第84話 心の探り合い -Ⅱ-
「観てください!!でっかいですよ!!こんなの簡単には見られませんよ!!」
「……これって一体何のサメだ?明らかにジンベイザメではないし……というか、ほんとにでかいな」
平都シーサイド水族館は、ゴールデンウィークなのもあって、大勢の人で賑わっていた。
その中でひときわ目を引いていたのが、圧倒的に巨大なサメだった。
見た目からエビスザメでは無いかと言われているが、明らかにでかすぎるがために、どんなサメなのかが分かっていないのだ。
「さーさー!!早く回ってイルカショー見に行きますよ!!」
「ゆっくり行こうぜ、せっかく来たんだから」
周りの人たちが羨ましそうにこちらを見ている。変わって欲しいなら、俺個人的には別に問題ないが、そもそも変われないし、今はそういうわけにもいかなかった。
「あ!見てください!こっちにチンアナゴいましたよ!可愛いですねぇ」
「このピロピロ出てるやつか?可愛いというか、見てて面白いな」
さっきとは打って変わって、少し小さめのサイズの水槽に来たら、彼女は目ざとく小さな生き物を見つけて、顔を近づけて眺めていた。水族館は正解だったらしい。別の場所だったらまた反応も変わっていたのだろうか。
一通り水槽の中を見終わった星姫は、今度はクラゲの方に走り出した。
◇◇◇
気がついたら、私はいつの間にか全力で水族館を楽しんでいた。
柄にもなくはしゃぎ回って、正治さんを困らせていないか心配になった。
海って、私はあまり興味があるわけでは無いけど、ノスタルジックな雰囲気を感じさせてくれるので、凄く大好きなものだ。
そこに住む生き物も、私が知らないものばっかりなのだと思うと、何だかとても新鮮で、久しぶりに純粋な楽しさを感じた。
ずっとこの時間が続いて欲しかった。この楽しい時間が、ずっと。
「ミズクラゲですって!透明感あってきれいですね。このクラゲにも毒あるのかな?」
「あるけど弱いらしいな。刺されても大丈夫だろ」
「深海の生き物ってグロテスクだよな」
「魔物だったりするんじゃないですか?」
「ペ、ペンギンが居るじゃないですか!!」
「動物園にいるもんだと思っていたぜ」
「可愛いー!やっぱり癒やしですよねー……あ、あっちはアザラシじゃないですか?」
「テンション高いな……走ると転ぶぞー」
お願いだから、ずっと……
「イルカショーもうすぐ始まりますし、早く行きましょう!!」
◆◆◆
『お姉ちゃん……お母さん……やめてよ』
『明日一緒に海に行こうって!この間約束したじゃん!せっかくみんなあの時生き延びたのに!!……
―――――…………
私の手に付いているのは……水?血?
気持ち悪い、見たくもない。
鉄さびのにおいが漂う空気に、私の言葉は泡のように溶け込んで、
―――――――――…………
私は何であの時、こんな馬鹿なことをしたんだろう。
地獄の門なのは分かっていた筈なのに。
そんなことしなければ、今こんなに苦しい時間を過ごす必要も無かったのに。
今更後悔しても、私はもう、後戻りは出来ないんだ。




