十三話 決意を胸に日常を過ごす
神暦763年 二月二十六日 神聖アウグスタ帝国 宮殿
背景:父上と母上、あの世でお元気にやっているのでしょうか? 俺は、神聖アウグスタ帝国の皇女ジャンヌ様に奴隷として買われたそうです。買われた直後にアウグスタ語習得のためにとあるエルフのお姉さんに教えてもらったのですが……とても怖かったです。死ぬ気で丁寧に教えてもらいました。何故でしょう? 未だに思い出したくない記憶になりそうです。しかし、俺の今の状況を知ることもできてよかったと思っております。それにしても、なぜかジャンヌと皇后エイレーネー様に気に入られております。理由は、知りませんが……。
今何やっているかって? 今は、ジャンヌに手を引っ張られています。理由は、皇帝に会うからだそうです……怖い……。
そう、俺は今、ジャンヌに手を引っ張られている。銀髪をなびかせる綺麗な子。俺と同じ歳の子……。
「ナイト、ほらほら行くわよ。」
「ジャンヌ様、少し急ぎすぎじゃありませんか?」
ジャンヌは、立ち止まり、頬を膨らませて「怒ってますよー」とアピールするようにこちらに顔を見せる。
「ナイト……いえ、龍閻。私のことは呼び捨てで、敬語も不要と言ったよね?」
「ごめんなさい……ジャンヌ……」
「よし、じゃあ行きましょう。お父様を待たせてはダメだからね。」
そう言って、また手を引っ張られる。
おい、お前十束剣を持ってねぇのか?と思ったそこの君、なんと俺は自分の部屋を手に入れた。なぜか用意してくれて、今はそこに十束剣を置いている。……って、脳内で何を言っているのだろう、俺は。
そうして脳内で独り言を言っていると、とうとう皇帝の執務室についてしまった。なぜかウキウキしているジャンヌを見ながら扉の前に立つ。
「さあ、入りましょう、ナイト。」
ジャンヌはそう言うと、雑に扉を開く。執務室の中は、重要な書類であふれており、中央には、茶髪の髪に整えられた髭をした、威厳がダダ漏れの男が座っている。そう……神聖アウグスタ帝国の君主……叡帝トラヤヌス・アウグスタ。叡帝というかっこいい異名があるが……。
「おぉ、ジャンヌ。どうしたんだ、急に来て。可愛いやつめ。」
「お父様がナイトを連れてきてって言ったじゃありませんか?」
「おぉ、そうだったなぁ。すまんすまん。あははは。」
この様に、彼は娘バカなのである。かっこいい異名も、なぜか置物感を出せるこの人を、違う意味で尊敬しそう……。そして、誰かに似ているから心が締め付けられる……。
「龍閻か……お前は優秀だなぁ。たった三ヶ月で完璧にアウグスタ語をマスターするとは、ジャンヌもいい奴隷を手に入れたものだ。」
「お褒めの言葉ありがとうございます。本日は、何用でお呼びになられたのですか?」
「ああ、警告がしたくてね。お前はジャンヌの奴隷であることを忘れるな。お前の行動は、ジャンヌの評価となる。神聖アウグスタ帝国の皇族、貴族は、奴隷のステイタスなどでもその人物を測るのだ。」
急に真剣な顔で言われても……最初のギャップのせいで頭に入らないのは、ヤバいな……。
「それにお前は、ジャンヌの護衛としても今後働いてもらう。だから我が国で優秀な戦士にお前を今後鍛えさせることにした。政治、学問はホルテンシアに、武芸と戦略をスキピオに習え。」
スキピオ?……誰だ?……しかし、皇帝が言うのなら優秀な人物なのだろう。しかし……俺にカッコつけながら、右手はジャンヌの頭を撫でている状況で、言葉が頭に入りづらい。やめてほしい、本当に……。と言うか、カッコつけるなら最初から最後まで貫いてほしい。
「お父様、私もナイトと共に鍛えたいのです。私もスキピオから学びたいです。特に弓術を習いたい。」
ジャンヌからこの言葉を聞いた皇帝は、ジャンヌを抱き上げ、その顔には涙があふれていた。正直、ドン引きしている俺は……。
「おぉ……素晴らしい。皇族の淑女として素晴らしいことを言った。それでこそ我が娘だ。」
「ええ、私はお父様の娘ですから。」
ジャンヌがご満悦のように顔を向け、皇帝は何故か感動し続ける。そんな謎の空間に放置された俺は、どうしろと言うのだろうか?……というか、本当になんだろう、この空間は。
「皇帝殿下、そのスキピオというお方は、どこに居られるのですか?」
「ああ、今いない。ちょうど国境線の小競り合いで出しているから。」
「なら、なぜ今日そのようなことを伝えたのですか?」
「ジャンヌとイチャイチャをお前の目に焼き付けたかったからだな。」
「ただの暇つぶしかよ!仕事しろや、皇帝!」
「え〜、お前には俺の包みやかな娘との時間を奪うというのか……酷い。お父さん、そんな子に育てた覚えはありません。」
「あ、ナイトがお父様を泣かせた。」
嘘泣きをするみっともない大人を見ながら、俺は言う。
「警告は受け止めますが、それ以外の理由がしょうもねぇし、あんたに育てられた記憶はございませんので……。そして、もう一度言わせてもらいます。仕事しろや、皇帝!」
「たまにはいいじゃないか。娘とのイチャイチャをお前の目に焼き付けても……しくしく。それに、ガキのくせに俺のジャンヌと毎日イチャイチャしやがって。父親の身になって考えてよ、この泥棒猫め。」
「……」
「おっと、龍閻くん。そんな死んだ目をこちらに注がないでくれ……。そんなダメ人間を見るような目を向けないで。泣いちゃう。」
「はぁ。」
「ため息やめて。皇帝でも心が傷つくよ。」
「他に話がないのなら、失礼してもよろしいですか?」
「あ、うん……お疲れ様。」
「私もナイトと出ますね。お仕事、頑張ってくださいね、お父様。」
「うん、頑張るよ〜。」
そうやって無駄な時間を過ごした、皇帝との無駄なおしゃべりでした。しかし、あんな皇帝でも優秀で怖いということはよく分かる。……人間ってなんだろう。
「ナイトは、お父様に辛口よね。まあ面白いから良いけど。」
辛口になるのはしょうがない。俺相手だとふざけ出す皇帝が悪いのか、それともジャンヌの前だからか?
「そうでもないよ、ジャンヌ。早くホルテンシアさんの所で勉強しに行こうか。」
でも、皇帝が言っていた警告は正しいものだと思った。ジャンヌは、なぜ俺を気にいっているのか知らないが、こんな裕福な生活を送れている恩がある。出雲国の男なら恩を返せと、父上ならきっと言うだろう……。何もできなかったあの時よりも、絶対に強くなりたい。智力で、武力で。その思いはここに来て生まれたのかな?
そうやって色々と考えながら、ジャンヌと共に歩く。本が多く並ぶ書庫のような部屋、教育の環境としては最適な場所。そこに居るのは、侍女であり教育係を務めている金髪でとても美しい容姿をしたエルフの女性、ホルテンシアさん。
「今日は、聖遺物について学びましょう。」
「ホルテンシア、今日も色々教えてね。」
和やかな雰囲気で勉強が始まる。俺は、ジャンヌのナイトとしての教育だが、ジャンヌにとっては皇族として当たり前の知識を入れるための仕事と言える。同じ歳ながら、周りの期待に押しつぶされないところは尊敬できる。
「では、始めていきましょう。聖遺物は、六種類に分かれます。聖杯、聖剣種、聖槍種、聖弓種、聖釘、聖骸に分かれます。神聖アウグスタ帝国には、この6種の聖遺物が全て揃っています。しかし、聖遺物は世界中の国々が国家の武力として保有しております。」
常識としての聖遺物の教育。母上からも教わったことと一緒だ。そして、十束剣もその聖遺物の中にある。最近気づいたというか……分かったことがある。誰も言っていないし、この国の人たちは、多分俺が持っていた刀が聖遺物だと思っていない。俺は、十束剣の所有者だ。この力で守ると決めた人たちを守ろう。父上と母上が俺にそうしてくれたように……。だから、スキピオから早く武術を習いたい、強くなりたい……。今は、そう思うしかない。
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