過去は平等に
カインはリスタートによって一時間前にいた薄暗い森の中に飛ばされていた。
能力によって傷は完治しているが先程まで喉に穴が開き呼吸ができなかったのだろう、過呼吸になっている。
「ケケッ……あのメイド……あのまま死ぬとは思うがもし次会うことがあれば必ず殺す!」
「――次があると思うのか」
カインの背後から聞き覚えのある声がしたと同時、カインの喉に再び激痛が走る。
何者かによって後ろから首を刀のようなもので刺され貫通したようだ。
(また喉をやられた!?こいつ俺の弱点を知っている!一体誰だ!?)
「吹き飛んどけ、廣目頭神」
「ぐっ……ガハッ!?」
カインは血反吐を吐きながら謎の力によって吹き飛び、大木へと激突する。
頭を激しく打ちズルズルと地面に落ちていく。
そして意識が朦朧とする中、地面に尻もちをついたまま顔をあげ、その人物の顔を覗く。
(この俺が一瞬にして再び瀕死までもっていかれた!一体誰が……ケケッ……面白いな)
カインはゆっくり近づいてくるその人物の顔を見た瞬間、何かを悟ったかのように鼻で笑う。
「理解したようだな……お前はここで死ぬ。その前に色々情報を吐いてもらおうか、逃げるなよ……兜雞羅神」
みるみるうちにカインの喉に空いた穴が塞がっていき、自分の手で首を触ったあと喉が使えるようになったカインは喋り出す。
「ケケッ……逃げるなか、そんなの不可能だってお前の方が分かってるくせに……なぁ赤口の魔王!」
そう、そこに居たのは赤口の魔王、カイトだった。
「ケケッ……てっきりお前は王国会議に出席してる思ってたんだがな……読みが外れたか」
「あぁ、半分ハズレだな王国会議にはフレンさんが魔法で作った俺の分身に出てもらっている。
本物の俺はずっとここでお前が来るのを待っていたんだよ」
「ケケッ……そうか。それでなにか俺に聞きたいことがあってわざわざ回復させたんだろ?……何が聞きたい」
その言葉を聞いたカイトは突然カインの髪を掴み、目の最深部を覗くように顔を近づけ喋り出す。
「指輪は今、何処にある……答えろ!」
カインはその問いに対し嘲るように
「それはテンマ様が持っているはずだ。まぁそれがわかった所で奪うなんてことはこの世の誰にも不可能だがな」
と言い放った。カインはこの死と隣り合わせの状況を面白がっているようだ。
そんなカインを見て、掴んだ髪を離し次は冷静に質問する。
「そう簡単にはいかないか。じゃあ次の質問だ。
お前ら災禍六魔将とは一体何なんだ。お前の能力リスタートは明らかに魔法によるものでは無い、そして俺たち魔王の使う呪いのようなものでもない。
一応魔力は使っているようだしな」
カインが薄ら笑いを浮かべ、衝撃の事実を口にする。
「――災禍六魔将はな俺含め全員転生者だ」
その言葉にカイトの表情が一変し、大きく歪む。
「なっ!?……それはおかしい。転生者は魔素を体内で作ることが出来ず魔法は使えないはずだ」
「お前はこの言葉を知っているか……神能を」
神能――カインは薄ら笑いをうかべ、そう口にした。
「神能だと……そんなものが存在するわけないだろう」
「ケケッ……信じるか信じないかはそっちの自由だ。話を続けようか。
俺たちは神が与えた力、神能を持った転生者を神能者と呼んでいる。
その能力者の集団が俺たち災禍六魔将だ」
「つまり、お前ら災禍六魔将全員がその神能とやらを持っていると……じゃあ一人一人詳しく話してもらおうか」
カイトの空間が歪むような重圧な空気に反してカインが可笑しそうに笑いながら話を進める。
「ケケッ……あぁいいぜ!だが俺の質問に答えたら話してやるよ!」
「……言ってみろ」
「なぁ……何で俺がここに来ると分かったんだ」
カインの質問に対し少しの間を置いてから思い出すように淡々と話し出す。
「それはお前が最初テンセイの国へ襲撃をかけたあとに話は遡る……」
〜カイン襲撃の後、赤口領魔都〜
「今日はハッシュ。君に伝えたい事があって呼ばせてもらった。テンセイには二人とも意識が戻っていないということにしてあるから時間は問題ない」
「私に伝えたい事ですか?」
「あぁ……それはな」
カイトがハッシュを魔王城へと招待し、二人きりで話していた。そして神々は重たい口を開きこう言う。
「――君にカイン・ロックハートを殺して欲しい」
それは普通の人なら何かの間違いかと耳を疑う言葉だろう。だがハッシュだ、そんな言葉を聞いても平然と言葉を返す。
「了解しました、ですがそんな重要な任務を私なんかが良いのでしょうか」
「カインの能力はリスタート、指定した時間過去に戻ることが出来る能力だ。
恐らくだが周りを巻き込むような広範囲の攻撃はできない。
そして、一体一の近接戦闘であれば君は魔王と渡り合えるぐらいの実力がある。君が最適だと判断した」
それを聞いたハッシュは頷き納得した様子だ。
そしてカイトはさらに話を続ける。
「恐らくあいつはカリステア王国で行われる王国会議に襲撃をかけるだろう……というか襲撃をかけてくれるように王国会議を開く。そこが戦場となる。そしてテンセイと共にカリステア王国へ向かいカインと接敵して欲しい」
カイトは横に置いてあった紙を広げ、机の上に置く。
どうやら地図のようなもので、いくつかの道に赤いマークがされている。
「これは?」
「これはカリステア王国の地図に俺がカインが通ると思われるルートを示したものだ。
ここに記されている道を手当り次第に行って欲しい。俺がいれば魔力探知で位置はわかるんだがすることがあってな、すまない」
「了解いたしました。全力で遂行いたします」
「それともうひとつ簡単な作戦だ」
カイトは机の地図を一旦戻し、再び面と向かい合って作戦とやらを話し出す。
「カインが君の国に攻めてきた時、彼が能力を使う瞬間に魔力が喉を流れて口から出るの感じた。これは憶測になるが奴は発声を行わなければ恐らく過去に戻ることが出来ないだろう。
そこが弱点だ。奴の隙を見て喉を破壊して欲しい」
「喉を潰し、能力を使えないようにした後、殺害すればよろしいのですか?」
「殺せるのであれば殺してくれて構わない。だが、奴には最終手段として脱出用の録音機などがあると俺は踏んでいる。その場合、それを奴に使わせてやってくれ」
「録音機ですか……恐れ多いのですが理由を聞かせてもらっても……」
「初めて奴を見た時、胸元に魔力の塊を感じた。体内で胸元に魔力を持ってくることは不可能。
そこで俺は魔力を詰めた何かであると推測した。その何かというのが……」
「録音機ですね」
「話が早くて助かる。リスタートは戻る時間大きさに比例して消費する魔力量も増えるのを確認済み。
胸元の魔力の塊は大きさ的にちょうど一時間前に戻るぐらいの魔力量だ。
そこで奴が録音機を使う一時間前の場所に俺が待ち伏せをして、逃げてきたところを背後から……刺し殺す」
その言葉はとても力強かった。カインに負けたことが魔王としてプライドに傷がついたからか、それともまた別の理由からか、全く分からないがその言葉にはカイトの復讐心に近い感情が詰まっていた。
そのカイトの言葉を聞いた、ハッシュも目の奥を燃やしこう言い放つ。
「了解しました。必ずやご期待に添えてみせます」
「テンセイには危険は及ばないから安心して、戦闘してくれ。それじゃあ頼んだ」
こうして二人はそれぞれの使命を確認し、カリステア王国へと向かったのだった……
◆◇◆◇
カイトの話を聞いたカインは下を向き、クスクスと笑い出す。
「ケケッ……俺はあのメイドに嵌められていたのか。面白いな……」
「タネ明かしはこれぐらいでいいか?……答えてもらおう、災禍六魔将の情報を詳細に教えろ」
「……お前ら魔王がどれだけ強かろうと災禍六魔将、そしてテンマ様を倒すことは出来ない。ケケッ……お前らは殺される運命にあるんだよ!」
カインは声を張り上げて怒鳴りつけるように言う。
そんなカインを見てカイトは少し考える素振りを見せたあと、呆れた顔で答える。
「何も話すつもりは無いか。クズが……死んでくれ」
「ケケッ……面白かったぜ」
カイトの刀がゆっくりとカインの心臓へと突き刺さってゆく。
カインは不敵に笑ったまま、ゆっくりと目を閉じる。
神はそう簡単には手を貸さないのだ、カインの身体がぐらりと揺れ、力が無くなる。
その瞬間、砂埃が静かに舞った。
――喜悦に満ちた笑みを浮かべたまま、カイン・ロックハートはもう二度と動くことは無かった。
「カイン・ロックハート……手強い相手だった……ん?」
(なにか声がするような……)
カイトの様子がおかしくなる。まるで、何か警戒をしているようだ。
「――カイト君!」
「この声はフレンさん!」
どこからとも無く友引の魔王、フレンの声がする。だがその声は脳に直接語り掛けているように聞こえ、周りには聞こえていないようだ。
「――すまない、テンセイ君をやられた」
その一言で、カイトの表情が驚愕に染まる。
「僕の回復魔法では手に負えない……。君なら僕の魔力そこからでも分かるだろう、ここへ来てくれ!」
「……直ぐに行きます!!」
(あの人がここまで……一体何者だ!)
「閻獄受神!」
そして、カイトは炎の円を召喚しカリステア王国へと飛ぶ――その直前、ボソッとこんなことを言い放った。
「――どいつもこいつも俺の計画を邪魔しやがって……」