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怨讐



〜時は少しばかり遡り、カリステア王国にて〜



「内臓に損傷三箇所、そして右足の腓骨脛骨共にヒビ、左手は……もう無理ねあのメイド。カイン相手に戦えてる方だわ」

「僕には()()()()から分からないけどカイン君勝てそうかい?」


 男女二人組が民家の屋根の上で話をしている。

 銀髪でショートヘアの背の低い小柄な女と金髪の不可思議なオーラをまとった中肉中背の男だ。

 その一人の銀髪の女は家の壁しか見えないにもかかわらずじっと一点を見つめていた。


()()を頂戴。ここからなら狙えるわ」

「僕の質問は無視かい……。それに人に物を頼む時はきちんと言ってくれ……」


 その刹那、金髪の男の横の空気しか存在していないであろう無の空間から長い鉄製の銃のようなものがぬるりと出てくる。

 陽の光を反射し輝く長い銃身に上部には大きなスコープが取り付けられている。

 そう、それはスナイパーライフルだ。

 銀髪の女はそれを手にするとうつ伏せになりバイポッドで銃を固定。そのまま草むらに隠れ、獲物を狙う蛇かのようにじっとスコープを覗き込む。

 だが、狙っているのは目の前にある別の家の壁だ。


「そこからだと壁があるから当たらなくない?」

「私の神能を舐めないで」

「君の神能は透視と聞いていたんだが……まさか!?」


 銀髪の女の一言に金髪の男は衝撃を受けているのか声を荒らげる。

 しかし銀髪の女は一切表情を変えず、その言葉を無視し一段と集中力をあげる。

 ここら一体が時が止まったかのような静寂に包まれる。


「――見えた」


 そう銀髪の女が発すると同時、引き金が引かれる。そして飛び出した弾丸は大きな音と光を放ちながら目の前の壁目掛け飛んでいく。

 壁に当たるその刹那、なんと弾丸は壁に吸い込まれるように中へ入っていく。


「命中……」

「うわぁ!凄いな!」

「だけどあのメイド、なぜ気づいたのか分からないけれど、体をねじって私の狙いをずらしたわ……」

「えーじゃあ僕がトドメ刺しにいこうか?」

「致命傷には変わりない、私だけで事足りる。終わらせにいってくるわ」


 そう言って銀髪の女はスナイパーライフルをその場に残して家の屋根から地面へ飛び降りようとする……その瞬間。


「――まさかと思って来てみたら……信じたくなかったよ()()()()


 空からある人物がゆっくりと降りてくる。その人物の顔を見て金髪の男は驚きの表情を見せた後、コメカミ辺りの血管が爆発するのではと思われるほど浮き出て顔が般若面のように鋭くとがる。

 そして何とか怒りを押し殺し金髪の男は喋り出す。


「フレン……できることなら地獄でも会いたくなかった」


 空から降りてきたのはフレンさんだった。

 こんな状況でも銀髪の女は冷静に懐に隠してあったハンドガンの照準をフレンに合わせながらボソッと……


「特異存在、友引のフレン……」


 と一言発した。

 その言葉を聞きフレンは疑問を投げかける。


「君のお仲間も同じことを言っていたがその特異存在とはどういう意味なんだい?」

「……久しぶりの再会だ。話をするなら二人きりの方がいいだろう」


 ライネルという名の金髪の男はそう言うと銀髪の女に向かってコソコソと耳打ちをする。


「……言われなくても行くつもりよ」


 そう言って銀髪の女は構えた銃をおろし、屋根から飛び降りて何処かへと走り去っていく。しかし、フレンは止めることなくそこにいるライネルの目だけを用心深くじっと覗いていた。


「追ったりはしない。君と会ったことで最優先事項が変わった」

「わかってくれて嬉しいよ。まず、君の質問に答えようか」


 そういうとライネルは淡々と質問に対する答えを述べる。


「特異存在……それはテンマさんの敵になりうる存在の中でも特に警戒すべき人物の事さ」

「……その特異存在とやらに僕が入っているのか」

「そうだね。今、特異存在として定められている人物は三人。勇者イディオット・スチューピッド、友引の魔王フレン。そして……()()()()()()()()()()()()()さ」


 それを聞いたフレンさんはため息をつき、呆れ顔をしながら口を開く。


「レイヴェナ……()()()はまだ生きてたのか」

「彼女は君が思う以上に貪欲な女なのさ。これで特異存在に関しての説明はいいかな?」

「あぁ……十分だ」

「じゃあ次は僕から聞こう……」


 ライネルはそう言うと下を向いて俯く。それと同時に男の纏うオーラが全くと言っていいほど無くなる。

 少しの沈黙の後、男は深呼吸をする……と突然顔を上げ


「何故リンネアを……ッ!僕の()()を殺した!」


 と顔を怒りで赤く染め怒髪天を衝く。その言葉の重みははまるで彼が今まで背負ってきた感情の全てをそのままぶつけられた様な重みがあった。

 フレンさんはそれを聞いたにも関わらず何一つ表情を変えずに


「仕方なかった」


 と一言だけ返した。その態度にライネルの怒りはさらに増し煮えくり返る。胸の奥で燃え上がる憎悪が、理性を焼き尽くすほどだ。


「仕方なかっただと……!?君はどれだけ無責任に生きてきたんだ!!」


 息を荒げ、言葉のひとつひとつに全ての憎しみを込めて続ける。


「僕はあの瞬間、一人の恋人と一人の()()を同時に失った!この……この僕の心が君には分かるかッ!!」


 ライネルの鬼気迫る姿にフレンさんは全く動じず立ち尽くしたまま沈黙を貫く。

 それを見兼ねたライネルは一息ついて冷静に……


「……いつだってそう逃げてきた。本当に弱い男だよ君は」


 と言い放った。そうするとずっと沈黙を貫いてきたフレンさんはライネルへ向けぎこちない口調で言葉を伝えようとする。


「ライネル……僕は、君に――」


――バンッ


 フレンさんの言葉を遮るように耳が痛くなるような大きな銃声が響いた。

 唖然に取られているとライネルは薄ら笑いを顔に貼り付け、一言だけフレンさんに伝えた。

 

「始まったみたいだね」


 フレンさんら何かを察知したのか焦りの表情を見せ、突如、ライネルへ向け走り出す。

 しかし、二人は交わることはなくすれ違う。

 フレンはすれ違いざまに


「すまなかった……」


 こう一言だけ残し、飛んで行った。

 一人残されたライネルは何かをこらえるような表情でボソッと……


「――フレン……君の罪は永遠だ……」


 そう言い終えるとなにか覚悟を決めたかのようにうんと頷く。

 そうするとライネルの表情がこれまた変わる。まるで悪魔のような不敵な笑みを浮かべ、ライネルは口を開く


「彼女の銃声は始まりであり、終わりでもあるんだよ。よし、僕はカイン君の様子でも見に行こうかな!」


 そう言ってライネルは二歩ほど前に進むと空気に食べられてしまったかのように忽然と姿を消した。


――このたった一発の銃声、それが全てを大きく変えることになる。

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