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神代の贈り物  作者: 火人
0章地獄に至るまで
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第一話 未来を憂いて子は、夢を見る


神暦756年 七月十六日 出雲国 大和


山の一軒家、神社の社家から、女性の苦痛に満ちた呻き声が漏れていた。


「うわあああ、痛いっ……!」


我が子を産む痛みに耐え、歯を食いしばる咲夜の顔には、苦悶の色が浮かんでいる。


咲夜の夫である空天が、咲夜の手を握りしめ、固唾を飲んで見守っている。


「頑張れ咲夜。手を握ることしかできないが……大丈夫だ。頑張れ。」


産婆が励ましの声をかけるが、分娩の痛みに意識を集中させている咲夜の耳には届かない。彼女はただ、無事に我が子が生まれることだけを祈っていた。


「うわぁああああ!」


咲夜の絶叫が部屋中に響き渡り、ついに「おぎゃあ!」と、夜空に響く元気な産声が上がった。


ぐったりと横になった咲夜の顔には、極度の疲労が色濃く浮かんでいる。


生まれた……よかった。なんだか、現実味がない。変な気分だ。


「空天、何を浸っておる!お前が我が子の臍の緒を切るのは、お前の仕事じゃろうが!」


産婆の声に、我に返る。

俺は小刀を持ち、産婆のそばへ歩み寄り、言われるがままに我が子の臍の緒を断ち切った。

産婆は、へその緒が切れたのを確認すると、母親となった咲夜に赤子を見せにいった。


「良い赤子じゃ。元気な男の子じゃぞ。」


咲夜は産婆から我が子を受け取り、その顔をのぞきこむ。


「はあ、はあ……私の子……はあ、はあ……可愛い……。」


俺も咲夜と赤子のそばに寄る。その目は涙で潤んでいた。


「ああ……俺の子だ……我が火之神家の嫡男が生まれた。咲夜……よくやった。よく頑張った。さすが俺の妻だ。そして生まれてきてくれてありがとう。火之神 龍閻、お前の名だ。」


新しく親になった2人が我が子の誕生に喜び浮かれている頃、誰にも気づかれることなく、神社の本殿で小さな異変が起きていた。


祀られているものが赤子に反応し、薄く光を放つ。まるで、見つけたかのように。しかしその兆しは、まだ本来の力を出すことができず、光はすぐに収まった。


神暦760年 八月三日 出雲国 大和


あれから四年の月日が経った。

昼間から縁側でのんびり。最高だな……。


龍閻の生まれたての頃を思い出す。夜泣きや熱で大変だったが、四歳になり、だいぶ落ち着いてきた。息子の成長を噛みしめながら、幸せな気持ちに浸る。


「空天さん、何を感傷に浸っているのですか?」


後ろから愛しい妻、咲夜の声で我に返る。ああ、幸せだ。この思いを口にしたら、きっと咲夜は照れてくれるだろう。そして、今晩……。


「ちょっと色々考えていただけさ〜。」


俺はキメ顔で咲夜に返答するが、咲夜の反応は微妙だった。


「そうですか……空天さん。龍閻がそろそろお昼寝から起きると思うので、2人で境内の掃除をしてくださいね。」


え、今「境内の掃除」って言ったか?嫌だな、なんとかごまかせないかな。


「咲夜さん……えっと……今日は境内も綺麗だと思いますし……その……大丈夫じゃないかなぁ〜。それに龍閻も掃除ばっかだと嫌がるだろ?」


愛しい咲夜が呆れた顔になった……。これはもう、諦めて掃除をするしかなさそうだ。まあ、龍閻と一緒ならいいか。うちの可愛い息子だし、きっと一緒に頑張ってくれる。


「わかりました咲夜さん。お掃除行ってきまーす。さあて、龍閻はどこの部屋で昼寝してたっけ?」


「龍閻なら居間の方です。」


「ありがとう咲夜。龍閻を起こしてすぐに掃除してくるわ〜。晩ご飯の準備頼むよ。」


俺は襖を開け居間に入る。そこには、天使の寝顔で眠っている愛しの龍閻がいた。さて、どうやって起こそうか……。目覚めには口付けだろうか。愛しの息子に口付けかぁ〜。やめよう、可愛い息子でも男の子に口付けは、生理的に無理だな。


「龍閻〜起きろ〜。起きないと母さんから怒られるぞ〜。」


龍閻が眠たそうに瞼を開ける。可愛い……俺の息子は天使だ。どうしよう。これ絶対、咲夜似の美少年に成長しそうで怖いな。まあいいか。


「龍閻、境内の掃除しに行くから、ついてきなさい。」


「はい……父上。」


可愛いな、畜生。ここは真面目で威厳のある父親になって背中で語るためにも、俺よ、今だけ威厳のある父になるんだ!親父を思い出し、その姿になりきろう!


「龍閻、目が覚めたな。ほら、行くぞ。」


俺は龍閻の頭を軽く撫でたあと、箒を持って外に出る。龍閻も箒を持って後ろからついてくる。しかし、この神社は広すぎる……まあ、アレを保管しているから仕方ないか。


「さあ、掃除するか〜。」


家を出る前に思っていた真面目で威厳のある父親は、結局いつもの調子に戻ってしまった。どうしようもない。


「父上、なぜうちは神社なんですか?」


龍閻のいきなりの質問に、俺は返答に迷う。ふざけて話す内容じゃないし……。どうしようか……。


「そうだな……どこから説明したらいいか……うーん……。」


「まずな、龍閻……えっと……家は、代々ある物を守ってきた一族なんだ。」


「ある物?」


龍閻が可愛く首を傾げる。その可愛さに世界が微笑むだろう……。いや、待て、落ち着け俺よ。ここはちゃんと教えないと。龍閻も関係があることだ。


「神社っていうのは、基本的にな、聖遺物を保管するものなんだ。うちの神社もその一つさ。」


「へぇー……。」


龍閻は理解できていないのだろう。キョトンとした顔をしている。


「父上、その聖遺物を見てみたいです。」


「すまん。それは無理だ。」

「なんでですか?」


見せてくれないことに龍閻は不満に思ったのか、拗ねている。俺から見たら可愛い……俺の脳内やばいな、可愛さが思考に潜り込んでくる……そんなことを考えてる場合じゃない。ちゃんと龍閻に教えないと。


「えっとな……龍閻、見せてやりたいが見せられない理由があってな。聖遺物は本殿の中にあるんだが……誰も中に入れない。魔法で結界が張られて封じられている。」


やはり難しいか……四歳児に理解させるのは。龍閻が泣きそうな顔をして……可愛いじゃないか、畜生。


「わかりました父上。なら早く掃除しましょうよ。」


龍閻が涙を堪えて、境内の掃除をしようと言ってくれる。俺は本当に良い息子を持ったなぁ……。


「そうだな龍閻……一緒に掃除やろうや。」


俺は龍閻の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。龍閻は機嫌が戻ったのか笑っている。そして、当然のように俺は、その笑顔で胸を貫かれた。


「父上、そろそろ夕刻です。」


龍閻の声が境内に響く。俺は、その声を聞いて箒を持って龍閻の側に移動する。


「龍閻お疲れ。この辺で掃除終わろう。さっさと家に戻って飯でも食おう。」


夕日が境内を茜色に染めていく。俺はなんとなく龍閻と手を繋ぎ、家まで歩く。家は近いのに、その歩みはゆっくりで、幸せな時間だった。


家に戻り夕食を終えた俺は、縁側で月を見ながら酒を飲んでいた。


「空天さん、1人でお酒ですか?私も混ぜてください。」


「いいけど、龍閻は寝たのか?」


「えぇ、寝ましたよ。」


「そうか……なら夫婦で月を見ながら楽しもうか。」


「はい。」


2人は縁側で寄り添い、月を見ながら酒を飲む。ゆっくりと時間が流れ、月光が2人を優しく照らしている。


「咲夜、龍閻が生まれてから四年が過ぎたなぁ……。早く感じるし、少し寂しい気もする。」


「そうですね。子の成長は、早く感じますね。初めての子供ですから。」


「そうだな……。子の成長を見ていると、最近悩むよ。俺の後を継いで、こんな神社に閉じ込めるよりも、もっと広い場所に行ってほしい。」


咲夜は何か言いたかったが、言葉にできなかった。


「……」


「家は帝の命で、何百年もアレを守ってきたが、いつまで続くのやら分からん。」


「見つかるといいですよね。龍閻が大きくなる前に、適合者が。」


俺は酒をぐいっと飲み、咲夜を抱き寄せる。未来への不安を慰めたかったからだ。


「見つかることを祈るしかない。十束剣が適合者を見つけ出すまでは、俺がお前たちを守って見せる。」


そうだ……俺は家族を、そして代々守り続けた聖剣を、守らなければならない。だが、思ってしまう。


「なんでうちは、聖遺物があるんだろうな。」


その日は夫婦で龍閻の未来について語り合い、眠りについた。

その頃、龍閻はある夢を見ていた。


一面の彼岸花が咲き、空は暗い。灯りもない真っ暗な空気が広がる。恐怖はないが、何かに呼ばれている気がして、ただ歩いていた。


たどり着いた場所の中央には、一本の刀が刺さっている。その奥には、十人の人影がこちらを見つめている。何を求めているのかはわからない。そこで夢は終わった。


第一話 未来を憂いて子は、夢を見る を読んでいただきありがとうございます。もしよかったら今後とも読んで欲しいです。宣伝や評価などしてくれると嬉しいです。今後とも神代の贈り物を頼んしでください

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