第87話 二人海辺で
水族館から少し離れた場所を、二人は歩いていた。港のような雰囲気を纏った海辺の道だ。
ちょうどこないだ来た大梁のような感じだ。お昼はもう近くのレストランで食べたし、鉄道での移動をするために、別の駅に行く必要があったから移動しているだけだ。
ただ、このまま徒歩で歩けば結構時間がかかる。
「暖かくなってきたな……入学したての時はまだまだ涼しかったのに」
「そうですね、夏休みも楽しみです」
それからしばらく、俺達は言葉を交わさなかった。はしゃぎまくって、無自覚に疲れたのかもしれない。
初夏の陽気を含んだ爽やかな空気の中を進む。多分あと少ししたら、蒸し暑いいつもの夏が戻ってくるだろう。
「私、昨日不思議な夢を見たんですよ。その中で正治さんを見たような気がしたんです」
「ゆ、夢?夢か……」
そう言えば、俺も昨日夢を見たような気がする。いや、気がするんじゃなくて普通に見たんだ。ただ内容を覚えていないだけだったんだ。
(時間が経てば内容なんて忘れちまうからな)
「その中で正治さんが……その……キュンとするようなことを言ってくれたような気がしてですね……」
え?何なんだ?夢の中の俺はなにをしているんだ?
いや、星姫の願望だ。多分俺は結構グイグイ行く系の人だと思われているんだ。
「やっぱり私の妄想なのでしょうか……」
「……一時の気の迷いに身を委ねるなよ。俺はすぐに崩れるからな?」
「わ、分かってますよ!!」
ほおずきのように真っ赤になった顔で、そう言われた。強い言葉でそう言われるのはまぁまぁショックであった。
その真っ赤な顔も青空に映えていて、いつもよりも可愛く見えた。
……今、俺めっちゃキモいこと考えたか?まだ出会って数日のはずなんだが。
というか、最近ずっとこんな感じだ。昔は女の子の顔を見てこんなこと考えるなんて恐れ多くて出来なかったのに。
(俺も多少は成長したってことか?成長って怖いなぁ)
俺は少しだけ微笑んだ。
少し、少しだけ、嬉しくなったんだ。
◇◇◇
「あとちょっとですね。ここから地下鉄に乗って平都中央まで行ければ良さそうです」
海沿いを歩き続けて40分近く、この周辺に地下鉄の駅がある。
この辺は平都中央からは随分離れた場所にあるが、地下鉄に乗ってしまえばすぐだ。
まだこのあたりに街ができて十年も経っていないわけだが、この地下鉄も普通の電車も、あとは建物とかも、突貫工事で作ったんじゃなかろうか。
でも、地震が来ても倒れないところを見ると建築技術は確かなのだ。やはり魔法の力はスゲーのだ。
それは置いておいて、河田海岸駅、俺達は二人で、東州平坂駅まで続く地下鉄路線の途中駅から、地下鉄に乗り込むことにした。
地下鉄の入口が海に面しており、まだ平都市内の筈なのに田舎の方に来たような雰囲気がある。ちなみに地下鉄路線でも屈指の過疎駅らしい。
「……過疎駅だとは知っていたが、こんなに人が居ないんだな」
「ですね……場所が場所なんでしょうね」
改札をくぐった先は、誰も居ない薄暗い地下鉄ホーム。
数分後に到着する電車を、俺達はそのまま待っていた。
機械音のアナウンスが、ホームに木霊していた。




