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せっかく異世界に来たのに魔法が使えないので魔王になります


「キャラメルペタジーニペプシカーノで」

「……よく分からないのでキャラメルフラペチーノにしますね」

「テンセイもなんか飲むか?」

「じゃあ俺はダーク……フラヌ……ぺぺぺチュラーノってやつで」

「……ダークモカチップフラペチーノですね」


 俺はいま、魔王と並んでオシャレなカフェにいる……そう、魔王とだ。

 どうしてこんな奇妙な状況になったのかって?

 それは、少し前にさかのぼることになる。



◆◇◆◇



「この世界の全てを教えよう」

「全て……」

「と、その前に!」


カイトの纏う空気がまた変わり、先ほどまでの威圧感が嘘かのようにすっと消える。


「こんなところで話すのもあれだろ?おすすめの場所があるんだよ。そこで話そうか」


 ふと見ると、これまで気にも留めていなかった黒い壁の奥に立派な玉座が見える。

 俺ら一般人の想像するザ・魔王の間って感じのやつだ。

 普通ならここでラスボスと最終決戦だろうに。


「少しこちらに近づいてくれないか」


 カイトは手招きしながらそう言う。


「……何がしたいんだか分からんやつだな」


 ぼやきつつも俺は言われるまま近づいた。


「よし、いくぞ……閻獄受神!」


 俺とカイトの周囲に見覚えのある炎が現れる。


「これは、さっきの!」

「そうだ。これは赤口の力の一部だが」


 その炎は俺たちを包み込む。しかし今度は体の脱力感は無く、ただほんのり暖かいだけだった。

 そんなことを考えていると一瞬にして周りの炎が消え去った。


「着いたぞ。ここが俺のお気に入りの場所だ」

「え……もう?」


  目の前に現れたのは、白と深緑を基調としたオシャレな建物。

 異世界には不釣り合いなほど洗練された外観に、看板には円形のロゴ。


「俺の元いた世界の店を参考にして作ったんだ」


 王である俺にとって、こういう場所に足を運ぶ機会はほとんどない。胸の奥が、少しだけざわつく。


「さぁ、行こうか」

「お……おう」


 俺はカイトに連れられ店内へと足を運ぶ。

 白い塗装と木風の素材を基調とした清楚感溢れる店内となっていて、暖色系のペンダントライトがより落ち着く雰囲気を醸し出している。

 俺たちは注文をしにカウンターへ向かった。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」


 その声を聞いた瞬間、俺は固まった。


「……え!?ハッシュ!?なんでこんなところに!」


 そう、注文を受けていた店員は俺の専属メイドのハッシュだった。

 エプロン姿で接客している光景に困惑の表情を浮かべているとカイトが説明をしだした。


「お前だけを攫いたかったのだが、着いてきてしまってな。色々あってここで働いてもらってるんだよ」

「その色々が気になるんだが……」


 俺の疑問をさらりと無視し、ハッシュが慣れた手つきでメニューを開く。


「テンセイ様、細かいことは気にせずご注文をどうぞ」


 妙な沈黙が流れる。これが無言の圧力と言うやつか……


「……分かったよ」



◆◇◆◇



 そして今に至ります。


「あそこの席空いてるな」


 注文品を受け取った俺らは席に座る。

 店内には他にも数人の客がいる。

 俺は他の客に聞こえないようカイトに小声で尋ねる。


「そういや、魔王がこんなとこにいて大丈夫なのか……」

「バレたら騒ぎになるかもしれないが、まあ大丈夫だろ」


 カイトは飲み物を飲み、一呼吸ついてから再度口を開く。


「よし、この世界のことを事細かに話してやろう」

「それはとてもありがたいな」


 カイトの言葉にうなずきながらも、どこか不穏な空気を感じ取った俺は自然と背筋を伸ばして身構える。


「まず、この世界は六人の魔王が支配している」

「ろ……六……?」


 六人の魔王だと?

 思わず口の中で繰り返す。

 魔王といえば世界を脅かすラスボス的存在。そんな連中が六人もいて、それぞれがこの世界を治めている?

 状況のスケールが一気に跳ね上がった感覚に、思考が一瞬置き去りにされる。


「そして、この世界の領土は六等分されていてそれぞれの魔王が管理することになっている」


 六人の魔王それぞれが領土を持ち支配している世界

 つまり単なる敵対ではなく均衡によって成り立っているのか?

 だが、そんな均衡が常に保たれるとも限らないのでは……


「領土争いとか大丈夫なのか?」

「それは無いな。基本、別の領土への移動は自由。領土といってもただの資源を分け合うためのものだしな、どの魔王も領土という形だけのものはあまり気にはしていない」


 俺が想像していたような血で血を洗う覇権争いのようなものはないらしい。

 だが、そこでふと疑問が浮かぶ。


「魔王が管理しててこの世界の人達に不満は無いのか?」


 魔王が支配と聞くとやはり悪く聞こえてしまうのも必然だろう。

 反旗を翻す者が現れてもおかしくは無い。


「もちろん不満がある者もいるだろうな。実際魔狩(まがり)と呼ばれる魔王の首を狙うものもいる」


 魔狩……やはりそういう危険分子と出てくるのか。


「だか、所詮はならず者の集まりだ。俺たち魔王には()()を使おうが何しようが触れることすら叶わないだろうがな」


 カイトは余裕と誇りをにじませた顔で椅子の背にもたれながら、胸を張るように言った。

 流石魔王にもなる人物だ、すごい自信だな……


――だが!


 今、さらっと流された単語を俺は聞き逃しはしない。


「……ちょっと待て。今、()()って言ったよな?」


 心臓が跳ねるように鳴り、鼓動が耳に響く。

 俺は椅子からずり落ちそうな勢いで身を乗り出し、目を見開いた。


「やっぱり……魔法があるのか、この世界には!!」


 俺は魔法を使うことに憧れて異世界に来たと言っても過言ではない。そのチャンスを目の前にして興奮を抑えられることなどできるわけが無い。


「お、おう。この世界では魔法自体はかなり活用されているな。……ただ」


 カイトはストローをくわえながら、軽く頷いた。

 その表情には、どこか言いにくそうな気配がある。

 なんか……嫌な予感が……


「……言いづらいんだが、お前は魔法を使えないぞ」

「……は??」


 理解し難い言葉に思わず声が裏返る。

 何を言っているんだ、こいつは。脳味噌が頭に詰まっていないのか?

 あまりに予想外すぎる言葉に、理解が追いつかない。


「あのな、魔法を使うには魔力が必要だ。で、その魔力を生み出すためには体内で魔素を生み出さなければならない」


 カイトは飲み物を軽く傾け、さらに続けた。


「その魔素を生み出せるのは特殊な臓器を持った、こっちの世界の人間だけだ。つまりな、あっちの世界から来た奴には魔法が使えない」


 バッサリと断言されてしまった。

 なんだそれ!普通、転生者はチート魔法を持つのがお決まりだろ!


「……待てよ、じゃあお前はなんで魔法を使ってんだ!」


 そういえば、カイトが炎の円を出して瞬間移動していたじゃないか!

 あれは列記とした魔法ではないのか。

 問い詰める俺にカイトは少しだけ面倒くさそうに渋々答えた。


「あの力は魔能(まのう)と呼ばれるものだ」

「……魔能?」

「そうだ。魔王になると、自動的にその魔王に応じた魔能が付与される仕組みなんだ。俺のは()()の魔能を使うことで、瞬間移動ができる。それがさっきのやつだ」


 魔法とは違う魔能とやらが存在する……

 カイトはさらりと言ったが、その内容は衝撃だった。

 


「つまり、俺は魔法は使えない。ただ、魔王としての能力、魔能が使えるだけだ」


 俺は唖然としたままカイトの顔を見つめる。

 魔法が使えない……ならば、魔王になればその()()とやらで魔法に似たような力が手に入るということでは。

 

「……そういうことなら、俺が魔王になればいいんだな」


 真剣な眼差しでそう告げると、カイトの表情が明らかに強張った。


「テンセイ……本気で言ってるのか?」

「当たり前だ!俺は、魔王になって力を手に入れてやる!」


 俺は静かに立ち上がり、店内の天井へ向けて拳を掲げる。

 気持ちは叫びたいほどに高ぶっているが、ちゃんと声は抑えた。


「で、どうやったら魔王になれるんだ?」


 高らかに宣言したものの肝心なところを全く知らない。

 カイトは表情を暗くし、一間置いてから話し出す。

 

「……魔王を殺して、入れ替わる。それだけだ……」


 何か間があったような……まぁいい!


「よし、魔王を殺して、俺が新しい魔王に……」


 そこまで言って、ふと目の前のカイトを見て気づいた。

 ……そういえばこいつも魔王だった。


「悪い……」

「気にするな。お前が俺を殺すなんてことは不可能だからな」


 あくまで穏やかな口調なのに、なぜだろうか……一言一言が妙にムカつくんだよ。


「話が少し逸れたな。これが最後の話だ」

「……簡潔に頼む」


 俺は腕を組み、不貞腐れたようにぼそりと返した。


「俺の城の隣に国が突然現れた理由は聞かせて貰った。あれほどのあからさまな嘘、とても面白かったぞ」

「うるさい!」


 図星を突かれて思わず声を荒げる。

 まったく、こいつはどこまでも煽ってくるな……


「で、ホントのところはどうなんだ。なぜこの世界に来れた?」

「ああ……それなんだが……」


 俺は視線を少し泳がせながら、重い口を開いた。

 謎の指輪のこと、そして気づけば国ごと、この異世界に転移していたこと。

 自分でもまだ整理しきれていない出来事を、ひとつずつ、思い出す限り語っていった。

 全てを話し終えたあとカイトは少し考える素振りを見せてから俺に質問する。


「……その指輪は今どこに?」

「俺の部屋のタンスに入れているが……」


 指輪を使って以降処分する訳にもいかず、ずっとタンスの奥に隠してある。

 決して、再発動するかもとかでビビっている訳では無いが……

 

「その指輪、俺に見せてくれないか」


 そんなことを考えていると、カイトが神妙な面持ちでそう言ってきた。

 一見冷静に見えるが、その姿はどこか違和感があった。


「別に構わないが」


 そう答えた瞬間、カイトは立ち上がり俺の手を引っ張る。


「よし、今すぐ行くぞ」

「え……おい!待てって!」


 俺が制止する暇もなく、店の外へと引っ張り出される。

 すぐ近くの裏路地に入り、人目が完全に遮られる場所に足を止めた。そして、カイトは静かに手をかざす。


「ここなら誰にも見られないな。……閻獄受神!」


 そう叫んだ瞬間、俺たちの周囲に炎が現れ、俺らを囲み込む。

 正直、かっこいい。魔王になれればこんな魔法が使えるようになるのか。ますます魔王になりたくなってくる。

 そして炎が俺たちの体を包み込んでいく……



◆◇◆◇



 数秒後、視界が一変する。

 俺たちはもう既に自分の国の城門前に立っていた。


「やっぱり瞬間移動は不思議な感覚だな……って、ん?門が空いていないな。いつも開けっ放しのはずだが……」

「……それは良いのか?」


 この時の俺は第六感とやらが働いたのだろう……とても嫌な予感がした。


「……上から様子を見るか。廣目頭神(こうもくとうしん)!」


 カイトが短く唱えると、俺たちの身体がふわりと浮き上がった。


「うお!すげぇ!」


 俺は思わず声を上げた。

 瞬間移動以外にもできるのか赤口の魔能ってやつは!


「お前のその魔能ってのはどういう能力なんだよ!」

「この廣目頭神は、簡単に言うと重力操作だ。今飛べているのは体にかかる重力を弱めたからだな」


 重力操作……!かっこいい、とてもかっこいいじゃないか!


「そんなことより、早く指輪の所へ案内してくれ」


 興奮する俺をよそに、カイトは淡々と本題に戻す。


「あ、ああ!着いてこい!」


 浮かんだまま方向転換して先頭に立つ。テンションが勝手に上がっていく。

 だって、俺は今空を飛んでるんだ!


俺はそのまま城門を越え、空から町の様子を見下ろした。

 そして次の瞬間……その光景に、思わず目を疑う。


「な……なんだこれは!?お……俺の国が……」


 後から追いついたカイトたちも空中で足を止め、その光景を目の当たりにする。


「あらら……まるで……()()()()()()()殿()だな」


 おいおい、これは一体どういうことなんだよ……


「――なんか俺の国が超オシャンティーになってるんだが!?」

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