プロローグ 幕開け
これは、太古の時代の物語。
自然界に魔力という力が存在し、その力を生まれながらに持つ「魔獣」が跋扈し、人間を喰らい、人間の生存を脅かす時代。人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族など、同じ人間でありながら異なる特性を持つ種族は、種の垣根を越えて手を取り合い、魔獣に立ち向かうしかなかった。
そんな過酷な時代だからこそ、人々は文明の礎を築き、魔法を生み出した。自然界に存在する炎、水、風、雷、土、氷の六属性に加え、人の手で作り出された「神聖魔法」と「呪詛魔法」。これらの技術は、やがて彼らの生活の根本になっていった。
魔法の基礎を築いた彼らは、その技術を使い、様々なアイテムを生み出していく。これは、後に「神代」と呼ばれる、輝かしい時代の始まりだった。しかし、その時代は突然終わりを告げる。
それから長い年月が流れ、人間は生存競争を勝ち抜き、魔獣と共存する道を見つけた。独自の国々を作り、今度は人間同士が争いを繰り返す長い時代となっていた。あの輝かしい時代が御伽話として伝わるほど長い年月が続くが、そんな時代に、ひとつの転機が訪れる。
とある農夫が洞窟の奥で、黄金に輝く杯を発見したのだ。その側には、古びた石板が置かれていた。
「我々は作ってはならない物を作ってしまった。この世を歪め、人が生み出してしまった我欲の塊であり、世界に不要な異物の一つである。黄金の杯は人の魂を喰らい、呪いを振り撒く。人間よ、この杯を使うなかれ。これは、我ら人間が産み出した悪意である。ゆえにここに封じ、永遠の時を越え、見つかることなきよう祈る」
しかし石板の警告も虚しく、人間は争いに勝つため、この黄金の杯を手に取ってしまった。その力は強大で、杯を手にした国は戦争に勝利したが、石板の警告通り、杯は敗戦国に呪いを振り撒いた。それは伝染病のように広がり、老若男女の命だけでなく、そこに住まう生き物の命までも屠っていった。
それでも、人間とは恐ろしいものだ。自分に害がなければ、他者の苦しみには目を向けない。勝利した国は、この黄金の杯を「聖杯」と呼び、信仰した。
やがて世界中に次々と神代の異物が発見される。人間たちは聖杯にならい、神代からの異物を「聖遺物」と呼ぶようになる。国々は競い合うように他の聖遺物を探し出し、それを兵器として利用し続けた。聖遺物は人間にとってなくてはならない文化の一部として、世界中に浸透していった。そして、聖遺物を作り出した先祖の時代には、きっと神がいたに違いないと考えるようになった人間は、その時代を「神代」と呼び、聖遺物を神からの贈り物として信仰するようになった。
聖遺物の恐怖を知る者は、恐れ、その存在を忌み嫌う。聖遺物を正義と信じる者は、その力で権威を示す。
人間の曖昧で歪んだ世界。必ずしも良い人は報われず、また悪人が必ず裁かれるわけでもない……。そんな理不尽を味わう童は何を見るのだろうか?
聖遺物を守ってきた一族の齢六歳の童が見ているのは、燃え上がる地獄絵図、黒焦げになり、見る影もない両親の遺体。聖遺物を守ってきただけの彼らの両親が、まるで悪人であるかのように死んでいく。聖遺物を巡る戦は、理不尽に不幸を撒き散らす。
これは、そんな童が織りなす英雄譚。
神代の贈り物 プロローグを読んで頂きありがとうございます。作品に興味を持ってくださったらとても嬉しいです。初めて書いたので、作品を投稿するのに時間がかかると思いますが頑張って参ります。