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神代の贈り物  作者: 火人
一章 空虚な子は新天地に立つ

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十二話 言語の壁を知りて知識とする

神暦762年 神聖アウグスタ帝国 宮殿


拝啓 父上、母上、あの世はどうでしょうか? 元気にやっていますか? え、今お前は何をやっているかって?…今、脱衣所で裸にされております。何を言っているかわからないですが、多分俺は、奴隷? 召使い? になったと思います。買われたのは、他国の金持ち? です。父上と母上がいまだに生きていたら、きっと泣き喚いて助けを求めていたでしょう。ですがそれが無理なので、ガタガタ震えるしかありません。


「……」


「お母様、ナイトが震えているんですけど。」


「そうですか。寒いのかしら?」


本当に何故こうなっているのだろうか……。怖い。文化が違うから、母上が教えてくれた「外国」に居るのはわかるけれど。現に、二人の女性に体を洗われています。一人は、銀髪でとても綺麗な大人の女性。もう一人は、俺と同じくらいの歳で、その大人の女性によく似た容姿の銀髪の女の子。


俺が買われてから直後に、銀髪の子が俺の手を引っ張ってお風呂に連れてきた。なぜか、大人の銀髪の人も一緒に入っている。だけど不思議と、気になる人がいる。誰かの声に似ているような気がして……。


「……」


「ナイト、いい湯でしょう? ここはカラダリウムって部屋で、暖かくていいお風呂でしょ?」


「ジャンヌ、この子はアウグスタ語を話せないのよ。何を言っているか伝わっていないわ。しかし、困りましたね。言語が通じないと……。」


「そうですね……。お母様、だったら侍女のホルテンシアにナイトの教育をしてもらったら? 」


「いいアイディアですね、ジャンヌ。あの子なら出雲語を話せますし、それにあなたの教育係です。あなたも出雲語を勉強できますし、共に教育が行えるわ。」


なんか二人で盛り上がっている……。言葉が分かれば、何を話しているのか気にならなくていいのに……。なぜだろう、さらに寂しくなる。父上と母上のことを考えた時も寂しいが、なんだかそれ以上に寂しくなる。怖い……。これからどうなってしまうのか分からないのが無性に怖い。二人は、話が終わった途端に俺の手を引っ張り、脱衣所に入ると、新しい服を着せられた。脱衣所を出る前に、十束剣を持ててよかった。不安な気持ちを、十束剣がある程度拭い取ってくれるから。銀髪の子は、俺の手を引っ張ってとある部屋に行く。そこの部屋に居たのは、金髪に尖った耳を持つ、綺麗なエルフの女性だった。


「これは、ジャンヌ様。こちらに来られてどうなされたのでしょうか? 本日は、お勉強の日ではありませんよ。それに、そちらの異邦人は?」


「ホルテンシア、この子は私の奴隷。私のナイトにするの。でもアウグスタ語が話せないし理解できないの。この子は出雲国の子だから、ホルテンシアは出雲語も話せるでしょ? だからこの子に教えて。ついでに私にも出雲語を教えて。」


「仰せのままに、ジャンヌ様。まず最初に、動揺しているジャンヌ様のナイトに挨拶をしないと……。」


エルフの女性は、俺の方を見ている。なぜか体が震える。


「初めまして、異邦人……いえ、ジャンヌ様の騎士となる方。私は侍女で、ジャンヌ様の教育係を任されております、ホルテンシアと申します。あなたのお名前は?」


エルフの女性の言語は、出雲語だった……。泣きそうだ。久しぶりに出雲語を聞いた気がする。本当に泣きそうだ……。


「は……はじめまし……て、火之神……龍閻……っと言います。」


案の定、俺は泣いた。嗚咽を漏らしながら、涙をポロポロと流す。ただ久しぶりの故郷の言語……。久しぶりに聞いても、やっぱり何かが違った。何で泣くのか、なぜ少しホッとしたのか分からないが、泣いてしまう。俺がいきなり泣き出したことに、銀髪の子はオロオロと露骨に困惑し、エルフの女性も困った顔をする。当然だろう、いきなり泣き出すのだから……。でも、涙が出るので仕方ない。


「えっと……ホルテンシア、私のナイトはどうして泣いたの? 後、なんて言ったの? 私のナイトをいじめたら許さないわよ。」


「いえ、ジャンヌ様。自己紹介をしただけです。とりあえず、この子の名前は分かりました。」


二人は、慌てて会話をしているが、また知らない言語に戻っていた。俺は、その声を聞き、段々と先ほどのホッとした温かな何かが冷めていき、涙が止まっていく……。泣き止んだ俺を見て、二人も落ち着いた。


「龍閻くん。君が今どういった状況か理解できている?」


エルフの女性が再び出雲語で話しかけてくる。先ほどよりはましで、うまく会話ができた。


「先ほどは、取り乱してしまい申し訳ありません。改めまして、私は火之神龍閻と申します。人攫いに遭い、多分ですがこの家の召使いか奴隷になったのだと思っています。」


そういえば、エルフの女性はさっきホルテンシアさんと言っていたな……覚えておこう。さっきは、取り乱し過ぎて状況が…って、なんでホルテンシアさんは、俺に驚いた顔を向けるんだ?


「龍閻くん、あなたはそこまで理解していたの?……凄いですね。そんな子供でここまで状況判断ができるなんて……。」


「いえ、そうでもありませんよ。ある程度は、なんとなくです。それよりも、銀髪の子が不満そうに睨んでますよ。」


ホルテンシアさんは、銀髪の子に振り向く。その子は、頬を膨らませて怒っているとアピールしている。なぜ怒っているかは知らない。再びホルテンシアさんは、知らない言語に戻る。今更だが、ここの言語は何だろう……国名とか知らないが……。


「ジャンヌ様……どうなさいましたか?」


「ホルテンシアだけズルい! 私もナイトと話したいし、それに……ナイトの名前を教えてもらっていない。」


「ジャンヌ様のナイトの名前は、龍閻という名前ですよ。それに、ジャンヌ様は出雲語が分からないでしょう。あの子も先ほどまで、その気持ちだったのです。なので、もう少し待ちましょう。ゆっくり丁寧に、貴方様のナイトに我が国の言葉を教えていきましょうね。」


「……わかったわ。どのくらいかかるの?」


「具体的には言えませんが……数ヶ月か一年かかります。貴方様のナイト次第です。」


「わかったわ。ならホルテンシアは、彼に付きっきりでアウグスタ語を習得させなさい。そういえば言い忘れていたけど、お母様の許可は出ているから、ちゃんと習得させなさい。」


「はい……分かりました。」


ホルテンシアさんが再びこちらの方に振り向く。なぜか分からないが、恐怖が背中に迸る。


「龍閻くん……これから徹底的にアウグスタ語を学んでもらいます。あなたは、この言語をマスターしなければ、きっと無用の産物として処分されます。生きたかったら、死ぬ気で覚えてくださいね。」


汗がダラダラと流れる。恐怖で顔が強張る。俺は、もしかしたら詰んだのかもしれない。人生で第二のピンチが訪れているのかもしれない。分からないが……覚えないと死ぬ。今の俺にとって、ちょうど刺さる脅しだ。


それから三ヶ月の猛特訓が始まった。読み書きに発音と、徹底的に叩き込まれる日々が続く。しかし、意外に習得には短い期間で終わった。まぁ理由はシンプルだろう。命が掛かっているのと、環境が良かった。出雲語を話せるのが今の環境ではホルテンシアさんだけであり、周りはアウグスタ語を話す人しかいない。そのため、耳で聞いたものを書いたり、物語を音読したりする中で文字と発音を習得した後は、ひたすら会話を続けるだけだった。その習得の際に、銀髪の子がジャンヌという名前で、お姫様ということを知った。俺は、とんでもない人に買われたようだ。彼女は、俺の名前が分かってから龍閻と呼ぶが、周りにはナイトと紹介する。なぜそうするのか分からないが、面倒なので聞いていない。しかし、この三ヶ月間は地獄であった……。

十二話を読んで頂きありがとうございます。

今後も邁進しますのでブックマーク、感想、コメントをお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
和風の雰囲気にエルフやドワーフといった存在が溶け込み、独自の世界観が魅力的でした。 空天が親しみやすくて良かったです。咲夜とのやり取りからは良き夫婦関係が伝わってきて、とても微笑ましく感じました。 第…
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