徴にしている……アウグスタ家。この国名であり、一族の名だ。しかも紫、聖杯、ドラゴンは皇帝の証。つまり、俺は皇族の家紋を背負っているのだ。はい、これでさらにややこしくなってまいりました。ここで言えることがある。
「覚えてろよ……スキピオ、トラヤヌス」
タメ口、無礼、上等だ……今回の顛末が終わったら絶対になにかしらの制裁を下す。この怒りの炎は絶対に鎮火しないからな……覚えてろよ。
「五番」
五番?……ここは、人の名前じゃなくて番号呼びなのか。とりあえずここがどこなのかを確認しないと詰むな。
「五番、君だよ五番」
「え?……俺ですか?」
「そうだ、陛下がお待ちですのでついて来てください。」
「あ、はい」
俺ってここだと五番って呼ばれるのか。さぁて、とりあえずバカのところに行って話を聞かないと進まないが、怒りだけを全身でアピールする。案内されて豪華な部屋に入る。そこには茶髪のバカと癖毛野郎がいた。たった2人なのは助かる、怒りをそのまま出せるからだ。
「龍閻、来たか。」
「黙れバカ、全て吐け……吐かなければジャンヌに包み隠さずに全てを話す。」
「龍閻、陛下に流石にそれは、無礼だ。」
「黙れ癖毛野郎、エイレーネー様に報告してまた給料減らされたいか?」
「……」
「もう一度言うぞバカ……全て吐け、さもないとジャンヌに全てを話す。」
「お許しください、どうかそれだけは……娘に嫌いって言われるので」
「じゃ、説明しろ」
「はい、えっと……龍閻がネロに挑発したことあっただろう。4年前ぐらいに。それからお前に多少の罰的なやつをわからないようにしていたが、お前にダメージないしネロの怒りゲージが高いしどうしようか悩んでたらスキピオの提案に乗ってお前をコロッセオに出させることにしました。」
「つまり俺は、お前の息子の顔を立てるために連行されたのかな?」
「サイドエス」
「陛下、言葉が変になっています。」
「癖毛野郎に聞く、さっきバカがお前の提案って言っていたが、その回答を言え」
「前に自分の兵を持てって言ったじゃん。今回の大会で勝てば金貨百枚は、貰えるから、えっと……ね、」
なんか話が見えてきた、腹立つが根本の原因は、俺なのかぁ……過去の行いが今になって帰ってきた。
「はぁ、わかりました。なら俺の刀は、何処ですか?」
「「すまん。お前の剣を持ってくるのを忘れた。」」
――
はぁーい、無駄回想はここで終わりまーす。酷いもんだろ、過去の行いが今日になって帰ってきました。しかもコロッセオは、剣闘士の殺し合いを娯楽とする会場だ。しかも今回に関しては、国の財力を見せつけるためのもので、かなりの大金が優勝者に送られる。金貨百枚は、奴隷であろうとなかろうと欲しい大金だ。一代で貴族並みの財が舞い込む。何故、こんなに大金を賞品にするかは、いずれ説明するとしても、
「面倒なことになってきた。」
「さぁ皆様、この宴を始めるためには、我らの皇帝の開会の宣言から始めましょう。」
こういった娯楽場には、皇族専用の場所というものがある。一番見やすくて安全性が高く最高の場所。そこから1人の男が立ち上がり、会場全体に響き渡る声を放つ。
「皆の者、この戦士達の聖地を見届けるもの達よ。ここにコロッセオの開催を宣言する。新たな英雄が生まれることを……そして新たな歴史を刻むがいい剣闘士よ。貴様らの中に我が家の奴隷がいる……奴を倒したのなら新たに我が家に英雄として迎えよう。さぁ司会よ、始めるがいい。」
「はぁ?……はぁー!?」
「おっと、陛下から新たに剣闘士達が奮起する種火が投下された。さぁ、剣闘士達よ、新たな英雄を目指せ。」
ドラムの音が響き開会式が終わった……そしてバカの発言で周りの視線が殺気を混じり俺を見つめる。
「覚えてろよ」
――
今回の出来事を一番に怒りを感じているのは、割と龍閻ではなかった。その美しい銀髪を靡かせ、アクワマリンのような青い瞳をした2人の女性だ。事の顛末は、朝から始まる。
宮殿内
「お母様、龍閻が見えないのですが知りませんか?」
「いいえ、ジャンヌ。私は見ていないわ……心配ね。ホルテンシアは、知らない?」
「皇后様、ジャンヌ様、申し訳ありませんが本日は、未だ彼を見ておりません。」
「どうしよう……今日は、コロッセオがあるから一緒に出席しないといけないのに」
「えぇ、困りましたね……嫌な予感がします。」
「私めは、侍女達に情報を共有して捜索させます。」
「頼みましたよホルテンシア。」
「お願いね、ホルテンシア」
「はい」
2人の女性は、支度をしながらも1人の少年を心配していた。しかし、今回の公務に関しては、脱け出したり無視が効かないものなので、ホルテンシアと共に探すということができない。
「時刻になっても見つかりませんか……」
「申し訳ございません……皇后様、ジャンヌ様。」
「いいのよホルテンシア、いない龍閻が悪いのですから……でもお母様」
「ジャンヌ、言わなくていいわよ。私も同じ気持ちですから。しかし龍閻くんが突然居なくなるって事は一度も無かったのに……彼が予定を無視するような子でもない」
不安が2人を包み、龍閻の存在がいないことで日常が崩れたような気持ちになる。
「あら、エイレーネー様とジャンヌじゃありませんか?あなた方の奴隷がいませんねぇ」
「お前の奴隷が逃げ出したんじゃないか?」
「ネロ兄様にリリス母様」
ジャンヌとエイレーネーに話しかけたのは、第三婦人で金髪で犬のような耳をしている獣人族のリリスと第二皇子ネロが、こちらを嘲笑うような顔で見ている。
「違いますよ。きっと事情があるのでしょう。貴方達は、馬車に入っていなさい。」
「「チッ」」
静かに舌打ちをする2人は、第二馬車に乗った。嫌味を言っても平然とするエイレーネー様は、とても格好良く見えるものがある。そしてのちに元凶であるバカと癖毛がやって来た。
「すまない、遅くなった。ジャンヌにエイレーネー、馬車に乗れ。さっさと行こうじゃないかコロッセオに」
「「はい……」」
「今回の護衛隊長は、この私スキピオにお任せを。」
「スキピオ、龍閻を見なかった?あの子がいないの……ね、お願い教えて?」
「スキピオ教えてちょうだい、龍閻くんがいないのは、不安がありますので教えてください。」
「申し訳ありませんが、今は、教えできません。私よりも陛下にお聞きを」
「「え!?」」
「陛下、何か知っているのですか?」
「お父様教えてください、龍閻は、何処にいるのですか?」
「まぁ安心しろって、後でわかることだ。今は、これから始まるコロッセオのことだけを考えようじゃないか。この三日間を楽しもう。」
「「……」」
心配は、高まるだけである……その時間は、永遠に思えるほどに脳裏には、龍閻が写り続けるのだ。スキピオとトラヤヌスは、何故か龍閻の居場所を知っているようで、そして何かを企んだ子供のようにニヤニヤとしていた。その結末は、想像通りのものだった……
「「何これ……」」
コロッセオの闘技場内の広場、戦士達が殺し合い、血が沁みた土の上に立つ剣闘士達。ジャンヌや龍閻と同年代の子から二十代後半、種族もバラバラな中に、1人だけ目を奪われると言うか、探していた少年がいた。そしてバカの開会式宣言を終えて、満足そうなバカを見る。その2人は、気づいていないが、別の席に座る金髪の獣人親子はクスクスと笑っていた……話を戻して、龍閻が発見とバカの発言が終わっり、皇族席は、2人の女性が怒りを向き出しでバカ2人を責め立てていた。
「お父様……説明してくれますか?」
「スキピオ、貴方もです。答えなさい」
「いろいろあったんだ、いいサプライズだろ?龍閻が活躍したら皇族の顔も立つしね」
「そうですよ。彼の実力なら簡単な壁だと思いますよ。」
「「言い訳しない。」」
「「はい」」
「お父様がこんな事をするなんて思いませんでした。大っ嫌いです」
「グゥファ……」
トラヤヌスは、娘の「大っ嫌い」って言葉の一撃が致命傷の域を超えて吐血した気持ちになり、項垂れる。
「スキピオさん」
「は、はい……」
「私は、優秀ゆえに皇后に選ばれました。現在は、財務の業務があります。税金から軍事まで幅広く……貴方の給料も私が決めています。言いたいこと、わかりますね?」
「いいえ……分かりません」
「貴方の給料を九割カットにします。反省文をお待ちしております。」
「嘘だろうマジかー!」
スキピオは、軍師としても将軍としても優秀であり貴族だが、金遣いが荒く、嫁さんも未だにいないが、高級娼婦に使うのが常だ……しかもそれで金を使い続けるのでいつも懐がカツカツなのだ……そして今回の件でトドメを刺され、ただ項垂れるだけになった。
「龍閻くんは、もうエントリーされているので皇族として発言もしてしまいました。無理にエントリーを解けと言いませんが……」
「「毎回宮殿に連れて帰りますのでそこは、了承してください。」」
「「はい、申し訳ございませんでした。」」
龍閻が復讐を誓う一方で、元凶のバカ2人は、勝手に天罰が降っていたのだが龍閻は、まだ知らない。
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今後も神代の贈り物を楽しんでください




