第83話 5年前 -Ⅲ-
「あなた達!一体何をしていたか分かっているの!?」
「ご、ごめんなさい……」
「あそこは本来入っては行けないエリアだし、私達の目に見える範囲で遊びなさいと言ったはずです!!」
キャンプ場に帰ってきたとき、先生は当然のごとくカンカンだった。
よく見ると目尻には涙が浮かんでいて、言葉こそ厳しくても、本気で心配していたことが分かった。
衝は、ずっとうつむいたまま、終始何も言わなかった。拗ねていたのかどうなのか、彼なりに罪悪感は感じていたのかもしれない。
この1日は、ずっとモヤがかかったように気持ち悪かった。
◇◇◇
俺達の騒動と、もっと言うなら周囲に魔物が現れたという事実から、キャンプは一旦保留になり、この場を動かないように言われていた。
「……衝……あまり拗ねているなよ。もう良いだろ。お前がそういう性格なのは昔から知っている。今更そのことで怒らない」
「わかってるよ。悪かったな!」
衝は口を尖らせてそう言った。捻くれているのは相変わらずだった。
「ねえ、まさはるー!!さっきのやつもう一回やってー!」
「さっきの……?」
理央に関しては叱られたことが無かったかのように元気だ。
「あの、吹き飛ばしたやつ!!私もやってみたい」
「コツとかわからないんだけど……」
「むう……なら一人でやろうかなあ……」
理央は手を握ったり、指を謎に動かしたり、とにかく不思議な挙動をしだした。
「力入れないとだめ何じゃないか?」
「そ、そうなのかなぁ……んーー!!」
言われた通り、理央は手のひらに力を籠めた。いや、もっと強く全身が強ばるくらい力を籠めていた。
「?……何か寒くなったような……って!?いきなり寒っ!!何なんだ一体」
この頃は夏であった。屋外なので、当然クーラーなどは無い。
「ま、まさはる……何か手のひら凍っちゃったんだけど」
「はぁっ!?」
理央が力を籠めていた手のひらは、カチンコチンに凍りつき、周囲にはとんでもない冷気が充満していた。
その時、俺は何となく分かった。これが理央の力だったのだ。理央はいつも平均より体温が低い。おそらくこれが原因だ。
「うわーん!!溶けないよ~!?」
「何だ面白そうなことしてんな。それどうやってやるんだ?なあ、正治?」
「知らないっ!!あったりまえだろう!!」
あの時はホント酷かった。俺達の声を聞いて、胃の痛そうな先生が飛んできて、なんというか、ほんとにカオスであった。
その後に理央の氷は自然に溶け、騒ぎもすぐに収束した。
このときから俺達は、いい子でいよう、と決意した。
◆◆◆
「こんなところだな。聞いてどうするんだこんな話。別に聞く価値もないだろ?」
「まあ、そうなんですけど……いいですね。そんなに仲の良い友達があった居るって」
浜浦半島を横断する電車の中で、星姫は俺に向かってそう話した。
「そうか?今でも面倒だぞ、あいつら。俺別にあいつら大好きってわけじゃねぇぞ」
「そのくらいがちょうどいいと思いますよ。関係は、完成されてしまうとすぐに崩れていってしまいますから」
「……経験したことあるのか?」
「だって、夫婦喧嘩の話なんて、至るところで聞きますし」
星姫は歯を見せて微笑った。こういうところを見ると、本当に年頃の少女なんだと分かる。
俺には、彼女が人を殺しているなんて到底思えなかった。
信じたくなかった。




