第76話 輝き瞬く星の術
「『射手座・閃星』」
呪符が焼き切れ、光が弓矢の形をなしていく。ここから放たれる攻撃は、私には容易に想像出来た。
(受けられない!避ける!)
私はとっさに回避行動を取り、その場から離れる。次の瞬間、私のいた場所は光の矢に薙ぎ払われ、建物跡もろとも粉塵に還された。
相変わらず魔法は規格外だ。魔法戦では、1秒の判断の遅れが、そのまま命取りになる。
その点で言えば、私も決して例外では無いのだが。
「『風の衣』」
光の矢は急激に方向転換し、私のいる場所に向かって飛来する。私はそれを、魔力を纏った風で散らし、9割近くを無力化する。
『風の衣』は、自分の周囲に圧縮した空気の壁を作り出す技だ。圧縮気をそのまま固めて壁にしているのではなく、それを自分の周囲で高速で回すことで、シュレッダーに手を突っ込むが如き破壊力を生み出す。迂闊に触れれば、次の瞬間には手が無くなっているだろう。
(ここからどう出てくるか……固有魔法は未知数……その性質をまず理解しないと)
「距離を取ったわね。判断は間違っていないわ。安心していいわよ」
「嘘ついているようにしか見えないわね!!」
風を扱う関係上、障害物を利用されれば厄介だ、今この周辺で一番開けているのは、陸上自衛隊旧立川駐屯地周辺だ。
(そこに何とか誘導して……放棄区域とはいえ、あまり被害を出しても問題だしね)
相手の固有魔法の性質を理解しなければ、対策は立てられない。今はとにかく相手を攻め立てて、手数を完全に出し切らせる。
「『水瓶座・浸星』」
相手は、再び能力を使う。同時に大量の水が周囲に現れ、市街地を飲み込んで拡がっていく。
放出された水は、ある程度操作が効くらしく、水は渦を巻きながら、未だに滞空し続ける私のもとに巻き上がってくる。
『風の衣』がある限り私に物理攻撃はほぼ通らないが、この物量であれば、想定外を考えておくに越したことはない。
(さっきは光の矢で、今回は水……?能力にあまりにも統一性が無さすぎる。複合型?だとしたら厄介すぎるんだけど……もしかして、さっきの言葉はブラフ?固有魔法は一つしか使えないって……)
魔法防壁を何重にも張って、激流の中を耐え忍び、同時に相手の固有魔法について考える。
特殊魔法でこの火力は無理だ。つまり固有魔法の可能性は極めて高いのだが、さっき既に光の矢を使っていた上、そちらも固有魔法の詠唱の有無から固有魔法の可能性が高い。
(ハイパービームと言う高火力特殊魔法が存在するが、詠唱が必要である)
固有魔法は原則、肉体1つにつき1つというのが一般常識として知れ渡っている。現段階で2つの身体を融合させているこいつが、固有魔法を2つ扱えるのは不思議なことではないが、
(仮にそうだとして、こんなにポンポン出してくるか?アドバンテージを切り捨てているのよ!?)
私が固有魔法を2つ持っていれば、片方を温存しておくか、もしくはバレないようにこっそり使う。
それをここまで大胆に使うなんて考えられない。戦争で作戦が失敗した時用に作った予防策を、わざわざ敵にバラしているようなものだ。
「『膨空風天』!!」
魔法を発動し続けて、溜め込んだ空気を一気に解放し、周囲の激流を吹き飛ばす。
(あいつの固有魔法は今1つしか使えない!作戦上2つ使っている可能もあるけど、普通なら2つしかないのにこんなにポンポン使わない!つまり、これは全て1つの能力!あとは次に使ってくる効果、これで絞り込めるはず!)
私は地面に急降下し、『風の衣』を使ったまま、風を利用した爆発的な突進を相手にかました。
だけど、それは、
「『天秤座・衡星』」
「あ、れ?」
相手のとっさに出した防壁を、確実に貫く威力のはずだ。
防壁は、破れなかった。
(見誤った!?)
「間違っていないわ。本来なら、ね」
隙ができた私の脇腹をめがけて、やつは蹴りを叩き込む。『風の衣』も、全て貫通して。
「ぐふっ……!?」
「『物理攻撃力の均衡化』私の物理攻撃力とあなたの物理攻撃力を中間の値で同じにする。あなたのほうが元々攻撃力が遥かに強かったから、私は強化されて、あなたは弱化されたってわけよ。魔力によって打撃は強化されるけど、実際は物理攻撃力がパワーの大半を占める。特に対防壁ならね。魔力量が多くても、小突くくらいじゃ防壁なんて破れないでしょ?」
「ゲホッ……天秤座……なるほど、そういうことか……!!」
この技名と言葉を聞いて、私は完全に確信した。
星座をモチーフにした複数の魔法行使、
それがこいつの固有魔法だ。




