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異世界田舎生活  作者: 桜華
4/10

004.収穫祭

「おかえり父さん」

「シズー、ただいま。男子3日会わざれば刮目してみよというが、また成長したみたいだな」

「? うん」

「わははは。そのまま頼むぞ。母さんをちゃんと助けてやってくれな?」

「もちろんさ」

「で、なにを手伝ってほしいんだ? 母さんがシズーの手伝いをしろと言っていたが」

「明日の収穫祭で出店を出すんだけど、簡単でもいいからお店の体裁をしたいなって」

「ほう、なるほど。任せておけ!! 父さんがしっかりとした店を作っておいてやる!」

「え、あ、ありがとう」


 父さんがなぜかめちゃくちゃ張り切っている。頼られるのが嬉しいのかにっこにこだ。俺も手伝おうと思ったのだが、父さんに任せておけ! と言って俺に手伝わせようとしない。母さんに目線を送ると、生暖かい笑顔を向けるだけで何も言わない。好きにやらせてあげてということらしい。いつもは一緒にいられないし、こういうときに父親らしいことをしたいということなのだろうか。そうすると俺がやることないので、氷兎を出して遊ぶ。かなり氷兎には慣れてきたので、違う動物でもやってみようか。


「母さん、好きな動物とかいる? 魔物でもいいけど」

「んー……猫かしら。魔物なら竜ね。かっこいいのよ」

「猫は分かるけど、竜……ドラゴン?」

「そうよ。母さんも一度だけ遠くを飛んでいるドラゴン見たけど、すごいかっこよかったわね」


 ドラゴンか。いつかは一度見てみたいが、前世の記憶があるからなんとなくのイメージはある。しかし、俺の思っている竜と母さんの考える竜が合っているかがわからない。それに見たことない俺が竜の氷像を作ったら驚くだろう。やはりここは猫だな。猫と言ってもたくさんの種類がいる。その中でも個人的にはアメショーが大好きだ。昔飼っていたいたのもアメショーだったし、それを思い出しながら作り出していく。氷兎とは違う等身大のアメショー。

 兎とは違うとても自然で、まるで本当に生きているような氷の猫が出てきた。前世の記憶があるだけだったとはいえ、本当に生きている飼っていた猫のような気がして泣きそうになってしまった。俺の中にいた記憶の残滓に引っ張られていたらしい。


「シズー、その猫まるで生きているみたいよ?」

「うん、なんかできちゃった」

「できちゃったって……。魔力制御は母さんでは勝てなそうね……」


 アメショーの氷像が俺にすりすりしている。……おかしいな。俺はすりすりするように指示を出していないんだが……? え、もしかして自由意思を持っていたりするんですか? そういえば魔力がごっそりと無くなっている気がする。よし、なんか怖いからこのことは誰にも言わないことにしよう。これはこれで可愛いから放っておこう。今は母さんの前でクシクシしている。まじで猫だ。毛はないのにクシクシしている、いとおかし。

 張り切る父さんをよそに、魔力をある程度消費したので森へと歩き始めた。メリアベルは家族の手伝いがあるとかで、今日は来ないそうだ。背嚢を背負っててくてくと森へと行く。歩きなれた森も、季節が移り替わることでまた違った景色が見れる。歳をとっても俺はこの森に通いたい。のんびり歩いていると、最近は来ていなかった採取ポイントについた。またメルキノコがたくさん生えている。テキパキとキノコをとり、次なるポイントへと向かう。


「わ。なんだこの薬草……薬草、だよな?」


 初めて見る植物が生えていた。ただオーラが尋常じゃない。薬草というより霊草と言うべきだろうが、見たことがなさすぎて判断に困る。明日は行商人のデレクさんが来るので、これを見せてみよう。氷でくるんでおけばなんとか――――うむ、枯れる気がしない。これだけで存在感があるというのだろうか。かれこれ2年いかないくらい通っているのだが、初めて見た。

 淡いピンクの花弁が綺麗な花。華? うむむ、売ってもいいのだが、なんか自分で使い道があるならば使ってしまいたい。かといって何に使えるのかわからないからなぁ。薬草辞典買うほかないだろうか。前は父さんや母さんに聞いて教えてもらったのだが、これに関しては教えてもらえていなかった。

 そうか、それこそ父さんが知っている可能性もあるな。目標としては薬草辞典を買うつもりだから、今回の収穫祭での収益を使ってデレクさんに依頼するとしよう。これとんでも高かったらどうしよう。次からこればっかり探してしまいそうになるが、だめだな。これはきっとメルの森に毎日通っている俺へのログインボーナスのようなものなのだ。調子にのらないでおこう。

 ふらふらと森の景色を楽しみながら歩いていると、気が付けば背嚢がいっぱいになっていた。もう少しで夕暮れになるし、採取を切り上げて家へと向かう。しかし、こんだけ毎日通っているのに採取ができるってのも凄いよな。もちろん採り過ぎないようにしているのはそうなのだが、それを考慮してもだ。背嚢がいっぱいにならなかったことなんて、そこれそ最初の頃くらいで、今は9割くらいの確率で背嚢がいっぱいになる。母さんも最初は訝しげな目をしていたが、俺が毎日いっぱい持ってくるもんだから、加護でもあるんだねぇって言ってなぜか納得していた。

 よくわかっていないが、この世界には加護というのが普通にあるのかもしれない。ステータスとかは見れないし、そもそもレベルとかの概念はないのだろうけどね。前世の地球と一緒で『持っているやつ』というのはいる。ありがたいことだが、採取に関しては加護とやらがもらえている気がしている。メリアベルも狩猟の加護だろうからね。


「……えっと、母さん。父さんは何を作っているの?」

「母さんはわからないわ」

「出店、出店? 出店ってなんだっけ」


 まるで一軒家みたいな出店が完成していた。え、数時間しか経ってないよね。色は塗られていないけど、色調の違う木材を活用して色の強弱を出していた。おそらく父さんは大工としてやっていけるだろう、と思えるくらいすごい出来だ。扉にはちょっとした細工まであるしまつ。いや、ちょっとしたと言ったが、高いお金が貰えるくらいにはいい出来だ。うちの父さん、多彩すぎるだろうが。尊敬通り越して少し怖い。

 

「どうだシズー! ひとまず簡単なものはできたぞ!」

「簡単なもの……簡単なもの? あ、うん、ありがとう?」

「飲み物を売るって言ってたから、果物を絞る機材も作っておいたぞ」

「父さん、もしや天才?」

「なんだ、今更気づいたのか?」

「うん、今気づいたよ」

「よっし、そこまで言うならもっと本気出してやろう!!」


 止めようと思ったが、とても楽しそうなので何も言わないでおいた。父さんもきっと楽しいのだろうし、『父親』が出来ているから十分やらせてあげたい。俺も楽しいからね。母さんもずっと嬉しそうに微笑んでいる。これが家族なんだろうなと思った。ルンルンで出店?を作る父さんを横目に母さんと俺は家に入って夜ご飯を食べた。この日、夜まで大工の音が聞こえたのは気のせいだろう。


「父さん、ちゃんと寝たの?」

「おう、1時間くらい寝たぞ」

「体調崩さないでね?」

「おお……、シズーは優しいなぁ。母さんに似たんだな」

「はいはい、ご飯の時間ですよ」


 父さんがいる間は朝の水汲みをやってくれるため、俺がやることがない。みんなで母さんの朝ご飯を食べる。パンとスープとキノコを炒めたものとお肉を焼いたもの。たっぷりと食べて今日の収穫祭を迎えるためだ。デレクさんも今日の朝早々に来ると言っていたし、準備もたくさんある。


「そうだ父さん。この薬草ってなにか知ってる?」

「お、おまえ……これ……どこで見つけたんだ!?」

「え、メルの森でだけど」

「メルの森、か。シズー、それはひとまず誰にも見せるな。隠しておくんだ。それは勝手に枯れるような薬草でもないから安心するといい」

「わ、わかった」

「それは父さんがどうにかしてやる」

「ありがとう、父さん」


 父さんがとても真剣な顔をしている。この薬草は思っていた以上に凄いものらしい。いや、確かに見つけた時からやばいと思ってはいたが……。父さんがどうにかしてくれるらしいので、今回ばかりは完全に任せておこう。さすがは頼れる銀等級上位冒険者だ。いろいろな伝手があるのだろうか。安易に使わないでおいてよかった……!!

 いろいろあったが収穫祭の始まりだ。父さんがいつの間にか作った出店を移動してくれている。我が父ながらバケモンみたいだ。しかし、これで準備は万端。母さんと父さんは二人で収穫祭を回る予定だったのだが、俺が想定よりも本格的に店をやろうとしていることを見て手伝うことにしたらしい。普通にありがたいが、この村は人が少ないのでそもそもの出店の数も少なければ客の絶対数も少ない。多少は外から客も来るが、本当に多少だ。それでも冷たい飲み物を出している店はどこにもいないので、みんな来てくれる気がしている。値段も比較的安めに設定しているしね。

 というか、お酒を出す店はおそらくうちだけなので、昼よりも夜に繁盛するのだろうと想定している。夜に関してはメリアベルも手伝ってくれることになっているので、父さんと母さんは遊びに行くそうだ。……妹か弟が出来そうな気がしてしまうが。せめて戦争が終わってからにしてほしいものだ。


「そういやシズー、いつの間に魔法を覚えたんだ? 以前は興味なさそうだったのに」

「うん、ちょっと思うところがあってね」

「……そうか。大人になったんだな。しかし氷魔法が使える人はあまり見ないが、なかなか便利だな」

「はいこれ」


 キンキンに冷やしたエールを手渡すと、過冷却する一歩手前くらいに冷やされたエールを一気に呷る。ゴクゴクという音を響かせながら、600mlくらいあるエールを一瞬で飲み干した。子供だから飲めないけど、めちゃくちゃ美味そうだ。飲み終えた父さんが急に喋るのをやめ、飲み終えたコップを見つめている。俺はこの世界の居酒屋事情は知らないが、もしかして冷たい飲み物って多くないのだろうか。それなりに発展している世界だが、科学という分野がほとんどないと思われるため、冷蔵庫みたいなものも魔道具があるかどうかだと思う。……俗にいう、俺やっちゃいました? ってやつだろうか。


「シズー……お前はこれ、なぜこんなことを思いついたんだ?」

「え、井戸水って冷たくて美味しいでしょ?」

「そう、だな。美味しいよな」


 危ない危ない。前世で飲みまくっていた記憶に引っ張られていたらしい。しかし、いまだに飲み終わったコップをもってじっと見つめている。さぞかしインパクトが強かったらしい。エールを飲んだことはないが、キンキンに冷えたビールは無茶苦茶美味しかった気がする。記憶なので味はいまいち思い出せないが、美味しかった記憶しかない。


「もう一杯飲む?」

「飲む」


 めちゃくちゃ食い気味だ。頑張って露店を作ってくれたのでこれくらいのお礼があってもいいだろう。またしても一気に飲み干した父さんは、またしても空になったコップを見て悲しそうな顔をしている。冒険者という職業柄、お酒を飲む機会も多いだろうし、そもそもお酒が好きなんだろう。母さんがお酒を飲んでいるところを見たことないが、あまり好きじゃないのかな。


「母さんってお酒飲まないの?」

「母さんはな、飲ませてはいけないんだ。これは鉄の掟だぞ。絶対に飲ませてはいけない。何があってもだ」

「あぁ……。聞かないでおくね……」

「一滴も飲ませてはいけないんだぞ? いいか?」

「振りじゃないよね?」

「――――――!!」

「分かったから落ち着いてよ」


 屈強な父さんがガクガクと震えている。あんな優しそうな母さんがお酒を飲むと豹変するとは思ってもみなかった。怖いもの見たさで飲ませてみたい気もするが、父さんの迫真の顔を見てその気も失せた。しかし、何があったのか聞いてみたいものだな。

 収穫祭がはじまり、お客さんが来始めた。父さんと母さんが手伝ってくれるので何事もなくうまくいっている。一応、木のコップはそれなりに用意したが家から持ってきても貰っても問題ない。コップを持ってきてもらえれば割引するし、コップを返してもらえれば一部返金もすることにしてある。コップあり一杯銅貨4枚、コップ持ち込みまたは返却で一杯銅貨3枚で設定している。格安だ。領都では一杯6~7枚だと父さんが言っていた。ぬるいエールが一杯銅貨6~7枚。しかし、それが普通なのだから、今更疑問に思うことすらないのかもしれない。父さんも、「これが一杯銅貨3枚か……」と、遠い目をしている。確かに原価に近いが、利益は多少出るし商売の練習と思えば勉強代とも思える。

 お客さんが何人か来て、口コミが瞬く間に広がったのか冷たいエールを飲みに来る人が一気に増えた。子供や婦人方には果実ジュースもいい調子で売れている。今年は豊作だったからかある程度お金に余裕がある村人が多いらしく、飲み物にもお金を使ってくれている。村人がやっている店だから安心というのも手伝っているのだろうが、やはり冷たくて美味しい安い飲み物だからだろう。狙い通りではあるけど。

 収穫祭も順調に進み、エールや果実ジュースも予想以上に反響があったおかげで在庫もほとんどなくなってきた。夜の部までまだ時間があるというのに、エールはほとんど売り切れだ。収穫祭くらいじゃないとこんなにお酒を飲む機会もないからか、ぐびぐび飲んでいる人が多い。もう秋とはいえ昼間はまだやや暑かったこともあり、昼間のほうが売れるのではないかと踏んでいたが、予想通り過ぎて焦るレベルである。しかし、在庫がなくなれば仕事も終わり。収穫祭夜の部はどちらかというと大人向けの祭りである。大人の中でも特に独身をメインターゲットとしており、村の結婚率を上昇させようというのが目的だ。これはどこの村でも行われていることであり、こうすることで村を繁栄させようと頑張っているわけだ。


「シズー、今年の収穫祭だけど、なんだか大人たちがいつもよりも大胆な気がしない?」

「ベル姉もそう思う? 実は同じことを考えていたよ」

「お父様が言ってたんだけど、いつも以上にお酒を飲んでいるかららしいわよ」

「ああなるほど。お酒の力ってことね」


 冷たいエールがあったことにより、いつも以上にお酒が入った村人たちは思っていたよりも酔っていたらしい。暗い中に煌々と輝くキャンプファイヤーのせいかと思っていたが、みんなの顔が確かに赤い。お酒の力を借りた村の若い衆がいつもよりも近づいているように感じる。……秋だけど春なんだなぁ。俺にもいつか青い春がくるといいんだがな。

 キャンプファイヤーの周りでダンスをする村の若い衆を見ながら、俺も果実ジュースを飲む。客足も落ち着いたのでそろそろ店仕舞いだ。夜になって手伝いに来てくれていたメリアベルにも果実ジュースを振舞いながら後片付けをする。ちょこちょこ飲み物を買いに来る人の相手をしながら片づけをすること30分。おおよそ片付いたころに父さんと母さんが帰ってきた。2人も一通り祭りを楽しんできたらしい。

 片付いた店の中を見て察したのか、父さんが屋台を持って家へと一緒に戻ってくれた。……この屋台――――小屋はかなりしっかりした作りのため、家の横においてもらって俺がそこを使えるようにしてもらった。決して小さい家ではなかったが、2LDKの我が家はお世辞にも広いとは言えない。そろそろ一人の部屋も欲しいと思っていたので、この際だからこの小屋を俺の部屋にしようというわけだ。

 ちょっとした店舗としても使えそうだし、もう少し改築すれば家としても使えるのでまた父さんに甘えてみた。


「そうか、シズーもそんな年ごろなのか……、成長とは早いものだな」

「ふふふ、シズーはとっても賢い子ですもの。それに、ね?」

「あぁ、そうだな。よしわかった。明日にはあの屋台を改築してやろう。せっかくやるんだから少し張り切ってみるか? わはははは!!」

「う、うん。ほどほどにね?」

「まぁ任せておけ!! 報酬はあの冷たいエールでいいぞ?」

「うん、少しだけ残っているからそれをあげるよ」

「ほう。報酬の全額前払いとは――――誰に聞いたんだ?」

「どういうこと?」

「基本的に報酬の全額前払いは良しとされていないんだ。なぜだかわかるか?」

「……報酬を持ち逃げされる、から?」

「その通りだ。しかし例外はある」

「例外?」

「そうだ。報酬の全額前払いというのはつまり、全幅の信頼を置いていますよ、と相手に伝える意味合いが強い。父さんとシズーのような関係ではとくにな。もし、今後、シズーが商売等で信頼できるという人がいたならば、絶対に報酬の前払いをすることだ。人との繋がりというのは、とても大切なものだからな」

「うん、わかったよ」


 この世界での常識というのももっと知っていく必要がありそうだ。

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