十話 地獄に至る日
出雲国 京の都 天探家
百人の精鋭たる武士たちが揃っていた。火之神家の殺害命令が出てからわずか1時間で、戦闘が可能なほど集まることができた。その武士たちをまとめるのは、金本 真左衛門である。そして、ニヤけた顔が止まらない男もそばにいた。
「さすが天探家の武士たち。僕ちんの呼び声ですぐに駆けつけるとは、いい部下を持ったなぁ、僕ちんは。」
「左様でございます、御影様。御影様から、この者らに今回の仕事内容を説明していただけませんか?」
「いいよ、金本。僕ちんは偉いからやってあげる。えっと……家来ども。今回は、父上様からの命でもある。僕ちんを馬鹿にした火之神家の皆殺しと、天探家の十束剣を取り返せ。」
「仰せのままに」
百人の家来たちが一斉に返答する。この言葉で、火之神家の運命は決まったのだ。この部隊を仕切る金本が、指示を出し始める。
「これより、悪道なる火之神家が住まう神社を攻め入るが、なあに、簡単な仕事だ。火之神家の連中は、たったの三人だけだ。しかも男一人に、女と子供だけの簡単な仕事。ああ、忘れていた。女も強姦するなよ。御影様の命令だからな。皆、丁寧に焼き殺せ。これより転移して移動するが、山だからな、境内に入るのに時間がかかるが、丁寧にやろう。」
武装した百人が魔法陣に次々と入り込み、消えていくのだった――
神暦762年 出雲国 大和
今日は、適合者が現れなかった。単純に疲れた……というか、あんなに眠かったのに眠れないし、疲れが取れない感じが嫌だな。まあ、月を見ながら縁側で酒を飲んでいるが……。しかし、御影という中身がガキの大人は、なんで今日あんなに逆上したんだ? 龍閻もあんな風にならないように、ちゃんと教育を頑張ろうと思えた。それにしても、十束剣が誰を適合者に選んだのか、簡単にわかる方法でもないもんかなぁ。そう言いながら、共に縁側のそばに置いた十束剣を眺める。そうすると、酒のお代わりを持ってきた咲夜が声をかけてくる。
「空天さん、今日は、お疲れ様でした。お酒をどうぞ……」
「ありがとう」
さて、明日も儀式をやらなきゃいけないし、早く寝たいんだけど、どうにも眠れない。不思議だなぁ。俺は、酒をグイッと飲み干すが、今だに酔いも来ない。
「……」
「どうかしたんですか、空天さん?」
「いや、酔いもしないし、なんか疲れてるはずなのに眠れなくて……」
「そうなんですね。なら、一緒に時間を過ごしましょう。」
なんだ?!……いきなり人の気配が増えやがった。何人いる? いきなりってことは神聖魔法の転移か? なんで急に……? ……待て、混乱するな俺……。何人だ? 十人程度なら……多いな……五十?いや、百か……なんでいきなり来るんだ……。
「咲夜、龍閻を起こせ。今すぐ逃げる準備をしろ。」
咲夜がいきなりのことに戸惑う。仕方ない……俺も混乱している。咲夜が龍閻を連れてくるまで、待つしかない……。しかしこれは、死んだな。百人相手じゃ無理な気がするし、転移できたのなら完全に手練れだ。勝ち目がない。ここで十束剣を持って逃げてもいいが……ダメだ。それをすると確実に家が潰される。たとえ友である優雅でも、このことを許せば内乱の元になるかもしれないし……俺らの存在を自分のわがままで生かすことはできないだろう。十束剣の守り手が戦わずして逃げ出したとなれば死罪……。戦っても虐殺になるなら、俺はどちらの道も選ぶ。十束剣を龍閻と咲夜に持たせて逃がす。俺は、戦って死ぬ。これで家や龍閻たちを巻き込まなくて済む。素晴らしい提案だ、よくやったぜ、脳内。そうやってやることを決めたら、咲夜が龍閻を連れて戻ってきた。
「咲夜、龍閻……お前らは、逃げろ。ちょうど鳥居の側で百人の賊が現れてな、対処しきれん。だから後は、任せる。」
少し顔が引きつっているかな……。まあ、怖いっちゃ怖いし、死にたくないが、誰かがやらなければならないことだ。仕方がない。
「空天さん……何を……言っているのですか? ダメです。なら一緒に逃げましょう。そうすればきっと……」
「ダメだ、咲夜……。逃げたら家が取り潰しの上に家族全員処刑だ。それよりかはましだろう。」
やっぱり混乱しているよな。というか、いきなり過ぎて整理ができないのが正しいのか? まあ人生いつも突然だ。仕方ない仕方ない。
「空天さん……お願い、辞めてください……本当に……死なないで……」
咲夜が泣き始めてしまった。俺の胸に飛び込み、必死で泣く。龍閻は、混乱していた表情だったが、咲夜が泣き出したことにつられて泣いてしまった。
「咲夜……わかってくれ……お前は、俺の女だ。ならやることもわかっているはずだ。だから、龍閻を頼んだ。」
咲夜は、俺の顔を見て何かを諦めたのか、泣き止んで離れる。その顔は、複雑でとても言い表せないものだった。俺は、十束剣を持ち、龍閻に近づき、龍閻の肩に手を置く。
「龍閻……俺の息子ならよく聞けよ。まず十束剣は、お前が持て。絶対に守り抜け。そして生き残れ……それがお前の役目だ。咲夜の言うことを聞けよ。お前は、俺の自慢の息子だ。」
なんかスラスラ言えた。泣くとかありゃいいのに、泣けないが……。父親としての意地なのかもしれない。俺は、龍閻に十束剣を持たせると、十束剣が血管に血液が通うように魔力が巡り、生き返ったように鞘に模様が浮かび、鍔の色も変化した。まあ、嫌な予感で感じていたが、やっぱり理由が適合者だったか……。今なら嫌な気分でもない。逆に安心させてくれる。十束剣の鞘には、上から下までびっしりと丁寧に描かれた燃えるような彼岸花、そして中央には十の勾玉が円状に並んでいる模様が浮かんでいた。鍔も黄金色に変わり、鬼灯の紋様が鮮やかになった。
「さあて、そろそろ逃げ出せ、咲夜と龍閻。」
俺は、槍を取り、外を見た。火を放ったのか、炎と煙が見える。境内は、山の天辺にあるが、そんなことはどうでもいいだろう。炎自体は、山を覆っていない。
「裏口から走って逃げろって言ってるそばから来たな。早く逃げろ!」
「龍閻、いくよ。空天さん……生きてください。死んだら一生恨みます。」
「父上、父上……待って、母上……父上が」
咲夜は、龍閻の手を引っ張り、走る。龍閻は、言い付けどおり覚醒した十束剣を持っている。まだ賊に咲夜と龍閻は見つかっていない。俺は、今からそいつらに特攻するがな。咲夜と龍閻の時間を稼ぐためになぁ。槍を持って俺は、走った。目的地は、境内・随神門。
随神門
随神門には、炎が上がっていた。賊は、火をつけながらもそこで何かを探していた。おそらく十束剣だろう。境内で選定の儀を行っていたのは、そこだからな。大勢の武装した野郎どもがいた。そこには、見たことのある顔もある。御影の従者だった金本という男だ。御影同様に謎理論の持ち主という印象だったが……。なぜ襲うのか分からんが、やることは一つ。奴らを丁寧に殺す。
「さあて、始めてやろうかな……」
俺は、槍を中段に構え、全身に魔力を纏わせ、力強く前に進んだ。狙いは、ハゲ頭を晒している男だ。魔力による身体強化で凄まじい速度を得た突きは、そのハゲの男の下顎から突き刺さり、後頭部を貫通した。即死したのが感覚的にわかる。死体は、痙攣し、顔の原型なんて無くなった。槍を抜くと、賊たちは気づいたらしく、囲んできた。
「まず一人目なんだが……。貴様ら、ここは十束剣を守ってきた神社って知りながら来てるよな? さすがに死ぬ覚悟なしで来やしねえよな?」
まあ、当たり前の啖呵を切ってやったが、なぜか爆笑された。
「グハハハ、こいつ、一人でこの人数に勝つ気でいやがる。」
「ああ、馬鹿なんじゃねえか?」
おっと、割と腹立つな……。勝つわけねえだろ。死ぬ気で特攻してる奴を笑うとは、天罰でも喰らえばいいのに。
「ふー……金本殿、この蛮行の説明をしてくださってもいいのでは?」
俺の目の前にいるのは、金本である。彼も武装して右手には、刀を持っている。しかし彼もニヤニヤしており、死ぬなんて考えておらず、まるで馬鹿にする目だ。状況を見たらそれが正しいのかもしれんが……。
「そうですね……教えてあげましょう。これは、天探家の有難い命令からです。『悪逆の火之神家から十束剣を奪還せよ』、です。」
悪逆ねえ……俺から見たらお前らなんだけど……。まあいい、理由がわかったならいい。
「貴様ら、そこの悪道な火之神家を殺せ。」
金本の命令で、およそ百人の武装兵が襲ってくる。俺も槍を構え、その人混みの中に入る。俺は一人なので、的確に急所を狙うしかねえが。
「まず二人目……オラ、首がガラ空きだよ。三人目」
まず二人目の奴をそのまま顔面を突き刺し殺した。続いて、突き刺された奴の隣にいた奴が動揺した隙を狙い、槍を横に振り、首を切り裂いた。まるでおっさんの頭から抜刀されたように、きれいに横に切り裂けた。二人目の顔は、そのおかげで原型がない。次に、槍が三人目のおかげで次の体制がうまくできなかったせいで、後ろから一文字に切り裂かれた。
「イッ……」
痛いが、死ぬような怪我じゃないと思うが、後ろの奴は、回転するように体を動かし、槍の横切りに遭い、胴体を真っ二つにした。
「これで四人目……。お前ら、どんだけいるんだよ畜生!」
奴らは、まだ俺を舐め腐っているので、攻撃が単調というか、シンプルに俺を集団でボコることを楽しんでいるようだ。まあ構わず丁寧に殺すけどな。一撃でどんどん殺していくが、俺も同じように負傷していく。だがなぜか痛みがねえ……。というか、どんな深手でも動ける気がする。父親パワーかもなぁ。
「ハアハア……ハアハア」
しかし、限界ってもんがある。三十を数え終わった頃には、もう死にかけだ。左腕を失い、血が流れ続ける。腹も切り裂かれ、内臓が飛び出ている。血がないのか、視界が段々と暗くなっている。
「外道な火之神家の当主、火之神 空天。なぜそこまでになって戦えるのかな? さっさと死ねよ。こっちは、ここまで部下が死ぬ想定してねえんだよ。」
「ハアハア……知るかボケ……ハアハア……俺はなぁ、シンプルにだ。親としてここに立ってられるんだよ。龍閻と咲夜の逃げる時間を稼げれば、いい。今何分稼いでいるか知らんが、それでも立ってお前らを殺せるまで戦うんだよ。」
そうだ……盾としてこいつらを留まらせろ。死ぬまでな。
「親ってもんは、子の未来を守れれば上出来なんだ。信じて……ハアハア……信じて、生かすのが今の俺の仕事だ。俺の女も、その覚悟がある。追っ手が来ても、きっと我が身を盾にして子供を守る。そんな女を嫁にしたんだ。ハアハア……」
視界がもう真っ暗だ。立っているのかもわからん。すまねえな……咲夜、龍閻……先に行く。咲夜、だらしねえ夫ですまなかった。いつも酒で失敗しているのに学習できずにやらかす。そんな俺を愛してくれてありがとう。龍閻、俺みたいな父親ですまねえな。本来ならこんなことになるはずじゃなかった。お前が幸せな顔で成長して、孫を抱く姿とか見たかった…………
(龍閻視点)
母上に手を引っ張られて山を降りていた。もう周りが炎に囲まれていた。最初はなかった男の声や足音が、段々と近づいてくる……怖い。ただ十束剣を持って走っていた。山を降りるのに必死で走っていた。
「空天さん……」
母上が泣きながら走っている。不安でいっぱいだが、今は逃げないとダメってことだけわかる。だから必死で逃げるが……とうとう見つかってしまった。
「お、やっと見つかったぜ。」
「そうだなぁ、子供と女が。」
武装した二人組の男が近づいてきた。母上は、とっさに俺を引っ張り、自分の後ろに隠して、手を広げ大声で叫ぶ。
「この子は、絶対に殺させない。あなたたちのような人は、空天さんに殺されます。あの人が助けに来てくれる。」
「さあ、その助けは来るのかな?」
怖くて、母上にしがみついてしまう。母上も震えていた。それでさらに恐怖が生まれてしまう。怖いと泣き叫びたい……。
「龍閻、逃げなさい……早く逃げて!」
母上の言葉に、俺も振り返らず逃げてしまった。十束剣を持って、ただただ走った。山を抜け、さらに走った……遠くまで走った。そして俺は、疲れてしまい、どこかわからないが、天命のように洞窟があり、そこに隠れた。
「父上……母上……こわいよぉ……たすけてぇ……」
洞窟で龍閻は、うずくまり、涙を流し、恐怖で体が震える。何が起こったのか、どうなったかさえ分からない。ただ洞窟で一人涙を流していた……。気づいたら朝だった。泣き疲れて寝てしまったのか、よく覚えていなかった。十束剣を持ってゆっくり歩き出した。無意識に家がある方にゆっくりと歩いていた。何時間経ったのか分からない……ただ歩き続けた。黒煙が家の方向を教えてくれる。そして着いてしまった……着いてしまったのだ。人混みの中、燃え尽き廃墟になった家、そして見せしめのように二つの遺体が吊るし上げられていた。裸なのか分からないほど燃やされ、炭になっていた。龍閻は、なんとなくその二人が誰だったのかわかってしまう。
「父上ぇ……母上ぇ……」
その声は、誰の耳にも届かない小さな声だった。大声で泣きたいのに、涙は流れているのに、声が出ない。空虚になっていく。ただその遺体を見続ける。何時間経とうと、見続けていた。声が出ない……何も分からない……無になっていく。龍閻は、今までの自分が死んでいく。両親の記憶も靄がかかり始める。思い出せない……父上と母上の顔も……声も……霧が隠してくる……。何時間経ったのか、二人の男が遺体を見続ける童を見つける。この二人は、人攫いで子供を捕まえ、奴隷として売り飛ばす仕事をしていた。
「おい、あそこのガキ、いい金になりそうだ。」
「そうだな……それに良いもん持ってるなぁ。刀か、いいね。しかも黒髪で顔立ちもいいなぁ。周りには、親らしき大人もいねえ。ちょうどいい。攫っていくぞ。」
二人の男が童に近づき、紐で縛る。しかしその童は、無抵抗で声さえ出ない。
「なんだこのガキ、気味が悪いな……。おい、その刀、良いもんか?」
「いやそれがなぁ、ガキが持てねえ重さしてるんだよ。しかも鞘から抜けねえ……不良品だな。工芸品としては売れるか?」
「ならこのガキとセットにして売り飛ばそうぜ。そうしたら中々良い値段になる。それに海外で高く売れると聞くし、南蛮の奴隷商に売り飛ばそう。良いもん手に入れたぜ。神様は俺らみたいなもんにも恵みをくれるぜ。いい贈り物だぜ。金貨は確定だな。」
その後の童こと龍閻は、海外の奴隷商に売られ、海外に売られることになった。しかし、無表情で空虚な瞳は、親の死体の映像を映し続ける。
「このガキと刀は、そうだな、神聖アウグスタ帝国の皇族か貴族に高く売れそうだ。楽しみだなぁ〜。いい商売になりそうだ。」
龍閻を乗せ、奴隷船は、神聖アウグスタ帝国に向かう。
次章 空虚な子は新天地に立つ
十話を読んでいただきありがとうございます。これで0章が完結しました。次の十一話からは、一章の始まりです。
しかし、戦闘や細かい描写がまだまだ難しいですね…壁を感じます。克服できるように、書き続けますので今後ともよろしくお願いします。ブックマーク、感想とコメントをお待ちしています。




