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お嬢様はご不満のようです


「なんか……なんか超広い庭ができてるんだが!?あの噴水は何だ!?そしてこの街並みはなんなんだよ!」


 一部の町並みがまるで別物になっていた。

 以前はレンガ造りの建物が立ち並ぶ、どこか味気ない雰囲気だったはずの景色が、白を基調とした石造りの街並みに様変わりしていた。


「誰だ……誰がこれをやったんだ!!国を勝手に改造されて黙っている王がいるか!!」


 俺はこの意味不明な状況に叫ばずにはいられなかった。

 怒りの声にカイトは肩をすくめて答える。


「まぁ誰がやったかはおおよそ見当はつくがな」

「それは誰――ん?」


 視線の先、勝手に造られたらしい広場の中央に場違いな存在がいた。ドレスを優雅にまとった、まるでお姫様のような金髪の美女。しかも胸がやたらデカく、ドヤ顔をしている。

完全にあいつが犯人だ。


「……少し、行ってくる」


 俺はこんな性格だが、生まれ育ったこの国が大好きだ。

 そんな国を勝手に変えられてキレないわけがない。


「ちょっ……!待て!」


 カイトの制止も聞かず、俺はその女めがけて全力で向かう。すると、こちらに気づいたのかあの女がゆっくりと俺の方を振り返った。


「何かうるさいですわ……ってなんですの!?」


 構うものか、このままこいつに突っ込んでやる!!

 俺はさらに勢いをつけ、闘牛のごとく女に向かって全力で突撃する。


「オラァァ!!」


 激突する……その刹那。

 突然、どこからともなく一振りの刀が飛来し、俺の右腕を正確に狙って来た。


「……は?俺の腕が……」


 なんと、その飛んできた一振りの刀が俺の腕を綺麗に切り落としていた。


「ガァァァ!」


 俺はあまりの激痛に地面をのたうち回る。視界が滲む。

 血が止まらない。これは……これはやばい……!意識が飛びそうになる。


「ワタクシに攻撃しようとした貴方の自業自得ですわ!」


 高飛車な声が頭に響く。

 痛みで霞む視界の中、カイトが慌てて駆けつけてくる姿が見えた。

 そして俺の様子を見て、額に手を当てながら深いため息をつく。


「あぁ……言わんこっちゃない」


 そのタイミングでこの金髪女がカイトに気づき目を細め、口を開いた。


「あら、赤口じゃない。この野蛮な男は一体、何者なんですの……」

「ただの馬鹿だ。気にするな」

「救護ッ!救護ッ!」


  俺は激痛と失血で朦朧としながらも必死に叫んだ。冗談じゃねえ……腕が落とされたんだぞ!?

 それなのにただの馬鹿って何だ!?

 カイトがゆっくりと俺に近づく。


「仕方ないな……兜雞羅神(とけいらしん)


 カイトがそう唱えた瞬間、世界が逆回転するような感覚に襲われる。切り落とされたはずの腕が、まるで時間を巻き戻すように元の位置に戻っていく。


「……はぁ?どういう……ことだ……?」


 驚愕で言葉が出ない。恐る恐る指を動かしてみる。

 痛みは完全に消え、血も一滴も残っていない。まるで最初から何も起こらなかったかのように。


「す、すごい……。これも……魔能ってやつなのか……?」

「あぁそうだ。赤口の魔能は応用が利く。融通性と利便性に長けた力だ。

 その中でもこの兜雞羅神は便利でな。発動から一時間以内に受けた傷なら、完全に修復できる」


 カイトが淡々と説明する。俺が感心していると隣の金髪の女が不機嫌そうに口を開いた。


「……ワタクシに何か御用でもありまして?」


 そうだ……そうだったな。


「俺の国をこんな派手に変えたのはお前か?」


 俺が問い詰めるようにそう言うと、この女は何故か誇らしげな表情を浮かべ答える。


「そうですわ!汚らわしい国でしたから、このワタクシが華やかにしてやったのですの!」


 汚らわしい……だと?

 その言葉を聞いた瞬間、俺の堪忍袋の緒が切れる音がした。

 そして俺はほぼ無意識に女の胸ぐらをつかみにいっていた――その瞬間、どこからともなく長槍が飛来し、俺の左腕を狙い撃つ。


「がっ……ああああああっ!!」


 激痛が全身を駆け巡り、俺はまたしても地面に崩れ落ちる。今度は左腕だ。激痛で意識が遠のく。なんなんだ、この攻撃は!?誰がやってるんだ!?


「学ばないな……兜雞羅神」


 カイトが淡々と呪文を唱えると、俺の腕が先程までのことが嘘かのように再び蘇った。恐ろしいものだ。もはやこの流れにも慣れてきた自分が少し怖い。

 咳払い一つして、俺は怒りを抑えつつ話を切り出す。


「なぁカイト、知り合いみたいだけどこいつは一体何者だよ」

「……魔王だぞ」

「魔王……?あー魔王ね。そっかそっ……ん?」


 一瞬間を置いて、俺は聞き返す。

 すると女が両手を広げ、堂々と名乗りを上げた。


「そう!ワタクシこそが大安(たいあん)の魔王 クラリッサ・エヴァンジェリン・アストリアですのよ!」


 この女が……魔王だと?

 ただのドヤ顔した巨乳のお嬢様にしか見えないんだが。

 俺は半信半疑でその女を睨みつけながら言葉を吐き出す。


「はぁ……こいつが魔王?どこがだよ!」

「貴方、いい加減にしないと本当に殺しますわよ!?」

「かかってこいよ!もう悪役令嬢は時代遅れなんだよ!」


 俺がそう発した途端、今度は上空から巨大な鉄の塊が落下してくる。


「ちょ!あれは何だ!?なんで空から変な物が!?」


 空を見上げると、なんと巨大な鉄の塊が俺めがけて落ちてくる。

 すると、俺が状況を理解する間もなく、クラリッサが一歩前へ出た。

 その瞬間だった。突然、砲弾が飛来し、落下する鉄塊を空中で見事に撃ち抜いた。爆発による衝撃で火花が散り、鉄片が雨のように降り注ぐ。

 俺は呆然とその光景を見上げていた。

 さっきから当たり前のようにしているがどう考えたって異常事態だろ!


「なんなんだよ、さっきから!」

「ワタクシが一歩前に出ていなかったら、貴方は今頃ミンチでしたわ。温情に感謝して欲しいですわね」


 当たり前のような口ぶりで言い放つクラリッサに対し俺は怒りの表情で睨みつける。

 そんな俺の肩にカイトがそっと手を置いて言った。


「大安の魔王、クラリッサ。クラリッサのもつ大安の魔能は彼女に危害を及ぼすものを全て排除する」


 カイトの説明で全てが繋がった。俺が攻撃しようとするたびに飛来する武器や物体……あれは全て俺を排除しようとしていたものだったのか。


「言い換えるならば、彼女は実質無敵だ。テンセイ、もう喧嘩売るのは諦めろ」


 無敵……無敵!?あまりに人知を逸した能力に、俺は思わず腰が抜けそうになる。


「まあな、魔王ってのはどいつもこいつもチートだらけだ。魔王を殺して新たな魔王になんて話、所詮はおとぎ話に過ぎない。残念だったな、テンセイ」


 カイトもムカつくやつだ。何が無理だ、無理かどうか決めるのはこの俺だ!

 心の中で少しカッコつけながらそんなことを考えていると、クラリッサはなにかを思い出したように突然、口を開く。


「おっと、ワタクシはそろそろ帰りますわ。赤口、よくこいつをしつけておくことですわ!」

「しつけられるのはお前だよ!」


 そう言うと、俺はカイトに軽く頭を叩かれる。


「おけおけ、よくしつけとくから」

「本当に愚かな下民ですこと。赤口、次は魔合議(まごうぎ)でお会いしましょう。それではごきげんよう!」


 そう言ってクラリッサは優雅に背を向けた……その刹那。


「――なかなかいい女がいるじゃねーか」


 不意に低い声が響く。

 気づけば、クラリッサに対峙する形で数人の男たちが広場に現れていた。

 どいつもそれぞれ違った武器を持っている。


「どちら様でして?」

「俺らは()()、さぁ大人しく投降すれば、乱暴にはしないぞ」


 などと、魔狩を名乗る男たちは不敵な笑みを浮かべながら俺らへ向け宣言する。

 魔狩……こいつらがカイトが言っていた魔王の首を狙おうとする奴らか。

 どうやらこいつらは目の前に魔王が二人いることには気づいていないようだが……


「赤口、代わりにやりなさい。ワタクシはあんな穢れた連中を見るのも不愉快ですわ」


 クラリッサは腕を組み、軽くため息をつきながら言い放った。

 まるでゴミ処理でも頼むかのような口ぶりだ。

 そしてカイトはため息をつきながら魔狩の方へと無言で歩き出す。

 その姿に、場の空気がピリつく。一触即発の緊張が辺りを支配していた。

 やがて、魔狩たちの目の前で足を止め、右手を彼らに向けてまっすぐ差し出す。

 その瞬間、彼の全身から放たれる気配が一変する……


「――廣目頭神」

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