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異世界田舎生活  作者: 桜華
8/10

008.訓練器具? いや、遊具です。

「戦争が泥沼化しているらしい」


 父さんが領都から持ち帰った情報をまとめると、膠着状態になっているそうだ。というのも、今年は戦争の舞台となった場所が雨に多く振っているらしく、文字通り泥沼のような環境になってきているようなのだ。足元が悪いせいで馬もうまく走れないうえに火炎系の魔法が悉く不発に終わるため、両国ともに本領を発揮できないでいるらしい。

 ただし、状況としては俺の住む国――エルレキア王国のほうがやや優勢らしい。なんでもエルレキア王国は前回の戦争から数年で、魔導ゴーレムという技術を確立させたそうだ。元々この世界はわりかし魔法が発達している側面があるが、ゴーレム技術に関する話を聞いたことはあまりなかった。しかし、前回の戦争で決着がつかなかった要因として、決定力に欠けていると結論付けられたことから、それの切り札として魔導ゴーレム技術が研究されたんだそうだ。

 最初は犯罪奴隷を使った物量攻撃、さらには魔導ゴーレムを利用した兵器による攻撃。これだけ聞けばエルレキア王国が勝っていてもおかしくないように思うのだが、前回の戦争から数年という時間はなにも王国にだけ与えられたものではない。時間は神国――サリュート神国にも同様に与えられていた。

 父さんが調べてきた情報によると、神国の司祭や司教は魔法とは異なる力(と言われている)が使えるようで、それが奇跡と呼ばれるものらしい。それはいわゆるバフ効果を持っており、兵士の身体強化や回復能力向上に寄与しているんだとか。そのせいで魔導ゴーレムをもってしてもなかなか勝負がつかないんだそうだ。


「父さん、それだけの情報を調べるって……本当にただの冒険者なの?」

「いやぁ、前回の霊草のおかげでいろいろと伝手ができてな。案外簡単に情報が集められたよ」

「あぁ、なるほど」


 まだ夏前の今時期だと戦争がどうなるかはわからない。それでもすでに死者は1000人を超えていると言われている。神国でも同じくらい出ているのであれば2000人近くの人間が死んでいることになる。この世界は魔物と呼ばれる化け物もいるので、世界的に人間の数はあまり多くないと踏んでいる。しかも、割合的には男より女性のほうが多いはずだ。兵士や冒険者、傭兵は男の割合が多いため、死ぬ確率も男性が多いというわけだ。残された女性たちも一応働く場所はあるのだが、都市部では田舎に比べて働く場所が少ない。どうしても娼婦になってしまう人もいるそうだ。口減らしで売られる人もいるらしいし、なかなかに厳しい世界である。

 それを考えれば俺はなかなか恵まれた環境で生まれたのだろう。有能な親にのんびりできる辺境の田舎。近くには豊かな森があり、森の中を迷わず歩くことができる才能がある。さらには癒と氷の魔法が扱えるという。ふむ、今更だがなかなかご都合主義のチート属性持ちじゃないか。

 そんなわけで、こうして村の防衛機能を向上したが今のところ使われることはなさそうだ。父さんが調べてきた内容は村で共有されたので、いつも通りの日常に戻っていった。父さんも少し村でゆっくりしたら、また領都へいくことにしたそうだ。防衛機能が向上するのはいいことだし、俺としてはひとまず落ち着いたように思うのだが、いまだに嫌な予感が消えない。なんかこう、ざわざわするというか。だが、こんな感覚的な話だけでどうにかすることも難しいので、誰にも話していない。俺の杞憂に終わってくれればそれでいいのだが……。

 堀への石の敷き詰めは終わり、すでに水も流れ始めている。もう少しすれば水草や苔が生えたりして沢蟹が捕れるようになったりするのだろうか。もしそうならわざわざ滝のところまでいかなくてよくなるかもしれないな。

 6歳の誕生日を祝う誕生会を開くかどうか聞かれたが、戦争が終結してからでいいと伝えた。今の状況なら催すことができそうだったが、消えない嫌な予感のせいでなんとなく後回しにしてある。せっかくならなんの憂いもなく祝ってほしいしね。

 子供たちも堀づくりが終われば今まで通り畑仕事へと戻っていくのだが、一日中仕事をするかと言われれば、そうでない日もある。近い家の子供同士集まって遊ぶこともあるのだが、いかんせん田舎だ。やることと言えば木の棒を剣に見立て、騎士ごっこなんかが多い。父さんがそれなりに名のある冒険者ということもあり、それに憧れる子供もちらほらいる。言い換えれば娯楽が少ないと言ってもいい。だが、普通にリバーシなんかはこの世界にあるし、貴族たちは普通に遊んでいると父さんが言っていた。ふむ。


「冒険者になるかどうかは置いておいて、せっかくなら体づくりに役立ちそうなものがあるといいな」


 俺は村の土地が余っているところに娯楽を作ることにした。子供たちが時間を持て余すくらいなら何かいいものがあればいいと思うわけで。暇すぎると無謀にも森に突入する子供が年に一人くらいはいる。極まれに帰って来れなくなり、そのまま……という痛ましい話もないわけではない。今なら父さんがいるし、防衛機能向上対策の木柵用に切り出した木がそこそこ余っている。薪にすることも出来るし、損傷した際に補修することも出来るってことで少し多めに切り出していたのだが、それを少し拝借して俺は『アスレチック』を作ることにした。


「あすれちっく――ってなんだ?」

「木で作った運動遊具みたいなものだよ。遊びながら心身を鍛えることができるんだ。ほら、こんな形のとか」

「ふむ、よくわからんが作ってみるか! それくらいならすぐにでも作れるぞ」


 氷魔法で造形した木造アスレチックを父さんに見せると、すぐさま乗り気になってくれた。俺が見せたのはアスレチックの代表的なものをいくつか。村にはロープもそこそこ余っているし、木もたくさんある。超人的な能力を持つ父さんにかかればおそらく一日でアスレチックが完成することだろう。……話してまだ10分も経っていないのにすでにひとつ完成している。化物か?

 最初に作ったのはターザンロープつきのもの。木の梁にロープを結び付け、ロープの先端に結び目を作ればそれっぽいものが完成する。他にも、ロープを網目状にした蜘蛛の巣登り、丸太いろいろな高さで土に埋めた丸太ステップ、木の平均台や上り下りを用意したドキドキ平均台、小さく切った丸太をロープで何個も吊ってそこを渡っていく流木渡り、斜面を交互に配置した斜面ジャンプ、ちょっとした丘に丸太をランダムに配置した迷い坂、斜面にロープを置いただけのロープ登り、橋の歩く場所がロープで吊った丸太だけの丸太吊橋、平均台と丸太ステップでコースを作成した障害物道路、でっぱりをいくつかつけた丸太を立てて埋めて登りながら渡っていく木登り渡り10連、立てた丸太をロープ2本だけで繋げたロープ渡り、立てた丸太に取っ手を付けたものを並べた丸太壁渡り、ぜんぶで13種類ものアスレチックを提案した。

 子供ならば絶対に遊びたくなってしまう魔性の遊具。子供たちの運動神経向上にも寄与するだろうし、なにより俺も遊びたい。俺もこの遊具の魔力には抗えないのだ。


「シズー、こんなもんか?」

「……さっきお願いしたばっかりだよね?」

「いやぁ、造っていくうちにシズーの考えていることが分かってな。これは子供だけじゃなく流行るぞ?」

「え? 大人もってこと?」

「ああ。これだけ面白そうなの、見たことないからな!」


 さすがに作るのに一日かかると思っていたのだが、まさかの4時間で作り上げた父さんはもはや異常だ。もしかして、物造りの加護でも持っているのだろうか。もしくはドワーフの血が入っているとか。どっちにしろ、異常なのには間違いないのだが。

 それにしても、父さんが作り上げたアスレチックは凄すぎる。俺が想像していたものよりも圧倒的にクオリティが高い。記憶にあるアスレチックが霞んでしまうようなかなり実用的な作品となっているのだが……ふむ。


「……凄いんだけど、子供が遊ぶには全体的に縮尺が大きくない?」

「あっ……。待ってろ、隣に子供が遊ぶことを意識して同じのを作るから」

「うん、お願い」


 ロープの感覚や丸太の感覚が子供用ではなかったのが残念である。おそらく途中から自分が使うならこれくらいだろう、という感覚のもと作ったに違いない。きっと父さんも出来上がったら遊ぶんだろうな。いや、絶対に遊ぶ。確信をもって言える。なんなら母さんがすでに遊び始めているし。……違った。遊ぶんじゃなくて使い方や得られる効果を確かめているみたいだ。わかったぞ。母さんはこれすらもパテント料を取ろうってんだな? 天才ですか?

 大人用アスレチック完成後からさらに2時間。子供用のアスレチックゾーンが完成した。一回作ったものを縮小して作るだけだからすぐらしい。物理法則を無視したような速度で作った父さんだが、こういうものだと思って受け入れるだけである。


「シズー、よくこんなのを思いついたわね」

「うん、森歩きしてたら木の凸凹とか蔓とかあるのを見て思いついたの」

「なるほどね。自然にあるものを人工的に作ろうっていうのね。蜘蛛の巣を参考に作ったあれも面白いわね」

「そうなんだよ。漁に使う網はもっと細かいけど、粗くしたら登れるかなと思って」


 縄梯子なんて言葉があるくらいだしね。そういえばこの世界では縄梯子というものを見たことがないような気がする。そうだ、せっかくだし縄梯子も母さんに伝えておくとしよう。


「母さん、あのロープで作った荒い網だけど、梯子みたいに作ったら場所も取らないし上り下りも出来そうだね」

「……シズー、あなたは天才ね。きっと私に似たのね!」


 母さんが鼻息荒くしながら俺を褒めてくれた。すぐさま手続きをするための資料を用意するのか、家へと小走りで帰って行った。ちなみに父さんは一人アスレチックで遊んでいる。うーん、自由な家族だ。

 この村では空いている土地はわりと自由に使っていいことになっている。村人も少ないし、好きに使っていいのだがもちろん自分で開墾をする必要があるわけで。俺が選んだ場所も背の高い草がかなり繁茂していたのだ。父さんがかかればものの数分で刈り取られていたわけだが。父さんが農家だったら大農地の管理さえ出来た可能性すらある。そんなこと言っても詮無きことか。

 父さんはひとしきり遊んだ後、何かを思いついたのか少し考えこみ、村長の家に行くと言って行ってしまった。きっと村人たちに開放するために言いに行ったんだろう。子供以外にも遊びたい大人はいるだろうし、村長に話を通しておくのは当たり前と言えば当たり前か。結局、俺も一通り遊び倒して家に帰った。これでこの村にも体を動かせる娯楽が増えた。きっと子供や大人が暇なときに遊ぶことだろう。もし流行ったら新しいアスレチックを考えるのもいいかもな。

 そんなことを考えていたのは、俺だけだったらしい。次の日、朝から村の全員が集められていた。子供も含む全ての村人だ。集まった場所は言わずもがなアスレチックを作ったあそこだ。ざわざわしつつも村人たちが集まっている。というか、アスレチックに目を向けたら器具が昨日より倍くらい増えている。俺が提案したものに加え、平均台のルート上に木剣が吊るされていたり、木槍が大量に吊るされて振り子のように動いていたり、なんだか物々しい印象を与えるようなものに変わっている。……俺の考えていたアスレチックとだいぶ違うんだが。子供向けの方は昨日のままなので安心はしたのだが……。


「みんなよく集まってくれた。忙しいのに済まない。だが、今は遠い地とはいえ戦時中。そこで、多少なりとも訓練としてこの器具を用意した。俺の息子の提案で作ったのだが、訓練に活用できそうだったので改良を加えたものを提案する。足場が不安定な場所も動けるようになるうえに、木剣や木槍を持って移動することで武器に慣れることも可能だ。戦争が終わって色々と落ち着くまでは、何があるかわからないのが戦争だ。俺たちに暇な時間などほとんどないのは承知の上だが、大切な者を守るにはやはり並み以上の努力が必要となる。今しばらく、付き合ってほしい。みんなでこの村を、農地を、家族を、守ってほしいんだ。もちろん子供向けの器具も用意している。こちらは運動神経を鍛えることを目的にしているので、より安全な器具だ。不安なら子供でなくとも女性男性関わらず子供向けから訓練を始めてもいい。ここはいつでも開放しているので、出来る限り時間があるときは訓練をお願いしたい。以上だ」


 父さんが村長に変わって演説をした。最初はざわざわしていた村人たちも、父さんの演説を聞いてみな神妙な面持ちになった。子供たちはさすがに理解しきれていない部分もあるようだが、見たこともない器具に目をキラキラさせている。ある意味大人たちよりも率先してアスレチックで遊んでくれるだろう。遊べば遊ぶほど体が鍛えられ、運動神経が良くなっていくだろう。木剣も配布されているから、常日頃から持ち歩いていれば慣れるのもはやい。いつもはただの木の棒だったのだが、きちんとした木剣にも目をキラキラさせている子供たち。まぁ、俺もなんだが。

 やはり一度戦争を経験している大人たちは戦争の恐ろしさを知っているためか、茶化したりするようなことがない。さすがに老人たちはアスレチックをすることはないが、それでも木剣や木槍を持って素振りをしていた。なんとなくサマにはなっているが、どこか農具を振っているようにも見えてしまうのは不思議だ。やはりいつも鍬とか振っているからなのだろうか。

 子供たちは我先にとアスレチックで遊んでいる。遊び方を一切説明していないのに、もう何年も遊んでいるかのように遊び始めた。子供というのはどこの世界でも一緒なのだな。俺が提案した遊具だということもあり、子供たちが俺を呼んでくれている。同年代の友達はあまりいない俺だったが、今回のことで増えそうな予感だ。よく見るとすでにメリアベルも友人らしき女の子とアスレチックで遊んでいた。さすがである。

 そうだ、遊具ではないけれど父さんに頼んで少し高い物見櫓を何個か作ってもらうのもいいな。それがあれば遠くが見渡せるし、敵がいた際にいち早く攻撃を仕掛けることも可能だ。俺に弓矢の心得はないが、ロックスリングならばそれなりに使えると思う。子供でもそれなりの速度と威力がだせるしな。弓矢ほどの威力はないが、空からちょっと大きな石が降ってくるだけでも脅威だろう。いざとなれば氷魔法でも迎撃ができるだろうし。本当は魔法を攻撃に使うよりも、生活を楽にするように使いたいところである。戦争が落ち着いたら魚を捕る罠のような使い方も考えてみるとしよう。


「村のみんなには概ね好意的に受け取ってもらえたな。シズーは本当に天才だ」

「そんなことないよ。むしろ、たった一日でここまで一人で作り上げた父さんのほうが天才だと思うけどね」

「まぁ、昔から手先だけは機用だったからな」

「器用ってレベルではないと思うけどね」

「よっしゃ、俺も参加するか。ちょうどいい運動になるしな」

「うん、俺も~」


 俺を呼んでくれていた子供に混ざってアスレチックを楽しんだのだった。

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