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王国会議


 王様達の話し合い、王国会議(おうこくかいぎ)の会場は毎回異なる国で開催され、その国の城に設けられた専用の会議室が会場となる。

 そして今回の会場がカリステア王国となり、俺たちは向かうことになったのだ。


「――開門せよ!」


 その号令と共に重々しい扉がゆっくりと開く。

 今日は様々な王国の一番が集まるのだ、警備はいつもより厳重である。

 ここからは前、ヴァーモット王に教えてもらった通りのルートを歩いて進む。


「緊張してきたな……こんなこと前の世界じゃ全くしてこなかったし……」

「テンセイ様なら大丈夫ですよ。自信を持ってください」


 ハッシュとそんな会話を交わしていると召使いと思わしき人が立っているドアの前に辿り着く。


「では私はここで失礼します」

「ハッシュは来ないのか!?」

「ここからは私も入れないので……ここで待ってますので行ってきてください」

「そうか……分かった!行ってくるよ!」

「テンセイ様どうか……お元気で」

「そんな永遠の別れみたいな言い方しなくていいんだよ、また会えるんだから」

「……そうですね。申し訳ございませんでした。また会いましょうね」


 召使いがドアを開く、そして俺は再度服装を整え部屋の中へ一歩足を踏み入れる。

 部屋に入るとその空間は今までの空気とは全く違う。

 部屋の真ん中には白の上品さを感じる長机と六つの格式のある椅子が配置されている。

 どうやら俺以外の王は全員揃っているみたいだ。

 やべぇ……俺が最後かよ……


「えへへ、すみません……」


 笑顔を貼り付けペコペコと頭を下げながら残りの空いている席に座る。

 時が止まってしまったような無言の時間が流れた後、王宮内に鐘の音が響き渡る。

 どうやら始まりを知らせる鐘のようだ。

 それとほぼ同時、部屋に炎でできた円が現れる。

 そう、カイトが来たのだ。


「集まってくれて感謝するよ。早速始めようか、王国会議を」


 カイトは早々に話を始める。

 誰も声を出そうとはしない、この重苦しく流れる厳粛な雰囲気がそうさせているのだ。


「今日はみんなに伝えたいことがあるんだ。テンセイ、こっちに来てくれ」

「わ、分かった」


 できるだけ音がならないよう静かに立ち上がりカイトの近くに移動する。


「紹介するよ、これから赤口領の国として新しく加入してもらう……」


 カイトの口が止まる、そして考える素振りを見せたあと俺に耳打ちする。


「おい、国の名前とかあるか?」

「あぁ……そういえば決めてなかった……」


 毎回毎回決めようとしてもいい名前が思いつかないのだ。流石にそろそろ決めなければ……思いついた!


「ゴッドバーストコーヒーなんてどうだ?」

「……国の名に文句を言う権利は誰にも無いが……辞めといた方が賢明だと思うぞ」


 はぁ!?この素敵な名前がダメだったら何がいいんだよ!?


「じゃあ!ホワイトブラストミルクティーは!」

「ここはカフェじゃないぞ。もういい話が進まないから俺が考えてやる……エリュシオン……お前の国の名はエリュシオンだ!」


 エリュシオン……良い!かっこいい最高の名前だ!


「ってことで、これからエリュシオンは正式に国として承認しようと思う。皆、なにか意見があれば言ってくれ」


 その時、不快な空気をまとったいや〜な感じのちょび髭の王が突然口を開いた。


「――私は納得できませんな〜」


 やれやれと言いたげに口髭をコネコネといじりながら続ける。


「ある日突然現れたを町いきなり()として認めろと〜?何処の馬の骨かも分からない奴は信用出来かねますな。もし、それで逆心でもいだいていたら、我らはこの者の掌の上で踊らされることになるやもしれませんぞ」


 そんなことするわけないだろ!俺は戦争反対の平和主義者だ!

 俺が激昂していると……


「ヤナヤツよ、そのエリュシオン王国の王、テンセイは信用に足りる男だ。このヴァーモット・ズィークベルトが保証しよう」


 と言ってヴァーモット王が俺を庇ってくれた。

 見た感じヴァーモット王はこの中でも権力があるのだろうか、ヴァーモット王が話し出した瞬間、ヤナヤツとかいうちょび髭も含め全員ダンマリだ。


「てことでエリュシオンを赤口領の新たな国として承認する。はい、皆拍手!」


 各国の王が一定のリズムで手拍子を打つ、だがヴァーモット王以外あまり乗り気ではないようだ。

 だからといって俺も自己紹介ぐらいしないとな……


「エリュシオン王国の王、テンセイ・イセカイ・シュタインです……。色々事情があって国ごとこちらの世界へ転生してしまいました。これからよろしくお願いします!」


 そんな俺の挨拶に、軽くどよめきが起きる。


「……王とは思えない自己紹介だが、まぁこういうやつだ。仲良くしてやってくれ」


 カイトの言葉が場を少しだけ和ませかけたその時だった。


「……さて、ここからが本題だ」


 カイトのその一言を皮切りに、空気が一変する。重苦しい雰囲気がさらに濃い緊張状態に訪れる。

 その張り詰めた空気の中、カイトが再び静かに口を開いた。


「つい先日、エリュシオンが重要指名手配カイン・ロックハートによる襲撃を受け建物の損壊、そして死傷者を出してしまった。

 そして、カインは災禍六魔将という裏切り者の仏滅の魔王の幹部だと自供していた。

 この事は魔王として見て見ぬふりはできない。

 そこで俺たち魔王は緊急で魔合議を開き話し合いの末ひとつの案をだした。

――それは災禍六魔将及び仏滅の魔王、アマガミテンマの抹殺だ」


 その言葉に俺は息を飲んだ。

 ある程度予想はしていたがいよいよ全面戦争に突入するというのか……

 魔王が五人いるこちらが圧倒的有利に思えるが、災禍六魔将……少しメタいが名前的にカインのような奴が後五人いるのだろう。

 実際、あのカインは魔王であるカイトに匹敵する力を持っていた。

 ……正直なところどちらが勝つかなんて全く分からない。


「それで私たちにどうしろというのですか?」


 静かに傍観していた王の一人が突然、カイトに問いかける。


「各国は警戒を強めると共に、万が一襲撃を受けてしまったら即刻、俺に報告してくれ。そしたら閻獄受神で移動しすぐに駆けつける」


 カイトは落ち着いた口調でそう答える。


「……ですが、被害を受けてからでは遅いのでは?」


 確かにその通りだ。

 つまりこれは、敵をおびき出すために自国を囮として差し出し、相手を誘い出すということと変わりない。

 国を背負う王として、そのやり方に疑問を抱くのは至極当然だ。


「そこでだ、友引の魔王に強力な防御結界魔法を貼ってもらうことになった。それは国の建造物ひとつひとつに貼られるもので、まず倒壊の心配はないだろう。

 さらに、大陸全土を対象とした監視魔法も併用される。被害が出る前に、我々魔王が総力を挙げて守ることを約束しよう」

「……そんなこと、本当に可能なのか?」


 俺は思わず疑問を投げかける。

 いくら魔王といえど、建造物一つ一つなんてとても考えられない。

 俺の国だけでも何千もの家屋が建っている、それが各国規模となれば、到底現実的とは思えない。

 さらに大陸全体の監視だと?それはもう、神にも等しい御業だ。

 だが、周囲の王たちは騒ぐどころか、むしろその話に納得した様子でうなずいている。

 あの人はどこまで規格外なんだ……


「あの人だったら可能だろうな。フレンさんの魔法において右に出るものは無い。友引の魔能など使わずとも最強なんだ。だからこそ、魔王をまとめるリーダーになっているところもある」

「前々から思ってたんだが、その魔王の持つ魔能とやらは魔法とは違うのか?」

「俺たち魔王が使う魔能は、魔法とは全くの別物だ。

 俺たちの使う能力は魔王になると強制的につく後付けの力で魔力を必要としない。

 一方、魔法とは生まれながらにして誰もが持つもので、魔力を消費することで使用ができる。

 魔力はこの世界の住人ならば必ず持っているが、魔法には得手不得手があり全く使えないものもいれば、魔法を扱うことに長け、その道を極める者もいる。そこは個人の実力次第だな」


 魔王が扱う力は、魔法じゃないのか……

 そう考えると、異世界に来てからもうしばらく経つのに、俺はまだ()()()()()を一度も見たことがない。

 憧れの魔法……俺も使いたいな。


「……凄く使いたそうな顔をしているが、前にも言った通り、あっちの世界から来たやつは無理だから諦めろ」


 完全に俺の心を見透かされていた……くそっ!

 俺は魔法が使いたくて異世界に来たと言っても過言では無いのに!


「話を戻して今までのことをまとめよう。

 俺たち魔王はアマガミテンマ率いる災禍六魔将と全面戦争を行う。

 目標はアマガミテンマの殺害及びカイン・ロックハートの拘束または殺害、そして他の災禍六魔将も同様に俺たちに害を及ぼす場合は殲滅する。

 君たち各国の王は敵に対しての国の警戒体制を強めると共に、万が一襲撃を受けた場合無理に戦わず最優先で魔王に知らせること。以上が今日話したかったことだ」


 こうして、重苦しい緊張の中で進んだ王国会議は、波乱もなく幕を下ろした。

 各国の王たちが順に退席し、その場に静けさが戻っていくのを見届けた俺も席を立ち部屋を後にする。


 しかし、ふと気づく。本来この部屋の外で待っているはずのハッシュの姿が、どこにも見当たらない。

 ハッシュが命令もなしに勝手に行動するなんて考えられない……

 嫌な予感を覚えた俺は、そこで近くにいる召使いに聞く。


「俺と一緒にここにきた、メイド服を着た女性はどこにいったか知ってますか?」

「その方でしたら王国会議が始まる前私が扉を閉めた瞬間に、どこかへ走り去っていきましたよ」

「……そうですか。ありがとうございます」


 ハッシュはここで待っていると言ってたはずだが……

 胸の奥に、凍りつくような不安が広がっていく。

 ……少し探してみるか。

 俺はその場を離れ、一人ハッシュの姿を求めて歩き出した。



〜遡ること、王国会議開始時刻〜



「……やはり、ここに来ましたか」


 テンセイ様と別れた後、私は静かに足を進める。向かう先は城に続く、人目につかぬ狭い裏路地。


「――お前は……あの時のメイドか!」


 不気味な笑いと共に、忘れることの出来ない悪の塊のよつな男が現れる。


「ケケッ……殺されに来たのか面白い奴だ!」


――テンセイ様、命に代えてもお守りします。

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