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異世界田舎生活  作者: 桜華
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001.輪廻転生

「今日もいい天気だ」

 今日で5歳になる俺は、今日も今日とて田舎での暮らしを満喫していた。

 俺は地球で天命を全うした。大した病気や怪我をすることもなく、死因は老衰。独り身ということもなく子供は3人おり、孫も俺が無くなるときには6人ほどいた。どの子も目に入れても痛くない程可愛かった。

 ぴんぴんころりを地で行ったのが前世の俺だった。そして、今に至る。だいぶすっ飛ばしたかもしれないが、輪廻というのはあるものだ。前世でも異世界転生ものが流行ったりしたものだが、そういう『使命を帯びた特別な人間』とかではない。単純に前世という者を知識・記憶として覚えている。

 そんな俺が輪廻転生したとわかったのは、ここ2年くらいのこと――つまりは3歳になったくらいだろうか。ふとした瞬間に自我が目覚めたのか、やっと点と点が繋がったのかはわからない。それでも俺は前世のことを覚えていた。

 だからと言って今世での俺――シズリールとしての人格が消えたわけではない。きちんと俺はシズリールとして自認しているし、子供なのに大人びたちぐはぐな人間というわけでもない。もちろん前世の記憶に振り回されてはいない。どちらかというと、映画で他人の人生を見てきた感覚に近いだろうか。言葉にするのは難しいがそんな感じだ。

 俺が輪廻転生した世界――地球とは違うから異世界と呼称する――は文化レベルもそこそこで、ある程度人が生きるに困らないくらいには発達した世界だ。だが、魔法という技術が根付いていたり、野生動物とは一線を画す魔物という生物も存在している。科学という考え方がやや薄いのがこの世界だ。

 だが、普通にコンクリートも存在していれば建築学、数学と言った学問も存在している。そこに魔法学というものが追加されているのだから、それなりの歴史があると思われる。

 俺が輪廻転生したのは超がつくほどの田舎――というわけではなく、領都まで歩いて100kmくらいのところにあるやや田舎の村だ。自動車等はないが、魔法による箱馬車や絨毯配送などが発達しているため、100kmの距離でも1~2日あれば行くことが出来る。

 中世ナーロッパのような世界観だったら困ったものだが、この世界にはマヨネーズもあれば醬油や味噌のような調味料もしっかりと存在している。なんなら、魔法を活用して発酵もしているため、地球の頃よりも格安で手に入ったりするくらいだ。やや田舎の我が村――タキ村でも普通に手に入る。

 調味料のみならず米もある。主食は米とパンの二つなので、日本食を愛していた俺からすればとても馴染みやすい環境だった。それでも日本ほど食文化が発達しているとも言い難い部分も多くある。うま味調味料なんかがいい例だ。ああいった成分を絞った調味料はほとんどない。あと、驚いたことに麵という文化がない。小麦粉はパンを作った方が手間も少なく持ち運びも便利で汎用性が高いと言われている。唐揚げなんかには使われているようだが、麺という発想はないようだ。そのため、麺やパスタといった言葉自体がない。近いうちに麺文化というものを流行らせたいと考えている。

 他にもホットケーキなんかもない。焼き菓子やシュークリームなんかはあるのに、なんだが偏った印象だ。それでも生きていく分には全く困らない程度には発達しているので、この世界をしっかりと謳歌しているわけだ。


「シズー、お水を汲んできてもらえるかしら?」

「わかったよ、母さん」


 俺に水汲みをお願いした女性は今世での俺の母さん、メルティだ。歳は24歳。俺を19歳で出産したらしい。父さん――ガリアは冒険者という職業をしていて、主に魔物の討伐や薬草の採取などを生業としている。それなりに冒険者として名を上げているらしく、銀等級中~上位の冒険者――らしい。

 詳しく聞いたことは無いが、冒険者ギルドというものがあり、そこに登録して依頼をこなすと等級が上がる仕組みだそうだ。このへんは異世界転生ものと同様だな。等級は全部で7つ。『錫<青銅<銅<鉄<銀<金<黒曜』の順番なので、父さんは上から3番目の冒険者だ。

 黒曜は国に10人いるかいないかというくらいの希少性で、大きな街に一人いるかいないかというくらいだ。金は大きな街に10人程度、小さな町なら2~3人程度くらいだろう。銀からはやや増えて、大きな街だと30人くらいで小さな町でも10人はいると言われている、らしい。

 そんな中でも父さんは中~上位なので、うちのような小さな村ではトップレベルの冒険者という分けだ。まぁ、ちいさな村では仕事も少ないため基本的には領都で仕事をしている。10日に1度くらいの頻度で帰ってきては5日間休み、また領都で仕事をするようなことをしている。

 父さんは25歳とまだまだ若く将来を期待されている有望株なため、はっきり言ってめちゃくちゃモテる。領都でもかなり声をかけられるそうだが、母さん一筋なのか今のところ浮気をしている素振りもない。

 母さんは父さんに2年に渡ってアプローチされ、その末に結婚したそうだ。母さんは確かに美人で器量もいい人だが、怒るとかなり怖い。なんなら魔法が使えるので怒らせないようにしろと父さんに何度も言われたものだ。

 母さんは平民で魔法が使える少し珍しい部類の人らしい。平民は200人に1人くらいしか魔法が使えない。貴族様は5~10人に1人だからその希少性は分かりやすいだろう。それも、少し使えるというレベルではなく、冒険者に換算すると金等級に匹敵する、と父さんが言っていた。惚れた男の言うことなので話半分に聞いているが、それでも魔法が使えるというのは素晴らしいことだ。

 母さんが使える魔法属性は2種類。風属性魔法と無属性魔法だ。風属性は突風を起こしたり洗濯物を乾かしたりと意外と生活に寄り添った使い方のできる属性である。攻撃としても使えると言っていたが、未だに見たことがない。無属性魔法は多岐に渡るらしく、俺も全ては知らないがいくつか知っているものもある。まずは『見えざる手』と呼ばれるもの。魔力が形を成し、第三の手のように扱えるという者だ。少し離れた物を取ったりするのに便利だそうだ。あまり重たいものは持てなかったり、大きな力が使えないそうだ。あとは『衝撃(インパクト)』と呼ばれるもの。振動を一瞬にして放出することで衝撃を与える技、らしい。俺が叱られるときはこれを使われることがあるので身に染みて覚えている。もう一つが『障壁』だ。攻撃を防いだりすることが出来るそうだが、母さんは専ら高いところにあるものを取るときの足場にしていたりする。なんとも応用の利きそうな技である。


「うんしょ、うんしょ……」


 裏庭にある井戸から水を汲む。父さんが知り合いに頼んで掘ってもらったらしいのだが、普通は家に井戸は無いことの方が多いんだろか。それが個人レベルであるのだからとてもありがたい。ガチャポンプなどはなく普通に滑車での水汲みだ。昔はロープに桶をくくり付けて水を汲んでいたのだが、4歳の俺が木を削って滑車を作ったのだ。正確には、滑車の丸い部分だけだけど。あとの部分は父さんに言って加工してもらった。

 なんでそんなこと思いついたのかと父さんに聞かれたが、「なんとなく」で誤魔化せた。それ以上聞いて来なかったことにも驚いたが、母がいつの間にかこの滑車を商標登録し、不労所得を得るようにしていたことにもっと驚いた。なんというか、母さんの何を考えているか分からない笑顔が未だに脳裏に焼き付いて離れない。

 そもそも滑車の原理自体はこの世界にもあった。だが、それ以上に魔法による重量軽減や物体の移動が可能なことから、商品化されていなかったことに由来する。そこに魔法が一般的に使えない平民でも使えるように改良したのが井戸の滑車だっただけである。それをちゃんと裏でパテント料として徴収していた母が凄すぎた。


「井戸水は冷たくて美味しいや」


 井戸は前世でも子供の頃に使っていた。あの頃はすでにガチャポンプがあったが、ガチャポンプが家に来る前に少しだけ滑車での水汲みもしていた。その経験が生きたのだ。

 井戸水は地下にあるためとっても冷たくて美味しい。最初は汚染等を疑ったが、きちんと水質検査を実施したらしく、普通に飲める。今でも二ヶ月に一度は水質検査をする徹底ぶりだ。なんでも魔道具とやらで簡単に調べることが出来るそうだ。魔法すげぇ。

 家の中にある水瓶がいっぱいになるくらいまで井戸から水を汲む。毎日桶を5回くらい汲むのが今の俺の仕事だ。母さんは家事を主にやり、家庭菜園+αくらいの畑を耕している。基本的には父さんがお金を稼いでくるため、母さんはあまり働いていない。たまに村人から魔法を頼まれたり、ちょっとした仕事はしているようだけど。

 俺はというと、朝のお勤め(水汲み)が終われば好きにしていいことになっている。こう言っちゃなんだが、俺はかなり恵まれている方だ。他の村人たちの子供は、5歳となったら家の手伝いをしている子がほとんどなのだ。村人の7割は農家のため、朝から夕方まで畑仕事をしている。もちろん子供は午前中だけとかだが、疲れて昼寝してしまう子供が多いため、結局は昼過ぎくらいからが自由時間となる。そうなると、俺と遊んでくれるような子供はあまりいない。

 あまりいないというだけで、全くいないわけでもないのだが。ほら、噂をすれば――


「シズー、今日は何するの?」


 俺の水汲みが終わったのを狙いすましたかのように近づいてきたこの子はメリアベル。お隣さんの次女だ。歳は一個上の6歳で、いわゆる幼馴染ってやつだろう。少しだけあるそばかすが可愛い栗毛の女の子。

 メリアベルの家は猟師を生業としているため、俺と同じように日中は暇らしい。メリアベルの母さんと俺の母さんは大の仲良しのため、それにつられる様に俺達も遊ぶようになった。メリアベルはわりかし姉御肌で、いつも俺の面倒を見てくれるから、一緒にいてとても助かるのだ。


「おはようベル姉。ん~、今日も森の中を探検しようかな」

「いいわね!! じゃあお母様にお昼ご飯貰ってくる!!」


 すぐさま家へと戻っていくメリアベル――親しみをこめてベル姉と呼んでいる。俺も家の中にいる母さんからお昼ご飯を入れた包みもらう。中身はおにぎりと漬物だ。ちなみに、漬物の作り方を教えたのも俺だ。この世界では酢漬けという文化はあったが、浅漬けや漬物といった文化がなかった。そこで、俺が塩ときゅうりで漬物を作ったら母さんがハマった。そういえば、これも商標登録するとか言ってたっけ……。意外と商魂たくましい人なのかもしれない。

 いつも持っていく背嚢にお昼ご飯を入れ、手慣れたように準備を進める。怪我したとき用に薬草と、ちょっとしたものを採取するための袋。あとは小さいナイフと木を削って作った木刀だ。


「お待たせシズー! 早く行きましょう!!」

「まってよベル姉~」


 いつもリードしてくれるベルはメリアベルはとっても真っすぐな性格をしているので、俺としても好感が持てる。頼れるお姉ちゃんって感じで、一緒にいて楽である。

 ちなみに、いつも森へと出かけているのには訳がある。この森には小動物から薬草、鉱石、ちょっとした魔物なんかがいる。魔物と言っても強いものではなく、ビッグラビットと呼ばれる兎だ。普通の兎より2〜3倍大きいくらいで殆ど兎である。違うところがあるとすれば、体内に極小の魔石があることとお肉がとっても美味しいことくらいだ。

 要は、薬草や鉱石の採取をしに森に行くのだ。それらをたまに来る行商に売ることでお小遣いを稼いでいる。それとは別に滑車のパテント料からもお小遣いをもらっているので、5歳にしてはお金がある方だ。

 この世界では銅貨(=100円)、大銅貨(=1000円)、銀貨(=1万円)、大銀貨(=10万円)、金貨(=100万円)、大金貨(=1000万円)、白金貨(=1億円)、大白金貨(=10億円)という貨幣がある。更にその上に黒金貨というのがあるという噂だが、一村人の俺にはせいぜい大銀貨が関の山だから関係ない。

 今はコツコツお金を貯めて大銀貨5枚分もお金を貯めている。この世界では一ヶ月4人家族で過ごそうとしたら大銀貨2~4枚くらいが必要であるため、5歳が貯めたにしてはそこそこ溜まっている。

 メリアベルが俺についてくるのは、自分もお小遣いを貯めるという意味合いもあるらしい。本人はお洒落が好きなようでお金はすぐに使ってしまっているようだが。


「それにしてもシズーは変わってるわよね」

「なにが?」

「5歳のくせに森に入って採取して、それでお小遣いを稼ごうとするあたりよ」

「そうかな?」

「そうよ。まぁ、おかげで私もお小遣い稼げているから助かってるけど」

「少しは貯めといたら?」

「ふふん、女の子はお金がかかるものなの! というか、シズーはそんなにお金を貯めて何に使う気なのよ?」

「うーん、まだ考えているだけだけど、ひっそりと喫茶店をやろうと思ってるよ」

「喫茶店って、あの喫茶店?」

「そう、その喫茶店」

「……領都で、よね?」

「いやここ、タキ村でだけど?」

「っは~、あんたも本当に変わってるわねぇ」


 こんなこと言われるのにはもう慣れたもんだ。なんせタキ村には村人が300人くらいしかいない。そのうちの7割――つまりは200人以上が農家であり、決して裕福とは言えない状況だ。しかも、領都から来るには少々遠すぎる節もある。それでも俺は喫茶店がやりたいのだ。

 自分で食材を集めて、のんびりひっそりと。たまに店を閉めてちょっとした冒険なんかして。いつかは結婚して子供も授かって。そんなには望まないけれど、人並みくらいの幸せがあればいい。


「あ、ベル姉、メルキノコがあるよ」

「ほんとだ。あれお父様が好きだからたまに取ってきてくれるんだけど、とっても美味しいのよね」


 メルキノコ。この村で食べられている食用キノコで、鍋にしても良し、焼いても煮ても良しの何でも屋。ここメルの森でだけ取れるらしく、実は村の隠れた特産品だったりする。ただ、取る人が少ないため――というか商品用として採取しているのは俺だけのため、俺が勝手に行商に売り、特産品化しているのだ。このキノコがここでしか見たことがないというのも行商人から教えてもらったことだ。

 家用と売る用にキノコを採取し、次へと向かう。すると、見慣れた足跡があった。兎にしては少々大きいため、おそらくビッグラビットだろう。足跡や糞などの痕跡からビッグラビットを探す。こうした森の中を歩くという技術も、4歳から始めたおかげかかなり様になってきた。


「いたね」

「ふっくら太ってて美味しそうね」


 さすがは猟師の娘。兎を見て美味しそうという言葉が当たり前に出てくる。普通に愛玩動物としても飼うことのできるビッグラビットだが、この村では貴重な食肉用の食料だ。

 ビッグラビットを狩るのは実は難しくない。魔物と言えどほぼ兎のため、襲ってくるということはほとんどなく、普通に逃げる。少し大きいということも相まって、跳躍力が凄まじい。逃げられたら追うのは難しいが、そこが攻略のコツなのだ。

 風下からゆっくりと近づき、メリアベルに小石を投げてもらう。それに驚いたビッグラビットは思わず跳躍してしまうのだ。それも、前を向いていた方向に馬鹿正直に。それを見逃さないようにスリングショットで石を投擲。練習したスリングショットは5歳でもそれなりの速度と威力が出る。遠心力は正義なのだ。

 ビッグラビットの側頭部にクリーンヒットした石が意識を刈り取る。脳震盪で動かなくなったところを小さいナイフで〆る。これで一丁上がりだ。この方法であれば毛皮も取れるし、肉も傷まない。すぐに血抜きをして臭みが肉に移らないようにし、急いで家へと帰る。木の棒に結わえ付けて満を持しての帰還だ。

 さすがに5歳が持つには重いので、メリアベルと2人で一緒に運ぶ。分け前はちゃんと折半するようにしている。メリアベルは6:4でもいいというのだが、こういうのは後腐れが無いようにした方がいい。メリアベルは毛皮を欲しがるので、お肉の部分を譲り受ける。毛皮は売れるし、鞣せば個人用としても使い勝手がいい。兎の皮は柔らかく汎用性が高いので小さいポシェットなんかにも使える。


「おかえり、シズー。今日はビッグラビットを仕留めたの?」

「ただいま母さん。たまたま見つけたからね。ベル姉と一緒に狩ったの」

「メルティさん、こんにちは」

「うふふ、今日も2人は仲が良いわね」

「! はい!」


 母さんとメリアベルは仲が良い。いつも家族でバーベキューなんかをしているからだろうか。それとも女同士分かり合う部分があるのだろうか。いずれにせよ、御隣同士の仲が良いというのは喜ばしいことだ。

 解体はメリアベルのお母さん――シトリーさんがやってくれる。シトリーさんの旦那さん――ゴレアスさんが猟師のため、その手伝いをすることが多いから解体が上手だ。最近はその解体術を、メリアベルと一緒に習っているところだ。シトリーさん的にはメリアベルにも解体や猟師としての技術を教え込みたいらしい。なんでも出来るようになっておけば、食うのに困らないということだろう。

 シトリーさんに解体を教わりながら作業をしていると、ちょうどゴレアスさんが帰ってきた。その手には大きな野鳥――ボレアス鳥が3羽も握られている。猟師としての腕はかなりのもので、冒険者ランクに換算するとおそらく銀等級はあると俺の父さんが言っていた。こんな田舎にいるには勿体ない人だ。


「おう、ガリアの倅はビッグラビットを仕留めたのか。5歳なのにやるなぁ」

「ゴレアスさんこんにちは。たまたまですよ、たまたま」

「ははは、そのたまたまとやらが3日に1度は訪れるお前さんは神様にでも愛されているってのか~? ん~?」

「いやいや、神様に愛されているのはベル姉ですよ」

「わははは、それはそうだ!! なんてったってうちの子供たちは最高だからな!!」


 なんとも豪快な人だ。愛妻家で子煩悩なのがゴレアスさんだ。とっても見た目は厳ついし、下手すれば山賊のような見た目だがとっても優しく情に厚い。奥さんのシトリーさんも愛嬌のある可愛い人だ。

 でも事実、メリアベルは神に愛されていると言ってもいいほど運がいい。それも狩猟の神に。メリアベルと森に入れば3回に1回はビッグラビットに出会う。なのに、俺一人で森に入ってビッグラビットに出会ったことなど数回しかない。俺はあまり狩猟の神様とやらに愛されてはいないようだ。その代わりと言っていいのかわからないが、俺は採取に関しては一家言あるつもりだ。何も採取できなかったということがあまりない。適当に歩いているといつもキノコや薬草、鉱石を採取することが出来るのだ。

 俺とメリアベルが一緒に森に入れば採取と狩りがどっちも出来てしまうため、相性が良いと言える。

 解体を終えた俺はお肉だけを受け取り、残りの内臓やら毛皮はメリアベルに預けた。内臓の処理は俺にはまだできないため、毎回貰っていない。そもそも母さんがあまり内臓を好きではないため、食べることもない。俺自身は別に内臓は好きなのだが、そう毎度食べたいものでもない。食べたくなったらメリアベルの家にお邪魔して煮込みを食べさせてもらえばいいだけだしね。

 母さんに獲ってきたお肉の半分を手渡すと、小さく切り分けてから籠に入れどこかへと歩いて行った。俺はその間に自分の分である兎肉を加工する。いわゆる塩漬け肉を作るのだ。まだ冬ではないが、ちょっとずつ備蓄をつくることが重要だ。冬でもお肉を食べようと思ったら、塩漬け肉や干し肉にする必要がある。塩漬け肉にしておけばスープにいれるだけでいい塩梅の味になるので、比較的に塩漬け肉にする割合が多い。ちなみに塩は俺のお小遣いから調達しているため、塩をいくら使っても母さんから何か言われるということもない。

 俺が塩漬け肉を作っていると、母さんが帰ってきた。籠にはたくさんの野菜が入っている。近隣を回ってお肉と野菜を交換してきたらしい。猟師であるメリアベル一家がこの村の食肉事情を賄っているが、さすがに300人全員分というのは厳しいものがある。そのため、こうして俺がたまに獲ってくるビッグラビットの肉を交換用にしている。こういうのは助け合いである。我が家は野菜も育てているが、あくまで家庭菜園の範疇。そうたくさんあるわけではないので、本業の農家さんたちと物々交換をするのだ。

 冬になれば俺が作っている塩漬け肉も交換用にすることもある。農家は冬でも野菜をたくさん蓄えているため、ある意味ちょうどいいのだ。母さんはそれも考慮した上で俺に好きにやらせてくれている。交渉やそのへんの段取りは全部やってもらっているし、料理なんかも全部母さんなので、俺としては別になんの不満もない。


「シズーがお肉を獲って来てくれたし、今日は兎肉のシチューでも作ろうかしら?」

「それがいい!!」


 母さんのつくるシチューはむちゃくちゃ美味しい。少しのミルクと小麦粉からちゃんとホワイトルーをつくる。さらに兎肉と野菜の旨みが溶け出して、まさに絶品。あとは自家製のパンと合わせて食べれば文句なし。

 母さんが夜ご飯を作り始めたので、俺は森の浅瀬で薪を集める。こうして少しずつ薪を溜めておくことで冬でも困ることなく暖を取ることができる。領都では暖をとる魔道具が最近になって普及していると父さんが言っていたけど、まだまだ田舎のタキ村は薪が主流だ。近いうちに木炭でも作ってみようか。もしかしたら需要があるかもだしね。

 薪を背負った籠がいっぱいになって家に帰ると、とても美味しそうな匂いが漂っている。父さんはまだ帰ってくる日じゃないため母さんと2人だけだ。


「ふふふ、シズーの獲ってきたお肉とっても美味しいわよ。いつもありがとうね」

「母さんのつくるシチューが美味しいからだよ。また明日も森に行ってくるね」

「大丈夫だと思うけど気をつけるのよ?」

「わかってるよ」

「ふふ、そういう冒険が好きなところはガリアに似たのかしらね~」


 肩をすくめてからシチューを頬張る。ああ、やっぱり田舎はいい。空気も美味しくてご飯も美味しい。そう言えば明後日は行商人が来る日だっけ。売り物になりそうなものも採取できるといいなぁ。

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