十八話 夢か幻か深層心理の奥底には
神暦763年 三月六日 神聖アウグスタ帝国・宮殿
最近悩みがある……と言うか、行き詰まっている。魔力操作についてだ。スキピオには、瞑想すれば自身の魔力が見えるようになると言われたが、一向にできない。まず魔力の掴み方があれば良いのだが……それを質問したら、「人によって感覚が違う」などと言われてしまう。焦るなと言われたが……実際には、興味が勝りすぎて「感じてみたい」というのが本音だ。ホルテンシアさんやエイレーネー様にも聞いたが、「一度自分の魔力を認識できれば、ある程度の操作が可能だ」ということだった。いや、違う。俺が知りたいのは、魔力というものを直に感じることだ。力んでも感じない力を……。魔力自体は、見ること自体は簡単だ。と言うか、意識していなくても見える。淡い光が体から漏れるように見えるが、魔力量などを見るには、やはり自分の魔力を認識して初めて扱えるらしい……知らないけど。要するに冷水が入ったコップだ。自身がどのぐらいの水が入っているかわからないが、表面に水滴が付いているのが見える。冷水のコップの表面に水滴が見えても、本質のコップの中は見えない。
「うーん……俺って考えすぎなのか?」
そうやって悩みながらベッドに倒れる。外は、夕焼けが部屋を照らす。日常が過ぎていくが、魔力が見れないもどかしさが脳裏にちらついて、割とイライラする。
「ナイト」
ジャンヌが部屋に入ってきた。弓術を行っていたのだろう。銀髪の髪をまとめられ、腕にはブレイサーを付けている。
「ジャンヌ、どうしたの?」
「一緒にカルダリウムに行こうって誘いに来たのよ。……何か悩んでる?」
「……意外に鋭いね。自身の魔力を掴めなくてね……どんな感覚なのか気になって」
「そうなんだ……なら、私が教えましょうか?」
え?……ジャンヌって、もしかして魔力操作ができるの?。マジかー……教えてもらいたいけど、なんか負けた気がするし……恥ずかしい。でも……
「教えてください……」
「眠るように集中したら、夢みたいなところに行くから、そこの武器を取ったら魔力を扱えるようになるよ。」
「……夢じゃん」
「違うわよ。なに?文句?」
おっと。「怒ってますよー」とアピールするように頬を膨らませている。さて、どうしたものか……割と面倒だな。
「文句じゃないよ……とりあえずやってみるか。」
ジャンヌの助言は、単純に夢を見ていたようなものだ。それで扱えると言うなら、ジャンヌは才能があるのか、本当のことを言っているのか……やってみなければわからない。座禅を組みながら
「ジャンヌの夢みたいな場所って、どんな感じだったの?」
「えっとね……確か、氷のような大地に、空は満月が大きく輝いていて……中央に黄金の弓があったわ。」
……なにかに似たようなことを言っているな。まあいい。俺のやり方でやってみるか。なんとなく十束剣をそばに置いた。十束剣は、墨のように黒い柄に、鬼灯の紋様が刻まれた黄金の鍔、鞘は、上から下まで炎のような彼岸花に、中央には十の勾玉が円状に並んでいる。
「そういえばナイト、気になってたけど、その刀って何なの?。初めて会った時から持ってたわよね。」
「形見って感じかな……いや、贈り物だよ。死んだ両親からの……」
「そうなのね……」
贈り物なんだ……俺のために託したと考えないと、どこかが悲鳴を上げる気がする……そんなことより、やろう。
「ふぅ……」
俺は息を吐き、集中する。自分の中を探るように意識が深くなる。眠るように深く深淵に落ちていく…………ふっとした時に、別の世界のような、夢や幻に閉じ込められたような場所に着いた。
周りは、炎のような彼岸花が咲いており、鬼灯が灯りのように怪しく目立つ。空を見れば真っ暗な中に勾玉らしきものが十個あり、それが円状に並んでいる。どこかで見たような……見なかったような感じだ。これがデジャブってやつなんだろう。単純にさまようことにした……と言うか、歩くしかない。だって、ここがどこなのかもわからないのだから。そうやって歩き続けていたら、いつの間にか十束剣の前……いや待て、なんでここに十束剣があるんだ?……と言うか、見覚えがある。十束剣の柄を握る。何故か十束剣に触れないとと思ったら、柄を握ると世界が十束剣に吸われる。そして俺は十束剣を抜刀した――
突然……現実に戻された。なんか色々あり過ぎて理解ができなかった。しかし、リアルな夢?いや幻か?。俺は、ふと手を見る。淡い光が全身にあるような不思議な感覚、そしてその淡い光を、手を動かすように自然と操ることができた……これってもしかして
「で、で、できたー」
魔力を掴めたのだ。ジャンヌが俺の声を聞いてびっくりしたようにこちらを見る。
「できたのね、おめでとう。」
「なにこれヤバい、楽しい。なんか脳内に魔力のイメージができるようになってる。面白い。ヤバいヤバい楽しい。なんて言うのかな、元々見えてた世界が広がった感じ。凄い。」
興奮が止まらないと言うか……脳内でも言語化無理ダァ――スゲェ
「ありがとうジャンヌ。本当にありがとう。」
そして理解した。これが魔力を見るって感じなんだろう。ジャンヌの魔力が見える気がする。前まで見ていたのは淡い光の粒子という感じだったけど、今は魔力が炎のように体にまとわれているのが見える……いや、感じるという方が正確か?。前まで見えた世界が一変した。その日は、ワクワクした感じが収まらず、うまく寝付けない夜になった。
神暦763年 三月七日 神聖アウグスタ帝国・宮殿
朝から俺は、昨日が夢じゃないかと思い魔力を見る。体から溢れる魔力が見えて、安心と興奮が収まらない。そのまま恒例の鍛錬のために走り込みと素振りをする。普段はその時何も考えないが、今日は違う。魔力操作ってやつはどうなのか、これで肉体強化ができるなと考えが巡る。そして色々な技名や戦闘する妄想が捗る。風呂に入った後に部屋に戻り、アウグスタ語と出雲語の復習をするが、やはり男の子である俺は、色々と技名を考えてしまう。そんな姿をジャンヌが冷ややかな目で見ていたが、気にしない。何故かエイレーネー様がペットを愛でるように俺を見ていたが……気にしないことにした。そして昼になり、俺はスキピオの元に行った。
スキピオは宮殿の庭にいるので、俺はダッシュで彼のそばに行った。
「スキピオさん、できました。自身の魔力を認識できるようになりました。」
「おぉ……そうか。なら次のステップに行けるな。」
「はい!」
「なら今日からは、肉体強化の練習をするか。ブーストは、魔力を肉体全体にまとわせて身体能力を上げる技術だ。まあ、イメージは全身の血管に魔力を流す感じだ。」
「血管?」
「そう、血管だ。何故だって疑問をお前ならすると思うから先に言うが、肉体全体に行き渡らせるなら血管をイメージした方がいい。血管なら全身に行き渡っているしな。」
「なるほど……わかった。」
「その返事は、だいたい分かってない奴がするもんだが……まあ良いだろう。」
「まずゆっくりで良いから、全身に魔力をまとわせろ。」
「はい!わかりました。」
血管に魔力を流すイメージ……心臓から全体に……血液が流れるように、水路の水が決まった場所へと流れるように……無駄に溢れていた魔力が薄れていく。流れるべきところに流れる、無駄がなくなり、外に漏れる魔力がなくなったからだ。
「そうだ……ゆっくりで良い」
心臓を中心に、頭から足先まで魔力が流れる。なんとなくだけど、血管に魔力が流れるような感覚になってきた。
「龍閻、ジャンプしてみろ。」
「はい」
俺はスキピオに言われるままジャンプした……アレ?地面が……遠い。軽くジャンプしたつもりだったはずなのに、横を見ると2階の窓が見える。
「え?」
俺は呆気に取られ、地面に尻から落下した。痛みが少ないことにも怖いが……さっきの感覚がわからなかった。
「どうだった、龍閻。初めてブーストをした感想は?」
この日、初めて俺は魔力を扱えるようになった。
十八話を読んでいただきありがとうございます。もし面白いと思ったらブックマークや感想、コメントをお待ちしています。今後とも邁進していきますので応援をよろしくお願いします。