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神代の贈り物  作者: 火人
一章 空虚な子は新天地に立つ

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十一話 空虚な子に魅了されて

神暦762年 十一月二十五日 神聖アウグスタ帝国・宮殿


神聖アウグスタ帝国。その国は、聖なる黄金の杯を有する神聖な国だ。皇女ジャンヌ・アウグスタは、皇族の伝統であり神聖アウグスタ帝国の上級階級の流儀に倣い、初めて自分の奴隷を買うことになった。


「お父様、お母様、私の専用の奴隷を、やっと買ってくれるのですね。」


ジャンヌは、銀髪をなびかせながら、嬉しくてはしゃいでいる。その光景を微笑ましく見つめる皇帝トラヤヌス・アウグスタが、ジャンヌの頭を撫でる。


「ジャンヌ、落ち着きなさい。ただの奴隷を買うだけだ。そんなに喜ぶほどのものじゃないだろう?」


ジャンヌと同じ銀髪を持つ皇后エイレーネー・アウグスタが紅茶を飲みながら口を開く。


「陛下のおっしゃる通りです。ジャンヌ、落ち着きなさい。皇女なのですから、皇族らしい振る舞いなさい。でも、ジャンヌにとって初めての奴隷ですもの、はしゃぐ気持ちもわかるわ。自分でどの子がいいか選ぶのよ。」


トラヤヌスはジャンヌの頭から手を離し、顎に手を当てながら感慨に浸る。


「しかし、ジャンヌも六歳になったか。ネロやカリギュラの時も思ったが、子の成長は早いものだな。」


エイレーネーは微笑み、「そうですね」と答える。トラヤヌスとエイレーネーは、親としてジャンヌの成長について色々と考えてしまうのだった。


執事が部屋に入り、報告する。


「殿下、奴隷商が参りました。」


「そうか……この部屋に連れてこい。商品もここで見て選びたいからな。」


「かしこまりました。では、そのようにいたします。」


執事は、奴隷商と手枷と鎖に繋がれた奴隷たちを連れてくる。それは服とは言えない、布で最低限を隠している程度のものだった。若い男女、多様な種族、年齢もバラバラで、最高齢が二十代で、自分と同じくらいの年齢の子まで、合わせて二十人。皇族のために用意したとわかる、美形揃いの奴隷たちだ。


「さぁ、皇帝殿下様、皇后殿下様、皇女殿下様……私どもの商品でございます。お好きな品をお選びください。」


三人は、奴隷たちを品定めするが……ただ一人の子供に興味を持った。痩せているが、黒髪で顔が整って見える。その子供は、なぜか武器を持った異邦の子だった。心がなく、ただ虚ろな瞳。その日のことを、彼らが忘れることはないだろう。きっと永劫に……。天命が示したかのように、運命が動き出した瞬間だった。


(龍閻視点)


あれからどのくらい経っただろうか……。わからないが……。全裸で船に乗せられ、子供だけの部屋に押し込められてから、もう日の光を見ていない。食事も出されるが、味もなく美味しくない。夢では、あの日の光景がこびり付いて眠れなかった。父上と母上の遺体なのに、記憶は霧がかかったようにその形を消してしまう。部屋の中には、俺と同様に泣いている子供が大半だった。


「父上……母上……」


読んでも誰も反応しないし、一番反応してほしい人は、もうこの世に存在しない。父上と母上を呼ぶ度に心が締め付けられる。そして、思い出して縋りたいのに……原型のない記憶が邪魔をする。ただ繋がりがあるとしたら、いまだに持っている十束剣程度だろう。墨のように黒い柄、鬼灯の紋様に黄金の鍔。鞘は上から下まで丁寧に描かれた炎のような彼岸花に、中央部分には十の勾玉が円状に並んでいる。とても綺麗な模様……これを見ているとなぜか落ち着く……。あの楽しい記憶が隠れていても、現実にあったことを証明してくれるからだ。いつものように十束剣を抱きしめ、心を少しでも平穏に保つしかない。怖くて、怖くてたまらないが……さらに何かを壊してしまうよりはマシだった。そうしていると、部屋に男が入ってきた。その男は、金髪でやつれ気味だが、裕福そうに高そうな服装をしている。子供を丁寧に選びながら声をかける。


「おい、そこの刀を持ったガキ、手を出せ」


その男が何を言っているか、どこの言葉かわからないが……俺の手首に鎖がついた手枷をかける。そして十束剣を取ろうとするので、力強く十束剣を握り締めるが、その男は十束剣に触れると、何か不快感を覚えたのか露骨に離れた。


「チッ……なんだその刀は。俺のモンにしようと思ったのによぉ。しかし工芸品とセットなら高値で売れるなぁ。うぜぇガキだが、お前ついて来い。宮殿が新しい品を欲しがっているからなあ。お前を連れて行く。」


何かブツブツと何かを言っている……と思っていたら、鎖を引っ張られ部屋の外に出された。次に布を腰に巻かれた。周りには、同じようになっている人たちがいた。若い女性や男性、大人から俺と同じくらいの歳の子まで……多分20名ほど。十束剣を握りしめながら歩かされ、外に出た。そこには、見知らぬ世界が広がっていた。広大な都市で、見ただけで大国とわかる。出雲国とは違う家、人々、服装。その光景を見れたのがたった一瞬だったが、違う世界を見せられた。そして牛車のような乗り物に乗せられた。出雲国では牛が引くが、ここだと馬らしい。


「……」


皆静かだ。実際色々考えてごまかしているが、全然気が晴れない。父上が、不安の解き方は不安のことを放置して他のことを考えるって言っていたのに、逆に怖くなる。ガタガタと牛車のような乗り物が動く。荷物のように運ばれ、人間じゃない気分にさせられる。段々と大きな壁に囲われた場所に入った。その中は、外の都市よりも豪華で多くの人々が歩いていた。


「お前ら出て来い」


男が、鎖を引っ張り出される。そこでは、動物、いや売り物のように扱われ、中に進んでいく。ただトボトボと歩く。俺たちは、下を向くように言われており、中をちゃんと見れなかったが、とある部屋まで歩かされた。その部屋に入ると、綺麗な服装をした人たちの前に並ばされた。一人は、短髪で茶褐色の髪に整えられた髭。白い布を体にぐるぐるに巻きつけたような服に、目立つような紫の布を付けている。一人の女性は、銀髪の長髪にとても綺麗な女性で、男性と似た?よくわからないが、男性と同じように紫が目立つ服装をしている。最後の子は、俺と同じぐらいで、女性の人とよく似た容姿をしていた……とても幸せそうな人たちが俺を見ている。軽い沈黙が流れると、俺たちを連れてきた男がその三人に話しかける……


「皇帝陛下、皇后陛下、皇女殿下、どうでしょうか?。我が商会の品は、特にこのエルフの子供なんてどうでしょうか?。皇女殿下の初めての奴隷に相応しいかと思いますが」


「……奴隷商、気になる子が一人いるのだが、いいかな?」


「陛下……そうですね。奴隷商、私も気になる子がおりますね。」


「気になる子でしょうか? どの品か教えてもらってもよろしいでしょうか?」


「そうだな……そこの武器を持っておる子供について教えてもらおう。」


「あ、あぁ……この品ですね。この品は、東の国にございまする出雲国から仕入れた品でして、その武器をなんども取ろうとするのですが、不思議と持ちたくないので、ずっとその品に持たせております。それにその武器は、工芸品としても美しいので、この品とセットで販売させてもらっております。」


「なるほど……その子について詳しく教えてもらおう。」


「えぇ……仰せのままに。この品は、年は6歳ほどで、見た目もいい男の子でございまする。労働奴隷、性奴隷としてもお使いになるでしょう。6歳の子供ですから、好きなようにできますし、教育次第では使える物と考えております。しかし言葉を理解できていないようですが、出雲国の読み書きと出雲語を話せます。」


「父上、母上……いいですか?。私はあの子に決めました。父上と母上が気になっている子、私もなぜかわからないけど気になるし、あの子が良いの。」


「そうか、ジャンヌがいいならその子を買おう。」


「そうね……私もあの子が良いと思うわ。それに何かに刺さるような感覚も知りたいし。」


「それは、どうもありがとうございます。では、会計の方に移らせて貰います。金額は、金貨四十枚ですね。」


「金貨四十枚か、その程度なら払ってやる。その子を置いて帰るが良い。金なら執事が用意してある、持って行け。」


「ありがとうございます、殿下。」


何か話が終わったのか、俺以外の人たちを連れて皆帰って行った。残され、豪華な服装をした三人の親子?がこちらを見ている。そして銀髪の子が俺に近づき、手枷を外し、何かを言っている。


「あなたは、今から私の奴隷。私を守るナイトよ。」


この日の出来事を、一生忘れることはないだろう。この出会いが、俺の人生で最高の出会いだと気づくのも、そう遠くない未来である。


十一話を読んでいただきありがとうございます。今後とも邁進していきますので応援をお願いします。ブックマーク、感想やコメントをお待ちしています。

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