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再び勇者に襲われたんだが


――カイトがその言葉を発した瞬間、空間が歪み、圧し掛かるような重圧が辺り一帯を包み込む。


 あの場の重力だけが狂ったようだった。


「な、何が……」


 俺は目の前の光景が理解できず、呆然と立ち尽くす。

 魔狩の連中が一斉に膝をつき、悲鳴を上げながらその場に崩れ落ちる。

 頭を抱え、呼吸すらまともにできていないようだった。

 やがて泡を吹き、彼らの体がピクリとも動かなくなった。


「低俗な攻撃ですわ」


 ()()()()……重力を操作する魔能。

 単純な力だが最強……絶対に敵にはしたくない。

 一段落ついたのを見て、俺はカイトの方に歩いていく。


「異世界に来たのを実感したぜ……」

「さ、片付いたことですしワタクシは国に戻るとするかしら」


 気づけばクラリッサが俺の隣に立っていた。

 長い金髪を優雅にかき上げ、つまらなそうに辺りを見渡し、そのまま歩き出す。

 まるで何事もなかったかのように、凛とした足取りで石畳を進んでいく。

 俺が呆然としていくと、彼女の背中から最後に声が飛んできた。


「――そうそう。貴方、存在が()()()()()()()


 そう言い残しクラリッサは何事もなかったかのように城門をぬけ、静かに消えていった。

 結局何しに来たんだあの女は……あ!!


「せっかくだったら全部オシャレにしていけよ!!」

「気に入ってるじゃないか……」


 そう言ってカイトはクラリッサとは反対方向、俺の城の方へ歩いていく。


「ここに来た目的を忘れるな。早く行くぞ」

「……なんだ目的って?あの女に一発食らわせることか?」

「違うわ!指輪だよ指輪。お前の部屋まで案内してくれ」


 ああ……そういえば俺たち指輪を取りに来てたんだったな。


「すまん、忘れてたわ。じゃあ俺の部屋まで案内するぞ」


――そして俺たちは城内へと足を踏み入れた。



◆◇◆◇



「ここが俺の部屋だ!あまり漁るなよ」


 そう言って俺は部屋の扉を勢いよく開ける。

 部屋はしっかり掃除しているし、別に見られて困るものもない……と思う。


「了解だ。まずベットの下でも見とくか」

「やめろぉぉぉぉぉぉぁぉぁぉぁぉ!!」

「……冗談だ」


 叫び声を上げる俺に、カイトは少し引いた表情でそう言う。

 言っていい冗談と言ってはいけない冗談があるだろ!!


「で、そのタンスとやらはどこだ?」


 カイトの問いに、俺は部屋の一角にあるタンスを指さす。


「あれだ。あのタンスの引き出しに入れておいたはずなんだよ」


 俺はタンスの前に立ち、取っ手に手をかける。


「確かこの段だ……よし、開けるぞ!」


 勢いよく引き出しを開けた、その中にあったのは……


「あっれ……なんだこれ。……ただの石?」


 出てきたのはどこにでも転がってそうななんの変哲もない石。

 慌てて引き出しの奥まで手を突っ込む……だがその中にはどこにもない。


「ない……ないぞ!?絶対ここに入れたはずだが……」

「……ッ!一足遅かったか……」


 カイトの声に怒気を帯び、そのオーラに背筋がゾクッとする。カイトが一気に空気を変えたのだ。


「ちょっと待て、どういう意味だよ。一足遅かったって……」

「そのままの意味だ。もしここに本当に指輪をしまっていたのなら()に盗まれたと考えるのが自然か……」


「奴……?奴って誰だよ……!」


 問い返したが、カイトはそれには答えず、静かに肩を落とした。


「……ありがとなテンセイ。俺はもう帰るよ」

「え……そんないきなりすぎじゃないか!」

「……悪いな。じゃあな」


 その瞬間、カイトの足元からふわりと炎が現れる。


「ちょ、まっ――」


 俺が言い終わるより早くカイトの姿は炎の中に溶け掻き消えた。


「――技名叫ばなくても使えるのかよ……」



◆◇◆◇



「テンセイ様まだこの国を元の姿に戻さなくていいんですか?」

「本当はとてもとっても直したいが、それには莫大な費用がかかるからな。うん!仕方ない!」

「なんか国が上品で洒落た雰囲気になって嬉しそうに見えますけどね」

「同じ風景だとつまらないだろ?……気分転換だよ」


 あの女、クラリッサが勝手に俺の国を改装してから、しばらくが経った。

 最初は唖然としたが、まあ……元に戻すのももったいないし、このままでいってやらんこともないなと思っている。


「そうですか。それよりテンセイ様、国民から食料が不足していると不満が出ているそうです」


 ……食料か。

 異世界に来た影響が、ここにきて現れてきた。

 俺の国はもともと豊かではなかった。

 国土は狭く、山がちで平地が少ない。そのため農業に向いた土地は限られていて、国内だけで食料をまかなうことは、昔から難しかった。

 それを補うために、うちの国は他国との外交と貿易に力を入れ、余剰生産のある農業国から食料を大量に輸入していたのだ。

 だが今は、異世界に飛ばされたことで貿易相手との繋がりは完全に断たれてしまった。

 見知らぬ大地。隣国もなければ、交易路も存在しない。

 今までは備蓄でどうにか持ちこたえていたものの、時間の問題だったようだ。


「食料問題……どうしたものか……」


 俺は椅子にもたれながら天井を見上げ、重いため息を吐いた。

 今から新たな他国に交渉を持ちかけるという手もある……だが、それは現実的ではない。突然、空から降ってきたような国をそう簡単に信用する国があるとは到底思えない。

 ……だったら一か八か、あいつなら……



「カイト……カイトなら魔王だし食料ぐらいあるんじゃないか?」

「確かにそうですね。あのお方なら話を聞いてくれることでしょう」

「いきなり押しかける形になってしまうがやむを得ん。今すぐ向かうぞ!」


 そう決めるや否や俺とハッシュは急ぎ支度を整え、城門へと向かう。

 門の前で一度振り返る。異世界に来てから不安と戸惑いを抱えながらも、懸命に生きる人々。

 絶対、俺は見捨てたりはしない!

 

「――ちょっと待えい!!」


 そう高らかに心の中で宣言したその瞬間、どこか聞き覚えのある声が前方から聞こえた。

 

「……あ、あの時の!確か名前は……ピリオドだっけ?」

「勝手に終わらすな!イディオットだ!イディオット・ステューピッド!」


 目の前に現れたのはいつぞやの自称勇者イディオットだった。

 ……あんな醜態を晒しておいて、よくもまぁ再登場できたな。


「あーそんなんだったな。うん、ところでWiiリモコン。一人で何の用だ」

「だ・か・ら、イディオットだ!

……今日ここに来たのはお前と一騎打ちするためだ!」

「そうなんだ。じゃあ一人でしてくれ今忙しいんだ」

「一人で一騎打ちってどういうことだよ!俺は今からお前を切り捨ててやる!」


 そう言って、背負った大剣に手をかける。


「テンセイ様、私が殺しましょうか?」

「だ、大丈夫だ……」


 ……物騒な提案をサラッと口にするなよ。

 ここはどうにか俺の話術で切り抜けるしか……


「おい色男、背中に剣、背負ってて大丈夫か?前と同じことになるぞ」

「俺は色男じゃ――……無くはないな。だが俺の名前はイディオットだ!前と同じだと思うなよ。今回はしっかり対策をしてきた!」


 対策……?一回剣を下ろしてから抜くとか……?


「これを見ろ!!」


 そう言って出してきたのはボタンだ。

 ボタンと言っても服に着いているボタンではなく、カチッと押すやつだ。


「ボ、ボタン……?」

「その通り!このボタンを押すと、背中の剣がポンッと鞘から飛び出す仕組みだ!これでもう()()()()()()とはおさらばってわけよ!」


 なんだと……こいつ、何も解決していないのにも関わらずドヤ顔!正真正銘ただの馬鹿だ!


「そ、そうなのか!……すごいな」

「やっぱり私が殺しましょうか?」


 せっかく空気読んで褒めてあげたんだから余計なこと言うなよ!


「だろ!早速いくぞ!――ポチッとな」


 イディオットが自信満々にボタンを押す。

 すると、背中の剣の柄がぶるぶると不穏に震えだした。


「お前を殺す男の名はイディ――」


 その刹那。


――バシュッッ!!


 風船の空気が一気に抜けたような音を立てて、剣が天高く吹き飛んだ。

 一直線に空の彼方へと消えていくその銀の光。


「……飛んでいったな」

「……飛んでいきましたね」


 俺とハッシュは無表情で空を見上げながら同時につぶやく。

 そして、イディオットは涙目で膝から崩れ落ちる。


「お、俺の剣が……ッ!くそっ……次は覚えとけよ!!」


 そう言い残し顔を真っ赤にして叫びながら、イディオットは脱兎の勢いで走り去っていった。


「ハァーしょーもな小学生レベルですわ」


 ……イディオット。マジで何しに来たんだ。

 まぁいい、気を取り直そうか。俺たちの目的はあいつじゃない。


「ハッシュ!今のはきっぱり忘れて、カイトに会いにいくぞ!」

「はい。では、参りましょうか」


 こうして、俺たちはカイトに会いに魔王城へ向かったのだった。


――まさかあんな提案をされるとは全く知らずに……

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