三十話 狂人同士のワルツは新たな試練を送り
神暦767年 神聖アウグスタ帝国・宮殿
朝日が差し込む庭で、一心不乱に刀を振る。一睡もできずに手に残った感覚だけを頼りに剣を振る。無駄な動きをなくし、命を断つあの感覚を頼りに振り続ける。罪悪感などない。なぜなら彼らは、さらに悲惨な死に方をするか、誰にも知られずに命を断たれるかの二つに一つだった。皇帝は、確かに国にとって害になるかどうかを考えていたと思うが、温情があったはずだ。国を欺き、裏切った者には相応の罰と刑が下るものだ。今回は、一家全員がさらし首の上に市民の場で処刑されるのが一般的だったと思うが……。それを静かに、誰の目も届かない地下で仏にしたのは、とても優しい温情だと思う。そして、女性だけは兵士のストレス発散のためであろうと生かしたのは、俺への罰なのか、それとも温情なのかは知らないが……。
「フゥー」
息を吐き、あの時の感覚を思い出す。あの時の殺意を惑わせたい……。いずれ来る戦のためにも。しかし、そう簡単にはあの感覚になれるわけないか。
「しかし……冴えている。眠くねぇな……」
十束剣を地面に刺し、大の字で寝そべる。天を仰いでも何の答えも出ない。この意味のわからないモヤモヤした感覚は、罪悪感というものなのかもわからない。いまだに殺した感覚があるが……達成感と違和感、そして新たな力を身につけた気分になった。殺気、殺意……生物が本能として持っている闘争の一部を出せた気がしたからだ。感覚が冴えて、刀を振るたびに魂が乗る感じがした。処刑の時は、痛みを感じないように解釈したつもりだ。一瞬で絶命するように、一撃で意識を刈るように……。しかし、俺はあの人たちじゃないから痛覚があったのか、死ぬ直前何を思ったのかは知らない。きっと俺を呪おうと気にしない。殺し殺され、助け助けられるのが人の世なら、神様は狂気と愛を持った矛盾者だな。
「……何を考えてるんだか、意味わかんねぇ。」
別に人殺しに関しては、どうも思わないし、何も感じない。人は死ぬし、殺される者だから……俺だって殺されかけた……。
「無限ループに入ってるな……。やっぱり人間って寝ないと馬鹿になるな。」
「なんか悟ってるな、殺人鬼。」
「……誰が殺人鬼だ、多量殺人鬼。」
「酷いねぇ、弟子を労ろうとする師にそんな暴言を。」
「先にふっかけたあんたが悪いよ、スキピオさん。」
「で、どうだったよ、初めて人を殺した感覚は?」
「いまだに手に残っているが、良い経験させてもらったと思っている。罪悪感とかはわからないが、多分この感覚を鋭く研ぎ澄まされた物にしたい。」
「……」
「なんだよ急に黙って、俺が変なことでも言ったか?」
「ああ、言ったね。お前は、英雄の素質がある。才も中身も。お前は、立派な狂人だよ。」
「褒められている気がしない……まあいいよ。で、何用?」
「皇后様に見に来いって言われたんだよ。心配したぞ。ジャンヌ様も、今日はそちらに近づかせるか迷うぐらいに。」
「話が見えない。」
「見えなくていいよ。今日に関しては、脳死で話しているから俺も整理してない。」
「なら話すなよ。」
「話が変わるがお前は、自分の部隊……違うな、自分の兵士を手に入れろ。楽しいぞ〜、好き勝手に扱える部隊は」
「いきなりなんだよ。俺にはそんな金や地位なんてない。」
「そこは安心しろ。陛下にとっても嬉しい誤算だと思うぜ。なにしろ、好き勝手に扱えて、城を守る兵が増えるしな。ジャンヌ様にとっては、自分を守る盾が増えるんだ。安心感は強いだろうな」
「どうすればいいんだ?」
スキピオは鍛錬の時と同様、鎖帷子と軽い防具と盾を持っていた。その割に攻撃する気配もなかったので胡散臭い。
「焦るな、説明してやるから」
スキピオが言葉を話そうとした時、懐かしい感覚を覚えた。炎がこびりつくような感覚を。俺は無意識に“肉体強化”を行い、地面に刺していた十束剣を抜き、横一閃に刀を振っていた。その一刀は、本能としての「殺意」を宿した一撃だった。スキピオは軽々と防ぐ。
「想像以上だ。殺気を纏わせた良い剣撃だったよ、龍閻。しかも俺の殺気に反応して速攻するとは思わなかった。」
俺はバックステップし、スキピオから離れる。警戒心を上げ、スキピオを観察する。魔力の動きから肉体の動きを見極めるように。
「後の行動も良いねぇ、子供って怖いもんだね〜。少しの経験でこんなに化けるか。」
「……」
「そうだ、龍閻……警戒していろ。今回の鍛錬は、殺気を交えた闘争だ。ついて来いよ。」
スキピオはそう言い放つと、剣を抜き、魔力とは違うものを纏った。魔力を纏い、また違うものを纏う。その違うものは、緊張を与え、恐怖を呼び起こす。その違うものが剣に纏われていくのがわかる。ただ理解できるのは、「殺される」という恐怖だけだ。
「フゥー」
俺が息を吐いた瞬間に、スキピオが猛スピードで突撃してくる。俺は距離を取られまいとバックステップをするが、スキピオは俺の行動を見た瞬間にさらに踏み込み、スピードを上げる。
回避は間に合わない……受け流すしかない。
俺が十束剣を中段に構えて、第一撃を見極める。俺の狙いはカウンターだ。良くも悪くも回避できない……スキピオの踏み込みがその選択肢をなくす。スキピオと俺の間合いに入った。スキピオは、ジャンプしたような踏み込みをし、剣を上から振り下ろそうとする。とてつもないスピードと魔力を乗せて見える。
「“流星の一撃”」
十束剣と剣が激突するが、俺は角度を変えて受け流す。スキピオの剣は、十束剣の刀身に滑らされ、勢いのまま地面に直撃する。俺はうまくバックステップで回避したが、爆発と思えるほどの威力があった。土煙が宮殿の壁を越えるほどに立ち上った。そんな光景に文句を言う前に思ったのは、
「重い、そして技名長いな……」
「そう文句を言うなよ、俺的にカッコいいと思っているんだからな。」
「知るか、ボケ。」
怒りのままにスキピオに突撃した。俺の斬撃は、すべて盾で防がれる。俺は、ひたすらにスキピオから攻撃を受けないために攻撃をし続けた。
「重いねぇ、殺気がこもった良い攻撃だよ。」
「ハアハアっ……軽々しく言うんじゃねぇ。」
「おっと、体力が切れてきたか。なら俺は優しいから、剣じゃなく拳で終わらせてやる。」
「はぁ?」
スキピオは俺にそう言い放つと、剣を地面に突き刺し、拳に魔力を纏わせ始めた。俺は攻撃されないためにも攻撃を続けたが、盾で刀を弾かれ、胴体が剥き出しになった隙をスキピオは逃さない。俺にとてつもない拳を喰らわせた。
「“巨弾の拳“」
俺は、その拳を受けて飛ばされた。木に激突して打ち所が悪く、頭から血が流れる。しかも意味が分からないのは、拳に触れた感じがしないが、打撃がずっと俺の腹を押し続けている感覚と痛みがあることだ。
「イタ……チッ、血かよ。」
「どうだ龍閻、このスキピオの技はすごいだろう。」
「すごいとかどうでもいい、頭クラクラするし血が出ている。」
「そんなことは些細なことだろう。」
「……」
「おっと、黙るなよ。寂しいじゃないか。」
「そんなことよりさっきの拳はなんだよ。すごく痛かった。」
「前にも教えたはずだ。魔力を纏わせて行える技が、飛ぶ斬撃と飛ぶ打撃。まあ今回のは、打撃の方だな。」
「飛ぶ打撃ねぇ……なんで急にそれをやったんだ? 俺は剣士だ。」
「お前が武器に魔力を纏わせるのに時間がかかっているからなぁ。多少の手助けになれば、ってことでヒントをやろうと。」
「ヒントだ? 飛ぶ打撃と関係ないだろ。」
「最後まで聞けって。飛ぶ打撃に関しては、武器に魔力を纏わせるとか斬撃よりかは、覚えやすいが、お前はそれすらできない。武器に魔力を纏わせる以前の問題だ。つまり飛ぶ打撃をマスターすれば、簡単に武器に纏わせることはできるだろう。」
「話が見えないし、説明下手。」
「話は簡単だ、打撃に魔力を乗せられるようにしろ。そうすれば、魔力操作の感覚がさらに向上してやりやすいだろう。」
「なぜそんな大切な手順を今さら教えるんだ?」
「お前が無能だからだろう。じゃあ俺は帰るから、一人で頑張れよ。まあ、本当のトレーニングの前に。」
「うるせぇ、ハゲてくれ。」
スキピオは帰っていったが……俺は頭が割れているのか知らんが出血していて頭が痛い。だるいなぁと思う以前に、徹夜をしているせいで脳が回らない。
「はぁ、だるい。」
なんか眠い、瞼が重くなって……暗闇……
「スー……スー」
――――
「ゔぅ……」
静かに目が覚めた。空は、夕焼けの時刻を指していた。頭の感覚は温かい……とても安らぐ感覚に満ちていた。
「龍閻くん、起きたのね。大丈夫?」
「エイレーネー様?」
俺はなんとなく頭を触った。おでこには包帯が巻かれていて、そばにはいまだに十束剣が地面に突き刺さっていた。状況が掴めないが、どうやらエイレーネー様に膝枕をしてもらっていたらしい。
「エイレーネー様、どうして?」
「あなたを探していたら、頭から出血して倒れているのを見つけてね。何があったの?」
「スキピオ。」
「そう……大変だったのね。でも、心の方は大丈夫?」
何が大丈夫なのかは知らないが、こんなにポカポカするのだからきっと、
「大丈夫です。」
エイレーネー様は少し安心したように俺の頭を撫でる。痛みがないから、神聖魔法で治したのだろう。ジャンヌにまだ会えてないことが少し不満だが……今日は良い日なのかもしれない。
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