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可愛いメイドさん

「マ、マイヤちゃん!?なんでここに!?」

「テンセイ様を感じたのです!!」


 なんと横の壁を貫き、現れたのは奴は俺と一緒に捕まって以来行方知らずのマイヤちゃんだった。

 両手で抱えるには不釣り合いなほど大きな柄の長い斧を持っている――おそらく、あれで壁を壊したのだろう。

 俺が呆然とする横で、マイヤちゃんの姿を見たカイが薄く口角を吊り上げた。


「これは……嬉しいサプライズですね。わざわざ自ら来てくれたのですか、僕の大切な()()()()が」


 その声に全身が冷えた。

 なんだこいつ……マイヤちゃんが研究材料だと……


「テンセイ様……あたし、こいつ嫌い。殺してもいぃ?」


 お互いの目が鋭く光る――片方は喜びの光……もう片方は殺意の光。

 二人とも今にも飛び出していきそうだ。

 

「殺しては避けて欲しい。色々あってあいつの魔力が欲しい……。殺したら魔力がどうなるか分からないからな」


 もしもカイが真犯人だった場合、殺してしまって魔力が回収できないなんてことになったら犯人は以前俺のままだ。

 目的を忘れるな……今、俺の目的はカイの足止めと魔力の回収だ。

 俺は再度覚悟を決めて、カイを正面から睨む。

 だが、俺とは裏腹にカイは首を傾げた後、口を開いた。


「神魔の秤を使う時点で三翼傑の『魔力』が欲しいのは容易く想像できましたが……残念ながら、あなたのご期待には添えないかもしれません」

「何を言って――」

「――僕は転生者です」


 カイは俺の言葉を遮り、なんの躊躇いもなくそう口にした。


「て……転生者!?」


 その瞬間、俺は言葉を失い動揺する。

 こいつが俺たちと同じく転生者だと……勝手に俺が異世界人だと思っていただけだったのか……


「何も知らなさそうなので、説明してあげますよ」


 その時、カイは心底退屈そうに息を吐き、淡々と語り始める。


「転生者の神能に使われる魔力と魔法に使われる魔力は似ているようで全くの別物なんですよ。

 『魔力』としての質が違いすぎるんです

 なので、残念ながら転生者の魔力に対して神魔の秤を使うことは出来ないのですよ」


 そして、言葉を続ける。


「魔法とは違い神能の魔力は常人には認識することすら叶わない……つまり、貴方たちが見つけ、魔力を感じたであろう『証拠』は必然とこの世界の人物のものだと分かります」

 

 レイヴェナもあの時に言っていた。

 魔法は神能の模造品に過ぎない……そして、神能の魔素は、異世界人の臓器から生成される魔素よりもはるかに強力であると。

 理屈としては筋が通っている……だが、こいつを信用できるかは別問題だ。


「信用ならないな……お前が転生者なのも、神魔の秤が転生者に使えないことも」

「信用するかどうかは貴方の選択、好きにしてください」


 焦りが俺の胸を締めつける。

 今は先に行った二人のためにできるだけ時間を稼ぎたい、だが時間が足りない……どうすれば……。


「――テンセイ様!!困ってるならあたしに任せて!!」


 その時、声を上げたのはマイヤちゃんだった。

 それは子供ならではの力強い言葉だった。子供ではないが。

 マイヤちゃんに頼るのは……


「あたしはメイドなの!!役に立ちたい!!」


 マイヤちゃんは頬を膨らませ、お菓子をねだる子供のように足踏みをする。


「だが……」


 その瞬間だった――カイが身体にまとわりつくような気味の悪い殺気を放った。


「もう殺してもいいですか?僕は早くその子を研究し尽くしたいのですよ。僕には()()()と違って時間がありませんから」


 カイが一歩前に踏み出す。

 明らかに俺たちを攻撃する気だ――


「――やっと遊んでくれるのぉ!!」

「マイヤちゃん!!」


 カイが踏み出したと同時、マイヤちゃんは地面を踏み抜きカイの方へと跳躍――そのままの速度で大きな斧をあの小さな体で縦に振り抜いた。

 その威力は人など容易く両断できる一撃――


「本当に興味深いですね……」


 しかし、カイはその唐竹割りを右横にひらりと避け、流れるように左足でマイヤちゃんを打ち抜く。

 その衝撃からかマイヤちゃんは後ろへと滑るように飛ぶ。

 そして俺の横で着地。


「大丈夫か!?」

「あいつムカつく!!」


 マイヤちゃんはカイに対して怒りを露わにする。

 蹴られたというより、自ら後方へ跳んで衝撃を逃したらしい。

 信じられない反応速度だ。


「次はこちらから……」


 その時、カイは右手から何かを投げ飛ばした。

 その方向は――俺。

 その神速で飛んでくる「何か」は俺を襲う……ように見えた。


「……もう!」


 その瞬間、俺の体は横に倒れる。

 マイヤちゃんが俺のことを押し倒したのだ、そのおかげで俺はその「何か」にかすることなく避ける。

 だが、マイヤちゃんの押した左腕には小さな切り傷なようなものが滲んでいた。


「あたしにまかせてよ」


 その言葉は今までと違い、明らかな覚悟があった。

 その時、悟った。


――俺には仲間を信じる力が足りなかったのだと。


「……ここは任せた。俺の可愛い()()()()()


 マイヤちゃんの顔が、今まで通りの可愛らしい笑顔に変わる。


「あたし、メイドさん!!頑張る!!」


 その笑顔に背中を押されながら、俺は後方に走り出した。

 マイヤちゃんを信じて、前へ――。


――そのまま、二人は見つめ合い相対する……


「さぁ……()()()を超えるため役に立ってくださいよ。僕の可愛い研究材料さん……」

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